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第八十三話:湖にて

「きゃー。冷たくて気持ちいいー」


「水が凄く透明で綺麗……。こんな所初めて……」


「でしょー。エルファリアでも自慢のスポットなんだから。泳げるのも今の時期だけなのよ。今日はあまり混雑もしていないし、貴方たちは運が良いわ」


 三人の燥ぐ声が聞こえる。その声を俺は地面に敷いたシートの上で横になりながら聞いていた。

 いや、正確にはロープで縛られて横倒し状態でなのだが……。

 朝、湖に到着するといきなりエルミアが目隠しとロープをカバンから出してきた。


「……一応聞いておく。どうするつもりだ?」


「変態に相応しい状態にするのよ?」


 俺の質問に゛何当たり前の事聞いてくるの?゛といった表情で答えるエルミア。

 

「なら、俺は宿で寝ていたいんだが……」


「ここで寝たら?」


「トイレとかどうしたらいいんだ?」


「そのまましたら?」


 俺はドン引きの顔になる。


「嘘よ。その時は誰かに言ってロープを外してもらって、トイレまで連れて行ってもらいなさい」


 目隠しは外してもらえないようだ……。

 

 これ以上は言っても無駄だな。


 俺は溜息を付くと大人しく縛られて大地に寝転ろび、今に至るのだった。


「先生。苦しくは無いですか?」


 横にいるロイが気遣ってくれる。

 ロイは縛られてはいない。俺の横に座って、荷物番兼、護衛兼、俺の世話をしてくれている。 


「大丈夫だ。案外慣れれば、これはこれで有りかもしれん」


 俺の冗談にロイが絶句する。そんな趣味に目覚めたと思われるのはヤバいのですぐに冗談だと訂正を入れる。 


「喉が乾いたらロイが水を飲ませてくれるし、寝てるだけなら特に問題ない体勢だよ。まあ目の保養は出来んが、そいつはロイが俺の分まで楽しんどけ」


 そう。俺の方は問題が無い。問題があるとすれば……。


『う~う~う~……』


 シェルファニールがさっきから恨めしそうに唸っている。

 だが、俺が動けない以上如何する事も出来ない。如何する事も出来ないのだが……。


 何時までもこれでは不便だな。いっその事……。


 俺はシェルファニールに一つの提案をする。

 すると直ぐに了承の答えが返ってきた。今後の事も考えると俺の提案は望む所だったようだ。


「ロイ。済まないが、俺の剣を持って右の方にある岩陰に行ってもらえないか?」


「剣を? 何故です?」


「行けば解るよ。取り敢えず、人目が無い所に剣を持って行って欲しいんだ。どうにも限界のようでな。今のままでは煩くて溜まらん」


 ロイはよく意味が解っていないようだが、素直に俺の指示に従って剣を持って岩陰に向かった。



「何の意味があるのかなぁ……」


 僕は先生の指示通りに剣を岩陰まで持って行く。

 初めて先生の剣を持ったが、とても綺麗で不思議な力を感じる。


「というか、先生いいのかなぁ。縛られて動けない状態で僕に剣を預けてしまうとか……」


 僕がこの剣を盗むとか考えていないのだろうか?

 ……考えてないだろうな。

 と言うか、今自分がかなり無防備な状態にある事にも気が付いていないんじゃないだろうか?

 

「それもまた先生の強さなのかもなぁ」


 こんな考えをしてしまう僕は、やはり心が弱いのかも知れない。

 先生ぐらいに大雑把に生きる方が、冒険者としては成功しやすいような気がする。僕はまずこの小さな性格をどうにかしないと……。


 僕はそんな事を思いながら、目的の岩陰に到着する。

 辺りを見回すと他の人影も無い。


「到着したけど……。どうしたらいいのかな?」


 僕が辺りをキョロキョロ見ながら小さく呟くと、突然持っていた剣が光を放った。


「ふむ。小僧、ご苦労じゃった」


 突然、目の前にとても綺麗な女の人が現れてそんな事を言ってくる。

 

 え? 誰? 剣から現れた?


 僕は驚きと戸惑いでボーっとその人を見つめてしまう。


「ふむ。思いのほか驚かせすぎたようじゃな。なら詳しい説明は主様から聞く方が良いじゃろう。我はここで好きに遊んでおるから、小僧はその剣を持って主様の所へ戻るがよい」


 女の人はそう言うとバシャーン! と湖に飛び込んで泳いで行ってしまった。

 僕は暫くの間、メチャメチャ燥ぎまくっている女の人をボーッと眺めていた。


「先生の所に戻ろうか……」


 未だ混乱は収まらないけど、取り敢えず先生の所に戻ろう。


「帰る時はまた剣を持って迎えに来るのじゃぞー」


 女の人の言葉に返事をしながら、僕は先生の所に戻る事にした。

 


 ロイが剣を持って移動するのと入れ違いに、俺のそばにアデリシア達が戻って来た。


「ロイは何処へ行ったのですか?」


 ロゼッタの質問に俺はトイレに行ったと嘘をつく。

 剣が無い事に気が付かれたらややこしいが、恐らく大丈夫だろう。今のこの娘たちはテンションが上がりまくっているので、そんな細かい所にまで目が行くとも思えない。


「うふふふ。先生、可哀想ね。私たちの艶姿を見る事も出来ず、縛られて寝転がされて。ねぇ。見たい? 私たちの水着姿を」


 アデリシアが悪戯っぽい声で聞いてくる。俺の格好を殊の外気に入っているらしく、その声はとても楽しそうに聞こえる。

 少々今後が心配になる性癖だ……。


「別にいらねぇなぁ。お前らのお子様ボディでは少々色気が足らんよ。そう言うのは、もっと体のあちこちにボリュームが付いてから言えよな」


 男としては見たいと思うのだが、それを言うと何と無く負けた気がする。

 それも悔しいので俺は憎まれ口を叩く。


「うふっ、うふふふふっ。先生ったら、本当に困った人よね。今の自分の置かれている状況をちゃんと理解しているのかしら?」


 俺の頭上にアデリシアの座り込んだ気配がする。目隠しの辺りに影が差し水滴が滴り落ちてくる。どうやらアデリシアが俺を上から覗き込んでいるようだ。

 その後、俺の首筋に柔らかい感触が走る。

 恐らく、アデリシアが指で俺の首、頸動脈あたりをなぞっているのだろう。


「な、何をしているのですか? アデリシアさん」


 俺は一瞬で状況を悟り、思わず丁寧語になってしまう。


「うふふっ。先生ったら、綺麗な首筋をしてますわねぇ……。柔らかくて、少し噛んだだけでも大変な事になりそうですよねぇ……」


 俺の首筋に暖かな吐息が当たる。どうやら、アデリシアが俺の首筋に顔を近づけているのだろう。


「アデリシアさん? 約束……、したよね?」


 俺は不安を滲ませた声で尋ねる。


「ふふふっ。私、お子様だから約束とか解らないわ……」


「いや、それお子様関係ないだろぉぉぉ」


「先生。さっきから少し煩いです。猿轡もするべきだと思う」


 ロゼッタが俺の背後からそんな事を言ってくる。


「ロ、ロゼッタさん? 何を言っているのですか?」


「私もお子様だからよく解りません」


「お子様が猿轡とか言わねぇから!」


 いかん。どうやら俺のお子様発言はロゼッタまでをも敵に回したようだ。


「エ、エルミア。助けてくれ。この狂人共を止めてくれぇ!」


「私もお子様だから、止められないわね」


 案の定、エルミアも敵に回ったようだ。


「嘘、嘘です。悔しいから嘘つきました。本当はめちゃくちゃ見たかったです。もう皆さんの水着姿をこの目にじっくりと焼き付けたかったです。お子様ボディって最高です。もうその手の趣味の方には溜まらんものがあります。需要もすごいです。自信を持って下さい。だから許して下さい」


「何よ、やっぱりそんな風に思ってたんじゃない。変態」


「と言うか、今の褒めてましたか?」


 少し嬉しそうなエルミアと懐疑的なロゼッタの声が聞こえる。

 うむ、単純なエルミアは簡単に騙せたのだが、ロゼッタには通じなかったか……。


 と、俺の目の辺りに誰かの手の感触がすると、目隠しが外される。

 突然の事に、一瞬目が陽の光に照らされて眩むが、徐々に視力が回復していくと、俺の視線の先に真っ白なビキニ姿のアデリシアが映る。

 普段は着痩せしているようで、今のアデリシアはとても魅力的なスタイルをしている。


「どうです? 先生」


 アデリシアが笑顔で感想を聞いてくる。


「あー……。その、とても似合ってるよ」


 俺は少し照れながら言う。


「えぇー。それだけですかぁ?」


「すまん。他に言葉が出て来なくてな。だが、その……、お子様ボディと言うのは撤回するよ。その、凄く綺麗だ」


 俺はアデリシアにそう言うと、他の二人にも視線をやる。

 ロゼッタは黒色のセパレート水着を着ていた。背も低く細い体をしているが、結構引き締まったスポーティな魅力を醸し出している。

 エルミアは薄い緑色をしたワンピースに同じ色のパレオが付いた水着を着ている。

 妖精族エルフだからなのか、独特の儚げな魅力があり、思わず見とれてしまいそうな姿をしている。


「ロゼッタもエルミアも凄く似合ってる。二人の魅力にピッタリの水着だ」


「べ、別に変態のあんたに言われても嬉しくないんだけどね……」


「先生。最初から素直にそう言うべきだったと思う」


「うふふ。やっと私たちの魅力を理解してくれたんですね」


 俺の褒め言葉に三人とも満更でもなさそうだ。

 しかし、女の子とは難しい。俺は現実世界では碌にモテた事が無いから扱いがよく解らない。見られたくないからと目隠しをしておいて、褒められないと不満に思うとか……。

 まあ、あれかな。水着って泳ぐ為だけじゃなくて、見せる為という意味もあると言う事なんだろうな。


「はい。じゃあ、サービスはここまでです」


 アデリシアはそう言うと、また俺に目隠しをしてきた。


「え? また目隠しされるの? もういいんじゃねぇの?」


「ダメよ。変態の嫌らしい視線に凝視されたら妊娠するかも知れないし」


 ねぇよ。


「見られて褒められたいとは思うけど、視姦されたいとは思わないから……」


 それもねぇよ。


「先生なら、寧ろこっちの方が興奮するんじゃない?」


 それもね……、多分ねぇよ。


「お前らなぁ……」

  

 俺のボヤキに笑い出す三人。

 

 まあいい。今日はこいつらの玩具に徹するか。


 楽しそうな三人の笑い声を聞き、そう思う。


「あ、ロイ。お帰りなさい」


 どうやら、ロイが戻ってきたようだ。


「あ、う、うん。ただいま」


 ロイが戸惑いながら返事をする。

 どうやら、シェルファニールの件での衝撃が未だ収まっていないようだな。


「? どうしたの? 何かあった……って、なんでロイが先生の剣を持ってるの?」


「いや、なんでもないよ。その……、先生にお願いして剣を借りたんだ。一度持ってみたくてね」


 アデリシアの問いにロイが笑いながら誤魔化す。ナイスだロイ。アドリブにしては上出来だ。

 そんなロイの言葉を信じたのか、それ以上質問してくる事も無く、三人は暫く休憩しながら俺達と雑談をする。その後、三人はまた湖に泳ぎに向かい、俺とロイがこの場に残された。


「先生。あの女の人は誰なんですか?」


 二人になった途端にロイが質問してくる。余程気になっていたのだろう。


「俺が契約しているシェルファニールという魔人だ。普段はこの剣の中に入って俺に力を貸してくれている」


「魔人……。あの人がですか?」


「ああ、そうだ。なあロイ、お前シェルファニールを見てどう思った?」


「どうって……、綺麗な女の人だなぁと……」


「だろ? ナイスバディだったろ?」


 俺の言葉にロイが小さな声でハイと答えたので、俺は思わず笑ってしまった。

 

「はははっ、やっぱりお前も男だな」


「そんなに笑わないで下さいよ……」


 ロイが恨めしそうな声で不満を言う。


「だが、あれは魔人だぞ。それも上級だ。それがどういう存在かは解っているんだよな?」


「上級魔人って……、伝説の存在じゃないですか……」


 驚きのせいでロイの声は掠れている。

 そうなんだ。やっぱりそれぐらいの大物だったんだな。正直この世界の知識に乏しいので、俺自身実はあまりシェルファニールの凄さとか良く知らなかったんだよね……。


「で? それを知った今、アイツをどう思う?」


 俺の再度の質問に、ロイは少し考え込んでいる。


「……あまり実感が湧かないです。やっぱり綺麗な人だなって思うぐらいです」


 ロイが少し恥ずかしそうにしながら言う。


「いや、それでいい。その方が助かる。これからの事を考えると、ロイにはあいつの事を知っておいて欲しかったんだ。何時までも剣の中では可哀想だからな」


 これから旅をする上で、俺とロイは同室になる機会が多くなるだろう。ならロイに存在を知っておいてもらえたら、シェルファニールが外に出る機会も増えるだろう。


「だから僕に正体を教えたんですね」


「まあ、それが一番の理由だ。後、俺以外の魔人に対する反応も見てみたかったんだ。聞けば、かつて人と魔人が大戦争をした歴史があるんだろ? 魔人排斥を謳う宗教もあるらしいし……」


「……大戦争があったのは遙か昔の事ですから、人間ならピンと来ない人が殆どだと思います。宗教も、アルテラ教会は教義を変更したらしいので以前ほどの危険は無いと思います。ただ、妖精族エルフとかの長命の種族はもしかしたら危ないかも知れませんね」


 確かに。もしかしたら、実際に戦った連中がまだ生きているかも知れない。

 その辺りは注意した方が良さそうだ。


「ロゼッタやアディには教えないのですか? 彼女達も多分大丈夫だと思いますよ」


「何れは話すかも知れない。だけど、今は未だ黙っておくよ。正直な所、シェルファニールをあまり見世物のようにしたくないんだ。彼女自身が言い出さない限り、俺から言うつもりは無い。ロイも済まないが……」


「そう言う事なら。僕も黙っています」


 俺の言葉にロイは納得してくれたようだ。

 

「さてと、じゃあ俺は寝させてもらうから帰る時になったら起こしてくれ。あと、悪いが帰る前にはシェルファニールを迎えに行ってやってくれ」


 俺がそう言うと、ロイも解りましたと返事をしてくれたのでそのまま寝る事にする。

 暖かな陽の光と穏やかな水音に癒されながら俺は目を閉じる。


「……生。先生。起きて下さい、先生」


 俺を起こすロイの声が聞こえる。

 俺は寝ぼけ眼を必死に開けながら周囲を確認する。

 陽がかなり傾き周囲が大分暗くなっている。いつの間にか夕方になっているようだ。


「もう。先生、早く起きて下さい。帰りますよ」


 目の前ですでに着替え終わったアデリシアが腰に手を当てて言う。


「悪い。もう俺だけか。すぐに準備するよ」


 そう言って、俺は下に敷いていたシートを畳んでカバンに入れる。まあ、俺の片づけはこれぐらいなんだが。


「先生。剣はここです」


 ロイが剣を俺に渡してくる。刀身が赤くなっているから、シェルファニールも迎えに行ってくれたようだ。


「すまん。ありがとう」


 ロイに礼を言うと、俺は剣を背負う。


「さあ、帰りましょうか」


 俺の帰り支度が終わったのを見計らってエルミアがそう言い、全員が湖を後にした。

 先頭にエルミア達三人娘が楽しげに語らいながら歩いて、その少し後ろを俺とロイが並んで歩く。


「シェルファニールを迎えに行ってくれて有難うな、ロイ」


 俺はロイに改めて礼を言う。


「シェルファニールも満足したか?」


『うむ。久しぶりに楽しめたぞ』

 

 シェルファニールもご機嫌のようだ。


「なあ、ロイ。シェルファニールを迎えに行ってどう思った?」


 俺はまた同じ質問をロイにする。


「どう思ったって……」


 俺が何故同じ質問をしてくるのか? その意図が解らない事にロイは戸惑っている。

 俺は背中から剣を抜き、戸惑っているロイの目先に剣先を突き付ける。


「な、何をするんですか……。や、止めて下さい。僕に、武器を……」


 剣先を向けられ、ロイが怯えだす。


「怖いのか?」


「怖いに……、決まってます。僕は……、まだ……。ダメなんです……」


 ロイは全身を震えさせている。だが、以前と違い必死に耐えようと努力している事は解る。


「なあ、ロイ。お前シェルファニールは平気だったんだろ? なんでこんな武器が怖いんだ? 言っとくが、シェルファニールはこんなちっぽけな武器なんかよりよっぽど危険な存在なんだぞ?」


「そ、それは……。だってシェルファニールさんは、とても綺麗だったから……」


『くっくっく。照れるのぉ』


「ロイ。この剣、色が変わってる事に気が付いてるか?」


「そう言えば、今は刀身が赤いですね」


「俺は、この色を結構気に入ってるんだ」


 ロイは俺が何を言いたいのかよく解らないのか、じっと俺の事を見ている。だが、その体の震えは徐々に止まりつつあるようだ。


「綺麗だと思わないか?」


 俺の言いたい事に気が付いたのか、ロイがハッとした顔になる。


「同じだよ。ただ捉え方が違うだけさ。トラウマってのは思い込みの一種だと俺は思う。お前は武器は怖い物だと思い込んでいるだけだ。だけど、お前は武器なんかよりももっと怖いものを見ても平気でいられたんだ。なら、これからはそれを思い出して平気だと思い込めばいい」


 俺はそう言うと、剣を背負いなおす。


「先生……」


「焦る必要はないよ。ゆっくりでいい、自分を信じろ」


「はい!」


 俺の言葉にロイは真剣な顔になりハッキリとした声で返事をした。そこには先ほどのような怯えきった姿は欠片も見当たらなかった。


「なーにを男同士で話してたんですぅ?」


 いつの間にかアデリシアが傍に来てジト目をしながら俺達を見ている。


「男同士の内緒話は嫌らしいです」


 ロゼッタも同じような目をしながら言う。


「ロイ君。変態はうつるから気を付けなさい。それとも、もう手遅れ?」


 エルミアも同じ目をしている。

 三人の女性からジト目で睨まれるというのは、何と言うか……。ヤバい性癖が生まれそうだ。


「内緒話とかじゃないよ。その、先生に教えられてたんだ。僕のトラウマの克服方法について」


 ジト目を向けてくる三人にロイが笑顔を向ける。


「そうなんだ。それで、どうなの? 克服出来そう?」


「……ああ。自信が付いたよ。きっと大丈夫だ」


 ロゼッタの問いに胸を張るロイ。

 俺はその表情を見て大丈夫だろうと確信する。


「そう……。良かった。頑張ってねロイ」


 ロゼッタが明るい笑顔をロイに向ける。そんなロゼッタにロイも笑顔で有難うと返している。


「ふーん。なーんか気に入らないなぁ。私達には内緒でなにかしてたんだ。仲間を仲間外れにするとかどうなのかしら?」


 アデリシアが不満そうに呟く。

 

「そう言うな、今回は偶々だ。別にお前らを仲間外れにした訳じゃないから」

 

 俺はそんな不満そうな顔をしているアデリシアの頭を軽く撫ると、その対応に満足したのか、アデリシアの表情が和らいでいく。


「……あんたって、本当に教師なのね……」


「取り敢えずな」


 エルミアの言葉に俺は照れ笑いを浮かべる。


「少しだけ、本当にほんの少しだけだけど……見直したわ……」


 エルミアが少し頬を赤らめてそんな事を言う。


「有難う。嬉しいよ」


 陽は陰り星空が空一面に広がってくる。俺はそんな空を見上げながら、笑顔でそう答えたのだった。


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