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第八十一話:首都エルファリア

 森の中央部に広く開けた場所があり、多くの木造の家が建っている。

 大地と木と湖で囲まれた自然豊かな街。それが妖精族エルフ達の首都エルファリアだった。

 聞く所によると、この首都を中心として東西南北に街があり、その五都市がエルファリアの全ての街だそうだ。

 俺達は北からこの森に侵入し、北エルファリアで一泊した後、首都エルファリアまで三日かけて辿りついた。

 クーサリオン達第一警備隊は北エルファリアに拠点を置く警備隊で、クーサリオン自身は警備隊長兼北エルファリア議長、まあ都市長のようなものだそうだ。今回の騒ぎに対し、各街の議長が首都エルファリアに集まり、俺達の処分を話し合うそうだ。


「もしかして……、思ってたより大事になってる?」


 俺は横にいるクーサリオンに小さな声で問う。


「ははは。確かに大騒ぎではありますが、今の所特に大きな問題も起きていませんし、処分に関しては寛大な物になるように私も口添えするつもりですので安心して下さい。どちらかと言うと、貴方達への処分よりも、結界の張直しに際し問題点の見直しと改善などを話し合う為に集まっているのですよ」


 結界を壊した者よりも、簡単に壊された結界にこそ問題があると考えられているらしい。


「元々、あの結界は張られてから数百年は経っていますからね。今回の件はいい機会でした」


 やっと新しい術法の結界を張りなおす事が出来るとクーサリオンは言う。


「あのぉ。結界を張るのは、やはり他種族との交流をしない為なんですか?」


 ロイが質問する。俺も丁度聞こうと思っていた質問だ。

 外の街には殆ど妖精族がいないらしいが、種族自体が交流を断っているのだろうか? だが、それにしてはクーサリオンは俺達に対してフレンドリーだ。この男が特別なのだろうか? エルミアが俺を睨みつけているのは別の理由だろうし……。


「特に交流を嫌っている訳では無いんですが、この森自体が我々の家のような物なので、あまり他者に勝手に入られたくないんですよ。ちゃんと許可さえ取ってくれれば構わないのですが」


「え? そうなのか?」


「まあ、その許可の取り方を外の方は長い時が経つにつれて忘れてしまったようなのですが……」


 妖精族エルフ達も殆ど外に出る事が無くなった為、結果として交流断絶となったらしい。


「何と言うか……。間抜けな話ね」


 アデリシアがポツリと呟く。


「……我々にも非はあるんですよ。私達も自分のいえに招待する相手を選んでしまうので、結果として仲の良くなった者しか方法を教えないので、自然と知る者が減ってしまい……」


 クーサリオンは苦笑いしながら言う。外に住む妖精族エルフ達なら方法を知っていただろうが、会えればそもそもここに来る必要は無い。結局の所、結界を壊すしか無かったのかも知れないな……。


「さて。皆さんには申し訳ありませんが、会合の答えが出るまでは首都に逗留して頂きます。出来るだけ早く答えを出すつもりですが、皆が集まってとなると最低でも一週間は掛かると思います。申し訳ありませんが、それまでは行動を制限させて頂きます」


「いえ。俺に非がありますから当然の事です。牢に入れられても文句は言えない身ですから」


「ははは。そう言って頂けると助かります。ではエルミア」


「な、何? お兄様……」


「彼らの世話と監視をお願いするよ。不自由の無いようにね」


「な、何で私が……。嫌よ、こんな変態の世話なんて。他のヤツにやらせればいいでしょ!」


 クーサリオンの言葉に猛反発するエルミア。

 そんなエルミアを笑顔のまま無言で見つめるクーサリオン。


「な、何よ。私は……」


「…………」


「でも、だって……」


「…………」


「……はい、わかりました」

 

 エルミアが俯きながら不満げな声で了承する。

 

「聞き分けが良い妹で良かったよ。お蔭で無駄な握力を使わずに済んだ」

 

 クーサリオンが笑顔のまま、右手の関節をゴキゴキと鳴らす。

 成程。クローの恐怖に負けたのか……。  


 その後、クーサリオンは会議のある中央議会場に向かい、第一警備隊の面々は北エルファリアへと戻って行き、俺達とエルミアだけが残される。


「い、言っとくけど、私に変な事したら許さないんだから。痛い目に遭いたくなければ大人しくしてなさいよね」


 敵を見るような目で俺を見るエルミア。


「いや、いい加減に許してくれよ。妖精の粉がどう言う物なのか知らなかったんだ」


「どうだか……。あんた顔つきからして変態っぽいし信じられないわ」


 いや、顔はほっとけよ……。


「兎に角。私は貴方を信用しないからそのつもりでね。命令だから仕方なく面倒見てあげるけど、馴れ馴れしくしないでよね」


 エルミアは俺に指を指しながらハッキリと言う。

 此処まで嫌われてたらしょうがない。別に俺も無理に仲良くしたいとも思わないので、これ以上怒らせないようにだけ注意して付き合っていく事にしよう。

 

 ただ……。


「アデリシア。妖精族エルフに手を出すなよ」


 俺は最大の懸念事項を思い出し、釘を刺す事にする。


「えっ! そんな……」


 アデリシアが絶望したような表情を見せる。

 やはりこいつ……、る気だったか……。


「酷いです先生……。私をその気にさせてお預けなんて……」


「お前が勝手にその気になっただけだろ? 俺を恨むのはお門違いだ」


「ひ、ひどい……。私、先生のせいでこんな欲求不満な体にされたのに……」


「うるせぇ。今まで散々欲求解消してただろ? 何を今さら……」


「無理よ。私、先生の事を考えるだけでも体が火照って苦しかったのに……。もっと我慢しろだなんて……」


 アデリシアが両手で顔を覆って左右に振りながら悲しげな声を出す。

 こいつは……。

 しかし、まてよ……。何か俺は重大なミスを犯してないか?

 そのミスに気づく前に、エルミアが声を掛けてくる。


「あんた……。生徒に手を出してるの? 本当に最低の変態ね」


 エルミアは軽蔑した顔で俺を見るとロイやロゼッタが止める前にアデリシアの傍に行き、優しく背中を撫でながら慰めはじめる。

 アデリシアは顔を覆い悲しんでいるように見えるが、俺はその口がニヤリと笑っている事に即座に気づいた。

 

 る気だ、あの女。


「離れろぉぉぉっ!」


 俺はエルミアに体ごとぶつかって突き飛ばす。

 勢い余って俺とエルミアはそのまま地面に倒れこむ。


「痛たたたたっ……」

 

 俺は痛みに耐えながら、自分の右手がお約束状態になっている事に気づく。

 右の掌に慎ましやかな、だがそれでいて柔らかく気持ちのいい感触が広がっている。

 

 うん。これやっちゃったね。もうしょうがないよね。

 

 俺は開き直って、右手を思いっきりニギニギと揉みまくる。

 

「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺の下にいたエルミアが悲鳴を上げる。

 俺は静かにエルミアから離れると、立ち上がって覚悟を決める。


 エルミアは胸を腕で隠すようにしながら立ち上がり涙目で俺を睨みつけてくる。


「エルミア」

 

 俺は覚悟を決めた男の顔で話しかける。

 そんな俺を彼女は無言で睨み続ける。


「ワザとじゃない」


「思いっきり揉んできたじゃない……」


「あれは男の条件反射だ。生物として仕方の無い行動だ」


「こ、この変態がぁぁぁぁぁ!」


 エルミアの拳が俺の右頬に突き刺さり後方に吹き飛ばされる。

 若干スクリューが加わった良いパンチだ。

 

「大丈夫ですか? 先生」


 元凶アデリシアが、吹き飛んで倒れている俺の傍に駆け寄ってくる。


「アデリシア。俺を癒さなくてもいい。彼女の拳を癒してやってくれ」


 俺は殴られるだけの事をしたのだから、魔法で癒されるのは反則だろう。


「あと、頼むから我慢してくれ。ここで新たなトラブルはまずい。自嘲してくれ」


 俺の頼みにアデリシアは「はーい」と返事をして治療の為にエルミアの傍へ向かう。

 恐らく、俺がアデリシアの計略に引っ掛かった事で取り敢えずの満足はしたようだ。

 

「先生。これ」


 ロゼッタが水で濡らした布を俺に渡してくる。

 俺はそれを受け取り、腫れた右頬に当てる。


「いてててて」


「後で、エルミアさんに説明しておきます」


「すまん。頼むわ。後、念のためアデリシアの監視も頼む」


「大丈夫だと思いますよ。アディは約束を破ったりはしませんから」


 ロイがエルミアを癒しているアデリシアを見つめながら言ってくる。


「そう言えば、ロゼッタ。俺の事先生って初めて呼んでくれたな?」


 その言葉にロゼッタは頬を赤らめる。

 俺はやっと三人全員に先生と認められたようだ。


「でも、あの行動はとても先生とは思えないですけどね……」


「す、すまない……」 

 

 ロイの鋭い突っ込みに俺は深く反省したのだった……。

 

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