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第七十九話:ベルファルト再び

 港町ベルファルト。

 俺が初めて辿り着いた人間の町。

 まさか、こんなに早く戻ってくるとは思ってもいなかった。


「不思議な気持ちだ。故郷でもないのに懐かしい感じがする」


 俺はポツリと呟く。初めての町という事で強く印象に残ったのだろう。


「何をボーっと突っ立ってるんですか? おっぱい先生。さっさと先に進んで下さい」


 船のタラップで黄昏ていた俺を後ろからアデリシアが追い立てる。あれ以来アデリシアは俺の事をおっぱい先生と呼ぶようになった……。


「アデリシア……。頼むからもう許してくれ。その呼ばれ方は誤解を招く」


「……そうですわね。では巨乳大好きおっぱい先生と呼ぶ事にしますわ」


 うん。確かに解りやすく伝わるようにはなっただろうが、明らかに悪化してるよね。

 しかし、アデリシアがこんなに怒るとは思わなかった。案外潔癖な子だったのか? それにしては色仕掛けとか色々やってきてたように思うんだが……。


「アディ。もう許してあげなよ」


 ロイが俺に助け船を出してくれる。

 流石だ。やはり同じ男として俺の気持ちがよく解ってくれているんだろう。


「……なによ、私の事を散々子供扱いしておいて……。ただ単に巨乳好きなだけの男だったなんて。どうせ私は巨乳じゃないわよ……」

 

 アデリシアが不満げにブツブツと言っている。

 成程。アデリシアは自分の色仕掛けが通じなかったのは、俺が巨乳にしか興味がない男だからだと誤解しているのか。ならば教師としてその誤解は解いておくべきだな。


「アデリシア。俺をあまりバカにするな」


 俺は怒気を抑えた低い声を出す。

 アデリシアはその声に少し驚いた表情になる。


「俺は大きいのも小さいのも大好きだ。乳の大小で女性の価値を決めるような屑じゃない。お前の色仕掛けが通じなかったのは、単にお前がお子様だからだぞ」


「そのセリフは立派な屑ですわ!」


 アデリシアが大声で叫ぶ。普段お淑やかなアデリシアにしては珍しく感情を丸出しにしている。いい傾向だ。この位の年頃の娘はこれでいい。


「あははははははっ」


 と突然笑い声が響いた。

 声の方を見ると、ロゼッタが大笑いをしていた。

 これも珍しいな。と言うか、ロゼッタの笑った顔を見るのは初めてかも知れない。


「わ、笑ってるんじゃないわよ! ロゼッタ」


「そうだぞ。アデリシアのお子様ボディを笑うなんて失礼だぞ」


「お、お子様言うなぁぁぁぁ! これでも標準よりは育ってるわよ。胸だって結構あるんだから!」


「ああ……。済まない、そうだな。アデリシアは頑張ってるよ……」


「ど、同情するなぁぁぁぁ!」


「ぷっ、あはははははははっ。お願い……、止めて……。お腹痛い……」


 俺とアデリシアのやり取りにお腹を押さえて苦しそうに笑い続けるロゼッタ。

 これもいい傾向だ。この娘ももっと感情を表に出した方がいい。

 その為なら、おっぱい先生と呼ばれる事も甘んじて受け入れよう。その程度の被害を受けるのも教師の仕事のうちだ。

 まあ、その被害の一部はアデリシアにも行っているのだが、こいつは協力者だからまあいいだろう。

 俺の目的を察してアデリシアは恨めし気な視線を向けてくるが、俺は気にしない。


「危ないよロゼッタ。ほら、深呼吸して。タラップの上なんだから、あまり暴れたらダメだ。先生達も冗談はそのぐらいにして下さい」


 ロイが窘める。

 確かに、タラップの上で悪ふざけをするのは危ないな。

 俺は素直に謝りタラップを降りる。


「さて、まずは妖精の粉から探すか」


「えっ? お金で手に入る物からでは無かったのですか?」


 俺の言葉にロゼッタが疑問を口にする。

 俺は最初、簡単な物からと言っていたのでその疑問は当然だろう。


「済まない、予定を変更する。船で考えたんだが、ミスリル銀や古木の枝を先に手に入れると荷物になりそうだから最後の方がいいと思ったんだ」


「確かに、その二つは結構荷物になりますわね」


 俺の言葉にアデリシアが賛成してくれる。

 ロイやロゼッタにも異論は無かったので、俺達はまず妖精の粉を得るべくエルファリアへと向かう事にした。


「妖精の粉って、どういう物なんです?」


 アデリシアが質問してくる。ロイもロゼッタも知らないらしく同じような疑問の顔を俺に向けてくる。

 

妖精族エルフ達が持っている粉らしい。奴らさえ見つければ、入手は、そいつとの交渉次第という事だが……」


 俺は教頭から聞いた情報を伝える。

 妖精族エルフ。森の守護者とも呼ばれ、長寿で耳が長い特徴を持つファンタジーの定番種族。かつては人とも混じって暮らしていたらしいのだが、今では殆ど見かけなくなったとの事だ。

 少数ではあるが、人間の街や村にも妖精族エルフはいるらしいのだが、それらを探すよりは確実にいる所に行った方が良いとの判断で俺達はこのアラストア大陸にやって来たのだ。

 このアラストア大陸の中央には妖精の国エルファリアがある。そこなら確実に妖精族がいる。 

 もっとも、その国は結界で閉ざされているらしく簡単には会えないだろうと教頭には言われたのだが……。


「まあ、難しい事は行ってから考えたらいいさ。俺の生まれた国に、案ずるより産むがやすしという言葉がある。事前にあれこれ心配するよりも、実際にやってみると案外たやすく出来るものだと言う意味だ。物事ってのは案外そう言う物が多いんだ。覚えておくと良い」


 俺の言葉に三人が興味深い顔をして頷く。

 

『くっくっく。お主はたまに教師らしい事をいうのぉ』

 

 シェルファニールが褒めてくれる。

 

「ま、たまにはな」


 たまに先生らしい事をしておかないと、本当におっぱい先生が定着する危険があるのだ……。


「さあ、では馬車に乗ってエルファリアまで向かうとするか」


 俺達は馬車の駅へと向かって歩き出した。


 馬車に乗る事数日。幸いな事に天気にも恵まれ、盗賊や山賊などに襲われる事もなく俺達はエルファリアに到着する。


「ここがエルファリアか……」


 俺は鬱蒼と生い茂る深い森を眺めながら感慨深げに呟いた。


「なんか、ただの広い森ですね」


 ロイが素直な感想を言う。


「森に入ると道に迷う仕組みになっているんですよね。どうするんです? 先生」


「さて、どうするか……。ここで大声で呼び出してみるか?」


『それで出てきてくれるなら会う事が難しいとは言われんじゃろう』


 シェルファニールが呆れた声で言う。

 

「解ってるよ。冗談に決まってるだろ」


 俺は心の中で焦ったように言う。半分本気だったのだが、止めておこう。

 

『結界の一部を破壊してみるのはどうじゃ?』


「出来るのか?」


 シェルファニールの力を疑っているのではない。俺がその力を振るえるのかを聞いているのだ。


『問題あるまい。剣先を圧縮した魔力で覆い結界の一部にぶつけてやれば良いだけじゃ。我らなら簡単に出来るじゃろう』


「よし、それでいこう」


 俺は三人を少し後ろに下がらせると、剣に魔力を集中させる。

 高圧縮された魔力が剣先を覆い赤く輝きだす。


「す、凄い……。何て魔力なんだ……」


 ロイとアデリシアがそれを見て驚いている。魔力が見えないロゼッタも雰囲気は伝わっているようで少し硬い表情をしている。


「はぁぁぁぁっ!」


 俺は気合の言葉と共に剣を森に張り巡らされている結界にぶつける。


「どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!!!!!」


 剣がぶつかると同時に途轍もない爆音が辺りに響き渡った。


「おい……」


『ふむ。どうやら、一部を破壊したら全結界が壊れたようじゃな。まあなんじゃ。張りつめた一本の糸の一部を切ったら全部が台無しになるのと同じような物じゃったんじゃな……。まあ、気にするな。不幸な事故じゃ』


「気にするわぁぁぁぁ!」


 今更どうしようもないが、これは明らかにヤバい。友好度の値が確実にマイナスになっているはずだ。下手したら会うなり攻撃されるかもしれん……。


「先生……」


 三人が少し顔色を悪くしながらこちらを見ている。

 

 もういっその事逃げるか?

 だが何の解決にもならんし、教師としてそんな姿を見せるのもどうかと思う。


「ま、まあ取り敢えず結界は無くなったんだし、先に進んでみよう。案外話せば解ってもらえるかも知れないしな。案ずるより産むがやすしだ」


 俺は乾いた笑い声を上げながら言う。

 三人はジト目で俺を見つめてくるが気にしたら負けな気がする……。


『こう言うのは、行き当たりばったりと言うんじゃなかったかのぉ……』


 面白がってシェルファニールに俺の国の言葉を教えるんじゃなかった。

 的確に突っ込んでくるシェルファニールも気にしたら負けだ。

  

「さあ、とにかく先に進もう。大丈夫だ。これは不幸な事故なんだ。きっと話せば解ってもらえるさ」


 俺は必死に自分に言い聞かせながら三人の先頭に立ち森へと進んで行った。


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