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第七十八話:合流

「また逃げられましたね……」


 私は溜息をつく。やっと情報を掴み、ヴェール冒険者学校に来てみれば高志は何処かへ出かけた後だった。しかも、行先を知る教頭が帰ってくるのが明日の夕方らしく、私たちはここで足止めをくらっているのだ。


「ワザとね……、もうここまで来たらワザととしか思えないわ」


 フェリス様の手がプルプルと震えている。


「落ち着いて下さい、フェリス様。少なくとも無駄足では無いのですから」


 そう。ここで高志の情報が数多く得られたのだ。捕まえる事は出来なかったが、その差は確実に縮まっている。


「しかし……、本当に高志なんですかねぇ。俺にはどうにも別人の事を聞いているようで……」


 モリスが指で頬を掻きながら呟く。


「ベルファルトでのフェリス様の話も考えると、我々の知っている彼とは大きく変わっている事は確かでしょう。記憶を失っている事も考えると、気を付けて接触する必要があるかも知れませんね」


 性格までが変わっているとは思いたくないが、戦闘力が大幅に上がっている以上、注意するに越した事はないだろう。


「しかし、どうやったら短期間にそんな力が……」


 モリスが疑問を口にする。

 

「アルテラの力か、あるいは何らかの道具の力か……」


 もしくは、フェリス様が見たと言う女が何か関係しているのかも知れない。


「そんなの捕まえて吐かせればすぐに解るわ」


 フェリス様が冷たく低い声で言う。 


「最近のフェリスちゃんの言葉を聞いていると、父さん色々と不安で一杯になるんだよ? 出来ればもう少し柔らかい考え方で生きてくれないかい? 後、その手に持っている首輪は何だい? 父さんちょっと答えを聞くのが怖いんだけど。場合によっては泣くからね」


 セドリック様は顔を引き攣らせながら、フェリス様を見ている。

 

「何でもないから気にしないで。少し心を落ち着けるために握ってるだけだから」


 フェリス様はギチギチと音を立てて首輪を握っている。そんな姿をみてセドリック様だけでなく、モリスやジンもドン引きの顔をしている。

 連絡役としてテレーゼの宿に残ったカインはある意味幸せだろう。


「それよりも、これから如何するかですが……」


「ここには俺が残りますから、皆さんは街に戻られたら如何ですか? 教頭を待って話を聞くだけなら俺だけで十分ですよ」


 ここには宿泊施設が無いので野宿になってしまうが、モリスがその役を引き受けると言ってくれる。

 

「……そうね。全員で残ってもしょうがないわね。モリス、悪いけどお願い出来るかしら?」


 フェリス様の言葉にモリスは笑って了解と答える。

 ジンもモリスに付き合うと言って残る事になったので、二人を残して私たちは馬車を待つ為に駅に向かう。

 既に陽は落ち辺りは暗くなっている。

 駅で暫く待っていると、道の先にこちらに向かってくる馬車の明かりが見えてきた。 

 最終便がやっと来たようだ。

 

 馬車が私達の前で止まると、中から懐かしい顔が見えた。


「マリー! 久しぶりね」


 フェリス様が嬉しそうな顔をしている。マリーと会うのはアルテラ教会の一件以来だ。


「お久しぶりです。フェリス様、エリーゼ様。お元気そうで何よりです」


「ええ、貴方こそ」


 私の表情も綻ぶ。


「ふむ。君がマリー君か。フェリスから話は聞いているよ。私はセドリック・オーモンド。フェリスの父だ。宜しく」


「はい。初めまして。こちらこそ宜しくお願いします。セドリック様」


 二人も笑顔で挨拶を交わす。

 

「マリー。折角ここまで来てもらって悪いんだけど……」


「……そのご様子では、高志様は居られなかったようですね」


 フェリス様がマリーに事の次第を説明する。

 

「そうですか。残念です……。やっとお会い出来ると楽しみにしていたのですが……」


 マリーが悲しそうに呟く。

 私達が立ち話をしていると、

 

「おーい、あんたら。乗るのか? 乗らないのか?」


 御者が苛立った声を出す。


「積もる話は馬車の中でしましょうか」

 

 私たちが馬車に乗り込むと、馬車はすぐさまテレーゼへ向かって進みだした。


「ところでマリー。教会の方は上手く行っていますか?」


 馬車の中で私は前に座るマリーに問いかける。


「はい。幸いな事に、強硬派の人達は高志様のお蔭で軒並み排除されましたので、改革はとてもスムーズに進んでいます」


「へー。それは良かったわね。で、どういう風に変えたの?」


「そうですねぇ。一番大きく変革したのは、魔人排斥論を全て無くして代わりに全種族との共存共栄論をアルテラ様の教えとした事です」


「ふーん。あの時高志が言ってた事を守ったのね」


「当然ですわ。あの方は私たちの新たな神なのですから」


 マリーの目がとても輝いている。とても綺麗でいい顔をしているのだが、何故だが無性に危険な香りがするのは気のせいと思いたい。


「新たな神って……。ま、まあ、あんたらがそれでいいなら、とやかく言うつもりは無いけど……」


 フェリス様も少し引いた顔をしている。


「しかし、他の信徒達はそれを認めているのですか?」


 突然信仰する神を替えるというのは随分と乱暴な気がするのだが……。


「問題ありませんわ。あの時、高志様はアルテラ教の全ての者たちに奇跡を見せて下さいました。あの方を疑う者など誰一人おりません。私達アルテラ教徒は全てあの方の僕となる事を至上の喜びとしております。高志様が死ねと言えば死にますし、世界を滅ぼせと言えば滅ぼしますわ」


 マリーはとても良い笑顔をしている。

 うん。気のせいじゃないな……。


「あんたねぇ……。まああんたらの教義に口挟む気は無いけど、あれは私のだからね」


 フェリス様が所有権を主張する。教祖として取られるのではと危機感を覚えたのだろう。


「ええ。解っていますわ。残念ながら高志様がフェリス様の物だという事は……。それにあの方もそれを望んでいるでしょうし……。ですから、高志様のお子様を神の子として御迎えしたいと思っています」


「ちょ、ちょっと……。子供とか急に言われても……。まだ私達そうなるかなんて決まってないし……。それに仮にそうなっても、私の子供を渡す気はないわよ?」


 フェリス様が真っ赤になりながらしどろもどろに言う。

 

 まったく……。往生際が悪いと言うか、何と言うか……。


「もちろんです。フェリス様のお子様を下さいなんていいませんよ。子供は私が生みますわ」


 その発言に馬車の中の空気が凍りつき、私の額に嫌な汗が噴き出してくる。

 横ではセドリック様が窓の外を見ながら、気配を完全に消している。


「……あれは私のよ」


「取ったりはしませんよ。少し貸して頂ければ」


「そう言う貸し借りはやってないんだけど」


「神の愛は無限で平等なんですよ、フェリス様」


「あれはただの犬よ?」


「まあ、では犬神様なんですね」


 話がかみ合っているようでまったくかみ合っていない。お互いが自分の主張をしているだけだ。

 横を見ればセドリック様が我関せずの姿を必死に維持している。

 私もそうしたいが、このままでは馬車が吹き飛ぶ可能性もある。


 はあ……。めんどくさい……。


 めんどくさいので、全部を元凶に押し付ける事にしよう。


「お二人とも、そのお話はそこまでにしましょう。続きは高志を捕まえてからでないと意味が無いと思いますよ」


「……そ、そうね。まあ、あのバカ犬が私を裏切る訳が無いと思うけどね」


「うふふふふっ……」


 二人が矛を収めてくれたのでホッとする。

 しかし、マリーがここまで変わるとは思っていなかった。出会った頃と大きく変わった訳では無いが、何と言うか、怪しげな色気のようなものを身に着けている。元々スペックの高い娘だっただけに、これはかなり危険な女になっている。特に、この娘にはフェリス様には無い特別強力な武器があるのだ。その使い方次第では……。


 あっさりと陥落しそうですねぇ。死ねばいいのに……。


 はっと、一瞬自分が黒くなった事に気づいて反省する。

 

 落ち着け。落ち着くのですエリーゼ……。あんなものはただの無駄肉です。動くのに邪魔なだけです。


 私は自分に言い聞かせる。

 ふと見ると、フェリス様も私と同じ事を考えている顔をしている事に気づき少し悲しくなった。


 なんとなく横を見ると、セドリック様が窓の外を必死に見ながらプルプルと震えていた。

 

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