第七十七話:道
今、俺達はアラストア大陸行きの船の甲板上に集まって海を見ながら雑談をしている。
天気は良く、風も気持ちいい。こんな時に船室にいるのは勿体ないと全員で甲板に出てきたのだ。
昨日は夜遅くに二人と合流し、朝は船の出向時間が早かったのでお互いの情報交換を今していた。
「へぇー。俺達が着くまでにそんな事があったのか。怪我とかしなかったか?」
「大丈夫です。偶然通りかかったマリアンヌさんと言う方が助けてくれたので」
「マリアンヌさんか……、どんな人だ?」
「アルテラ教のシスターで、小柄なのに強くて綺麗で巨……、いや……、その」
ロイが急に言葉を濁す。
なんだ? 何か言い難い事でもあるのか?
「凄い巨乳の人でした」
ロゼッタが代わりに答える。
ロイは真っ赤になって俯いている。
「ははは、なるほどね。それで言い難そうにしてたのか」
俺は爽やかに笑いながらも、心の中では巨乳シスターという言葉に惹かれていた。
シスターで巨乳……。何と心惹かれるワードだろう。
俺の心が熱く燃える。
「俺も会ってみたかったな……」
心の底からそう思う。そんな俺の気持ちに気づいたシェルファニールが俺をからかってくる。
『なんじゃ、主様よ。巨乳が見たいのならホレホレ、ここにあるぞ? 何じゃったら触っても良いんだぞ?』
シェルファニールの言葉に俺の中の種が弾けた。
「わかってない……、わかってない! シェルファニールは何もわかってない!」
俺は心の中で大きく叫ぶ。魂の叫びだ。
『な、何じゃ? 急に』
「いいか、シェルファニール。よく聞け。確かにお前は巨乳だ。それは認めよう。だが、巨乳は巨乳でもただの巨乳だ。魔人で巨乳なんてのは有触れてるんだ。レア度は殆ど無いんだ。カードで言えばアンコモンぐらいだ!」
『い、いや。お主が何を言っておるのかさっぱりわからんのじゃが……』
「考えるな! 感じろ! そうすればお前にも理解が出来るはずだ!」
『う、うむ……』
「でだ。それに引き替えシスター巨乳と言えば、レア中のレアだ。(当社比)いいか、よく聞け! シスター服という清楚さと、そこに包まれる淫靡な爆弾。これは相反する美だ! 二律背反だ! これこそ至高。巨乳道にとっての終着点の一つと言っても過言ではない!」
『巨……、巨乳道じゃと?』
「そう。乳に貴賤は無いと多くの者は言う。だが、道はあるんだ。乳の数だけな! その一つが巨乳の道だ。」
『そんな物があるのか……』
「そうだ。だが、それは茨の道。そこを進むという事は冥府魔道を進むに等しい。生半可な覚悟で進んで良い道では無い。よく覚えておくんだ……」
『う、うむ。何というか……、言ってる事は最低な事のように思うが、何と無く格好良く感じるのが不思議じゃのぉ……』
「ふっ。シェルファニールなら解ってくれると信じていたよ。そのうちお前にもこの道の極意を教えてやる時が来るだろうな……」
『うむ……。じゃが残念じゃのぉ……。我のは主様の好みではないのか……』
「勘違いをするな、シェルファニール。以前にも言ったが、俺は全てを愛する事が出来る男だ。確かに、俺は全ての道を歩む男だが、それはあくまで鑑賞の為に過ぎない。俺は、お前の巨乳も……、愛してるぜ」
心の中の紳士高志がシェルファニールに甘く囁く。
『うむ、我の勘違いじゃな。やはり言ってる事は最低じゃよ……』
うん、そうだね。俺も熱く語りながらそう思ってたよ……。
そう考えながら、ふと意識を現実に戻すと、三人が俺の事をジッと見ている。
「な、何だ? 俺の事をジッと見て……」
「……ずっとマリアンヌさんの巨乳の妄想をしてたんですか?」
ロゼッタが蔑んだ目で俺を睨みながら言ってくる。
「不潔……」
アデリシアも同じような目で俺を見ている。
「あの、先生の気持ち……、同じ男として理解は出来ますが……」
ロイは蔑んだ目こそしてはいないが、少し憐れみを含んだ目で見ている。
「ち、違う。違うんだ子供たちよ。俺は……」
やめてくれ。そんな目で俺を見ないでくれ。自分の汚れっぷりに自己嫌悪してしまいそうだ。
全くの誤解で無いだけに余計に辛い……。
ついついシェルファニールと心で語ってしまったが、傍から見れば一人で何かを考えているように見えるのだ。今回のタイミングでは、巨乳を思い浮かべていると思われてもしょうがない。
「こんな不潔な人は置いて行きましょう」
アデリシアが二人を連れて船室に戻って行く。
「ま、まってくれ……。違うんや。わいも男なんや……。仕方なかったんやぁぁぁぁ」
俺の悲しい声が海に響き渡った……。
『確か、お主の世界では自業自得と言うんじゃったかのぉ……』
シェルファニールの呆れたような言葉が俺に止めを刺した……。




