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第六十六話:あやしい仕事

 海賊船との距離がどんどん近づいてくる。

 敵もこちらの狙いに気づいたようだが、真正面から当たりにくるつもりのようだ。


「なあ、シェルファニール」


『なんじゃ?』


「なんか、鉄砲とか大砲とかもあるみたいなんだが、当たったらどうなる?」


『痛いと思うぞ』


「いや、痛いのは解ってるから」


『最低限じゃが、物理、魔法の二重障壁を張るから心配せんでよい。ただし、そちらに魔力を回し過ぎる訳にもいかぬから、痛いのは我慢せい。あと、あまり過信もせんように。当たれば当たるほど魔力が消耗するからのぉ。出来るだけ攻撃は避けよ。当たり過ぎればお主の体力の限界が先に来るやもしれん』 



 どうやら流れ弾で死ぬ心配は無さそうだ。

 そんな話をしている間にも、敵船との距離がどんどんと縮まってくる。

 双方の魔法使いが船前面に物理障壁と魔法障壁を張る。

 

「さて、まずはお互いの障壁の削り合いじゃな」


 爺さんが杖を掲げながら言う。


「爺さん、悪いが教えてくれ。俺はこういった基本戦術に詳しくないんだ」


「……変わった奴じゃな。魔法障壁があると魔法が届かんし、物理障壁があるとわし達が先に進む事が出来ん。じゃから、まずは双方の障壁に攻撃を仕掛けて破壊する必要があるんじゃ」


 それを聞き、俺はシェルファニールに話しかける。


「シェルファニール、行けるか?」


『問題ない。あの程度なら簡単に砕いてやろう』


 シェルファニールの頼もしい答えを聞いて俺は爺さん達に作戦を伝える。


「皆、聞いてくれ。敵の障壁は俺が何とかする。それに合わせて魔法使いは最大威力の魔法を敵にぶちかましてくれ。他の連中は俺の後に続いてくれ」


「な……、いい加減な事言うなよ。お前一人で何が出来るって言うんだ」


 剣士の一人が信じられないと言ってくる。まあ、当然の反応だろう。


「説明している暇はない。悪いが信じてくれ。俺も死ぬ気はないからいい加減な事は言わない。勝算があるから言っているんだ」


 俺はそう言うと敵船への突入準備に入る。これ以上何を言っても意味は無いだろう。後は行動で示すしかない。


「わしゃ、お主を信じるよ。敵のど真ん中に爆裂の魔法をぶちかましてやるわい」


 爺さんがそう言ってくれる。


「ああ、期待してるよ」


 俺はそう返事をすると、接触寸前のタイミングで舳先を駆け抜けて敵船に乗り込むと正面の障壁を魔剣で薙ぎ払った。

 すると、あっけなく障壁がガラスのように砕けた。

 海賊共の顔が驚きに変わるのと同時に、こちらの攻撃がさく裂した。

 爺さん以外にも俺を信じてくれた奴がそれなりにいたらしく、結構な数の攻撃が敵に炸裂した。

 まったく無防備だった海賊達はたちまち大混乱に陥る。

 俺はすぐさま敵の中央に切り込む。


「シェルファニール。最優先は敵の魔法使いだ」


『承知した。左前方に一名。詠唱中じゃ』


 俺は左前方に突撃する。途中でシミターを構えた海賊が邪魔をしようとするが、数合打ち合って切り捨てると敵魔法使いの正面に出る。

 敵魔法使いは未だに詠唱をしている。


「なんだこいつ。何時まで詠唱してやがる」


 俺はそう思いながら敵魔法使いに斬りかかる。先日会った黒髪の女はもっと強力で早かった。

 あいつが特別なのか、こいつがとろいのか……。

 そいつは俺の攻撃を避けようとしたが動きもとろく、あっさりと切り捨てる事が出来た。


『主様よ、右後方に二名。どちらもこちらを狙っておるぞ』


 その声を聞いて、俺は後ろを見る。すると二名の敵魔法使いが俺に対して炎の矢と光の矢を放つ所だった。だが、威力も速度も大した事が無い。俺は魔剣でその攻撃を弾き消した。

 そいつらは俺が魔法を弾き消した事に驚き戸惑うが、すぐさま次の詠唱に入る。そしてそれを守るかのように、シミターを構えた海賊三名が俺と魔法使いの間に立ちふさがる。

 俺は一名を蹴り飛ばし、残り二名と切り結ぶ。

 

「シェルファニール、剣の威力を上げてくれ。あまり時間を掛けたくない」


 俺の思いに刀身の赤色が更に濃く輝く。

 俺はその剣で海賊二名を敵の武器ごと切り捨てると、敵魔法使いに向かって突進した。

 魔法使いは未だ呪文を詠唱中だ。


『どうやら、あの時の女は別格という事じゃな』


 俺は雑魚魔法使いを簡単に切り捨てると周囲の状況を確認する。

 先制攻撃と、その後の混乱に乗じた事でかなり有利に事を運ぶ事が出来ているようだ。これなら、少しぐらいなら戦線を離脱しても大丈夫だろう。

 俺はこの船にいる味方を探しに船倉へ向かう事にした。

 途中、立ちふさがる海賊を数名切り捨てると、俺は船倉への階段を下りる。


『主様よ。時間切れが近いから注意せよ』


 シェルファニールが警告してくる。かなり体力が消耗し息が苦しくなってきている。

 どうやら急がないとヤバいみたいだ。

 俺は階段を駆け足で降りて行く。

 暫く降りると目的地に辿り着いた。


「何だ貴様は!」


 奴隷使いの海賊が鞭で攻撃してくるが、俺はその鞭を剣で弾くと袈裟切りで切り捨てる。

 俺はその海賊の腰についている鍵の束を奪い取ると、繋がれている奴隷達に投げて渡す。


「聞いてくれ。今、俺達は海賊達と戦っている。戦況は俺達に有利に進んでいるが、数は海賊達の方が多いから油断出来ない状況だ。だから、あんた達にも助けてもらいたい。ここで海賊達を倒す事が出来れば、あんた達も奴隷から解放される。自分たちの未来の為にも立ち上がってくれないか?」


 俺は奴隷として船を漕がされていた連中に対して訴えかける。


「ここで勝てば、俺達は自由になれるのか?」


 鍵を渡した先頭の奴隷が聞いてくる。俺はその質問に対しそうだと頷く。

 すると、そいつに続いて多くの連中が戦う意思を示してくれた。


「武器は死んでいる海賊から奪って使ってくれ」


 俺はそう言うと、甲板の戦場に戻る事にした。

 後ろから歓声が聞こえてくるから、きっと彼らも俺達と戦ってくれるだろう。


 甲板に戻ると、戦況は相変わらずこちらが有利に進んでいた。何人かの味方の死体も見えるが、敵の死体の方が圧倒的に多い。加えて船倉から武器を持った奴隷達が次々に戦闘に参加してくる事によって、戦況は一気に俺達の側に傾いた。


 奴隷達の参戦が決め手となり、海賊たちは武器を捨てて投降しだした。

 俺は戦闘が終わり静かになった甲板上で周囲を眺めていた。

 すると、先ほどの爺さんが俺に近づいて来た。 


「……お主、随分と腕が立つのぉ。それに魔法使いとしても優秀じゃ。障壁を切り裂いたり、魔法を弾き飛ばすなど、よほどの力が無ければ出来ん芸当じゃが……。お主何者じゃ?」


「前も言ったけど、ただの旅人だよ。ヴェールに着いたら何か仕事を探そうと考えてる無職の男だよ」


 俺は笑いながらそう答える。


「何が旅人じゃ……。お主程の力を持つ者などヴェールでも数えるほどしかおらぬぞ……」


 爺さんの言葉に俺は苦笑いをする。

 俺の力では無くシェルファニールの力なのだ。褒められても困る。所詮借り物の力なのだから……。


『主様よ。自分を卑下するでない。魔力は我のものかもしれぬが、使い方はお主次第なのじゃから。お主は我の主に相応しい働きをしておるぞ』


 シェルファニールが俺の卑屈な考えを否定してくれる。


「そうだな、シェルファニール。お前が主と認めてくれたんだから、俺も自信を持たないとな」


 俺が自分を否定する事は、シェルファニールを否定する事でもあるのだ。俺はもっと自信を持たないといけないな。


「お主、仕事を探すと言っておったが」


 俺がシェルファニールと心で会話していると、爺さんが俺に言葉を掛けてくる。


「よかったら、我が校で働く気はないか?」


「冒険者学校で?」


「そうじゃ。昨夜話したが、教員に逃げられてのぉ。代わりの教師が欲しいんじゃよ。お主程の腕なら全く問題ない。引き受けてはもらえんじゃろうか?」


「逃げた教員の代わりって……、何か嫌な予感がするんだが」


「いや、難しく考えんで欲しいんじゃ。確かに、お主に頼みたいのは問題児達の指導員なんじゃが……」


「問題児、逃げた教員。すでにこの二つの単語からろくな答えが出てこないんだが」


「問題児といっても、決して酷い子達じゃないんじゃ。お主程の腕前の者ならまったく問題にならんじゃろう。卒業までの一年足らずの間で構わんのじゃ。引き受けてはもらえんかのぉ」


「具体的にどういう問題がある生徒なんだ?」


「……まあ、何と言うか……、一人は槍使いの少年でな。腕前はかなりの者なんじゃが、対人戦の成績が振るわんでな……。何とかしてやってほしいんじゃ。二人目は魔法使いの少女でな。上手く魔法が使えないから悩んでおってのぉ。三人目は回復魔法使いの少女じゃ。この子は腕前的には問題ない。主に何とかしてほしいのは前者二人なんじゃ……」


 話を聞く限り、問題児とは言い過ぎな気もするが……、寧ろ気になるのは、爺さんが俺と目を合わそうとしない事だろうか。


「シェルファニール」


『……我の見る限り嘘はついておらんぞ』


 うーむ。シェルファニールがそう言うなら嘘では無いのだろう。だが、確実に何かを隠しているはずだ。


『主様よ、面白そうではないか。ここで出会ったのも何かの縁じゃろ。引き受けてはどうじゃ?』


 シェルファニールは賛成のようだ。

 どうするか……。


「頼む。老い先短い老人の頼みを聞いてはもらえんじゃろうか……」


 爺が泣き落としを始めやがった。

 くっ……。どうにもこの爺自体が胡散臭い。

 だが、確かに面白そうな話でもあるし、何かの縁という考えにも賛同出来る。


「爺さん、いくつか聞きたいんだが。まず、俺の受け持ちはこの三人だけでいいのか?」


「ああ。この子達は色々特別でな。他の生徒から隔離……、いやとにかくこの子達の事だけ面倒みてくれればええ」


 爺さん、今隔離とか言わんかったか……。


「……、まあいい。次に俺の事だが、いきなり教師とか大丈夫なのか? 他の教師から反対されるとか無いのか?」


「それも問題ない。わしの推薦という名目で一人ぐらいは雇える」


 馬の骨でも問題なく雇えるという事か……。


「……はぁ。わかった。取り敢えずあんたの誘いに乗る事にするよ」


 俺は溜息を付きながらそう言う。

 爺さんは大喜びで俺の手を取ると有難うと連呼する。この喜びようがすでにかなり怪しい……。


『くくく。はてさて、どんな問題児なんじゃろうな。楽しみじゃのぉ……』


 完全に他人事のシェルファニールを俺はジト目で睨む。


「言っとくが、俺の苦労はお前の苦労でもあるんだからな。俺達は一蓮托生って事を忘れるなよ」


『わかっておるよ、我が主様』


 気楽に答えるシェルファニールと大喜びの爺さんに挟まれ、俺は早まったかなと早速後悔したのだった。


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