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第六十三話:恐怖

「はぁ、はぁ、はぁ……。や、やっと出れた……」


 俺は荒い息をつきながら森を抜けた道に辿り着く。


『ふむ、何度も死にそうな目に遭いながらよくぞ辿り着いたものじゃ』


 そう言うシェルファニール(魔剣)にジト目を向ける。


「俺が死にそうになったのはおもにお前が原因なんだがな……」


『……知らん。お主が未熟だからじゃろ……』


「ピーキー過ぎるんだよ、この魔剣。使いにくいにも程があるわ!」


『なっ、我は悪くないぞ。お主の使い方が悪いだけじゃ』


「一振りで根こそぎ体力持ってくとかおかしいだろ」


『い、いやアレは我も調整に慣れとらん所もあったが……、じゃ、じゃが敵は一掃したではないか』


「ああ、確かに一掃した……。周囲の木々諸共な。何でオーク二匹如きにそんな力がいるんだ。俺は軽く斬撃が飛ばせればいいぐらいに思ってたんだぞ。お前、契約で俺と繋がったから、意思の疎通も出来るとか言ってたよな……」


『……まあ、初戦だったので派手に行く方が良いかなぁと……、我なりの配慮じゃ』


「いらんわ。主の意思を無視して勝手に動くとか呪いの剣以外の何物でもないだろ。しかも俺の体力を限界まで持って行きやがって……。まさかオーク二匹如きで昏倒させられるとは思ってなかったわ!」


『じゃ、じゃから我が守ってやっていただろ。お主が目覚めるまで……』


「当り前だ。あんな派手な爆発させて昏倒してたら集まってくる魔獣に殺されとるわ」


 シェルファニールが望む以上の火力を出す為無駄な体力を使いまくられたのだ。

 何戦もそのような事を繰り返しながら、何とかお互いが上手く噛み合うまで危険な橋を大分渡った。

 

『じゃ、じゃが意味なく力を振るっていた訳では無いぞ。何処まで力を出す事が可能かを試しておかなければ限界が解らんじゃろ? 人間どもの国ではおいそれと大きな力を振るう訳にも行くまい。だから先に試したのじゃ……』


 俺は疑いの眼でシェルファニール(魔剣)を見る。


『な、なんじゃその目は。う、嘘ではないぞ。我が意味も無くその様な真似をする訳が無かろう』


 確かに一理ある。


『人間の領土に出てしまうと、我は自由に力を振るえん。じゃからここで限界を見極めておく必要があったのじゃ』


「……じゃあ、なんで先に言わない?」


『…………』


「お前、今思いついただろ?」


『……結果として間違ってはおらんのじゃから……、細かい事は気にするな』


「……たく、まあいい。お前の言うとおり、限界の確認が必要だった事は確かだ。お前もその辺りは万全なんだろ?」


『うむ、任せておけ』


 色々振り回されたが、まあ魔剣の扱いも大分覚える事が出来たし、森を抜ける事も出来たのだ。結果オーライとしておこう。

 そう考えながら、道を眺めていると一台の荷馬車がこちらに近づいてくる。

 俺はその荷馬車に乗っている男に声を掛ける為に近づいていく事にする。


「なあ、あんた何処まで行くんだ?」


 最初警戒していた男だったが、俺が笑いながら声を掛けると少し安心したのか表情が和らいだ。


「港町ベルファルトに行商に行くんだよ」


「俺も乗せて行ってくれないか? 代わりに護衛してやるからさ?」


 俺の提案に男は少し考えた後、


「そうだな。あんた怪しい奴にも見えないし、護衛してくれるなら助かる。後ろに乗りなよ」


 と言って俺を乗せてくれた。

 俺を乗せて荷馬車が動き出す。

 荷台に横になると俺は目を閉じる。正直かなり疲れていたので町までのんびり出来るのはかなり助かった。それに地理も満足に解らなかったから、何処であれ町に辿り着けるのはラッキーだった。


『幸先が良いのぉ』


 シェルファニールが語りかけてくる。


「ああ。これで取り敢えず目的としていた人間の町にはついたな。この後どうするかだが……」


 俺は心でシェルファニールと会話する。声に出さなくても会話が出来るのは助かる。出来ないと独り言をブツブツ言っている危険人物と思われるので色々困った事だろう。


『やはり記憶を取り戻す事を最優先とするのか?』


「いや、正直そうしたいが何の手がかりも無い以上後回しにするよ。まずは、この異世界をたっぷり楽しむ事が第一だ」


『ふむ。まあ、それが良かろう。記憶の方は色々と行動しておれば何らかの手がかりも見つかるじゃろう』


「ああ。取り敢えず、町に着いたら資金を調達するよ。君の城の倉庫から宝石をいくつか失敬してきてるから、売ればそれなりの金になるだろう」


『……抜け目がないのぉ』


「好きにしていいってお墨付きをもらったからな」


 俺はそう心で言って笑う。


「その後は……。そうだなぁ、港町か……。船旅と洒落込んでみるか……」


『ほう、船旅か。悪くないかもしれんな。我は海も船も知識だけじゃからな。中々楽しみじゃ』


 いい傾向だ。もうシェルファニールは生きる事に飽きる事は無いだろう。未知は尽きる事が無い。彼女は永遠ともいえる寿命を未知を楽しむ事で飽きる事無く過ごせるだろう。


「なら決まりだな。町に着いたら適当な船に乗る事にしよう」


 俺はそう心で言って、少し眠る事にする。


「兄ちゃん、着いたぜ」


 男が俺を起こす。

 目覚めると、海の匂いがした。

 

「すまない。助かったよ」


 俺は礼を言って荷台から降りる。男と別れると、俺はさっそく町の中に入る事にする。


「ここが港町ベルファルトか……。結構大きな町だな」


 俺は町の入り口からぐるりと周囲を見渡す。

 入口から真っ直ぐ港まで道が伸びている。港の方には、当然だが海が見え、その周囲に倉庫のような建物が並んでいる。港までの道には多くの露天が立ち並んでおり、その周りには家や店などの建物が、これまた数多く並んでいた。


「さてと、まずは宝石を金に換えてくれる所を探すか」


 俺は町に入ると、通りすがりの者に質屋などの買い取り屋を教えてもらう。

 教えられた建物に入ると奥にでっぷりと太った中年の男がカウンターに座っていた。


「宝石を買い取って欲しいんだが」


 俺はそう言って、カバンから宝石を一つ取り出してカウンターに置いた。

 男は何も言わずに宝石を鑑定する。


「金貨三枚って所だな」


「そうか。邪魔したな、他を当たるよ」


「……ちっ。わかったよ、金貨五枚だ」


「話にならねぇな。金貨三十枚は貰わねぇと」


「おいおい。そんな額じゃ何処行っても買い取りゃしねぇぜ。欲張るなよ。金貨八枚だ。それで納得しておけ」


「金貨二十枚だ」


「……十枚。それでダメなら帰りな」


 男の声が低くなる。どうやらここらが潮時のようだ。


「解ったよ、それで手を打つよ」


 俺がそう言うと男は金貨十枚をカウンターに乗せる。


「なあ、ちなみに……」


 俺はそれを受け取りながら、カバンから同じ宝石を九個出す。


「これも買い取ってくれるか?」


 笑って言う俺に男は少し考えた後、カウンターに金貨を百枚乗せてきた。


「お前さん、上手くやったつもりかも知れないが、この宝石なら金貨十五枚が相場だぜ」


 男が笑いながら言う。

 成程、やはり慣れない事をしてもうまく行かないものだ。


「交渉の仕方は悪くなかった。後から同じ宝石を出して来る所もな。だが、あそこで引いたのは素人だな。まあ、それなりに頑張ったから少しおまけしてやるよ」


 本来なら金貨百五十枚が金貨百十枚か……。

 まあ、授業料と思って諦めるか。


「慣れない事をしてもダメだな。じゃあ、差額は諦めるから情報をくれないか?」


 俺は男に船の事について色々尋ねる事にする。

 

「船に乗って旅をするつもりなんだが、今なら何処行きの船が乗れるんだ?」


「行先は何処でもいいのか?」


「ああ。船に乗って旅をするのが目的でな。いい所があるなら逆に教えてくれないか?」


「なんでぇ。余裕のある生活してやがるんだな。何処の貴族様だ?」


「ははは、そんなんじゃないさ。旅先で仕事を探すつもりなんだ」


「……成程な。じゃあ、ヴェール行の船に乗りな。ヴェール共和国は内乱が終結して、今は国を建てなおしてる最中だから、仕事は山ほどあるぜ」


「いくらぐらいかかる?」


「船代が金貨一枚。入国に銀貨五枚って所だ」


 それぐらいなら問題ないな。

 俺は男に礼を言って店を出る。

 

『ヴェールとやらに行くのか?』 


「ああ。内乱終結……。面白そうじゃないか」


 内乱終結後など様々なトラブルや混乱があるだろう。こいつは゛冒険の匂い゛がする。


『まったく、仕方の無い主様じゃ。トラブルを自分から求めるとは……。じゃが、我も賛成じゃ!』


「シェルファニールならそう言ってくれると思ってたよ」


 俺はそう言って、乗船券を求めて販売所へと向かった。

 販売所でヴェール行の乗船券を買い、俺はそれを眺めながら道を歩いていた。


『乗船券を眺めてどうしたのじゃ?』


「いや、こういう券って、何処の世界でも似たようなもんなんだなぁと」


 昔買った四国行のフェリーのチケットとよく似ていたのでつい眺めてしまった。

 と、その時突風が吹いて、俺は持っていたチケットを飛ばされてしまった。


『何をしておるのじゃ……』


 俺は飛ばされたチケットを追いかけて通りを少し外れた路地に入る。

 チケットは路地の建物の隙間に入り込んでしまった。


「あたぁ~。手が届かねぇ……」


 俺は必死に隙間に手を入れるが、ギリギリで届かない。

 何か棒みたいな物はないかな……。

 周囲を見回すが、ちょうどいい物が見つからない。

 と、俺は背中にシェルファニールがある事に気づく。

 俺はシェルファニールを薄汚れた隙間に突っ込み、チケットを掻きだそうとする。


「後……、少し……、と、とれた」


 俺は少し汚れながらも飛ばされたチケットを何とか取り戻した。


「おい、主様よ……」


 と、耳元でシェルファニールの声が聞こえた。

 ふと見ると、シェルファニールが人型に戻って俺の横に立っている。


「あれ、シェルファニール? どうした?」


「如何したではないわ。あの剣は道具である前に我自身なんじゃぞ。お主が戦いで激しく扱おうが乱暴に扱おうが構わんが、あのような所に突っ込むのは我慢ならんぞ」


 そう言ってシェルファニールが俺の頬っぺたを抓ってくる。


「い、いひゃい、いひゃいよふぇるふぁにーふ。ごめん、つい便利そうだったから……」


 俺は両頬を抓られながら謝る。

 とその時、路地の先から黒髪の美しい女性が現れる。

 なんだろう、彼女は俺の方を見てすごく怒っているようだ。


「……あんた……、ここでその女と何をしているの?」


 その女性は、怒りを押し殺したとても低い声でそう言う。

 その声を聞いたとき俺は何故か、途轍もない恐怖に襲われる。

 何故だか解らないが、俺の心が恐怖で支配され、震えて声を出す事も出来ない。

 彼女は何故か知らないが、怒り狂っているようだ。

 彼女の質問に早く答えないとヤバいと俺の心が叫ぶが、恐怖で声が出ない。

 そんな俺の状態を見かねたのか、シェルファニールが代わりに答える。


「うむ。いや何、我はこの男に激しくされるのも、乱暴にされるのも構わんのだが、変な所に突っ込まれるのは我慢出来んのでな……。文句を言っておったのじゃ」


 ちょっと待て、シェルファニール……。その答えは正しいかも知れないが、正しく伝わらない……。

 

「激しく……、乱暴に……、変な所に突っ込む……。あんた昼の路上でナニやってんのよぉぉぉぉ!!」


 案の定、激しく誤解をした彼女が怒りの声を上げている。

 と、それを見たシェルファニールがすぐさま魔剣に戻る。


『まずいぞ、主様よ。あの女、かなり強力な魔法使いじゃ』


 その言葉を証明するように、彼女から膨大な魔力が湧き上がっている。シェルファニールが魔剣になった事で俺にもその常識外れな魔力が見える。

 

『来るぞ、気をつけるのじゃ』


 シェルファニールの忠告を聞くまでも無い。見ただけで解るぐらいのヤバい魔力で、彼女が俺に対し魔力弾を撃ち込んできた。あれに当たればかなりヤバい。

 

「はぁ!」


 俺は気合を入れて、飛んできた魔力弾を魔剣で掻き消した。


「なっ?」


 彼女は驚きで呆然としている。まさか自分の攻撃が掻き消されるとは思っても居なかったのだろう。


『今のうちじゃ、主様よ。あの女から逃げた方がよい。あれほどの魔力を持った者と戦うとなると手加減が出来ん』


 シェルファニールの忠告に従い、俺は振り向いて逃げ出した。

 

「な、あ……、ま、まて。逃げるなぁぁぁ!」


 後ろで彼女が叫んでいる。


『主様よ、サーチ魔法が飛んできたぞ』


 俺は振り向いて剣を振るい、サーチ魔法を掻き消す。


「な、また。あんた何で……」


「如何しましたフェリス様?」


 どうやら新手が現れたようだ。俺は必死に逃げ出す事に専念する。


「あいつが、激しくて、乱暴で、変な所に突っ込んでたの」


「……お疲れなのですね、フェリス様……。今日はもう宿に帰りましょう……」


「ちがーう! 可哀想な子を見る目をするなぁー!」


 どうやら仲間と揉めているようだ。

 俺はその隙に大通りの人混みの中に紛れ込んだ。


 しばらく人混みの中を急ぎ足で進む。

 

『どうやら逃げ切れたようじゃな』


 シェルファニールの言葉に俺は頷いた。


「なんだったんだろうな、彼女……」


 長い黒髪の小柄で可愛らしい女性。何故だろう、さっきはあれほど恐怖を感じたのに、今はもう一度彼女に会いたいような……、そんな気持ちが湧き上がる。


『なんじゃ、主様よ。あのような貧乳が好みか?』


 俺の気持ちが伝わったのだろう。シェルファニールが笑い声で言ってくる。


「バカにするなよシェルファニール。俺は巨乳も貧乳も差別しない。全てを愛せる男だ」


『…………』


 無言になるなシェルファニール……。


「しかし……、本当に彼女は何者だったんだ?」


 俺は疑問する。何故彼女はあれ程怒り狂っていたのだろう?


『ふむ。恐らくあれじゃな。我がお主に襲われていると勘違いしたのじゃろう? 正義感の強そうな小娘じゃったからな』 


 うーむ……、本当にそうなんだろうか……。


『もしくはあれじゃな。我らが青姦でもしてると勘違いしたのではないか?』


 それはお前の説明のせいだろうが!

 まあ、でもそんな感じなのかもしれない。俺達を不審者とでも思ったのだろう。

 

「でも……、いい女だったなぁ……」


 俺は彼女の姿をもう一度思い浮かべる。

 

『諦めよ、主様よ。あの女は……危険じゃ。我の勘がそう言っておる。恐らく天敵じゃよ。あの女は……』


 確かになぁ……。なんせ、あの湧き上がってきた恐怖は半端じゃなかったからなぁ……。

 なんて言うか、魂の奥底から湧き上がってきたような、この人には逆らってはダメだというような……。そんな気持ちが速攻で湧き上がる時点でかなり危険な女だ。


『あの魔力量じゃ。お主が恐怖を感じるのも無理はあるまい。魔力だけなら我と同等かもしれぬよ、あの女は……』


 何それ、怖すぎ……。


「取り敢えず、もう町を出て船に乗り込んだ方が良さそうだな。あまりウロウロしてまた彼女に見つかったらヤバそうだ」


 俺の言葉にシェルファニールも賛同する。


 俺は港に停泊している船に駆け足で向かった。


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