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第五十九話:目覚めると再びパンイチ

 目が覚めると俺はパンツ一枚で草むらに倒れていた。

 周りは薄暗い森の中で、俺の他に人の気配はない。

 俺のすぐ傍に何故かショートソードが一本置かれている。

 俺は最初これが夢かと思った。

 夢の中で夢と気づく。たまにある事だ。だが、何時まで経っても目が覚める気配は無い。

 暫くして、俺は気付いた。ここが異世界という事を。

 何せ、空をみたら真っ赤な月が浮かんでいるのだから……。


「ついに俺の番が来たか!」


 思わず大声を出してしまう。そしてすぐに周囲を見渡す。

 危ない……。ここが何処かも解らないのだ。下手な事をすれば、命に係わる。

 俺は深呼吸して気持ちを落ち着かせると、改めて自分や周りの状況を観察する事にした。


 持ち物

 ・パンツ一枚、ショートソード(出来は良さそう)


 自分の状況

 ・パンイチで森の中にいる。


 周りの状況

 ・暗い森の中で、人の気配は無い。少し離れた所に何か建物が見える。


 予想

 ・露出狂の変態剣士。


 いやいや、ちょっとまて、おかしいだろ。

 昨今流行の小説とかだと、黒髪美人の気が強くて我儘で悪戯好きのお嬢様が。


「待っていました、勇者さま」


 とか、金髪美人の無表情で毒舌でお姉さん系の凄腕剣士が。


「共に戦いましょう、勇者さま」


 とか、巨乳な妹系美人シスターが。


「私に力をお貸しください勇者さま」


 とかそういうのがデフォだろ。パンイチで剣だけとかそれあかんやつやろ。


「そ、そうだ、能力を確認しよう」


 どんな状況でも力さえあればなんとかなる。

 俺は今まで読んだファンタジー小説の知識を総動員して、自分の中にどんな能力があるかを必死に探した。


 結論

 ・なんの能力もない


 何時間も必死に探した。

 何も現れないのに、『出でよドラゴン!』とか召喚魔法の真似事をやってみたりもした。だが虚しく風が吹くだけだった。

 唯一の救いは人が誰もいないので、俺の奇行を見られる心配が無かった事だけかも知れない。

 いや、もう一つ。何故かは解らないが、剣を振るう事は結構様になっているように感じた。

 俺は今まで剣など持った事も無いのに、何故かしっくりとくる感じだ。

 ふと、俺は盾は何処にあるのかと探してみる。何故そう思ったのか解らないが、盾があるような気がしたのだ。だが、何処を探してもそんな物は無かった。

 

「何だろう、何故か盾があるような気がしたんだが……」


 俺は大切な物を失ってしまったような……、そんな気持ちがした……。

 

「まあ、気のせいだろう。それより、これからどうしたらいいんだ……」


 夢にまで見た異世界に来れたという喜びは無くなってしまった。

 だが、不思議な事に絶望感は湧いてこない。

 何故だろう。この世界にあまり不安を感じていない。

 

「案外、俺って図太い神経してたんだな……」


 死の恐怖みたいな物を感じるのに、それを受け入れる事が出来ている自分に驚く。


 さて、何時までもこんな所にいる訳にもいかない。

 食料、特に水が絶対に必要だ。

 

「取り敢えず、あそこに見えている建物に行ってみよう」


 危険かも知れないが、行動するしか他に道が無い。

 

「まあ、こうなったら腹括るしかないな。どうせ、失敗しても死ぬだけだ。それなら、いっその事夢に見た異世界を目一杯楽しんでやろう」


 我ながらこの結論に驚いてしまう。俺は、こんなに強い人間だったろうか……。

 

「くっ……」


 突然頭に痛みを感じる。

 今何かが脳裏に浮かぼうとして……。

 俺は右手で頭を押さえる。幸い痛みはすぐに引いた。


「怪我がある訳では無さそうだが、もしかしたら此処に来た時に頭でもぶつけたかな?」


 傷もタンコブも無いし、出血もしていない。まあ、気にしないでいいだろう。

 異世界転移の影響かも知れないし、今は考えるだけ時間の無駄だ。


 さて、鬼が出るか、蛇が出るか。

 俺は期待と不安を胸に、正体不明の建物に向かって歩き出した。

 

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