第五話:奴隷兵士
「それじゃあ、今日から戦闘訓練を始めるわ」
俺は、城内中庭にある訓練場に連れて行かれた。
本来、俺は奴隷兵士として買われたのであるが、言葉が理解出来なければ連携も満足にとれず、早い話が足手まといにしかならない為、勉強優先となっていたのだ。
奴隷兵士。
戦いにおいて魔法は圧倒的な力となるが、人により発動時間が様々で、多くの魔法使いは詠唱から発動までに時間がかかるという欠点がある。
その欠点を補う為、魔法使いを守り時間を稼ぐ壁となる兵士がいる。
だが、それは大変危険を伴う仕事である。
兵士は国民であり、その命をいたずらに危険にさらす事は出来ない。
そこで生まれたのが、奴隷兵士という使い捨ての兵士だ。
中央に魔法使いや騎士、その周囲に兵士が壁を作り、さらにその前方に奴隷兵士が壁を作る。
二段構えで魔法使いを守る。これがローゼリア王国の基本陣形である。
ちなみに、ローゼリア王国で騎士は魔法を使える者にしか成る事が出来ず、それ以外の者はすべて兵士とみなされるらしい。また国に仕えていない者は魔法剣士と呼ばれるとの事だ。
ふと、俺はフェリス様から習った授業内容を思い返していた。
「何ボーッとしてるの? 早く模擬剣と盾を装備して来なさい」
フェリス様の言葉にハッと我に返り、装備置き場から武具を取り装備する。
うむ……。重い……。
剣だの盾だの持った事がない、そもそも重いもの自体持った事が無いひ弱な現代っ子な俺には正直きつい……。
武具を持って訓練場に戻ると、訓練場の中央にエリーゼ様が同じ模擬剣を持って立っていた。
「じゃあ、始めるわよ。と言っても、今日はあなたの実力がどの程度かを確認するのが目的だから、何も指示は出さないわ。全力で戦いなさい」
二人の丁度中間辺りにいたフェリス様がそう言う。
「い、いや、ちょっと待って下さい。まさか、エリーゼ様が直接俺の相手をするのですか?」
俺は驚いた。俺の聞いた話では、奴隷兵士の訓練は奴隷同士、または精々下級兵士のやる事であり、騎士のしかもトップであるエリーゼ様が直接指導するなど、正直周りの目が怖い……。
「あら、私が相手ではご不満かしら?」
こっちの考えてる事が解っている癖にそんなことを言う。ダメだ、この人もフェリス様と同じタイプだ……。
もしかしたら、先ほどの胸の話を根に持っているのかも知れない。
どうすべきだ? 貧乳はステータスと言うべきか? いや、死ぬ。
そもそも、何でこの人達は美人なのにそんな事を気にするんだ……。
胸なんて飾りです、偉い人にはそれが解らんのです。
ぐらい言えばいいのに。
あ、ヤバい二人の目がめっちゃ細くなってる。
勘が鋭すぎる、それとも心が読める魔法でも使っているのか?
そんな魔法があるのか今度モリスに聞いておこう、命に係わる。
「戦闘前にずいぶん余裕ね? 自信の表れ?」
「あらあら、いけないわ。なんだかとても力が入ってしまう。模擬戦なのにこんなに力が入るなんて……。うふふ、可笑しいわね。何故かしら?」
やばい、色々な意味でエリーゼ様と戦うのが怖い。
素人の俺にも解る程の殺気がエリーゼ様から漂っている。
「あのですね。その、筆頭騎士であるエリーゼ様が私のような奴隷兵士を直接指導するなど、恐れ多いと言いましょうか、他の皆様に申し訳ないと言いましょうか、なんと言うか……」
「何言ってるのよ。そもそも貴方に勉強を教えてるのは誰か解ってるの?」
はい、この城のお嬢様です……。
「安心なさい、そもそも私の指導を受ける貴方を見て羨ましいと思う人など居ませんよ、きっと」
はい、死刑宣告あざーす……。