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第五十三話:お宅訪問

「頭が痛てぇ……」


 馬車の中、モリスが二日酔いで苦しんでいる。

 その横で、俺も同様に苦しんでいた。

 

「情けない。そちらから勝負を吹っかけてきた癖に、あの程度の酒量で潰れるとは」


 平気な顔をした蟒蛇その一が言う。


「本当よ。龍殺しだっけ? 美味しいお酒だったじゃない。あんた達弱すぎじゃない?」


 蟒蛇その二が言う。


「あ、あのぉ。もしキツいのなら癒しましょうか?」


 驚きの蟒蛇その三が気遣ってくれる。


「いいえ、甘やかしてはダメですマリー。美しい女三人を蔑ろにする馬鹿男には良い薬です」


 これはお仕置きだとエリーゼ様が言う。

 

「そ、そうよ……。だいたい私とあんな事しようとしたくせに……。別の女ともなんて……」


 フェリス様がブツブツ言っているが声が小さすぎてよく聞こえない。


 俺達は今、モリスの家がある村に向かっていた。

 特に何かがある訳では無い。折角会えたのだから遊びに来いよとモリスに誘われたのだ。

 小さな村らしいが、空気も良く温泉もあるらしく疲れた体をここで癒していけよと提案されたのだ。

 

 モリスの家は一応下級の貴族だと言う。

 といっても、国から大きな役職を与えられている訳でもなく、父親と長兄は警備隊をしているらしい。次兄は病気で亡くなり、姉は結婚して家を出て行ったそうだ。


「家には母親と妹がいる。城での事を色々話してな。一度会って礼がしたいと言ってたんだ。よかったら会ってやってほしい」


 モリスの言葉に、礼を言うのは俺の方だよと言う。


 そんな話をしている内に、村に到着した。

 思ったより街に近い場所だったが、雄大な自然とのんびりとした風景に心が癒されそうだ。

 

 村の少し外れに行くと赤い屋根が見えてくる。

 煉瓦で作られた小さな建物がモリスの家だった。


「あっ、お帰りなさいお兄ちゃん……、お客さん?」


 家の外で洗濯をしていた娘が声をかけてきた。

 赤毛の少し小柄な可愛らしいこの娘がモリスの妹なのだろう。

 

 なんて言うか、フェリス様やエリーゼ様より美人でもないし、マリーほど可愛くもないが、こう……、癒し系というか……、結婚するならこの娘が一番人気になりそうな感じだな。


「ただいまアイラ。前に話しただろ? こちらがフェリス様、隣の方がエリーゼ様、マリーさん。でこいつが高志だ」


「え! は、初めまして。妹のアイラ・ラクルシアです。お、お兄ちゃん!ちゃんと言っておいてよ。何の準備もしてないよぉ。あ、ご飯。是非夕食を食べて行ってください。あと、狭い家ですが今夜は泊まって行ってください。あと近くに温泉もありますし、あとあと……」


「落ち着けアイラ。取り敢えず握りしめた下着をどうにかしろ」


 薄い水色の布きれを握りしめていたアイラは顔を真っ赤にしてそれを後ろに隠す。


「ふふ。有難う。貴方の申し出、有難く受けさせていただくわ」


 フェリス様が笑顔で言う。


「はい! 大したもてなしも出来ませんが、自分の家と思ってゆっくりして下さい。あ、お兄ちゃん。私村に買い物に行ってくるね。皆さん、後で是非色々お話を聞かせて下さい」


 アイラが俺達に頭を下げるとパタパタと家に戻って行く。


「おかーさーん、私買い物行ってくるねー」


「ちょっとアイラ。急にどうしたの?」


「お兄ちゃんがお客様を連れてきたの。お話にあったフェリス様達よ」

 

 そう言うと、アイラは財布をもって村に向かっていった。


「……モリス。あの娘、下着握ったままで村に行っちゃったぞ」


「はぁ……。まあ気にするな。いずれ気づくだろう」


 モリスが溜息をつく。

 色々と可愛らしい所がある妹だ。


 玄関に着くと、エプロン姿の女性が立っていた。

 長い黒髪の落ち着いた雰囲気のある人だ。


「母さん。客を連れてきた」


 モリスがそう言うと、女性は頭を下げる。


「初めまして。母のエリス・ラクルシアです。皆さまのお話は息子からよく聞いておりました。大変お世話になったそうで」


「初めまして。こちらこそ、モリスにはとても助けられたわ。今日はモリスの言葉に甘えて訪問させてもらいました。ご迷惑でなければ嬉しいわ」


 フェリス様がペコリと頭を下げる。続いて俺達も頭を下げる。


「いえいえ、何も無い所ですが、ゆっくりとして行って下さいね。モリス、皆さまを客間にご案内しなさい。長旅でお疲れでしょう。すぐにお茶を用意しますね」


 エリスさんがにっこり笑って言うと、部屋の中に戻って行った。


 客間のソファーに座っていると、エリスさんがやってきてお茶とお菓子をテーブルに置いてくれる。

 

 「ゆっくりと寛いで下さいね」


 エリスさんはそう言うと、しずしずと部屋を出て行く。

 

 上品な人だなぁ……。

 

 俺はその後ろ姿を眺めながらそんな事を思った。


「良い家ね」


 フェリス様が周囲を見ながら言う。


「結構な額の報酬を頂きましたからね。それで改築したんですよ」


「モリスには色々頑張ってもらったしね。当然の報酬よ」


「そうですね。兵士の仕事から子守りまで。お疲れ様でしたね、モリス」


「へぇへぇ。大変お世話になりましたよ」


「ふふふっ」


 俺の拗ねた表情にマリーが笑う。


「お淑やかな母君と可愛らしい妹さん。よいご家族ですね」


「羨ましいわ……」


 フェリス様が心底と言った感じで呟く。

 言われたモリスは少し照れた感じで頬を掻いている。

 

 なんか、ほのぼのとしていいなぁ。こういうの。

 

 暫く他愛無い話をしていると日も暮れて夕食の時間となり、俺達は食卓に案内されて豪華な夕食をご馳走になる。

 残念ながら、モリスの親父さんとお兄さんは仕事で泊まりらしく、今日は帰ってこないらしい。

 テーブルには、エリスさんとアイラが腕によりをかけて作ってくれた肉料理とパンとスープ、そしてワインが並べられている。

 夕食を取りながら、俺達はエリスさんやアイラに奴隷兵士時代のモリスの事や、俺達の事などを話して聞かせていた。


「あの時は、さすがに俺も死んだと思ったさ。だけど、高志が盾で俺を庇ってくれてな」


「お前が突出してたのが見えたからな。なんとなくヤバそうだったから気にしてたんだよ」


「高志は、戦況把握が優れていましたからね。よく危険な兵士を庇って助けていましたよ」


 俺達の話をマリーとアイラ、そして意外にもエリスさんまで目を輝かせて聞いている。


「では、高志さんは兄さんの命の恩人なんですね」


 アイラがずいっと身を乗り出して言ってくる。


「そ、そんな事ないさ。寧ろ俺の方が沢山助けられたよ」


 俺は照れながら肉を口に運ぶ。

 何と言うか、この娘は独特の魅力がある。幼く純粋な感じで、そばにいると守ってあげたくなるような……。


「あ、高志さん。口元が汚れていますよ」


 アイラがそう言って、右のポケットから薄い水色の布きれを取り出し拭いてくれる。


「お、おいアイラ。お前何で拭いてるんだ……」


「え? 何ってハンカチ……、は、はぅ、こ、これ……、ち違うんです。これは、うっかり村に行った時に気づいてポケットに入れたまま忘れてて、その、洗ったばかりで綺麗ですから。買ってから一度しか使ってない物ですし、それに、お、お気に入りのなんです。ですから……」


 アイラが真っ赤になって狼狽えている。


「落ち着けアイラ。大丈夫だ。高志は気にしないよ。むしろ喜んでくれるさ」


 モリスが妹を慰めている。

 お前……、そのフォローはひどすぎるぞ……。だが、このままではアイラが泣いてしまうかもしれない。仕方が無いので、俺はモリスの最低のフォローに乗っかる事にする。


「ええ、気にしないで下さい、アイラ。俺達の業界ではご褒美ですから」


 俺は笑顔でそう言う……。うーん、我ながら最低なセリフだな……。


「どうしよう、エリーゼ。家の奴隷が大変な変態なんだけど……」


「どうやら、我々は彼を抑圧し過ぎたかもしれませんね。まさか、中身への興味からそっち方向へ進むとわ……。そのうちに、衣服や鎧にまで欲情するかもしれませんね……」


「そ、そんな……。高志さんがそんな人だったなんて……」


 三人の悪魔共が俺に聞こえるように言ってくる。


「あ、あのぉ。もし高志さんが望むなら……、差し上げましょうか?」


 アイラが顔を赤くして照れながら上目使いに聞いてくる。


 な、なんだって? どうする、俺。貰っちゃうか? 村の特産品として、土産物として……、はっ!


 一瞬、俺は迷ってしまった。

 決して、そういう趣味は無い……はずだ。魅力的な提案だなんて欠片も思っていない……はずだ。

 だが、何故だか自分でも解らないが迷ってしまった。

 

「どうしよう、エリーゼ……。家の奴隷、ちょっと育て方を間違えたわ」


「諦めてはいけませんよ。まだ、修正は可能だと信じましょう。手遅れと判断してはいけません」


「で、でも……、本人が幸せならそれでも……」


 お願いだから、可哀想な子を見る目はやめて下さい。


 そんな俺達をアイラがクスクスと笑って見ている。

 成程、少し天然が入ってはいるが、この娘も立派な小悪魔だ……。俺の周り、こんなのばかりだ……。




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