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第五十一話:友との死闘

 闘技大会三日目。

 二試合を勝ち抜いたメンバーが闘技場の待機室に集まっている。

 今までは一日一試合だけだったが、今日は決勝までを一日でやる予定だ。

 

「よう。お互い勝ち残れたな」


 モリスが声を掛けてくる。俺はストレッチをしながら、モリスに返事をする。


「出来れば、決勝で戦いたいな」


「……モリス。そういう言葉を言うとな、大抵即戦う事になるんだぞ……」


 フラグが立ったような気がする。


 しばらくして、三回戦の抽選が始まった。

 俺の相手は……。モリスだった。


「お前さんの言った通りになるとはな……」


「まあ、運命ってのは大体こういうもんだよ」


「言っておくが、俺は本気で、お前さんを殺す気で戦うぞ」


「ああ、俺も本気でいくよ。お互い死んでも恨みっこなしだ」


 俺達は握手をしてお互いがその場を離れる。

 昨日の試合を見れなかったのが、今思うと辛い。モリスの手の内を探る為に一試合でも多く見ておきたかった。

 二刀流。対策としては、まず相手の動きに惑わされない事。そして、懐に入られないようにする事だろうか。今までの相手と違い、俺を舐めてかかってくる事はあり得ない。挑発も意味が無いだろう。そう考えると、一番戦い難い相手だ。今までは精神的に優位に立てたからこそ敵の油断を付く事が出来た。だが、今回はそれが出来ない。


 「決勝までは戦いたくなかったな……」


 思わず弱音を吐く。

 だが、泣き言を言ってもしょうがない。俺は精神を集中させ、戦闘用のスイッチをオンにする。

 暫くして俺とモリスを呼ぶ声がする。

 俺達はお互いを見ないまま、まっすぐ前を向いて試合会場までゆっくりと歩いて行った。


 大歓声の中、俺達は向かいあう。

 俺はショートソードと盾、モリスはショートソードの二刀を構える。

 審判の開始の合図と同時に俺はモリスに切りかかる。

 先手必勝。有触れた手だが、有触れているという事は、有効な手段という事でもあるのだ。

 特に、俺は今まで盾を構えて待ち構える形で戦っていたから、今回俺から攻撃すれば、奇襲になるかも知れない。


「あめぇよ」


「!!」


 俺の上段からの全力攻撃をモリスは二刀をクロスさせて受け止める。

 

 まずい!


 俺はすぐさま後方に飛び下がる。そこにモリスの二刀が横から斬撃を加えてくる。ギリギリで回避すると、俺は盾を構えて一旦距離を取る。

 モリスも、両手を広げて構えると距離を置いたまま立ち止まる。


 と、今度はモリスが一気にこちらに走り寄り距離を詰めてくる。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 容赦の無い連続攻撃が襲い掛かってくる。

 このまま防戦に入れば、初戦の変態のように追い込まれる。俺は意を決して、下がらず前に出る。

 盾ごと体当たりして、モリスを下がらせると俺はそのまま前進して距離を取る。

 腕に何か所か攻撃が掠ったようで、痺れた痛みが感じられる。

 

「随分と強くなったな。あの頃とは別人のようだぜ」


「それはこっちのセリフだ。お前は随分と手を抜いてたんだな」


 俺達はジリジリと距離を測りながら言葉を交わす。


「ところでモリス。今日も店の女の子達は試合を見に来てくれてるのか?」


「ああ。綺麗所が何人か来てるぜ」


「じゃあ、悪いが負ける訳にはいかねぇな」


「案外負けたら負けたで同情してもらえて、サービスアップしてくれるかもしれないぜ?」


「……いや、同情からのサービスは昨日たっぷりしてもらってな。お腹一杯なんだ」


「なんだ、案外うまい事やってんじゃねぇか。店なんか行く必要ないんじゃないか?」


「……生憎とな、そこのサービスは……ある意味拷問と変わらないんだよ!」


 俺は言葉と同時に切りかかる。

 俺の剣とモリスの二刀が鍔迫り合う。お互いが剣で押し合った後、後方に離れる。


 その後、しばらく二人の剣戟が続く。

 傍目には互角に見える剣戟だが、俺は気付いていた。


 このままでは勝てない……。


 徐々にだが、押されてきているのだ。

 どうする……。俺はモリスの攻撃を必死に防御しながら考える。

 盾を持つ手が徐々に重さに耐えきれなくなってきた。攻撃の衝撃が腕にダメージを蓄積させてきているのだ。案外それがモリスの狙いだったのかもしれない。このままでは盾を持つ左腕が上に上がらなくなるかもしれない。

 

 考えれば、俺の持つ盾は魔法の盾じゃない。ただ頑丈なだけの重い鉄の塊なのだ。

 相手の攻撃を受け止め、受け流す事は出来ても、その分視界が狭まり、重さと攻撃の衝撃でダメージを受けるというデメリットの方が大きい。


 そう考え、俺は盾をモリスに向かって投げつけ、剣を正眼に構えた。

 突然盾を投げつけられ驚いたモリスは一旦距離を取る。


「いいのか? 盾を捨てちまって。剣一本だけで俺の攻撃を凌げると思ってるのか?」


 モリスが二刀を構える。どうやら、勝負に出る気のようだ。全身に力を溜めている。


 俺は正眼に構えたまま、集中力を高める。


 集中、集中、集中……。


 周囲の雑音が消える。

 徐々に思考がクリアーになり、時間がゆっくりに感じられる。

 モリスがこちらに迫ってくる。

 凄まじい気迫で迫りくるモリス。だが、今の俺にはその動きがスローに感じる。

  

 魔法の盾をもっている時の感覚と同じだ。


 俺に斬りかかってくる二刀を、俺はギリギリの動きで避ける。

 不思議だ。あれだけ早く、変幻自在だったモリスの二刀の動きが、今の俺には止まって見える。

 

 モリスの表情が驚きに変わる。

 なおも攻めてくるモリスの二刀を避け続けると、俺はモリスの二刀が重なる瞬間を狙って、剣を下から上へ振り上げる。

 俺の剣に跳ね上げられ、モリスの腕が万歳状態となり、胴ががら空きとなる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 俺は渾身の力で剣をモリスの胴に横凪に叩きつける。

 モリスも跳ね上げられた二刀をすぐさま振り下ろしてくる。


 バキィィィィィ!


 骨の砕ける音が聞こえる。


 モリスのアバラ骨と俺の左肩の鎖骨が砕けた。

 俺は左肩を押さえて跪き、モリスは横っ飛びに吹き飛び地面に転がり倒れる。


「くそっ。完全に避けきれなかった……」


 俺は左肩の痛みに耐えながら呟く。左腕は完全に死んだ。

 モリスのダメージが少なければ、俺の負けだろう。

 

 感触的には完全に決まったはずだが……。


 俺はモリスを油断なく見つめる。


「痛ってぇ……」


 モリスがゆっくりと立ち上がろうとしている。

 くそ……、浅かったか。


「はぁはぁ……。ちっ、左肩一本か……。相討ちぐらいには持っていきたかったんだがな……」


 ごふっ!


 モリスはそう言うと血を吐きだした。折れたアバラが内臓に突き刺さったのかもしれない。顔色もかなりやばい。

 審判が素早く俺の勝ちを宣言して、モリスの治療を指示する。

 俺は左鎖骨を押さえながら、モリスに近づく。


「大丈夫か? モリス」


 俺は治癒魔法で治療を受けているモリスを見守りながら問いかける。


「ああ、なんとかな。それより、なんだよアレは……。突然気配が薄らいだかと思ったら、信じられない動きをしやがって……」


「信じられない動き?」


「お前……。自覚なかったのか? 最後、正眼に構えてからお前さん、突然変わったんだぜ。気配は読めねぇし、動きは気味が悪いほど無駄が無くなって……、まるで瞬間移動するみたいに、俺の攻撃を避けやがって……」


 モリスが恨みがましそうに言う。

 

 あの時が止まる感覚。

 魔法の盾を持っている時ですら、殆ど使えなかった力。

 その力が、まさか魔法の盾無しでも使えるとは思ってもいなかった。

 しかも、その力は相手には気配が消えて、瞬間移動と思わせるほど早く動けるとは……。


 この感覚を完璧に使いこなせるようになれば、俺はかなり強くなれるはずだ。

 戦い方次第では、魔法使いにだって引けを取らないだろう。

 

 俺は……、強くなっている……。


 エリーゼ様はこの事を言っていたのだろう。

 そして、この事を気づかせる為にこの大会に出場させたのだろう。


 俺は客席にいるエリーゼ様を見つめながらそう考えた。


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