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第四十七話:初戦

 大きな歓声が周囲から聞こえてくる。

 俺は闘技場の中央にある試合場に立って開始の合図を待っていた。

 

 俺の目の前に、バラ男が左手を腰に、右手を頭上に上げ、股間を前方に押し出すようなポーズで立っている。

 そんなバラ男に、若い女の集団が大きな声で歓声を上げている。


「……なんで、アイツに……」


 俺には理解が出来ない状況だ。

 バラ男が、その集団にウインクを飛ばすと、更なる歓声が上がり、何人かが気を失う。


「俺がおかしいのか? あの格好は、この異世界では寧ろオシャレなのか?」

 

 俺は困惑したが、観客席にいるフェリス様達を見て正気に戻った。


 あの人ら……、爆笑してやがる……。

 もういやだ、お家帰りたい。


「ふふふ、君があの剣鬼の弟子だね?」


 変態が喋りかけてきた。

 相手せんとだめか? 無視したら駄目か?

 俺の気持ちを無視して、変態はしゃべり続ける。


「楽しみだ。あの剣鬼の弟子は、どんな声で鳴いてくれるのか。ふふっ。僕のイケない所がエレクチオンしてしまいそうだよ」


 いやぁぁぁぁぁ。ガチで変態だぁぁぁぁぁ。

 戦う前から泣きそうになる。


 無情にも、審判が開始の合図を出す。

 俺はすぐさま盾を構える。

 変態の武器はレイピアだ。

 半身に構え、素早く突きを出してくる。俺の下半身のある一点に向けて……。


 高スピードの突きが俺の股間に向かって伸びてくる。

 俺は盾で股間を守る。

 その後もしつこく俺の股間を狙ってくる変態……。


「てめぇ! 何処狙ってきやがる」


「ふふふっ。聴かせておくれ。君の魂の叫びを」


 ダメだ。色々とダメだ。

 俺は必死に息子を守る。

 変態のくせに、腕はかなりのもので油断すると大切な物を失ってしまいそうだ。

 万が一の時……、マリーは此処を癒してくれるだろうか?

 

「そ、そんな事。マリーにさせる訳にいくか!!!」


 俺は盾で相手のレイピアを弾くと、ショートソードで変態の右肩辺りを切りつける。

 だが、変態は素早く体をズラし俺の攻撃を避ける。


 くっ。こいつ、強い。


「はぁはぁ。君のソコはどんな感触なんだい? ぼ、僕は、もう……。ジュルリ」


 舌で唇を舐める変態。

 目がもうかなりイッている。

 俺は恐怖で叫びそうになる。


 ダメだ。怖い。勝たないと。絶対勝たないと。


 俺は必死に防御しながら考える。

 恐れるな。冷静になれ。敵の攻撃から目をそらすな。

 確かに。こいつの突きは早いが、対処出来ない程じゃない。

 まして、この変態はもう自分の欲望に目が眩んでいる。

 動きは早くなっているが、単調で読みやすい。フェイントなども殆ど無い。

 興奮のあまり冷静な戦いが出来ていない。

 

 俺は、わざと隙を作り敵の攻撃を誘う。

 案の定、この変態は恍惚の笑みで俺がわざと作った隙に引っ掛かった。


「はぁはぁはぁ……。僕は、僕はもう……」


 変態が罠に気付く事もなく、血走った目で突きを放ってくる。


「消え失せろ! この変態がぁぁぁぁ!」


 俺は、一直線に突きを放ってきた変態の攻撃を円を描くように避け、そのまま遠心力を利用して相手の脇腹付近に剣を横凪に叩きつけた。

 変態が吹き飛んで地面に転がる。

 今の一撃で確実に相手のアバラをへし折った。


「あはぁぁん。ぼ、僕はこっちもいける……」


 恍惚の表情で気を失った変態。

 俺は荒い息をしながら、その変態を睨み付ける。

 審判が俺の勝利を宣言して、観客席から大歓声が聞こえてくる。

 だが、俺の心に勝利の喜びは無く、湧き上がるのは恐怖から解放された安堵感のみだった……。


 今日の試合は各人一試合のみで、次戦は明日となる。

 俺は、フェリス様達がいる観客席に向かう。

 

「とても良い試合で……、ぶふぅっ」


 エリーゼ様が俺を見ると、褒めようとしたが途中で我慢出来ずに笑いだす。


「ダメよ。エリーゼ。高志が頑張って、変態相手に……、変態……。ぶふっっぅ」


 フェリス様が窘めようとしたが、耐えきれず笑いだす。

 

「お二人とも。ダメですよ。高志さんが可哀想ですよ」


 マリーが二人を窘める。だが、そのマリーの目も笑い過ぎて涙目になっている。


「だっ、だって、よりによって、記念すべきデビュー戦の相手が……、変態って……」


「良かったですね。アレに勝てて。もし負けてたら……、変態以下という事に……」


 二人して笑い続けている。

 

「へぇへぇ。好きなだけ笑ったらいいですよ」


 俺は拗ねたように言う。

 

「はぁはぁ。まあ、相手はアレだったけど勝てて良かったわね。初戦突破おめでとう」


 やっと落ち着いた三人が祝ってくれる。


「ところで、今日はもう試合は無いですよね? 宿に帰りますか?」


「いえ、実はこの大会にモリスが出ているのですよ。俺はその試合を見るつもりです。」


「モリスが?」


「ええ。偶然控室で会いました」


「ふーん。じゃあ、モリスの応援もしてあげないとね」


「あのぉ、モリスさんとは?」


 マリーの疑問に、俺はモリスについて説明する。


「そうなんですかぁ。じゃあ、皆で応援しないといけませんね」


 マリーの言葉に全員が頷く。

 暫くして、モリスの試合の順番が来た。

 中央の試合場ではモリスと女性下着姿の変態が立っている。


「ぶふぅっ!!」


 俺はすでに免疫があって平気だったが、初見だった三人は耐えきれなかったようだ。


「な、なに。あの変態……。何でモリスの相手も変態なの?」


「貴方たち……。二人して私たちを笑い殺すつもりですか……」


「…………」


 三人ともかなりツボに入ったのか、腹を押さえて笑っている。


「だ、だめ。お腹痛い……。マリー、助けて。魔法で癒して……」

 

 フェリス様が泣きながらマリーに頼むが、マリーも苦しそうにプルプル震えている。

 

 モリス。頑張れ。この人達は無視していいから。


 審判が試合開始の合図を出すと、変態を応援する野太い声援が聞こえてくる。


「あの変態にもファンがついているのか……」


 応援では完全に負けている。

 なにせ、こっちの応援団は笑い過ぎてひぃひぃ言っているだけだから。

 

 俺は心の中でモリスを応援しながら、試合を見る。

 相手の変態は両手剣使いだ。

 対してモリスは。


「二刀?」

 

 モリスは少し短めのショートソードを両手に一本づつ持っている。


「そう言えば、高志は知らなかったわよね。あれがモリスの本来の戦い方よ」


 フェリス様が涙を指で拭いながら教えてくれる。

 奴隷兵士の監視役である為、不用意に目立つ事を嫌って実力を隠していたとの事だった。


「よく見ておきなさい。貴方が知るモリスとはまったく別人ですよ」


 エリーゼ様が荒い息を整えながら、そう忠告する。


 試合は変態が大剣を振り回し、モリスが二刀でいなすという展開で進んでいる。


「あの変態も強いわね」


「そうですね。もしやあの姿に秘密があるのでは? 高志も試しにあの格好をさせてみますか?」


「私たちの下着で、サイズ合うかしら?」


 二人が碌でもない事を言っている。

 冗談だと信じたい。

 言っとくが、そんなもん付けさせられたら、新しい世界の扉が開くぞ。


「冗談言ってないでモリスを応援してあげて下さい」


 マリーの上ならサイズいけそうよね。等と言いだし、マリーが丁度新しく買ったのがと具体的になってきたので、俺は三人の話を遮る。 

 

「え? 冗談?」


 マリーが驚いている。

 やばい、この子本気だ。


「どうせモリスが勝つわ。あの変態もそこそこの使い手っぽいけど、あの程度じゃモリスには勝てないわ」


 フェリス様が頬杖を突きながら試合をみる。

 試合をみると、モリスの攻撃が徐々に相手を押している。変幻自在な剣の動きと的確な攻撃で敵を追い詰めている。

 

「ああなっては、もう変態に勝ち目はありませんね」


 エリーゼ様の言うとおり、あの変態はああなる前に試合を決めなければ勝ち目はなかっただろう。


「二刀か。俺ならどう戦うべきなんだろう?」


「難しく考える必要はありませんよ、高志。貴方は、今まで同様心を冷静に保ち、相手の動きを集中して見ればいいのです。」


 要は落ち着いて対処しろという事か。

 確かに。あの変則的な動きに惑わされるのはまずそうだ。


「魔法の盾を持っている時と同じ感覚で戦ってみなさい。その感覚を再現すれば、貴方は勝てますよ」


 魔法の盾の力か……。そうだな。盾は無いけど、俺の体にその戦い方は染みついているはずだ。


「わかりました。どこまで出来るか解りませんが、やれるだけやってみます」


 俺がそう返事をした時、モリスの二刀が相手の鎖骨をへし折り、勝負がついた。


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