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第四十六話:再会

 武術大会の初日が来た。

 俺は出場者待機場の一画でストレッチをしている。

 剣鬼の弟子出場の話はあっと言う間に広がり、俺は注目の的になっている。

 

「あれが剣鬼の弟子か? 強そうに見えねぇな」


「彼奴に勝ったら、俺も剣鬼の弟子にしてもらえるかな?」


「おいおい。勝てたら、それだけで箔がつくってもんだぜ。弟子になる必要なんざぁねぇさ」


「それもそうだな。あー、彼奴と当らねぇかな」


 彼方此方で噂話が聞こえる。

 迂闊な奴に負ける訳にはいかない。もはや俺だけの戦いでは無くなってしまった。

 

「胃が痛いぜ。まったく……」


 俺は周囲の敵を観察しながらぼやく。

 

「しかし、色々な奴がいるな……」


 今俺が見ているのは、二十代前半の金髪の美形男だ。

 容姿もスタイルもすごくいい、ジャニーズ系の男なんだが……。


「なんで黒い下着一枚でバラ咥えてるんだ……」


 その男の周囲は結界が張られているが如く人が寄り付かない。

 

「正直、あれとは戦いたくないな」


 勝っても得る物が無く、負けたら失う物が大きそうだ……。


 俺はその変態から視線を外し更に横を見てみる。

 そこには、黒の角刈りの筋肉質の男がいる。

 いぶし銀のケンさん風の男なんだが……。


「なんで女物の下着姿なんだ……」


 ここは変態の見本市か?

 彼奴らを見て、ここが闘技場と誰が信じるのだろうか。


「あれとも戦いたく無いな」


 対戦相手はくじ引きらしいが、あの二人は明らかに外れくじだ。

 真面目に戦えば戦う程、悲しくなる気がする……。


「フェリス様とか大喜びしそうだがな」


 きっとあの人達は、戦う俺の姿を見て大笑いするだろう。

 何が悲しくて闘技場で笑いを取らんといけないんだ……。


「いよう。相変わらずお前さんは目立ってるな」


 突然後ろから声を掛けられる。


「あいつらよりは目立ってないぞ」


 俺は咄嗟にそう返答する。

 なんで俺は変態と張り合ってるんだか……。


 振り返ると、そこにはモリスが笑顔で立っていた。


「おいおい、アレは別格だろ?」


 モリスは笑いながらそう言う。


「モ、モリス?」


 俺は突然の再開にボー然としてしまう。


「よう。久しぶりだな。まさかこんな所で再開するとはな」


 懐かしいモリスの声に、俺は思わず涙ぐんでしまった。


「お、おい。泣くなよ」


 モリスがそんな俺の反応に焦っている。

 俺だってまさか涙が出るとは思っていなかったさ……。

 でも、いくらなんでも突然過ぎだ。


「だって、まさかこんな所で再開するなんて……」


 モリス。俺にとって友人であり、恩人であり、兄である男。

 いつか必ず再開しようと約束していたが、まさかこんな偶然に再開出来るとは思っていなかった。


「ははは。まあ、お前さんは突然だったからびっくりしただろうな。俺もお前さんの噂を聞いた時は流石にびっくりしたからな」


 モリスは俺の横に座る。

 

「モリスもこの大会に?」


「ああ、俺の家はこの街の近くの村にあるからな。いつかこの大会に出たいと思っていたんだ。まさかそこにお前さんが現れるとは流石に思ってなかったよ」


 俺の横でストレッチを始めるモリス。

 不思議だ。ずいぶん久しぶりなのに、この男が俺の横にいるのが自然に感じる。

 まるで昔に戻ったような気分だ。


「あれから、モリスはどうしていたんだ?」


「特に何もしていないさ。家に帰って、頂いた報酬を家族に渡して、適当に毎日家でブラブラしていただけさ」


 モリスは頬を掻きながら恥ずかしそうに言う。

 今まで大変な思いをしてきたんだ。家でのんびりしても罰は当たらないさ。


「そう言うお前さんこそ。あれからどうしてたんだ?」


 俺はモリスと別れてから今日までの事を話した。

 フェリス様、エリーゼ様、そして新たに仲間になったマリーの事も話した。


「成程な。まあ、剣鬼の弟子と聞いてお前さんの事だとは思ったが、そうか。あの人達と冒険者をやっているのか」


 モリスは納得したとばかりに頷く。


「解放はされたのか?」


「いや、されてはいない。でも、身分こそ奴隷だけど、立場としては通常の冒険者として扱われてるよ」


「成程な。まあ、あの方らしいっちゃあらしいか。そうか……、ならもう夢は叶えたのか?」


 モリスはニヤリと笑いながら聞いてくる。

 俺の夢……。

 そう、俺はかつてこの男に力強く夢を語った。

 あの日、モリスと熱く(俺が一方的に)語ったあの夜。俺は、夢を必ず叶えて見せると宣言したのだ。


「うっ……」


 俺は思わず涙ぐむ。

 俺の反応にすべてを察したのだろう。モリスはかなり焦っている。


「おいおい、泣くなよ。しかもなんで俺と再会した時より涙の量が多いんだよ……」


 すまん、モリス。だが、俺はやっぱり男なんだ。

 

「わかった。再会を祝してこの大会が終わったら俺がいい店に連れて行ってやるよ」


 モリスのその言葉を聞いて、俺はモリスに抱き着いた。


「モリス! 心の友と呼んでもいいか?」


「お、おう……」


 モリスはドン引きだが、気にしない。


 俺達がそんなやり取りをしていると、大会の説明が始まった。

 基本ルールは、魔術なし、武器は刃を落とした模擬武器を使用する。

 降参させるか、戦闘不能にするか、もしくは明らかに致命と判断できる攻撃を受けた時は、審判の判断で負けとなる。無論、死んでも負けだ。

 まあ、回復魔法の使い手が常駐しているので、生半可な事で死ぬ事は無いだろう。

 

 特に、俺にはマリーがついているからな。


 対戦は毎回くじ引きで相手が決められる。

 さっそく初戦のくじ引きが行われた。


 俺の対戦相手は。

 バラ男だった……。


「あははははっ! 気の毒にな。お前さん、くじ運が悪すぎだな。まあ、気を落とすな。お前さんの分も俺が活躍してやるよ」


 モリスが大笑いしながら言う。

 だがそのモリスの笑顔もすぐに凍りついた。

 

 モリスの対戦相手は角刈りだった……。

 

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