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第四十四話:反省

「まったく、話の途中で潰れてしまうとわ……」


 目の前で酔いつぶれた高志を見ながら私は呟く。

 なんとなく彼が腹の中に溜め込んでいた事柄に見当はついていたが、今日、本人を酔わせて吐かせた事で確信した。 


「自信を失ってしまったのですね」


 酔いつぶれて寝ている高志の頭を優しく撫でながら、私は反省する。

 何故なら、彼が自信を失った原因は私とフェリス様にあるのだから……。

 

 一番の原因はフェリス様だ。

 フェリス様は高志に゛依存゛している。

 それもかなり過度に。歪んでいると言ってもいいだろう。

 本人は気付いていないだろうし、普段はそのような態度を億尾にも出さないが、時折狂気にも似た態度を見せる事がある。

 昨日の騒ぎの時もそうだ。

 あの時、高志が止めなければ、フェリス様はあの男を殺していただろう。

 高志が止めなければ私が止めていた。それだけ、あの時のフェリス様は危険だった。

 あの不快な男と、周りの人間に対する脅しの意味も込めて、ある程度放置はしたが、正直いつフェリス様が暴発するか気が気でなかった。

 今のフェリス様は、城に居た頃とは別人の様に変わった。

 昔のフェリス様は人間に興味は持っても、固執するような方ではなかった。

 戦いにおいても、周囲の人間を成長させる為に自身が手を出す事を極力控えていた。それが怪我人や死人を出す事になろうともだ。

 それが、今のあの方は積極的に手を出す。彼を危険から遠ざける為に。

 恐らく心の奥底で、彼を失うのを恐れているのだろう。

 

 そして、私もまた恐れている。

 彼を失う事で、フェリス様がまた生きる屍のようになる事を……。

 フェリス様が彼に依存しているように、私はフェリス様に依存している。


 まあ、私の場合は自分でその気持ちに気づいていますがね……。


 人の事は言えない。私も十分歪んでいる。

 そんな思いのせいで、私たちは彼を危険から遠ざけてしまい、結果として彼の自信を奪ってしまったのだ。

 彼の自尊心は、一方的に庇われる事に耐えられないのだろう。

 

 男の意地というものなんでしょうねぇ……。


 一昔前の私なら下らないと一蹴しただろうが、今の私は彼の思いを好ましい物と感じている。


 こんな贔屓をする時点で私も十分変わったのかもしれない。

 私は小さくイビキを掻いて寝ている高志を見ながらそう思う。


 高志は十分に強くなっている。

 彼は訓練で私に一撃も入れれないと嘆いていたが、確かに決定打こそないが、私はもう殆ど手加減をしていないのだ。

 魔法こそ使っていないが、私は剣だけでもそれなりの腕をもっている。

 その私とほぼ互角の腕になっている時点で十分な力量と言えるだろう。

 

 だが、私はその事を高志には伝えていなかった……。

 その為、彼は自身が成長しているという実感が持てなかったのだろう。 

 また、私達の過保護さから彼を実戦から遠ざけてしまった事と、魔法による圧倒的な力量差を見せつけられる事で自信を失ってしまったのだろう。

 

 それに、彼の才能についても伝えていなかった。

 いや、正確には伝えた事でかえって失ってしまう恐れがあったため、黙っていたのだ。

 彼が勘違いしている方がいいと思ったのだが、その為にその部分を鍛える事を怠ったと言えなくもない。


 「如何すべきですかねぇ……」


 私は独りごちる。

 恐らく言葉だけではダメだろう。

 今の彼に必要なのは、強くなったという実感。

 訓練ではダメだ。私と戦っても彼は自信を取り戻せないだろう。


 ならば……、どうするか……。


 そう言えば、時期的にそろそろ……。

 

 私は酔いつぶれた高志を背負い、宿へと戻る。

 道すがら、私は彼をあそこに連れて行こうと思った。

 うまく行けば、自信を付ける事が出来るだろう。

 何より、この思いつきはかなり楽しめそうだ。 


 明日にでも皆に提案してみますかねぇ。

 私は笑みを浮かべながらそう思った。    

 

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