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第四十三話:弱音

 翌日。フェリス様は魔法の訓練、マリーは教会へと出かけて行った。二人ともこの日の夕食を向こうで取るという事だったので、俺とエリーゼ様は剣の訓練後、二人で近くの酒場で夕食を取っていた。

 食事後、適当な摘まみと酒を頼む。エリーゼ様は結構酒好きで、今回のように二人で食事を取る時は大抵夕食後に酒を飲んでいた。

 他愛無い話をしながら酒を飲む。

 俺は、昨日の事もあり少しハイペースで酒を飲んでいた。

 

「今日は随分と飲みますね」


 俺に酒を注ぎながらエリーゼ様がそう言う。

 あんたがどんどん注いでくるから余計にハイペースになってるんだが……。


「昨日の件で、何か思い悩んでいるのでは? 今日の剣にも何やら迷いのようなものが出てましたよ」


 普段と変わらない感じで剣を振るっていたつもりだったんだが、やはりこの人にはバレていたのか……。

 どんどん酒を飲ませて来るのも、俺に愚痴を言いやすくさせる為の気遣いだろう。

 きっとそうだ、そう信じよう……。


 しばらく飲まされ続けて、さすがに酔いが回ってきた。

 昨日の事もあり、俺は思いの丈をぶちまける。

 

「エリーゼ様。俺は……、強くなりたいです」


 酒を飲み干すと、俺はグラスを強くテーブルの上に打ち付けた。


「ただ、皆の後ろについて回るだけのお荷物でいる事が辛いんです。俺は、皆の仲間だって胸を張って言える男になりたいです」


 俺の愚痴をエリーゼ様は黙って聞いてくれる。


「訓練では、何時まで経っても貴方に一撃も入れる事が出来ない……。実戦でも殆どの敵はフェリス様とエリーゼ様が倒してしまい、俺はお二人の打ち洩らしを片付けるだけ……。俺は、何時まで経っても強くなれない自分が情けなくて……」


 愚痴っている内に段々と悔しさが湧き上がってきて、グラスを持つ手に力がこもる。

 酔いにまかせて、愚痴っている自分にも腹が立つ。

 結局、俺はエリーゼ様に甘えているのだ。

 それに気づいた途端、俺は恥ずかしさに顔が熱くなる。


「すみません、忘れて下さい。つい甘えてしまいました」


 あの男に言われた言葉に大分心を折られていたのだろう。こんな愚痴を言った所で解決するはずもないのに、俺は何をやっているんだろう。


「構いませんよ。今日は飲んで、酔って、腹の中の思いを全部出してしまいなさい。そうする事で、案外心が軽くなるものですよ」


 エリーゼ様が優しく微笑み、俺に酒を注ぐ。

 すでにかなりの量を飲んでいるが気にしない。

 今日はベロベロになると決めた。


「それで、強くとはどれ位強くなりたいのですか?」


「どれ位って、それは……」


「貴方は、自分を過少評価しすぎだと思いますよ。もう少し自信を持ちなさい」


 エリーゼ様の言葉を俺は素直に受け止める事が出来ない。


「貴方は、貴方が思っている以上に力を付けていますよ。無論向上心を持ち続ける事は大切ですが、今の貴方に必要なのはもっと自分を信じる事のように思えますよ」


 俺は黙って酒を煽る。

 もう酔いがかなり回ってしまい、意識が遠くなってきた。 


「確かに、貴方は魔法が使えないですし、力、技も私より下でしょう。ですが一点、私を超える力を持っている事に貴方は気づいていますか?」


 エリーゼ様のその言葉を俺は聞く事が出来なかった。

 何故なら、俺はその時すでに酔いつぶれて寝てしまっていたから……。


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