第三十九話:護衛のお仕事
俺たちのパーティーに新たにマリーが加わった。
連携の確認とウォーミングアップの為の簡単な依頼をいくつかこなした後、俺達は難易度の高い依頼を受ける事にした。
「うひょー! 何こいつら。めっちゃいい女じゃん」
「すげー。こいつ胸でけぇー。よぉ、俺のを挟んでくれよ」
「げはははは。お前の小さいのじゃ見えなくなっちまうよ」
「ぎゃはははは!」
今、俺達は今回の依頼に同行するもう一つの冒険者達と話をしていた。
はっきり言ってかなり下品な連中だ。
マリーは顔を真っ赤にして俯いたまま小さくなっている。
フェリス様は……、正直怖くて見れない。
なんで、こいつら解らないんだ? 爆発寸前の爆弾に。
エリーゼ様は慣れたものだ、平然としている。
下品に絡んでくるこいつらとの会話を我慢していると、やっと待ち合わせ場所に今回の依頼者がやってきた。
俺たちの任務は、この依頼者と荷物を南にある国境の街サザンブロストに送り届ける事だ。
「お待たせしました。それでは出発しますので、皆さんよろしくお願いします」
依頼主がそう言い、荷馬車を発進させる。
俺たちパーティーが左側、あいつらが右側にそれぞれ分かれて、馬車について歩く。
「なによ、あの下品な連中は」
フェリス様が怒りの声を出して言う。
今も反対側から、
「お前、どの女がいい? 俺やっぱりあの巨乳がいいな」
「俺はあの黒髪だな。あの生意気そうな女を無茶苦茶にしてやりてぇ」
「じゃあ、俺はあの無表情な女でいいや。あの顔をアヘらせてぇ」
等と言いながらゲラゲラ笑っている。
「あいつら、絶対聞こえるように言ってるし……。何発かぶち込んでもいい?」
フェリス様がかなり物騒な事を言い出す。
「慣れて下さい。これぐらい普通の事です」
エリーゼ様は平然としている。
だが、俺は気づいている。エリーゼ様の剣を持つ手にかなり力が入っている事に……。
「いい、マリー。私たちから絶対に離れちゃダメよ。あいつら何してくるか解らないから」
「は、はい」
確かに、俺たちは常に一塊でいた方が良さそうだ。
だが、あいつらの気持ちも解る。
もし、俺があちらのパーティーにいたら同じ事を思ったと思う。
だって男だもの……。
「何、あんた。もしかして、あいつらと同じような事考えてない?」
フェリス様が目を細めて俺を睨む。
なんでそんなに勘がいいんだ……。
「ほう? ですが、仕方ありませんね。彼も男ですから……。ちなみに貴方はどの女を選ぶのですか? 巨乳ですか? 生意気な黒髪ですか? 無表情ですか?」
エリーゼ様がニヤニヤ笑って聞いてくる。
「へぇー。確かに気になるわね? どの女がいいの?」
「貴方たちも、十分下品だと思いますよ……」
俺は二人から思いっきり頬っぺたを抓られた。
夜になり、俺達は野宿の準備をする。
連中はこちらに絡んで来ようとしてきたが、エリーゼ様の脅しと、トラブルを嫌った雇い主の一言で何とかある程度の距離を置いての野宿となった。
というか、エリーゼ様の脅しが手馴れすぎで怖かったんですが。
あと、フェリス様とマリーがしきりに感心しているのも気になったんですが。
「あー、スッキリした。やっぱり剣って解りやすい暴力の方が良いわね。私も武器を剣にしようかしら」
「エリーゼ様、とても格好良かったです。憧れてしまいます」
マリーが羨ましげにそう言う。
でもね、君の、
「手とか足を切り落としても、私癒せますから大丈夫ですよ」
という言葉も十分な脅しになってたからね。
ちなみにエリーゼ様は、我慢しろと言った自分が切れた事が恥ずかしいのか、小さくなっている。
「あれが噂の剣鬼ってやつなのね。私そのあだ名つけた奴を褒めてあげたいわ。だってもうピッタリなあだ名だもの」
フェリス様は上機嫌だ。久しぶりにエリーゼ様を弄れるのが楽しくて仕方がないのだろう。
「やっぱり、冒険者になったんだから、そう言ったあだ名を私も欲しいな」
「あ、私も欲しいです」
マリーがその発言に乗っかる。
「あんたはアルテラの聖女ってあだ名がもうあるでしょ」
「私、そのあだ名嫌いなんですぅ」
「諦めなさい、だってもうこれ以上あんたにピッタリなあだ名は無いと思うから」
フェリス様のその意見に俺も賛成する。
マリーはやっぱり聖女ってイメージだ。
「ちなみに、フェリス様はどのようなあだ名が欲しいのですか?」
復活したエリーゼ様が問いかける。
「そうねぇ……。黒髪の淑女とか……」
「それはどうかと……」
「どの口がほざきますか……」
「あはははは……」
三者同時に突っ込む。
「あんたら……」
「まあ、あだ名とは本人の意思を無視して、周りが勝手につけますからね。気が付いたら付けられてますよ」
エリーゼ様が言う。経験者は語るって所だな。
「さて、そろそろ休みますか。高志、最初の見張りをお願いしていいですか?」
エリーゼ様の言葉に俺が「はい。」と返事をすると、他の三人が固まって休息をとる。
俺は火の番をしながら、周囲に意識を集中した。
二日目の午後、周囲に人影のない山道に差し掛かる。
「注意して下さい。なにやら様子がおかしいです」
エリーゼ様が警告する。
それを聞いたフェリス様がすかさず周囲をサーチする。
「前方に何かの集団がいるわ。数は二十ぐらいかしら? 側面、後方は問題無さそう。待ち伏せでは無いわね」
「どうしますか? エリーゼ様。アイツらにも知らせますか?」
俺は確認する。どうやらあちらの連中は気づいていないようだ。
「面倒ですね。このまま遭遇戦と行きましょう。そのぐらいの数なら問題無いでしょう」
エリーゼ様はそう言うと、魔法の詠唱を始める。フェリス様やマリーも詠唱に入る。
暫く進むと前方に小集団が見えてきた。
「おい、山賊だ。二十人ぐらいいるぞ」
あちらの連中が逃げるかどうかの相談をしている。
雇い主もどうするか迷っているようだ。
此方に気づいた山賊連中の動きは早く、結論が出る前に馬車を半包囲してきた。
「へへへ、今日はついてるぜ。客が二組も来るとはな」
「おい、なんだあの三人。見た事もねぇ上玉だ。絶対殺すんじゃねぇぞ」
山賊連中は下卑た笑いを浮かべながらこちらを値踏みしている。
「エリーゼ……。後ろのあれ……」
「ええ、もうすでに死んでますね……」
山賊どもの後ろに、三名の死体が見える。恐らく俺達の前の客という事だろう。
マリーが悲しそうな顔をし、フェリス様は……、すごい怒りのオーラを発している。
「おめぇら! 命が惜しかったら、女と荷物を……」
山賊の一人がそう言いだした時、エリーゼ様が素早く連中の後方にいる魔法使いらしき男の首を切り落とした。
「な、てめぇ」
突然の奇襲に慌てふためく山賊達。
その隙を逃さず、エリーゼ様は魔法使いと弓兵を優先して切っていく。
「てめぇら、やっちまえ!」
山賊たちが、掛け声に合わせて一斉にこちらに襲い掛かってくるが、それに合わせてマリーが障壁の魔法を唱えた。
「な、くそ、前に進めねぇ」
マリーの障壁が馬車を中心に俺達を囲み、山賊たちは近づく事が出来ない。
その間も、エリーゼ様がどんどん敵の数を減らしていく。
ちなみに、俺はマリーの障壁の内側に入ってしまった為、何もする事が出来ない。
まあ、外はエリーゼ様一人で十分だが……。
なんか情けないな、俺。
「ち、ずらかるぞ」
山賊達は不利を悟り逃げようとする。
「あんたら見たいな外道、絶対逃がさないわ!」
フェリス様の魔法が炸裂する。
天空からとんでもない数の魔力弾が周囲に降りそそぐ。
途轍もない轟音が何度も辺りに響き渡る。
地面の土が宙を舞い、砂煙でなにも見えなくなる。
エリーゼ様……、大丈夫か?
まあ……、あの人なら心配いらないか。
土煙が収まりまわりを見ると、地面は穴だらけとなり、周囲の崖や木々も吹き飛んでいる。
山賊達は、直撃を食らったやつは塵も残らず消滅し、゛運悪く゛直撃しなかった者は、爆風や破片で手足や体の一部などが吹き飛び虫の息となっている。
ちなみにエリーゼ様は、薄くなった土煙の中を平然と歩いてこちらに戻ってくる。
そんな一部始終を見ていたもう一方の冒険者どもは、唖然としながら『破壊神だ……。』などとブツブツと言っている。
「ちょっと、やり過ぎたかな?」
フェリス様がポツリと呟く。
いやいや、ちょっとじゃないから。
二日目の夜がきた。
今、俺たちは反省会と言う名のフェリス様お説教タイムの真っ最中だった。
フェリス様は正座して小さくなっている。
「私は貴方に言ったはずですが? 魔力の調整を覚えて下さいと」
エリーゼ様が、仁王立ちとなってフェリス様に説教をしている。
俺たちはその後ろに座って事の成り行きを見守っている。
「だって、あいつら許せなかったし」
フェリス様がボソリと呟く。
「貴方の怒りは解ります。私もあの連中を許せないと思いました。ですが、皆殺しにして如何するのですか! 幸い、マリーの治癒魔法のお蔭で何名かを生け捕る事が出来ましたが、普通なら全員死んでましたよ」
そう、あの後バラバラに吹き飛んで虫の息だった山賊達を、マリーの回復魔法で回復させたのだ。
皆殺しにしたフェリス様の魔法も怖かったが、俺はバラバラだった山賊をあっさり回復させたマリーの魔法も怖いと思った。
もっとも、心まで回復させる事はさすがに出来ず、山賊達は焦点の合ってない目でブルブルと青く震えていたが……。
「ああいう連中は何人か生かして捕え、アジトや背後関係などの情報を引き出さなければ、意味が無いのですよ。根元から根絶せず、末端の枝だけ切っても根本的な解決にならない事ぐらい、貴方なら解るでしょう」
そう、その後回復させた山賊達を縛り上げ、もう一組の冒険者達が近くの警備隊の詰め所まで引き渡しに行ったのだ。
あの冒険者達もフェリス様にビビりまくって使い物にならなかったので、彼らに山賊達の引き渡しとその後の事情聴取までをお願いし、残りの護衛を俺達が引き受けたのだ。
なので、今ここに居るのは俺たちパーティーと依頼主だけだ。
依頼主は、さすがに疲れたようで早々に馬車の中で眠っている。
「大体、何故あのような、広範囲に、多数の、超強力な魔力弾を、撃ち込む必要があったのですか!」
「だって、なんかイライラしてたから、スッキリしたいと思って……」
フェリス様、結構あいつ等の下品な言動にストレス溜めてたんだな。
「その結果があれですか? 道はあちこち巨大な穴だらけ、周囲の木々は壊滅、崖も崩れ去り、山賊の犠牲になった方たちの亡骸まで粉々にしてしまい……」
「うっ……」
フェリス様が更に小さくなる。
そう、さすがに犠牲者の遺体まで粉砕したのは言い訳できない。
仕方なく、その場に遺体を葬り遺品だけ回収したが。
「ごめんなさい。反省してます……」
「当り前です! まったく」
はぁ、とエリーゼ様が溜息をつく。
「まあ、もう終わってしまった事ですし、これを教訓として以後気を付けて下さい。幸い教訓となる罰もフェリス様には与えられましたし」
「罰?」
俺とマリーがキョトンとする。
フェリス様も意味が解っていないようだ。
「おめでとうございます、フェリス様。貴方が望んでいたあだ名が付きましたよ」
エリーゼ様がにこやかに言う。
俺たちはしばらく考え込み……。
ふとあの冒険者達の言葉を思い出した。
「破壊神」
「えっ、えっ、えっぇぇぇぇーーーー!!」
フェリス様が叫ぶ。
「ええ、そのあだ名です。あの冒険者達は貴方の事をそう呼んでいましたよ。彼らは、警備隊の詰め所や帰り着いた街などで今回の話をするでしょう。現場検証に訪れた警備隊の面々や、あの道を通る旅人もあの惨状を見れば、きっとそれを多くの人たちに語り継ぐでしょう。破壊神の名と共に……」
「い、いや、やめて。そんなあだ名……」
「いやぁ~、私はそのあだ名を付けたあの冒険者達を褒めてあげたいですね。だってもうピッタリなあだ名ですものねぇ」
エリーゼ様がニヤニヤと昨日フェリス様が言っていたセリフを真似る。
何気に根に持ってたのね。
「破壊神、私、あだ名……」
フェリス様の言動がショックでおかしい。
「諦めなさい、貴方にこれ以上ピッタリなあだ名はありませんよ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!」
フェリス様の悲鳴が夜の森に木霊する……。




