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第三十八話:マリー

 俺は今、マリーの引っ越しの手伝いをする為教会に訪れている。

 仲間になるにあたり、フェリス様がマリーも同じ部屋で寝起きするべきだと強く主張したのだ。

 エリーゼ様もその意見を押した。

 やはりと言うべきだが、俺の意見はまったく考慮されなかった。

 始めの内は少し迷っていたマリーだったが、最終的にはその意見を取り入れ、今俺はマリーの住んでいた教会の部屋から荷物を運ぶのを手伝っている。


 ちなみに、拠点のある宿屋の部屋も、今までより大きな五人部屋へと引っ越す事にして、フェリス様とエリーゼ様は今そちらの引っ越し作業をしている。


「しかし……、あんな目にあって、よく考え直さなかったね」


 俺はマリーの荷物を持ちながら横を歩いている。

 あの後、しばらくして静かになったので部屋に入ると、レイプ目をしてソファーで倒れているマリーを見つけた。

 何処か遠くを見て涙を流すマリーと、満ち足りた顔をする二人の悪魔を見て俺はもうマリーは仲間にならないのではと思ったのだ。


「あのぉ、出来ればその件は忘れて下さい」


 マリーは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 いかん、どうも俺はデリカシーが足りないようだ。

 というか、今までデリカシーが必要な人が周りに居なかったからしょうがない。


「ごめん、まあでもあまり気にしない方がいいよ。基本毎日あんな感じだから。ああいう時は野良犬に噛まれたと思って諦めるしかないよ。あの二匹はそこいらの野良犬よりは品があるからまだましだよ」


「ふふ、野良犬だなんて」


 上品に笑う。

 うわぁ、なにこの可愛さ。

 フェリス様もエリーゼ様も美人だが、こういう可愛さとは無縁だ。


「高志さんは、あのお二人とはどういうご関係なのですか?」


「関係? 俺は奴隷なんだけど」


「いえ、そういう事ではなくて、恋人さんとか……」


 俺は一瞬目が点になったあと笑い出してしまった。


「な、なんで笑うんですかぁ」


「いや、ごめん。だって、まさかそんな発想をする人がいるなんて思わなくて」


「でも、教会で初めて三人を見た時に、凄く自然な感じがしたので。なんて言ったらいいのか、三人でいるのが当たり前のような……」


 マリーは俺たちを見てそう思ったそうだ。


「私が、皆さんの中に入ってもいいんでしょうか? お邪魔じゃ無いですか?」


 マリーは下を向きながらそう呟く。


「俺が、フェリス様の奴隷になった時、フェリス様とエリーゼ様が二人でいる所を見て、俺もあの人たちに対してマリーと同じような事を感じたよ。もし、マリーが二人の中に俺がいる事を自然と感じたのなら、マリーもいづれ俺たちの中にいる事が自然と思われるようになるさ」


 俺の言葉を聞いてマリーが微笑んでくれた。


「マリーは何故冒険者になろうと思ったんだ?」


 俺は疑問を口にする。

 どうにもイメージ的に想像がつかない。


「私は、大きな魔力を持って生まれたので、生まれてすぐにアルテラ教会の本部にある特別な部屋で育てられました。物心つくまで、私のそばにあったのはアルテラ様の教えと私のお世話をしてくれる司祭様だけでした」


 なるほど、余分な知識を植え付けないように箱入りで育てたって事か。


「私が回復魔法を覚え、それが通常より強力な力だと解ると、周囲の人たちは私の事を聖女様と呼びだしました」


 まあ、そうなるよな。聞けば、彼女の回復魔法ってとんでもないらしいし。


「私の世話をしてくれていた司祭様はもとより、父や母でさえ私をそう呼びました」


 辛いなその状況は。


「そんな私に唯一肉親として接してくれたのがお爺様でした。お爺様は、時間を見つけては私に会いに来て下さいました。そして、よく色々なお話を私に聞かせて下さいました」


「なるほど、それが冒険譚といった話だったと?」


「はい。私にとって唯一の楽しみでした」


「でも、聞いた限りじゃあ、君は殆ど教会に軟禁状態だったんだろ? どうやって冒険者になる許しがもらえたんだ?お爺さんってそんなに力をもっているのか?」


「脱走したのです。教会を」


「脱走?」


「はい。でも、外になんか一度も出た事が無かったので、飛び出してあても無く彷徨って、結局すぐに捕まってしまいました」


 まあ、そんな生活してたらそうなるわな。


「そんな私を気の毒に思ってくれたお爺様が私に作戦を与えてくれたのです」


「作戦?」


「はい。私は捕まって連れ戻された日から水も食事も一切取らないようにしたのです」


 ハンガーストライキってやつか。

 しかし、爺さん結構無茶させるな。


「お爺様は私にこう仰いました。『この作戦は危険で苦しい。耐えられないと思ったら止めてもいい。ただし、やめた時は自由になる事も諦めてこの生活を続けなさい。マリーが自由になるという事は、この作戦以上に辛く苦しい事が待ち受けるから、これに耐えられないなら自由になる資格がないんだよ』と」


 なるほど……。


「とても辛くて苦しかったです。でも、これに耐えたら冒険に出られるんだと考えて必死に頑張りました。死の寸前まで耐えた時、周りがやっと私の自由を認めてくれたのです」


 そりゃ、そこまで覚悟見せたらな。

 多分爺さんも根回ししただろうし……。


「私は教会の本部を離れ、お爺様と一緒に暮らしながら外の世界の事を色々教えて頂きました。後は皆さんがご存知の通りです」


 なるほど、爺さんがログナーさんに声を掛けて、彼女の面倒を見れるパーティーを探したと。

 これ、ログナーさんこっちから言わなくても、絶対俺達に話持ってきただろう。

 どう考えてもこの娘を面倒見れる冒険者なんかフェリス様ぐらいだ。

 下手な連中には絶対任せられない。

 この娘の美しい容姿、とんでもない才能、世間知らずな性格。

 冒険者なんか基本荒くれ者の集まりだ。

 とてもじゃないが、俺たち以外に適任のパーティーは無いはずだ。


「なるほどね。まあ、だったらフェリス様とも気が合うよ。彼女も君と同じような気持ちで冒険者になってるからね」


「そうですよね。フェリス様は伯爵令嬢なのに冒険者をやっているんですものね。きっと私以上にご苦労されたんでしょうね」


 いや、オーモンドの一族は……。いや言うまい。知らない方がいい事もある。


 俺は笑顔でマリーに右手を差し出す。


「歓迎するよ、マリー。あの二人の相手は色々、本当に色々大変だけど一緒に頑張ろう」


「はい、こちらこそよろしくご指導お願いしますね。高志さん」


 マリーが笑顔で俺の右手を両手で包みこむ。


 ご指導お願いします……、か……。

 どう考えても俺以外の戦力がすごすぎる。

 先輩として、さすがにこれはつらい。

 頑張って少しでも強くならんとなぁ……。


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