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第三十七話:新たなる仲間

「さて、そろそろ私たちも次の段階に移りましょうか」


 拠点としている宿の一階にある食堂で朝食を食べながら打ち合わせをしていた時、エリーゼ様がそう言った。


「次の段階……。どういう意味ですか?」


 俺はサラダを食べながら問う。


「ランクもDとなり、討伐ノルマもクリアしました。そろそろ高難度の仕事を受けても良いでしょう」


 なるほど、そういう事か。


「やっと、やっとなのね……。やっと地味な仕事や鬼のような教師の訓練から解放されるのね」


 フェリス様が両手をぐっと握って振るわせている。

 そんな姿をみてエリーゼ様が若干呆れた顔をする。

 だが、正直俺もフェリス様と同じ気持ちだ。地味な仕事が嫌な訳では無いが、やはり少しは派手な仕事がしたい。


「ですが、そこで一つ問題があります」


「問題……。ですか?」


「はい、これは出来ればの話なのですが、パーティーに回復魔法の使い手が欲しいのです」


 なるほど、確かに高難度ともなると危険も増える。いかにフェリス様やエリーゼ様が手練れでも万が一という事もありえる。


「はい! はい! 加えるんなら男の仲間が欲しいです」


 俺は手を上げて意見を言う。


「なに、あんたそう言う趣味だったの……」


 フェリス様が汚物を見る目を向けてくる。


「いけませんよ、フェリス様。彼がどのような性癖の持ち主でも、彼は悲しい事に私達の仲間なのです。その目は仲間に向けていい目ではありませんよ」


「……、そっちの趣味はないですよ。俺はちゃんと女が好きです」


「なに、あんた私たちの事そう言う目で見てたの?」


 相変わらず汚物を見る目を向けてくる。


「いけませんよ、フェリス様。彼が私たちにどのような劣情をもよおしていたとしても、彼は悲しい事に私達の仲間なのです。その目は仲間に向けていい目ではありませんよ」


「俺はこの常に二対一の状況を変えたいんです。だから男の仲間を希望します」


 いいかげん味方が欲しい。このドSどもと戦う為の味方が。

 何より三対一になるのが怖い……。


「はい! はい! 私は加えるんなら女の子がいいです。獣は一匹いたら十分だと思います」


 フェリス様が俺の真似をして手を上げて意見を言う。

 俺を見てニヤニヤ笑っている。

 恐らく俺の考えを見通しているのだろう。勘が良い人だからな。


「あら、これは困りましたね? 意見が分かれてしまうなんて。私としてはどちらの意見も尊重したいですねぇ」


 エリーゼ様がワザとらしく困った振りをしている。


「では二人の間を取ってホモの方を仲間に加えるというのはどうでしょう?」


 俺はジト目をエリーゼ様に向ける。


「あら、なんでそんな目をするのです? その目は仲間に向けていい目ではありませんよ」


 エリーゼ様もニヤニヤ笑って俺を見る。

 くっ、こいつら……。


「まあ、お二人のご意見は解りました。ですが、残念ながらこちらの希望通りの人材が見つかる可能性は低いでしょう。なにせ回復魔法の使い手は数が少ないですから」


 そうか、数が少ないから余ってる人が殆どいない、寧ろ余っている人間は何かしら理由があって余っている人になるのだろう。


「変な奴を入れるぐらいなら居ない方がマシね」


 フェリス様の言うとおりだろう。下手をしたらパーティーが崩壊しかねない。


「はい、その通りです。ですから出来ればと言ったのです」


「なるほど、でも一応探すんですよね。募集でもかけるのですか?」


「いいえ、やはりある程度信頼の出来る人を探したいので、ログナーに相談してみようかと考えています。紹介してもらえる人がいるかどうかを。もしいないようなら、暫くは三人で活動を続けましょう」


 確かに、ログナーさんなら信用出来る人を紹介してくれるだろう。


「うん、それでいいんじゃないかしら」


 その意見に賛同し、俺達は朝食後冒険者ギルドへと向かった。


「ふむ、回復魔法の使い手か……」


 ログナーさんは考え込む。


「はい、もしいい人材がいるなら紹介をお願いしたいのです」


「うーむ」


 ログナーさんはずいぶん長い事考え込んでいる。


「無理にとはいいませんよ、私たちも特にいい人材がいないならそれでいいと思っていますし」


「いや、その。いる事にはいるんだがな」


 ログナーさんの歯切れが悪い。


「その言い方だと、何かしら問題がある人なんでしょ?」


「いやなぁ、本人には問題ないんじゃよ。ただなぁ……」


「周囲の環境に問題があるという事ですか?」


「うむ。実は、アルテラ教会でシスターをやっている娘がおってな。その娘が冒険者とパーティーを組んで冒険に出たいと強く希望しておって」


「教会絡みかぁ。正直あんまり関わり合いにはなりたくないわね」


 フェリス様が苦い顔をしている。

 まあ、俺も正直宗教は苦手だ。


「ですが、アルテラのシスターならよく冒険者とパーティーを組んでいますよね。なぜ問題が?」


 エリーゼ様が疑問する。

 修行という名目で神父やシスターが冒険者となる事は特に珍しい事ではないらしい。


「枢機卿の孫娘でな」


 あー、偉いさんの娘か……。それはめんどいな。


「ワシはな、出来ればお主らに頼みたいと思っておる。そのような娘を頼める信頼できる冒険者など数が少ないからな。本人は強く希望しておるし、枢機卿からも信頼できるパーティーを紹介してほしいと頼まれておるのじゃ」


 なるほど、俺たちの希望は渡りに船だったって事か。


「ですが、正直気が乗りませんね」


 エリーゼ様もいまいち乗り気でない様子だ。

 確かに、偉いさんの孫娘と言うだけで色々な柵が付いて回るだろう。それに加えて教会とか宗教が絡んでくると。うーん……、確かになんか面倒な気がするな。


「本人も枢機卿もいたってまともな良い人間じゃ。周りの雑音が煩いかもしれんが、なんとか引き受けてもらえんかのぉ。お前さんがそう言うのを嫌いなのは解ってるんじゃが」


「とりあえず、本人に直接あって考えてみてはどうですか?」


 俺は助け船を出す事にした。

 正直な所、俺にはアルテラ教会というもの自体がよく解っていないので特に拒否感が無い。

 それに、今後の事を考えると回復魔法の使い手は欲しい。

 人格的に問題ないなら、考慮するべきだと思う。


「そうね、確かに先入観で物事を判断するのは間違っているわね。私も高志の意見に賛成よ。どうする? エリーゼ」


「そうですね、確かにその通りです。一度会って話しましょう。ログナーもそれでいいですか?」


「もちろんじゃ、ではワシは早速先方に連絡をしておくから、そうじゃな。夕方ぐらいにでも三番通りにあるアルテラ教会西支部へ行ってもらえるかのぉ。そこで彼女が働いておるから」


 そういってログナーさんが段取りをつけてくれる。

 俺達は夕方になるのをまって、教会へと向かった。


「俺、宗教とかよく解らないんですが。アルテラ教ってなんですか?」


 道すがら俺は二人に尋ねる。


「女神アルテラを信仰している教会ですね」


「魔人廃絶主義者よ」


 二人が同時に答える。


「フェリス様。お気持ちは解りますが穏便に」


「あいつらはね、魔の森を焼き払って魔人領に侵攻しろって言い続けてる連中なの」


「女神アルテラの教義は光信仰ですからね、闇に生きる魔人は彼らにとっては神の敵になりますから」


なるほど、聖戦っていうやつか。まあ、そういうのは何処にでもあるんだな。


「フェリス様、あまり偏った見方をしてはいけませんよ。大体、以前高志を助けてくれたのがアルテラの司祭様だった事を忘れてはいけませんよ」


「解ってるわよ。ただ組織として嫌いなだけよ」


 そういえば、俺が助かったのはアルテラの司祭様のお蔭だったな。

 なるほど、個人的には恩がある神様なのか。お祈りぐらいはしていくか。


 そんな話をしていると、白塗りの綺麗な建物が見えてきた。


「さて、では中に入りますか」


 俺達は正面から教会の中へと入って行った。


 中に入ると短い金髪のシスターが出迎えてくれた。

 小柄で可愛らしい顔をしている。年の頃は二十歳前といった所か。

 だが、なにより


「なに……、あの胸……。デカ過ぎない?」


 フェリス様が後ろで小さく呟いている。


「あり得ませんね、私たちへの悪意すら感じられます」


 被害妄想が逞しいな。


「あ、あの、フェリス様とエリーゼ様と高志様ですね?」


 シスターの少女が俺達に声を掛けてくる。


「私、マリアンヌと申します。マリーとお呼び下さい」


「初めまして、マリー。私はフェリス。セドリック・オーモンド辺境伯爵の娘よ」


「私はエリーゼ・テリアス。剣鬼と呼ばれていますが、そのあだ名は好きではないので口にしないで下さい」


 なるほど、挨拶からテストに入るのか……。

 俺は二人の意図を察して自己紹介する。


「俺は高志。フェリス様の奴隷です」


 俺の自己紹介を聞いて、マリーが少し驚いた顔をする。

 だが、すぐに笑顔に戻ると俺達を奥にある客間に案内してくれる。


 客間のソファーに座るよう俺たちに勧めると、紅茶を入れてくれる。


「ねぇ、マリー」


 紅茶を飲みながらフェリス様が声を掛ける。


「はい、なんでしょう?」


「私たちのパーティーに入るという事は、この奴隷と行動を共にする事になるんだけど。あなた大丈夫?」


 若干冷たい声でフェリス様が問いかける。

 俺とエリーゼ様は何も言わずに静かに紅茶を飲んでいる。


 初め、何を聞かれているのか解らなかったのだろう。が、しばらくして質問の意味を悟ると、キッと強い目でフェリス様を睨んだ。


「この方が貴方の奴隷という事は自己紹介の時に承りました。ですが、奴隷であっても一個の人間である事に変わりありません。もし、貴方が、この方に対し不当な扱いをされるような方なのなら……、私は今回のお話をお断りさせて頂きます」


「合格。私は文句ないわ」


 フェリス様が嬉しそうに笑う。

 どうやら彼女の反応を大変気に入ったようだ。

 マリーはフェリス様の突然の豹変に何の事か解らずおろおろしている。


「貴方が、私たちに対しどのような応対をするのかを確かめさせて頂きました。もし貴方が、相手の肩書で態度を変えるような人ならお断りするつもりだったのです。試すような真似をして申し訳ありません」


 エリーゼ様が頭を下げて謝る。


「そ、そんな、頭を上げて下さい。こちらこそ、失礼な物言いをしてしまいました。申し訳ありません」


 マリーも頭を下げて謝る。


「もう、試すのは当然だし、それに対してハッキリ物を言うのも当然なんだから気にする必要ないでしょ」


 フェリス様が紅茶を飲みながら言う。


「で、マリー。あなた回復魔法はどれくらい使えるの?」


「は、はい。えっと、単体回復でランクS、範囲回復だと範囲ランクAで回復ランクBです」


 ブフッッ、ゴフッ、ゴフッ……。


 それを聞いたフェリス様が飲んでいた紅茶を喉に詰まらせてむせる。

 エリーゼ様も目が点になっている。


「すいません。俺にはよく解らなかったんですが?」


「アベルは腕のいい回復魔法の使い手でしたが、範囲回復は使えず、単体回復でランクAでした……」


「ちなみに、範囲ランクAって言えば、一軍丸々回復しちゃうレベルね。あとランクSなんて、死人でも生き返らせるレベルよね」


 なにそれ?


「さすがに死んだ方は無理ですよぉ」


 マリーが照れている。

 いや、そういう問題じゃないんだが……。


「あんたねぇ、完全にアルテラの聖女じゃないの。そんなの冒険に出るとか許されるの? 本当に?」


 フェリス様が疑いの目でマリーを見ている。


「確かに、父と母それに周囲の殆どの人が反対しました。ですが、お爺様が私の気持ちを理解して下さって味方になってくれたのです。それで、旧知のログナー様がよいパーティーを紹介してくれるなら冒険者になる事を許可するといって下さったのです」


 これ雑音どころじゃねぇな……。

 エリーゼ様も少し頭を抱えている。

 フェリス様を見ると、


 あ、ダメだ。完全に気に入ったな。この娘の事。


「賛成! 賛成! 大賛成! この娘、色々と面白そうだわ。エリーゼ、高志、文句ある?」


「ふぅ、いいえ。フェリス様が気に入ったのなら、本人には問題無いでしょう」


 エリーゼ様が諦めたように言う。

 そう、少なくともフェリス様が気に入った時点で人格には問題ない。


「ご主人様のお心のままに」


 奴隷っぽく返事をしてみる。

 あれ、結構よくね?

 なんかしっくり来る気がする。

 でもセバスさんのパクリみたいな感じもするなぁ。もうチョイ次は捻ってみるか。


「はーい、こっちは決まりね! で、マリー。あんたはどうする?」


 フェリス様がマリーに右手を差し出して問いかける。


「こちらこそ、是非お仲間に入れて下さい!」


 マリーがフェリス様の差し出した手を両手で包みこんで握手する。


「はい決まりー! じゃあ、さっそく仲間になったんだから、確認させてもらうわよ」


 フェリス様がそう言った時、エリーゼ様が素早くマリーの後ろに回り込んだ。


「な、何をですかぁ?」


 マリーが少し怯えている。

 なるほど、小動物的な勘が危険を察知したようだ。


「決まってるじゃない。あんた……、それ本物?」


 フェリス様が胸を指さす。

 マリーは未だ理解が追い付いていないようだ。


「フェリス様、人は嘘をつく動物です。ここは心を鬼にして自身で確かめるべきかと」


 エリーゼ様がマリーの後方で退路を断つ。

 なるほど、傍からみるとこの二人の連携の素晴らしさがよくわかる。


「え? え?」


 マリーは訳が分からずおろおろしている。


 俺は正直見学したかったが、さすがにマリーが可哀想なので静かに部屋を出る事にする。


「ちょっと、何これ、凄い弾力。信じられない。片手から思いっきりはみ出してるわ!」


「これは凄い、この歳で何をどうすればここまで育つのか……。もしやなにか怪しげな儀式などを行ったのでしょうか?」


「ねえ、あんた。これ作り物でしょ? だってあり得ない感触だもの。気持ち良すぎるわ。男が巨乳を有難がる気持ちが解っちゃうわ」


「ほう、これは興味深い。ここまでくるともう母乳も出るのではないかと」


「あ、出る? 頑張ったら出せるんじゃない? 試していい? 良いわよね?」


「や、やめてぇ~、た、助けて下さいぃーーー」


 マリーの叫び声が聞こえる。

 どうやら三対一になる危険は無さそうだ……。


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