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第三十六話:王都地下迷宮

 王都ローゼスの中央にその迷宮はある。

 その迷宮の上に街が作られたのか、街が作られた後にその迷宮が発見されたのかは定かでは無い。

 その迷宮の底が何処なのか、未だ不明でありただ一つ言える事は底から魔獣等の敵が湧き出してくるという事だ。


「まあ、と言う訳なので定期的に探索して敵を減らさないといけないわけです。下手をすると王都に魔獣が現れる危険があるわけですから」


 迷宮の入り口でエリーゼ様がそう説明する。

 俺達は今、完全武装状態で王都地下迷宮の入り口前受付で、地下探索許可を取るために並んでいる所だ。


「初めての討伐任務ですから、ここが一番手軽でいいでしょう」


「手軽……。なんですか?」


「ええ、基本的にはそれほど強い敵は出ませんし、我々の他にも多くの同業者が探索してますから」


「なるほど」


 そうこうしている内に、受付での手続きが終わり探索に出発する事になった。


「ああ。これから俺は迷宮に潜って冒険をするんだな」


「ええ、そうね。私たちはここで、危険な敵と戦い、財宝を手に入れて、仲間と多くの試練を乗り越えて」


 俺とフェリス様は初めての探索に期待で胸を膨らませる。


「……えー……。目を輝かせている所申し訳ありませんが。初めに言っておきますが財宝とか期待しても多分無駄ですよ」


 エリーゼ様が無慈悲に告げる。


「なんでよ? 迷宮探索って、物語だとお宝とかラブロマンスとか基本じゃない」


 フェリス様が文句を言う。

 俺もその意見に賛成だ。

 所変われど冒険の物語は変わらないのだな。

 というか、ラブロマンスとか……。フェリス様って案外乙女だったんだなぁ。


「フェリス様。この王都地下迷宮が発見されてからどれ程時が経ったと思いますか?」


「えっと、確か古代王国期以前だから……。千年ぐらい?」


「ええ、ここが王都になるさらに昔からこの迷宮は存在するのですよ。そんな所ですから、目ぼしいお宝などはすでに取り尽くされています」


 それはそうか。毎日こんだけの数の同業者が探索してたら。そうだよな。


「今のうちに言っておきますが、ここ数十年新しく発見された遺跡や迷宮はありません。ですから、基本的に目ぼしい物などは残っていないと考えるほうがいいですよ」


 夢も希望もねぇな。


「じゃあ、なんでみんなこの迷宮を探索するのよ」


「討伐任務のノルマ達成に便利ですからね。冒険というより害獣駆除と考えた方がいいですよ」


 害獣駆除。

 フェリス様のテンションが目に見えて下がっている。


「でも、ここは未だ底まで探索されてないんですよね? ならまだ何かお宝があるんでは?」


 俺の問いにフェリス様のテンションが少し上がった。


「底まで探索されていないのではありません。゛底まで探索する事が出来ない゛のです。かつて、膨大な予算と人数を動員し大がかりな探索をおこなった事がありました。地下に潜り、拠点を作り、定期的に補給活動を行い、そこまでしても結局成果は上がらなかったのです。今では底を目指そうなんて考えるのは、自殺志願者ぐらいなものですね」


 またフェリス様のテンションが下がる。

 そんな様子のフェリス様を見てエリーゼ様は溜息をつく。


「城にいる頃、何度も話したではありませんか。貴方の夢見る冒険などはそうそう無いと。実際の冒険者は大抵地味な生活なんですよ」


「うぅぅ……」


「まったく。ただし、まったくお宝に期待出来ないという事もありません」


 フェリス様の様子を気の毒に思ったのか、エリーゼ様が補足説明を入れる。

 フェリス様のテンションが少し上がる。


「ここに現れる敵はほぼ全て、未達の底から現れていると考えられています。ですから、低い確率ではありますが、底にあるお宝をもって上層に現れる敵もいます。敵を倒したら宝石が出てきたとか、魔法剣を装備していたとか。まあ、そういった一攫千金の可能性もありますよ」


 フェリス様の目に輝きが戻った。

 俺も、何気にテンションが上がってきた。

 うん、やはりお宝の可能性があると考えるだけで夢が膨らむ。

 俺達は淡い期待を胸に地下へと降りて行った。


 数時間が経った

 魔法で明かりを作り、俺達は地下迷宮を歩いている。

 詳細なマップがあるので、道に迷う事はまずない。

 一直線に階段を目指しては地下に降り、歩き続けているのだが。


「敵、現れないわね」


「魔の森の方が敵と遭遇する確率が高いような気がしますね」


「同業者が大勢入り込んでますから、もっと下に潜らないと敵は出ませんよ」


 先ほどから遭遇するのは、同業者ばかりだった。

 なんか山道を登っていると、下ってくる登山者とすれ違うみたいな感覚だ。


 さらに進むと、だんだん同業者と出会う回数が減ってくる。


「そろそろ気を付けて下さい」


 エリーゼ様が注意を促す。

 確かに、先ほどまでの緩い空気が無くなり張りつめた感じがする。


「前方から何か来るわ」


 周囲探知の魔法を使っていたフェリス様が何かの気配を察知する。

 目を凝らしてみると、前方からどろっとした粘液系の化け物が現れる。


 定番だな。


「高志。中央のコアに剣を刺してきて下さい」


 エリーゼ様の指示に従い、俺はスライムに近づき剣を上からコア部分に突き刺す、するとあっさりとスライムは霧状になって消えた。


「お疲れ様です」


「えっ? 終わり?」


 あまりにもあっけな過ぎて拍子抜けしてしまう。


「まあ、スライムは事前に見つけてしまえば子供でも倒せますからね。ただし奇襲されると危険なので注意はして下さいね」


 成程、フェリス様の探知があるから楽勝だったという事か。


「前方、また何か来る。気を付けて!」


 フェリス様がまた何かを探知したようだ。

 俺とエリーゼ様が剣を構えると、前方から今度は角の生えたウサギのような魔獣が現れる。


「ホーンラビットですね。角による突進に注意して下さい」


 エリーゼ様の注意を聞きながら、俺は盾を構えて対峙する。

 敵が俺に向かって突進してきたが、盾を使い攻撃を防ぐ。

 多少の衝撃はあったが、威力はあまりない。

 俺は盾で弾いた敵をショートソードで切り付けた。

 敵は真っ二つになり、霧状になって消える。


「こいつも霧状になって消えた」


 俺が不思議そうに呟くと


「この迷宮に現れる敵は、地上の魔獣とは違い死体が残りません。一説では、魔法で作られた仮想生命ではないかと言われていますが」


「なるほど、衛生的にはいいですね」


「ですが、食料とする事もできませんし、角や毛皮などの部位をはぎ取る事も出来ません。冒険者としてはノルマ達成以外では殆ど旨味の無い場所なんですよ、ここは」


 確かに、これなら魔の森を探索する方が金になるか。


「さて、そろそろ戻りますか」


「え? もうですか。まだ殆ど敵と戦ってないですよ」


 スライムとウサギしか倒してないんだが、いいのか?


「王都地下迷宮の討伐ノルマは数では無く探索時間なので問題ありませんよ。ここに来た目的は、ノルマ達成と迷宮探索の雰囲気を感じてもらう事でしたから」


 これ以上ここにいても、得るものが無いということだろう。

 俺達は地上に戻る事にした。


 地上に戻ると、すでに日は落ち夜となっていた。


「結構時間経ってたんですね」


 朝に探索に入ったので、十時間ぐらいは経った事になる。

 迷宮や洞窟などに入るときは時間に注意した方がいいだろう。

 ペース配分などを間違えると危険な気がする。


「結構面白かったわ」


 フェリス様が笑顔で言う。

 正直意外だ。つまらなかったと文句を言うと思っていた。


「意外ですね、つまらないと文句を言うとばかり思っていました」


 エリーゼ様が驚いた顔をしている。

 彼女も俺と同じ感想だったようだ。


「うーん、確かに戦いとかお宝とかは期待外れだったけど。なんて言ったらいいのかな? 皆と一緒に自由に色々出来るって、なんか楽しいよね」


 なるほど、様々な柵から解放されている時点で彼女は満足しているのだろう。


「それに焦る事ないよね、まだ始まったばかりだし」


「そうですね、ゆっくり色々な事を楽しんだ方が面白いですね」


 俺もフェリス様に賛同する。


「ふう、私はつまらないから城に帰ると言ってもらえた方が楽だったんですがねぇ」


 エリーゼ様が苦笑いをしている。

 案外ワザとこういう地味な案件を選んだのかも知れないな。


「お生憎様、城にいるよりずっと毎日楽しいわ」


 フェリス様が笑顔で答えた。

 確かに、ここ最近のフェリス様はなんというか、城にいた時よりも可愛らしい姿をよく見せる気がする。


「まあ、このような地味な仕事も楽しめるというのなら、適正に問題は無いでしょうね」


「もしかして、俺達へのテストだったんですか?」


「そういう意図もありましたよ。なにせ、お二人ともどうも変な夢をみておられたようなので」


「な、何よ……。いいじゃない、ちょっとぐらい夢見たって」


 フェリス様が顔を赤くして反論する。

 俺も少し恥ずかしい。

 いい年して夢見すぎたか。


「それよりもご飯何食べる? 私ね、この前大通りで面白そうなお店見つけたの。そこ行ってみない?」


「フェリス様の面白そうというのは味的には期待出来ないんですがねぇ」


「そ、そんな事ないわよ。今回は当たりって気がするの、大丈夫よ」


「前回も似たような事言ってましたよね? あの激辛料理……」


「私は、あれで暫く味覚がおかしくなりましたよ」


「だ、大丈夫よ、きっと。ね、行こ?」


 フェリス様がおねだりをする。


「仕方ありませんね、高志もそれでいいですか?」


「ええ、まあフェリス様の勘に期待しますよ」


 俺達は仕方なく賛同する。

 まあ、俺とエリーゼ様がこの人のおねだりを断る事なんか出来ないんだが。


「じゃあ決まりね。行きましょ、二人とも」


 フェリス様が嬉しそうに先行する。

 俺達は顔を見合わせ、苦笑いするとその後について歩き出した。


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