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第三十五話:感謝の気持ち

 冒険者となり一か月程が過ぎた。

 俺達は金銭の管理をすべてエリーゼ様にお願いしている。

 そして月に一度、必要経費を除いた残りを三等分にして給料として渡す事にしていた。

 この一か月、依頼、訓練と積極的にこなし、今日目出度く初給料日を迎えたのだ。


「はい、ではこれが今月の給料となります」


 エリーゼ様から金の入った袋をもらう。


「あ~、なにか感動よねぇ。こうやって自分で働いて稼いだお金をもらうのって」


 フェリス様が袋を抱きしめながら呟いている。


「俺なんて。まさか、奴隷でありながらお金を手に入れる日が来るなんて」


 思わず涙ぐむ。

 そんな俺を二人が優しく慰めてくれる。


「さて、今日の予定ですが急遽本日はお休みとさせて頂きます」


「え? どうして?」


「我々のランクがDランクに昇格しました。それにより、今後討伐の義務が発生します。その事について色々考えを纏めたいと思いますので、今日はお休みとさせて頂きたいのです」


 討伐の義務。

 これはDランク以上の冒険者に課せられる義務である。

 その義務とは、冒険者ギルドより各パーティーに一定量の魔獣、魔物、盗賊などの討伐を命じられ、それを達成しなければならないのだ。基本は冒険者側が都合のいい討伐依頼を受けるのだが、場合によってはギルド側から指定される事もある。

 これをこなさなければ、降格場合によっては除名される恐れがあるのだ。


「そっかぁ。私たち、ついにDランクになったのね」


 冒険者はDランクになって初めて初級冒険者と認められるのだ。それ以下のランクは基本見習い扱いなのだ。


「幸い、訓練の成果も上々でフェリス様の魔力調整も、高志の剣も実戦で使うのに問題ないレベルとなっております。ですので、どうせなら早いうちに討伐義務をクリアしてしまった方がいいと思っているのです」


 なるほど、確かにノルマなんて早くクリアする事に越したことはない。


「解ったわ、じゃあ今日は休みにしましょう」


 フェリス様がそう宣言する。

 俺にも異論はない。


「丁度よかった、魔道杖の手入れがしたかったのよね。ここ最近全然使ってなかったから」


 フェリス様はそう言って手入れの準備を始める。


「高志はどうするの?」


「俺は、今日頂いた給料で買い物をしようと思ってます」


 かなりテンションが上がっている。

 異世界で買い物・・・

 まさか、こんな日が来るなんて……。


「そうですか。では高志。宿を出たら左を真っ直ぐ進んで、突き当りを左に曲がりそのまま真っ直ぐ行った突き当りの正面に貴方が望む品がある店があります。そこに行くといいですよ」


 エリーゼ様がそんな事を言う。

 自分でも何を買おうか検討もついていないのに。


「もう長い付き合いになりますからね。貴方の欲しい物ぐらい解りますよ」


 エリーゼ様が優しく微笑む。

 何か感動だなぁ。

 折角の紹介だし、そこに行ってみるか。


「解りました。折角なのでその店に行く事にします」


 俺はそう言って宿を出る。


 えっと……。左を真っ直ぐ進んで……。

 突き当りを左に曲がって……。

 そのまま真っ直ぐ進んで……。

 突き当りの正面……。


 娼館があった……。


「あ・の・ひ・と・は……」


 よりによって何処を紹介してくれとんや。

 まるでおかんにお勧めのエロ本を教えられたような気分だ……。


 確かに、以前俺はここを夢見た事があった。

 見れば、獣耳にしっぽの可愛い女の子が店の前で客引きをしている。

 確かに興味はある。あり過ぎる。だが。


 ここ行ったら、負けだよな……。

 きっと天国の後に地獄が待っている。

 宿には二人の鬼が待機している事だろう。


 はぁ……。

 俺は溜息をつく。

 ふと、娼館の近くに露店がある事に気づく。

 見ればそこは金銀細工の店のようだ。

 俺はその中にある同じ形をした金と銀の髪飾りに興味を引かれた。

 これ、あの二人に似合いそうだな。

 そう思ったら自然と二つの髪飾りを購入していた。


 髪飾りを購入したら、早くあの二人に渡したいと思い、すぐさま宿に引き返した。


「おや? 随分と早かったのですね。いえ……。別に早いからといって恥かしがる事は無いですよ。自然界では寧ろ早い方が生存確率が高いとも言われていますから、生物としては正しいのです。男としてはどうかと思いますが……」


 エリーゼ様が俺を見るなりかなり失礼な事を言ってくる。


「まあ、別にね。あんたも男だし……。そう言うの否定する気は無いけど」


 フェリス様は顔を赤くして俺を見ようとしない。


「言っときますけど、あの店には入ってませんからね。」


「あの店では満足出来ませんでしたか? この街でもかなり評判の良い店だったのですが……」


「違います。まったく……」


 俺はそう言うと、二人の前に先ほど買った髪飾りの入った箱を置く。

 二人は突然の出来事にかなり驚いている。


「これは?」


 エリーゼ様が呆然としながら呟く。

 どうやら少しは逆襲に成功したようだ。


「お二人に、俺からの感謝の気持ちです。受け取って下さい」


 俺は笑顔でそう言った。


「開けてもいい?」


「もちろんです」


 俺がそう言うと、二人は箱を開けた。


 エリーゼ様は、その銀の髪飾りを見るとすぐに自分の髪に付けた。


「似合いますか? 高志。」


 少し照れながら、嬉しそうに聞いてくる。


 フェリス様はその金の髪飾りを見ると、自分のカバンから小さな宝石箱を取り出し、そこに仕舞い込む。


「有難う、高志。大事にするね」


 フェリス様も同じように顔を赤くして、嬉しそうに笑ってくれる。


 良かった、二人して行動はそれぞれ違うが、喜んでくれた事には変わりないようだ。


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