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第三十二話:課題

「高志! そっちに行ったわよ!」


 フェリス様の叫ぶ声が聞こえる。

 正面を見るとフェリス様に追われて逃げているそいつが俺の方に向かって走ってくる。

 ここは一本道で逃げる隙間もない。俺がアイツを捕まえたら終わりだ。


「任せて下さい!」


 俺は腰を低く落とし、飛び掛かる態勢になる。

 チャンスは一度だ。奴はすばしっこい、ここで逃がせば見失ってしまうだろう。

 こいつで最後だ、こいつさえ捕まえたらこの仕事は完了だ。


 ガシッ!


 俺はそいつを両手でガッツリと捕まえる。

 そいつは俺の手の中で暴れまわる。爪が俺の手を引っ掻いて傷だらけになるが、俺はその手を離さない。


「よくやりました」


 エリーゼ様が後ろから現れ籠を俺の前に出す。

 俺は捕まえた野良猫を中に入れて蓋をする。


「あー、やっと終わったぁ……」


 フェリス様が地面に座り込んでいる。

 彼女が追いこみ、俺が捕まえるという方法で俺達は野良猫を十匹捕まえたのだ。

 一番疲れたのはフェリス様だろう。

 ちなみに、一番傷だらけなのは俺だ。

 エリーゼ様は一切手を出さない。彼女は俺達の教師となり俺達に指導をしている。


「これで衛生管理局からの野良猫十匹の捕獲依頼は達成です。二人とも、お疲れ様でした」


「ねぇ、エリーゼ。この猫……、どうなるの?」


「欲しいという飼い主が現れればその家に貰われる事となるでしょう。そうでなければ」


 殺処分……。


「フェリス様」


「解ってるわよ、安易な同情をする気はないわ」


 俺も猫好きなので、遣り切れない気持ちがする。


「低ランクの依頼はこういったものばかりですよ。同情するなとは言いませんが、割り切って下さい」


 エリーゼ様が突き放すようにそう言う。


「ごめん、エリーゼ。気持ち、切り替えるわ」


 そうだ、こんな小さな依頼一つで考え込んでいたら先が無い。

 俺も彼女を見習わなくてはいけない。


「さ、こいつを依頼者にさっさと届けて完了の報告に行きましょう」


 フェリス様がそう言い猫の入った籠を持つ。

 俺はその後に続きながら、先日のエリーゼ様の提案を思い返していた。


 冒険者登録が終わった後の事だ。


「さて、それでは冒険者として生きて行くにあたり、私から提案があります」


 宿に戻って休憩をしていると、エリーゼ様がそう話しかけてきた。

 俺達が何かと問うと。


「まず、一点目ですが、低ランク依頼に関しては選択から解決までをあなた方お二人にお願いいたします」


「そうね、寧ろこちらからお願いするわ」


 俺も反論は無い。むしろ当然の事と言えるだろう。


「二点目ですが、それと並行してお二人に課題を出させて頂きます」


「課題?」


「まず、フェリス様。貴方には魔法の修行をおこなってもらいます。私の知り合いを紹介しますので、師事して下さい。」


「うっ……」


「え? フェリス様が魔法の修行? 必要あるのですか?」


 俺は驚いてしまった。確かオーモンド一族は強大な魔法使いで、彼女自身もかなり高位の使い手だと聞いていた。実際戦いに際しても、凄い強力な魔法をバンバン使っていたはずだ。そんな彼女が何故今更……。


「ほほう、フェリス様。彼から随分と高く評価されているのですね」


「うぅ……」


 何故だろう? フェリス様は冷や汗を流してうめき声しか出さない。


「あなたの疑問に思う気持ちは解ります。確かに彼女は優れた魔法使いです。その魔力は強大で、セドリック様に次ぐレベルであると思います」


 フェリス様は無言で俯いている。


「ですが、残念な事に彼女はその強大な魔力を上手く調節する事が出来ないのです」


「出来ていないのですか? 正直とてもそんな風には見えないのですが。戦いの際に使った光の槍などは小さく作られていたし、アベル様のご遺体を包んだ氷も十分な大きさだったかと思うのですが?」


「うっ……」


 俺の言葉を聞いて、何故か唸るフェリス様。

 俺の認識の何処が間違っているのだろうか?


「高志。貴方はフェリス様に騙されているのですよ。いえ、貴方だけではありません。多くの人が騙されています」


「うっ……」


 フェリス様がどんどん小さくなる。


「基本、魔法の威力は込める魔力の量で決まります。魔力が多ければ威力や大きさも大きくなりますし、少なければその逆となります。普通であればですが」


「フェリス様は大きくしたり小さくしたり、していたように思うんですが?」


「ええ、見た目はそうですね。でも、魔力の量は変わっていないのですよ」


 えっ? それって……。


「フェリス様は、魔力量の調整がうまく出来ないので、超力技で魔力を圧縮して小さく見せているだけなのです」


「それって、見た目は小さくても威力はとんでもないって事ですか?」


「ええ、正しくその通りです。小さく見えても、彼女の光の槍はあらゆる魔法障壁を貫通し、どんな相手も一撃で瞬殺です」


 なにそれ? 蠅を殺すのに超小型の核爆弾を使うようなものか。


「ちなみに、アベルの遺体を包んだ氷ですが、込められた魔力の量が多すぎて殆ど溶けず、氷ごと棺に入れられました……」


 死者の冒涜だな……。


「今までは、貴方が面倒だと嫌がるので無理に修行させようとは思いませんでした。ですが、冒険者になる以上、魔力の細かな調整は必須能力です。生かして捉えなければならない相手を即死させるような魔法は必要ありません。洞窟や遺跡を破壊して生き埋めになるのも御免です」


「はい……」


 フェリス様は下を向いたまま小さく返事をする。

 反論が全くない事から、本人も自覚はあったのだろう。


「だいたい、魔力の圧縮のほうがずっと高レベルの技術なんですよ。なんでそれが出来るのに、簡単な調節が出来ないのですか?」


「うっ……」


「明日、講師を紹介します。彼女は魔力の調整に関してはトップクラスの腕を持っています。素直に教えを乞い、必ず魔力調整が出来るようになるように。いいですね?」


「はい……」


 その返事を聞くと、エリーゼ様は俺の方を向く。


「次に高志。貴方の事ですが、貴方には今後武器の扱い方を覚えてもらいます」


 言われたら当然の事だ。少数になるのだから、俺も攻撃手段を持たなくてはならない。


「昔と比べれば、貴方は十分に体力も精神力もついています。ですから、明日から私が貴方に技術を教えます。いいですね?」


「はい、むしろ此方からお願いしたい事です。よろしくお願いします」


「良い返事です。何処かの威力バカ娘に聞かせたいですね」


「うっ……」


 うーむ、今日のエリーゼ様、半端なく厳しい。

 だが、確かにこれからは今まで以上に死と隣り合わせの危険があるのだ。

 厳しくなるのも仕方ないのかもしれないな。

 寧ろ優しさかもしれない。


「聞いているのですか? 貴方の事を言っているのですよ。解っているのですか?」


「はい、すみません……」


 きっと優しさのはずだ……。


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