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第二話:ドナドナ

 牢屋の前を下着姿の奴隷が通る。

 今回は薄汚れているが若く可愛らしい少女の奴隷だ。

 久しぶりの目の保養だ。

 

 屑だな、俺。

 

 若干自己嫌悪になるが、仕方がない。少しでも楽しみを見つけなければ生きるのが辛くなる。

 今の自分に出来る事は、食事、排泄、睡眠、エロ……。

 何故だろう、以前より出来る事は増えたのに、レベルが下がった気がする……。


 周囲の顔ぶれも大分変った。隣にいた獣人も数日前に買い手が付き、今は空室となっている。

 簡単な単語をいくつか覚える事が出来た事と、ボディーランゲージでコミュニケーションをとれるようになったやさきだったので辛かった。

 初めの内は相手にされず、ずっと暗い顔をして下を向いていたが、何度も話しかける内に相手をしてくれるようになった。

 表情や目線、身振り手振りなどで言葉無しでもある程度意思の疎通は出来るものだ。


 そんな事を考えていると、奴隷商人と守衛が牢内に入ってきた。

 何事かと思っていると、奴隷商人が俺を指さし、守衛が近づいてくる。

 そして俺の首輪の鎖を壁から外し強く引っ張り、何事かを言っている。

 外に出ろと言っているのだろう。

 俺は立ち上がろうとして、足が震えている事に気づいた。

 なかなか立ち上がらない俺に苛立ち殴りかかろうとする守衛を奴隷商人が止めた。守衛に対して何か怒鳴り散らしている。

 商品に傷をつけるな、という事だろう。

 

 正直ホッとした。

 

 こんな劣悪な環境では小さな傷一つが死に繋がる。

 実際俺の周りでも数人の奴隷が病気で死んでいったのをこの目で見ているのだ。

 

 震える足に力を入れ、なんとか歩き出す。

  

 この震えは恐怖だけでは無い。

 考えてみれば、ここに来てからずっと鎖に繋がれて座らされていたのだ。

 俺は思った以上に疲弊している事に気付く。


 弱った足腰に力を込める。

 

 牢の外へ出る事が出来る。久しぶりに陽の光が見れるんだ。

 そう考えれば力が湧いてくる。


 薄暗い廊下を歩き階段を上ると円形の広場に出た。

 天井は無く、照りつける太陽の光が眩しくて思わず目を閉じた。

 何日ぶりかの陽の光の気持ちよさに涙が出そうになった。


 広場の端に連れて行かれると、俺はそこで大量の水と石鹸のような粉をぶっ掛けられ、体中をブラシのようなもので擦られた。

 雑な扱いだが、洗ってもらえるだけ有難い。ここに来てから風呂はおろかシャワーも浴びていないので、体中が痒くて仕方なかったのだ。


 洗い終わり、またそこから首輪を引かれて歩き出す。

 すると視線の先に人だかりが見えてきた。

 土の広場に大勢の人が集まり、その視線の先に木製の舞台があり、司会風の男と俺のような奴隷が立っているのだ。

 

 なるほど、俺はオークションにかけられるのか……。


 しばらくして俺の前の奴隷が売れると、俺は首輪を引かれて舞台の上に立たされた。

 司会が何かを話すと、客が手を挙げて何かを言っている。


 俺の値段を言っているんだろう……。


 今手を挙げている客はデブのおっさんだ。横にはデブの持ち物であろう奴隷が立っている……、んだが……。

 なんか、目隠しされて、猿轡されて、体中に杭が刺さってるんですけど……。


 ちょっとまってくれ、あんなのに買われたら俺の人生が終わる。


 杭を刺される自分を想像して震えていると別の客が手を挙げた。

 今度の客は四十歳後半ぐらいの赤いドレスを着た女だ。見た目は普通なん……、だが……。

 目隠しされて、猿轡されて、下着姿で四つん這いの奴隷の上に座ってるんですけど……。

 しかもあの奴隷、半笑いしてるし……。


 ちょっとまってくれ、あんなのに買われたら俺の人生観が終わる。


 M奴隷になって半笑いする自分を想像して泣きそうになっていると新たな客が手を挙げた。

 次の客は筋肉ムキムキの同年ぐらいの男だった。見た目は普通で奴隷も連れていないん……、だが……。

 何故だろう、鳥肌が立っている。

 目が合うと怪しい笑顔を向けてきた。その笑顔を見ていると尻の穴がむず痒くなり、うほっという幻聴が聞こえてくる。


 ちょっとまってくれ、あんなのに買われたら男の人生が終わる。


 あーっと言っている自分を想像して吐きそうになっているとさらなる客が手を挙げた。

 その客を見て俺は今までとは別の意味で驚いた。

 長く美しい黒髪をした十歳後半から二十歳前半ぐらいの美女が手を挙げていた。

 小柄な体形で凹凸はあまりないが、スレンダーなモデルのようなスタイルが清楚な魅力を醸し出している。

 一目見ただけで、彼女が只者ではない事が俺にもわかった。

 周囲には護衛らしき兵士が立っているし、本人からも周囲の人間には感じられない気品や風格のような物を感じるのだ。

 何よりも、場違い感が半端ない。

  

 俺は不思議に思い、彼女をジッと見つめているとその美しい青い瞳と目が合ってしまった。

 長い睫毛に勝気そうな瞳。男なら誰もがドキッとしてしまうだろう。

 すると彼女は俺に向かって怪しい笑顔を向けてきたのだ。

 

 俺の血の気が一気に引いていくのが自分でもわかった。

 これはわからない事への不安と恐怖だ。


 何故あんな美女が俺を買うのか?

 何故あんな美女が俺に笑顔を向けるのか?


「俺に惚れたな」


 などと都合のいい考えが出来るほど楽天的でもなければ自信家でもない。

 体つきも容姿も普通の俺は奴隷としてそれほど価値があるとは思えない。

 まして俺は言葉がしゃべれない。

 あんな美女が俺を買う目的がさっぱり解らない……。


 その後もこの4人は手を挙げ続けた。

 うほっが降り、S女が降り、デブが降りて買い手が決まった。


 俺の飼い主はあの美女に決まった。

 何故だろう、本来なら喜ぶべき事のはずなのに俺は震えていた。


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