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第二十八話:最強の父再び

「準備をしなくてはな」


「準備? はて、主様、何の準備で御座いましょう?」


「決まっておるだろう、結婚式の準備だ」


「……何方の……、で御座いましょう……」


「ええい、フェリスに決まっておろうが!」


 私は強い口調でそう言う。いつも察しがよいセバスが何故こうも……。

 エリーゼから報告を聞いた。

 フェリスがあの奴隷に対し゛あの言葉゛を言ったと。

 魔人討伐以降、フェリスは元の明るいフェリスに戻った。

 一時期は、姉のようになるかと心配したがあの奴隷がどうやら救ってくれたようだ。


「くくくっ、やはり私の考えは間違っていなかった。もはや何の障害も無い、一刻も早く式を挙げるのだ!」


 力強く宣言する。


「恐れながら……」


「なんだ?」


「お喜びの所大変申し訳御座いませんが……」


 セバスが反対する。

 

 何故だ。

 すでに障害は無い。何を戸惑う必要があると言うのだ。


「実は、姫様が回復なされてから今日までご様子を窺っておりましたが……」


 セバスの声がどんどん小さくなる。


「姫様を見ておりますと……どうも以前と゛まったく変わっていない゛ようで……」


「変わっていない……だと?」


「はい、どうにも男女の関係という風には見えず……」


「そんな訳あるまい、報告ではフェリスはあの男に対しあの言葉を言ったと。明らかに血が発動しておるはずだ! 出なければ……、あの変貌ぶりが説明つかぬではないか」


 私は声を荒げる。


「ですが……、私の見た所ではどうにも……」


「では、何故? 血は発動していないという事か? あの子は未だ過去に囚われていると……」


 声が小さくなる。

 何も変わっていないと言うのか……。

 娘は未だ救われていないと……。


「いえ、それは無いかと」


「ではどういう事だ、セバス」


「これは私の想像で御座いますが……」


 セバスが言い難そうに話し出す。


「フェリス様は、確かに血を発動されたかと思います。ですが……、それだけだったのではないかと……」


「どういう意味だ……それだけとは?」


「言葉通りの意味で御座います。オーモンドの血は、あの奴隷を伴侶として選んだかもしれませんが、フェリス様がそれに気づいておられないのではないかと……」


 セバスの言っている事がすぐには解らなかった。

 少し心を落ち着かせて考える。


「まさか、フェリスの中に愛や恋といった感情が未だ育っていないと言いたいのか……」


「はい……、恐らくフェリス様は自身の感情が何なのか、よく解っておられないのでは無いかと……」


「あの歳で……、まさか……、ありえんだろ……」


「はい、私もまさかとは思いましたが……。考えればフェリス様は七歳という幼い頃に血を発動されました。これは幸運だったのかもしれませんが、まだそういった感情が無かった為セレスティア様のようにはならなかったのかもしれません」


 ふむ、確かにあの時フェリスは姉のようにならなかった。

 なるほど、血は発動していても感情がなければ……、確かにあり得る話かもしれん……。


「そして、あの奴隷と何らかのきっかけ、恐らく恋を意識した時に血の呪いにより変貌されたと思われますが……」


 なるほど、確かに辻褄は合う。


「だがそれがどうした。恋を意識して変貌したのなら、今すでに呪いから解放されておるのだ。問題あるまい」


「……よくお考え下さい……。フェリス様は七歳以降最近になるまで呪いが発動しなかったのです。それはつまり……」


 セバスの言葉に嫌な予感がよぎる……。


「フェリス様は七歳以降今日近くまで゛恋をした事が無い゛という事です……」


「つまり……、娘の恋愛感情は七歳で止まっていたと言いたいのか……」


「はい……、恐らくですが……」


「バカな! 確かにフェリスはそういった方面ではかなり鈍い所があるが、まさかそんな事が……」


 信じたくない……。だが、思い当たる節が……。


「もしかしたら、それも血の発動が原因なのかもしれませんが……。ですから、今あの二人をくっつけようとしても無駄かと……。フェリス様の恋心は七歳児ぐらいと考えられた方が宜しいかと……」


「ではどうすればよいのだ?」


「暫らく、フェリス様のお心の成長を見守るしか無いかと……」


 時間が解決するとセバスは言う。


「いかん……、いかん、いかん、いかん!」


 私は大声で否定する。

 そんな訳には行かない。

 何故なら、オーモンドの血にはもう一つやっかいな呪いがあるのだ。

 それは……。


「時間などかけて、もしフェリスが゛振られたら゛如何するんだ!!! 」


 私は大声で叫んだ。

 そう、もう一つの呪い。

 それは、伴侶を選んだからといって、その伴侶から選ばれるとは限らない事だ。

 オーモンドの歴史で、幸いと言っていいか解らないが振られた者はいない。

 だが、それは歴代の者たちの努力の成果であって、選んだ伴侶と必ず結ばれるという保障は無いのだ。


「私など……。私など……。妻と結ばれる為にどれ程苦労した事か……」


 私の血が選んだ女は……、男に興味が無い女だった……。

 下手をすれば、私がオーモンド史上初の゛選ばれなかった者゛になる可能性が高かったのだ。

 だが! 私はその悪夢を回避した。

 愛を得る為に、あらゆるものを犠牲にして……。


「私は……、領民から土下座伯爵と言われる事も、領民の子供たちからパンツのおじちゃんと言われる事もすべて受け入れて妻を手に入れたのだ!!」


「ご立派です、主様……」


 セバスが涙ぐむ。


「形振りなど構っていられん。血が選んだ以上、最早後戻りは出来んのだ!」


「お気持ちは解ります、主様のご苦労……、私も傍で見ておりましたから……」


「もし……、フェリスが振られでもしたら……」


 私は想像する。


 ケース1……別の女を好きになった場合……


「あれが、あの女のハウスね……」


 フェリスが物陰から様子を窺っている。

 暫らくすると、女が帰ってくる。

 そう、憎い女。私から大切な男を奪った憎い女が……。


「ふふふ、あの雌豚……。彼は騙されているのよ……」


 フェリスが笑う。

 その笑顔は、酷く冷たい……。


「でも大丈夫、今私が助けてあげる。あの女がいなくなれば……。彼は帰ってくる……。私の所に……」


 フェリスは魔法の詠唱を始める。


「うふふふっ、安心していいのよ……。確かに貴方は彼を騙した悪い女……。でも、私は優しいから……。苦しめたりしないわ……。楽に、楽に殺してあげる……」


 フェリスは自身の持つ最大の魔法を放つ。

 女は家ごと塵となった。


「ふふふ、これで……、彼は私の物……。うふふふっ、あーっははははぁ……」


 フェリスは狂ったように笑い続けた……。


「いかん! いかんぞフェリスちゃん、罪もない人を殺してはいかーーーん!」


「落ち着いて下さい、主様。フェリス様のご性格からそれは無いかと……」


 セバスが止める。

 ……確かに、可能性は低いかもしれんが……。

 ならば……。


 ケース2……男に求婚を受け入れてもらえない場合……


「これっぽっちの金しか用意できてないだとぉ!」


 バシーン!


 男の平手打ちの音が辺りに響く。

 殴られたフェリスが床に倒れこむ。


「ご、ごめんなさい。ゆるして……」


 フェリスが涙ながらに許しを請う。


「てめぇ、こんなはした金で俺の心を買えると思ってるのか? あぁん……」


 男がフェリスの胸ぐらをつかむ。


「で、でも……、今の私にはそれが精一杯で……」


「うるせぇ、俺様に口答えする気か? あぁん……」


「ご、ごめんなさい。ゆるして、嫌いにならないで~」


 フェリスが男の足に縋る。

 男は足に縋るフェリスをうっとおしそうに蹴り飛ばすと、一枚の紙を投げ渡す。


「そこに行って客取って来い。それなりの金になる」


 男は冷たく言い放つ。


「そ、そんな……、私、貴方以外の人となんて……」


「うるせーんだよ、てめぇの体なんざぁもう飽きてんだよ。ぐだぐだ言わずに行けや!」


 男が後ろを向いて部屋を出て行こうとする。


「……いやよ……、貴方以外の人なんて……」


 フェリスが小さく呟く。


 ザシュッ!

 突如、フェリスが持っていた包丁で男の背中を刺したのだ。


「ぐはぁ! な、何しやがる……」


「……貴方と一緒になれないのなら……、貴方を殺して私も死ぬわ……」


「フェリス……、てめぇ……」


「ふふふ、これで……、貴方は私の物……。うふふふっ、あーっははははぁ……」


 フェリスは狂ったように笑い続けた……


「おのれぇー! あの屑め。今すぐ殺してやる」


「お待ちください、すべて主様のご想像です。彼は無実です。落ち着いて下さい」


 セバスが焦ったような声で私を止める。

 ……いかん、いかん、少し落ち着くか……。


「主様、少々想像力が逞し過ぎるかと……。その様な最低な結末に至る事は流石に無いかと思われますが」


「私とて二人を信じたい。だが……、万が一を考えると……」


 私は腕を組み考えこむ。


「セバス」


「はい」


「フェリスの心が成長するまで、あの奴隷を牢にぶち込むのはどうだ?」


「人としてどうかと思われますが……」


 ……だめか……。


「ならばセバス」


「はい」


「少し作戦を修正しよう。取り敢えずあの奴隷を牢にぶち込む」


「……はい……」


「でだ、超強力な興奮剤を毎日飲ませ続ける」


「…………」


「そして、奴が女なら誰でも襲う状態にして、そこにフェリスちゃんを同じ牢にぶち込む」


「…………」


「フェリスちゃんの魔法は私が全力で封じる。なぁに、魔法さえなければ所詮はただの小娘、簡単に襲えるだろう」


「…………」


「どうだ?」


「親としてどうかと思われますが……」


 ……だめか……。


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