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第二十四話:下位魔人との戦い

「アポピスだろうな、恐らくだが」


 モリスが言う。


「アポピス……たしか下位魔人で人型に蝙蝠の羽が生えたやつだったな?」


 俺は書物で見たアポピスの説明書きを思い出す。


「ああ、攻撃方法や見た目の特徴からまず間違いないだろうな」


「僕、アポピスと戦うの初めてです……」


 ジンの言葉に俺も頷く。


「十分注意すれば対処出来るさ。気を付ける事は、まず遠距離からの魔弾による不意打ちと、近接戦の魔力剣だ。特に魔力剣は注意が必要だ。腕全体を魔力で覆って刃とするんだが、身体能力が獣並みに素早いから、油断するとバッサリやられる。注意しろよ」


「確か魔獣を統率してるんだろ?」


「ああ、そいつも注意が必要だな。情報だと小鬼族と豚鬼族らしい。恐らくゴブリンとオークだろうな。もしかしたら上位種も混じってるかもしれないから注意しろよ。下位なら雑魚だが、上位になると特殊能力持ちが多いからな」


 ゴブリンは小人のような体格で、些末な武器で武装している魔獣というより魔物だ。オークは人と同じぐらいの体格で、同じく武装している。豚のような顔が特徴の魔物だ。


「どちらにしろ、今までの獣系の魔獣とは強さが少し違うから注意しろ。単体では弱いが、奴らは統率された軍隊のような所がある。多少の知恵もあるから気を付けろよ」


「魔法を使う敵か……、俺初めてだな……」


「なに、アポピスの魔法は詠唱時間が長い。魔弾の不意打ちを注意して、魔法剣を使い出したらそれに集中したらいい。あいつらはどちらか片方しか使えねぇからな。逆に接近戦で魔法剣を使わなければ魔弾に注意しろ。まあ、魔弾はそんなに威力がないから、直撃したとしても死ぬ事はまず無いが、魔力剣は注意しろよ。当たり所によりゃあ即死だからな」


 そんな話をしている内に、俺たちは襲われた村に到着した。


「ひでぇな……」


 カインが辺りを見回しながら言う。

 家畜は荒らされ、家もかなりの数が破壊されている。

 聞けば、家畜だけでなく、村人も何人かさらわれているらしい……

 可哀想だが……、生きてはいないだろう。ゴブリンやオークは……、人も食料とする……。

 怪我人も多数いるみたいだが、小さな村なので治癒魔法使いなどいる訳もなく満足な治療もされていない。

 アベル様が治療を願い出たが却下される。

 今は敵を倒す方が先決だ。余分な魔力を使う訳には行かない。

 治癒魔法の使い手は全体的に少ない。

 本来ならもっと多く連れてきたかったらしいが、現在城にいた使い手はアベル様一人だった。

 別の魔物討伐に向かっていた一番近くの部隊に、終わり次第来るように連絡しているらしいが、到着までに早くても一日はかかるそうだ。


 村で小休止していると、遠くに騎士達と打ち合わせをしているフェリス様とエリーゼ様が見えた。

 相変わらず元気がなく、俺たちと会話をする事も無い。少し痩せたようにも見える。

 考えてもしょうがない、今は戦いに集中しよう。


 小休止後、俺たちは追跡の為に森に入る。

 敵は大人数なので、その足跡を追えばすぐに見つける事が出来るだろう。

 しばらくして、あっけないほど簡単に敵を見つけた。

 森の中、生い茂る草木の合間にゴブリンやオークそしてアポピスの姿までが見える。


 俺たちはすぐさま陣形を作る。


「高志、アポピスは任せた」


 モリスの言葉に俺は頷く。

 折角見えているのだ、見失い奇襲させる訳には行かない。

 俺はアポピスの前に躍り出る。

 二匹のゴブリンが俺の邪魔をする。アポピスの詠唱時間を稼ぐつもりだろう。


「くっ……」


 こういう時、攻撃手段が無いのはつらい。

 俺に出来るのは邪魔なゴブリンを相手にしながら、アポピスを見失わないようにマークするだけだ。

 後方からの援護とモリス達の攻撃もあるが、なにせ数が多い。

 上位種もいるらしく、やっかいだ。

 とにかく連携だ。

 俺は孤立しないように注意しながらも、敵を引き付ける。

 魔力剣の詠唱が終わったアポピスも攻撃に加わってくる。


 ガシッ、ギャリィン!


 敵の攻撃を盾で弾く。アポピスは確かに動きが素早いが


「エリーゼ様程じゃない、こちとらあの人の剣でどんだけ殴られてると思うんだ!!」


 俺は叫ぶ。

 戦況は若干の膠着状態。敵の数に加え障害物も多いので、手間取っている。

 そんな中、俺はアポピスを相手にしながら、違和感を感じていた。


 こいつ……、防御ばかりしている気がする……。


 アポピスは確かに俺に対し何度か攻撃をしてくる。だが、どちらかと言うと後方からの騎士達の魔法や兵士の弓をさばく事を優先しているようだ。

 確かに、自身を守るのは大事だが、時間を掛ければ不利になるのはこいつらだ。

 それが解らないほど知能が低いのか?

 そんな奴が魔物を統率出来るのだろうか?

 そう考えて見渡せば、ゴブリンやオーク達も積極的攻勢に出ていない気がする。

 どちらかといえば……。

 時間稼ぎ、だが何故……!!!


「注意しろ!!! こいつら囮かもしれない」


 俺は敵から距離を取ると、後方部隊に大声で叫んだ。

 それと同時だった。

 もう一体のアポピスが後方の死角から一人の騎士に襲い掛かったのだ。

 完全な奇襲に騎士はなすすべなく切り裂かれる。


「アベルーーーー!!」


 ロベルト様の叫び声が聞こえた。

 切られたのは……、アベル様なのか……?


 アベル様を切り裂いたアポピスがそのまま今度はフェリス様に切りかかる。

 だが、その刃がフェリス様に届く寸前でエリーゼ様の剣がアポピスを一閃した。


 それを見たもう一匹のアポピスは逃げ出し、オークやコボルト達もそれに続いて逃げて行った。

……や、やられた……。あいつらは、俺たちを待ち伏せていやがったんだ……。


 アベル様の亡骸の前でロベルト様が泣いている……。

 俺も、涙が止まらない。


「そういえば……、お前さん。戦死者を見るのは初めてだったな……」


 そう、俺の周囲では今まで誰一人死んだ事がなかったのだ。


「よく覚えとけよ。これが……、戦場だ……」


 モリスの言葉が重く圧し掛かる。

 とても優しい人だった……。

 とても強力な治癒魔法の使い手で、何度も助けられた……。


 フェリス様がアベル様の手を握っている。


「アベル……」


 フェリス様が小さく名前を呟き、アベル様の死を悼んでいる。

……よかった。たとえ様子がおかしくても、フェリス様の根底は変わらず優しいままだ。

 フェリス様が魔法を使い、アベル様の亡骸を氷漬けにする。


「彼の遺体は帰りに回収します。我々は引き続き敵を追います」


 フェリス様が立ち上がりそう告げる。


「お待ちください」


 エリーゼ様がその発言に待ったを掛ける。

 当然だ、俺たちは唯一の回復魔法の使い手を失ったのだ。

 幸い、先ほどの戦闘で負傷者は八名出たが、重傷者はいなかった。

 負傷も応急処置と魔法薬により手当が終わり、戦力低下は殆どしていない。

 だが、回復役無しでこのまま敵を追いかけるのは危険だ。

 次の戦闘で重傷者が出ないとは限らないのだ。


「あなたの懸念は解りますが、引き返す訳には行きません。今なら、あいつに掛けているサーチ魔法で居場所が解りますが、時間をおけばサーチが解けます。そうなれば、新たな被害が出る恐れがあります」


 フェリス様がはっきりと言う。


「ですが……」


 他の騎士が反対しようとした時


「それに、あいつを逃がせばアベルの仇を打つ事が出来なくなります」


 フェリス様のその一言で全員の決意が固まった。

 皆、アベル様には世話になった奴ばかりだ。

 特にロベルト様は、その一言を聞いて泣くのをやめ、その目には闘志が宿っている。


 変わっていない。フェリス様の優しい所、気高い所……。

 フェリス様はフェリス様だ。

 俺はそんなフェリス様の姿を見て心が熱くなった。


 引き続き俺たちは敵の追跡を続ける。


「やられたな……。あいつらが複数いるなんて今までなかった事だ。」


 モリスが言う。


「そうなのか?」


 俺は前例を知らなかったから、敵の違和感に気づけたのかもしれない。

 だが、何故もっと早く気付かなかったのか。

 あと少し早く気付けば、アベル様は……。


「あまり贅沢な事考えるなよ、お前さんが気づいたからこそ損害が少なくて済んだんだ」


「そうだな、俺は目の前の戦闘の事しか頭になかったから、言われるまで気づかなかったよ……」


「僕もだよ。ゴブリンやオークの数が多くて、相手をするので精一杯だったから……」


「お前らだけじゃないさ。情報より数が多かった、それに上位種も結構混じってた。この人数では少し戦力不足だよ、実際……」


「あとどれくらい数が残ってるかな?」


「そうだな、そんなに多くは残っていないはずだ。さっきの戦闘でかなり減らしたからな。だから警戒するのはむしろ数より奇襲だな」


 成程、だから今俺たちは密集体形で進んでいるのか。

 サーチ魔法でアポピスの位置は解っているとはいえ、他の魔物達まで解っている訳では無い。

 この体形なら何処から襲われても複数で対処出来るし、魔法詠唱も準備出来ておりいつでも発動可能だ。


「近いぞ、全員注意しろ!」


 サーチを使っている騎士が叫ぶ。

 と、木の上の暗闇から魔弾が撃ち込まれる。

 エリーゼ様が剣で魔弾を払い落とすと、そこからアポピスが飛び出し魔力剣で切りかかってくる。

 同時に周囲からもゴブリンやオーク共が一斉に襲い掛かってきた。


「障壁よ! 敵を吹き飛ばせ!」


 フェリス様の魔法が発動し、襲い掛かってきた敵を全員後方に吹き飛ばす。


「今だ! 全員かかれ!」


 エリーゼ様の号令で全員が敵に攻撃を仕掛ける。

 俺は先ほど同様アポピスを相手する。


 敵の初手を封じた事で、ほぼこちらの勝ちは決まった。

 悪あがきしていたアポピスもロベルト様の風魔法で切り刻まれた後、エリーゼ様の剣で止めを刺された。

 後は周囲の雑魚の掃討を残すのみだ。


 アベル様、仇……、とったよ……。


 恐らく皆がそう思っただろう。

 その時、ふと俺は強烈な違和感を感じる。

 なんだ……?この違和感……。

 俺は違和感の正体を必死に考える……。

 盾の魔法で心がどんどんクリアーになる。周りの雑音も消える。

 俺の時が止まったように感じる……。

 考える。

 何かおかしい。

 考えろ。

 この違和感は危険だ。


 ハッ!! と気づく。

 アポピスは……。どうやって……。


 ゛魔弾と魔力剣を同時に発動した!゛


 奴は二重詠唱など出来ない、ならば……。


 俺は迷わず走り出す。

 狙われるのは決まっている。

 奴は、この集団の弱点を狙ってきた。

 最初は回復役のアベル様。

 そして次に狙ったのは


「フェリス様ぁぁぁぁ!!!」


 俺は走る。

 走るのに邪魔な盾を投げ捨てる。

 必死に走る。

 失ってしまう。

 彼女を。

 そんな事に。

 俺は。

 耐えれる訳がないだろぉぉぉ!!!


 見えた、アポピスだ。腕が魔力剣に覆われている。

 アポピスが木の上からフェリス様に襲い掛かった。

 フェリス様が、俺の叫びと襲いくるアポピスに気づくが対処出来ない。

 他の者たちも気づいたが対処出来ない。


 グシャッッ!!!


 俺は寸前でフェリス様の前に立ちはだかる事が出来た。

 アポピスの腕が俺の腹を貫く。


 激痛が俺の体を駆け抜ける。

 だがまだだ。まだ終わっていない。

 俺は体に力を込めて、両手でアポピスの腕を捕まえて逃げられないようにする。

 腕を抜く事が出来ないアポピスは、すぐさま俺を切り裂こうと空いてるもう片方の腕を振り上げる。


 ザシュッ!


 ギリギリの所でエリーゼ様の剣が振り上げた腕ごとアポピスの頭を切り落とした。


「……、高志……?」


 フェリス様が俺の後ろで小さく呟く。

 よかった……。彼女に怪我は無いようだ……。


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