第二十三話:騎士の憂鬱
……はぁ……。
私は溜息をつく。
姫様の状態は相変わらずだ。
日々の生活から戦闘まで、あの方は問題なくこなしている。
だが、会話は必要最低限、表情は変わらず、行動も仕事以外の時は自室に籠っている。
見ていて辛い、まるで別人のようだ。
セドリック様からは、普段通りに扱うよう指示されている。
あの方は何か心当たりがあるような、そんな感じがしたが何も教えては下さらなかった。
ただ一言、巡回など外に出る時は優先的に高志を連れて行くよう命じられた。
「あの男に過度な期待をするのも気の毒だが……。今の所、それ以外にすがる事が出来んのだ……」
セドリック様の悲しげな呟きを思い出す。
明日、魔獣討伐に向かう。
姫様と私、そして腕利きの騎士数名と3小隊の兵を連れて。
いつもの巡回では無い。
報告から、脅威度が高い。
下位魔人が絡んでいる可能性があるのだ。
下位魔人、魔人族の中では弱小の部類。
知能は低いが、やっかいなのが魔法を使う事と、魔獣をある程度統率する事だ。
先日、そいつが三十程の魔獣を引きつれて村を襲ったのだ。
早急に討伐しなければ被害が拡大する。
魔人族とは古の昔、互いに領土不干渉の契約を結んでいるのだが、下位魔人には それを理解するほどの知能が無い。
極稀にだが、人間を襲う事があるのだ。
……めんどくさい……。
私の正直な感想だ。
この国の事も、民の事もどうでもいいと思っている。
元々好きで騎士をやっている訳ではないのだから。
……はぁ……。
私はまた溜息をつく。
退屈だ……。
こんな毎日なら、もう騎士を辞めて冒険者へ戻ろうかとも考える。
私は元々冒険者だった。
自分でいうのもなんだが、高ランクの腕利き冒険者。
剣鬼エリーゼと言えば、結構有名だったのだ。
そのあだ名はあまり好きではないのですがね……。
剣鬼……、可愛くない。出来ればもっと可愛いあだ名が欲しかった……。
いっその事自分でつけるべきだったか?
それはそれで痛いか……。
ある時、偶然フェリス様と出会い、まあ、なんですか、騙されたというか、嵌められたというか……。
私はあの方の専属護衛騎士として雇われたのだ。
いつの間にか筆頭騎士も押し付けられたのだが。
まあ、今日までそれなりに楽しんできたので後悔は無い。
……だが、ここ最近は……。
フェリス様を見ている事が辛い。
何も出来ない自分が辛い。
……はぁ……。
また溜息。
……今更、彼女を見捨てるなんて出来る訳がないんですがね……。
私が冒険者に戻る時は、彼女も共に……。それが私たちの約束だ。
そうですね、取り敢えず彼をからかって遊ぶ事にしますか。
少しは気が紛れるでしょう。
私は訓練場に向かう事にする。




