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第十七話:血の呪い

「何故邪魔をした、セバス」


 フェリスを見送った後、私はセバスを問いただす。


「恐れながら、焦りは禁物かと……」


「フェリスが男に興味を持ったのだぞ、これが焦らずにいられるか!」


「なればこそです、主様。フェリス様とセレスティア様とでは状況が違います。フェリス様が必ずしも゛セレスティア様と同じようになる゛とは限りません。また、フェリス様のご性格からあまりやり過ぎると折角のご興味を失ってしまう可能性も御座います。今はあまり騒がず見守られる方が宜しいかと」


 くっ……


 私はセバスの言葉に悔しさを滲ませながらも同意する……。


 私は自分の手を見つめ、


「オーモンドの血……。薄汚い呪われた血だ……。吐き気がする!」


 と吐き捨てる。


「主様……」


 オーモンド一族は自身で伴侶を決め、そして生まれた子供は必ず強大な力をもって生まれる。

 私は彼にそう説明した。それは嘘ではない。ただし、正確でもない。

 正確には、強い子が作れる者しか伴侶に出来ないのだ。しかも、生涯たった一人しか愛せない。

 初代当主から今代まで、我らが側室や妾を持たないのは、たった一人の伴侶しか愛せないからだ。

 体が、心が、本能がそれを拒絶する。


「これが呪いでなくてなんだというのだ……」


「主様、何事も物事には良い側面と悪い側面があります。片方ばかりを見るのは如何なものかと……」


 セバスの言う事もわかる。だが……。


「セレスティア様はお気の毒で御座いました。オーモンドの血が悪い風に発動した例ではありましょう。ですが、フェリス様が同じようになるとはまだ決まっておりません。事実、フェリス様は今現在男性に興味をお持ちになっておられます」


 セレスティア・オーモンド、私の姉だった人だ。

 まだ、私が若く恋も知らなかった頃の事……。

 姉はよりにもよって、死を前にした病人に対して血を発動させた。

 その男は私たちの幼馴染で、いつも一緒にいた男だったが、それまで姉の血はその男に対して発動する事は無かった。

 オーモンドの血は何を切っ掛けに発動するか解らない。その兆候も解らない。

 ただ一つ言えるのは、興味を持った人間に対して発動するという事だ。

 強き子をなす可能性の無い人間には、そもそも興味を抱かない。


 姉にはその男以外にも仲良くしていた異性が何人かいた。

 だが、よりにもよって姉が、いや姉の血が選んだのは……。


 あの時、姉は死を前にした幼馴染の手を握り

 ゛この人を助けて、私の中でこの人を死なせないでと声がするの゛

 そう言って泣き叫んだのだ。

 幼馴染の男が死んだ後、姉は生きる屍のようになった。

 それまでは、明るく無邪気だった姉が人が変わったかのように暗く生きる興味事態を無くしてしまったのだ。

 そして誰も愛せないまま、フェリスが生まれた頃に息を引き取った。

 

 私は過去の文献を調べた。

 そして書庫の奥にあった数代前のご先祖様の手記を発見したのだ。

 手記にも、今回同様な出来事があったと記されており、最後のページにこの呪われた血の事に関する推測が書かれていたのだ。


「私は妻を愛している。妻以外の女には興味が無い。それがオーモンドの血のせいであってもそれは構わない。だが、何故相手が死した後も永遠に縛り付ける! 強い子を作りたいのなら、なぜ邪魔をする!」


 私は右手を思い切り壁に叩きつけた。


 あれは、フェリスが七歳の頃の事だ。

 乗馬の練習をする為に、フェリスを連れて遠乗りに出かけた。

 フェリスは何をやらせても器用にこなす子だったし、乗馬もかなりの腕前になっていたので私は油断していた。

 少し目を離した隙に、フェリスを乗せた馬が暴れ出し、事もあろうにフェリスを谷底に落としたのだ。

 そのときフェリスの傍に唯一いた奴隷兵士がすぐさま後を追い、谷底に飛び込んだ。

 下は急な流れの川となっており、二人は川下に流されて行った。

 我々はすぐさま川沿いを下って二人を捜索した。

 そしてかなり下った先の川岸で二人の姿を発見したのだ。

 奴隷兵士は、流された時に岩か何かにぶつかったのだろう、体のあちこちに大きな傷を負っており、すでに事切れていた。

 そしてフェリスはその奴隷兵士に縋り付き泣いていた。

 私が近づくとフェリスは、


 ゛この人を助けて、私の中でこの人を死なせないでと声がするの゛


 泣きながら、事もあろうに姉と同じ事を言ったのだ。


 今フェリスは普通の娘のように暮らしている。

 姉のようにはなっていない、だが……。


 ゛この人を助けて、私の中でこの人を死なせないでと声がするの゛


 あの子の呟いた、姉と同じ言葉が私に震えをもたらす。

 もし、あの時あの子の血が発動したのなら……。

 あの子はもう誰も愛する事が出来ないのだ。


 そして、私は決めたのだ。どの様な手を使ってでも、我が子の愛を必ず成就させると。


 アリシアはうまく行った。危機感を煽り、男の気持ちを伝えさせた事が成功の要因だろう。

 やり方に若干趣味が入り妻から説教されたが……、構うものか。


 血の呪い、その事を知るのは私とセバスのみ。

 知らない方がいい。

 例え、その為に私の思いを理解されなくても構わない。

 なにも知らせず、子供たちを幸せに導くのだ。


「私は諦めんぞ、セバス」


「それは宜しゅう御座います。では参りましょうか」


「ん? どこへ行くのだ?」


「もちろん奥様の所で御座います。フェリスさまのお手を煩わせるのもどうかと思いましたので、事前に奥様にご報告致しておりました。奥様より、一段落したら出頭するようにとのご伝言で御座います」


「セバスぅぅぅぅー、貴様裏切ったなぁぁぁぁー!」


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