第十四話:主催者の思惑
「なによ……、一言くらい褒めていきなさいよ。気が利かない奴……」
私は去っていく高志達に笑顔で手を振りながらポツリと呟く。
「まったくです、せっかくフェリス様が胸に普段の三割増しの詰め物をして、フェリス様的にはかなり攻めたドレス姿を披露しているというのにスルーとは、もしや゛三割増し程度゛では足りなかったのでは?」
エリーゼが私の背後に立つ。
「おだまり、大体なによその恰好。せっかくのパーティーなのに普段と同じ格好とか……。あなたも普段の五割増しぐらいで着飾りなさいよ」
私はエリーゼに言い返す。なんでバレたんだろう……。かなり上手く盛ったつもりだったのに……。
「ええ、私もそうしたかったのですが、どなたかが、無理やりパーティーを開催して無駄な仕事が増えたのに人員はパーティーにとられて減ってしまい、結果として私の仕事が増えてしまったので、すこし顔を出したらまた仕事に戻るつもりなのです」
うっ……。
「本当は私も゛五割増し゛で着飾りたかったんですがねぇ、忙しくてそれも出来ず、つい皮肉の一言も言いたくなるのも仕方のない事かと……」
「ごめん、エリーゼ。この借りは必ず返すから許して」
私は素直に謝る。思いつきで始めたパーティーなので、何人かに貧乏くじを引かせたのは正直悪かったと反省している。
「しかし、彼は平然としてますね。明らかに場慣れしている」
エリーゼが高志を見ながらそう言った。
そう、このパーティーを思いついたのはあいつの反応を見てみたかったのだ。
モリスの後ろで震えていた二人、あの反応が普通だ。
モリスは解る。あいつは゛奴隷ではない゛。モリスは貧乏貴族の三男坊で、借金返済の為に危険を覚悟の上で奴隷を監視する役目を引き受けているのだ。
無論、モリス以外にも何人かの監視者が奴隷兵士として潜り込んでいる。
ではあの男は何なのだ?
あいつからは貴族の雰囲気は感じられない。このパーティーでの立ち居振る舞いを見てもそれは断言できる。
平民であるはずもない。
滅びた国の王族?
それとも、私の知らない遠い国の人間?
あいつは、誰も知らない事を口にする事がある。
あいつは、誰もが知ってる事を知らない事がある。
記憶喪失? ふざけるな、そんな嘘で騙されるものか。
「あーん、もう。どんどん解んなくなる。なによあいつ……」
私は手櫛で髪を撫でながらぼやく。
「もう本人に直接聞いてみてはどうですか?」
エリーゼが言う。確かにそれが一番手っ取り早いが……。
「あいつ、素直に答えるかしら?」
記憶喪失だなどと誤魔化しているのだ。直接聞いた所で正直に話すかどうか解らない。
なにより、なんだか負けた気がするので悔しい。
「もし宜しければ、私が直接聞き出しますが?」
「あら? どうやって? 拷問でもするの?」
ふと、いやらしい格好であいつを拷問するエリーゼの姿を想像する。
「そんな趣味があるなんて意外だわ、エリーゼ。その時は私も見学させてもらおうかしら」
私は目を細めてからかう。
「拷問などと、そんな無粋な方法を取らなくても他にもっと良い方法がありますよ? 彼は男性なのですから」
「どんな方法?」
私が首を傾げると、エリーゼは私の耳元に顔を近づけ
「殿方は、ベッドの中ではおしゃべりになるのですよ、フェリス様。お望みなら見学して頂いても構いませんが」
と色っぽい声で囁く。
「なっ!」
私の顔が真っ赤になる。
悔しいが、この手のやり取りで私はエリーゼに勝った事がないのだ。
「うぅぅぅっ……」
やり込められた悔しさに思わず唸ってしまう。
「な、なによ。経験なんて殆ど無いくせに。口だけは立派なんだから」
「おやおや、フェリス様。確かに私はあまり経験が御座いませんが、0と1では天と地ほどの差があるのですよ?」
「ええ、知ってるわよ。0と1では0の方が圧倒的に価値がある事もね」
ふふふふっ……。お互いに顔を見合わせ笑いあう。
これ以上戦っても勝ち目がなさそうなので、私は話を戻す事にする。
「エリーゼの提案は却下。理由はそのやり方を私が気に食わないから」
私は努めて平静にそう言い、エリーゼは笑いながら畏まりましたと返答する。
「とりあえず、あいつを売ったやつを探し出して。何処でどのような状況で彼を手に入れたのかを調べあげて」
エリーゼが一礼して会場を去っていく。
ストレス発散にここに来て、ストレス解消したから帰っていくのね……。
今回はと言うか……、今回も私がストレスの原因なのだから、甘んじて敗北を受け止めよう。
だが、次は私が勝つ!
エリーゼの顔を羞恥で真っ赤に染めてやるんだから。




