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第十三話:豪華な夕食

 なんで……、こうなった……。


 俺は自問する。

 ここは城の大広間。

 城に戻ったのち、俺たちは自室に戻り休憩をしていた。

 そろそろ晩飯の時間という頃、兵士に呼び出され連れて行かれたのがここだったのだ。

 大広間には、所狭しと多くの豪勢な料理が並べられ、給仕が忙しく動き回っている。

 そして、共に討伐に赴いた兵士や騎士はもとよりその他にも大勢の人間が集まり、立食形式の食事を楽しんでいる。

 俺、モリス、ジン、カインの四名は部屋の片隅に固まり、呆然と辺りを眺めていた。


 なんで……、こうなった……。


 もう一度自問する。

 あの時、俺はカインの、


「そうだよなぁ、せめてスープの具が増えるぐらい欲しいよなぁ」


 という言葉を思い出し、


「ではフェリス様、お言葉に甘えさせて頂きます」


「ええ、何かしら? 遠慮なく言いなさい」


「はい。では今日の俺たちの夕食を少し豪華にして頂けますか? 肉料理とかあると嬉しいですねぇ」


 俺はあの時そう言ったのだ。

 フェリス様は、それを聞いて少し考えると


「ふーん、お酒も付けてあげましょうか?」


「それは是非とも」


 俺は笑顔でそう言う。


「解ったわ、今晩を楽しみにしてなさい」


 そう言って鼻歌混じりに騎士達の所へ戻って行ったのだ。


 鼻歌混じり……。明らかに何か悪戯を思いついた態度……。

 そう、あの時気付くべきだった。そしてもっと具体的に要求するべきだった。


 豪華すぎるだろ……。

 確かに肉がある。何? あの肉。人間三人分ぐらいの大きさの塊が天井からぶら下がっている。それも複数……。

 酒もある、あり過ぎてどれだけあるか解らない。

 他にもなんか色々、これでもかっ! と言うぐらいに料理がある。

 関係各所にどんだけ無茶言っとんや……。

 一番気の毒なのは、料理人達だろう。短時間によく此処まで準備出来たなと感心してしまう。


「何よ、貴方たち。こんな隅っこにいないで楽しみなさいよ」


 諸悪の根源がワイングラス片手に近づいてくる。

 ジンとカインがモリスの背に隠れる。正しい対応だ。俺も真似したい……。

 だが、そう言う訳にもいかない。俺は溜息を一つつき、


「俺たちのような者には、少々居づらい場所なのですがねぇ……」


 と不満を言う。


「気にせず楽しみなさい。このパーティーの主役は貴方たちなのだから。参加している者達にもそれは伝えているわ。もし何か不愉快な思いをしたなら、私に言いなさい。それが誰であろうと厳罰を与えるから」


 フェリス様がハッキリとした口調で言う。

 なるほど、その辺りの気遣いは完璧という事か……。


「しかし、一緒に戦った人以外にもずいぶんと人がいるように見えますが?」


 明らかに兵士では無い者や貴婦人方も数多く見られる。


「気にしなくていいわ、大勢いる方がいいかと思って適当に集めただけだから。ちなみに、あそこでメイドのお尻を触ってビンタされているのは隣国の大使よ」


 大物じゃねぇか……。


「ふふっ、本当に気にしなくてもいいのよ。あのスケベじじいは父の友人でね。偶々この城に居たから、冗談で誘ったらよろこんで来ただけだから。他のもタダ酒飲みに集まってるような連中よ。小煩いのはここにはいないわ。あと、費用も私個人で出してるから」


 そこまでお膳立てをしてくれているのなら、遠慮する方が申し訳ないな。

 俺は少し考えると、


「解りました。そこまでして頂いているのなら遠慮なく楽しませて頂きます」


 笑顔でそう答える。

 悪戯心もあるだろうが、此処まで気遣ってくれているのならその気持ちは素直に嬉しく思える。


「で、でも……。僕、こんなとこ初めてでどうしたらいいのか解らないよぉ……」


 ジンが泣きそうな声で言い、カインもコクコクと首を縦に振っている。


「何も心配しなくていいさ。フェリス様のご好意で堅苦しい事は何も無いみたいだからな。まあ、なんだったら俺の真似をしとけ」


 モリスが二人の肩に両手を回して言う。


「行こうぜ、俺ゃもう腹減ってたまんねぇよ」


 モリスの言葉に俺も頷き、


「では、フェリス様のご好意ありがたく頂戴いたします」


 一礼して三人と共に会場へと向かう。

 後ろでフェリス様が笑顔で手を振ってくれる……。

 

 ああいう所は可愛ぃなぁ……。


 立食形式のパーティーだ、作法も特に気にする事が無いから楽でいい。俺は取り皿と飲み物を給仕から受け取る。

 しかし……、モリス手馴れてるな。

 この男は会場に着いた時から、普段と変わらぬ態度だ。今は浴びるほど酒を飲んで楽しんでいる。

 元貴族とかかも知れないな……。機会があれば聞いてみるか? 

 ……いや止めておこう。

 詮索はしない方がいい。いつか話してくれる事もあるだろう。


 ジンとカインも豪華な料理に最初はおどおどとしていたが、今は貪るように食べている。


 ジン……。泣きながら食べないで……、悲しくなるから……。


 とは言うものの、俺も見た事も無い豪華な異世界料理に感動しっぱなしだ。

 

 今度いつこんな豪華料理が食べられるか解らないんだ。俺も遠慮せずガンガン食べよう。


 俺はそう思い、手当たり次第食べ物を取り皿に乗せ食べ始める。


「よう、ちょっといいか?」


 そろそろ酒を中心に楽しもうかと思っていた時、後ろから二人の男が声をかけてきた。

 誰だろう? 

 振り向くと一人は見覚えがある。共に出陣した騎士の一人だ。もう一人も恐らく騎士だろう。


「俺はロベルト、お前さんにタダ酒の礼を言いたくてな」


「僕はアベル。君の戦い方を見せてもらったよ。盾兵……。正直疑問だったけど、見事な戦いぶりで驚いたよ」


 有難うございます。と俺は二人に頭を下げた。

 

 ロベルトと名乗った騎士は赤毛の長髪をした背の高い男だ。なんちゃらバサラで主役を張れそうな感じの色男だ


 アベルという騎士は薄い金色の短い毛をしたロベルトとは対照的に背の低い線の細い男だ。こちらは乙女ゲーとかで出てきそうな可愛い感じの男といった所か。

 

 第一印象で一つ言える事は、この二人が揃っているとその手の業界の方が大喜びするだろうと言う事かな。


 話しかけてきた二人から特に悪意は感じられない。フェリス様やエリーゼ様の事で騎士の人達からは嫌われていると思っていたが、この二人はそうでも無いのかもしれない。


「いやぁ。この酒、知ってるか? 俺の給料じゃぁ、ちょっと買えねぇ代物なんだぜ」


 ロベルト様はビンごとラッパ飲みしている。

 お前……、本当に騎士か?


「ロベルト、少し行儀が悪いよ」


 アベル様が窘める。この二人は友人、それも結構親しい間柄のようだ。


「かたい事言うなよアベル。フェリス様も無礼講だって言ってたろ? それに、奴隷が主役のパーティーなんだ。行儀云々言う方が野暮ってもんだろ? なあ、そう思うよな? 高志よぉ」


 ロベルト様が俺の肩に腕を回す。名乗った記憶は無いんだが、俺の名は思ってる以上に広がってるんだろうな……。


「そうですね、私たち自身行儀とは無縁の存在ですので、そう言って頂ける方が助かります」


 俺がそう答えると、ロベルト様は上機嫌に笑った。


「よう、お前らも楽しんでるか?」


 今度はモリス達の方に絡む。

 モリスはそつなく対応しているが、ジンとカインはビビりまくっている。


「あれでも気のいい人間です。悪く思わないで下さいね」


 アベル様がそう言って俺にワインを勧めてくるので受け取る。

 ふと見ると、ロベルト様とモリスの飲み比べが始まったようだ。周囲にギャラリーも集まっている。


 あいつら何やってんだ、まったく……。


「僕は初め、君という奴隷をあまり好ましく思っていなかったんだ」


 アベル様がポツリとつぶやく。


「フェリス様に取り入って特別扱いされている奴隷。さぞかし嫌な奴だと思ってたんだ、君の事を……」


 でしょうね……。


「でも、君の戦い方を見て、考えが変わった。君の戦い方は、見ていてとても美しかった」


「美しい……?」


「ああ、なんて言えば良いのかな、自らを犠牲にして戦う姿って言えばいいのかな? うまく言葉に出来ないんだけど、僕はその姿がとても綺麗に見えたんだ」


 少なくともフェリス様に取り入っていい気になっている奴には出来ない戦い方だとアベル様は言う。


「買い被り過ぎですよ、私はそんな……」


 正直照れる。俺の行動はすべて計算ずくだ。フェリス様に取り入る為に必死になっている薄汚い人間という認識は間違いではないのだ。


「はははっ、まあ、僕が勝手に思ってるだけですから、気にしないで下さい」


 そう言ってアベル様はワインを飲みほし


「僕は、治癒魔法しか使えないので、前に出て戦った事がありません。今までそれを疑問に思った事は無いのですが、貴方を見て自分が情けなく思いました」


 何事も工夫次第、自分の可能性を決め付けてしまうのは間違っているとアベルは言う。


「そんな高尚なものではないんですがねぇ……」


 俺は頭を掻く。

 そんな話をしていると、俺の周囲にまた新たな人が集まってくる。

 正直、コミュ障の俺には辛い状況なのだが……。

 これも生きる為だと諦め、俺は笑顔で応対する。


 今日は長い一日になりそうだ……。


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