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第十二話:魔獣との戦い

 どれくらい歩いただろう。突如前方に何かの気配が感じられた。

 俺たちはすぐさま訓練通りに配置に付き警戒をする。


 目の前に現れたのは、一頭のクマだった。

 だが、よく見るとそれがただのクマでない事がすぐにわかった。


 瘴気熊ミアズマベアー、フェリス様の授業で習った魔獣の一つ。魔の森の瘴気に汚染されたクマが魔獣化したものだ。

 魔の森をうろつく害獣としては一般的なもので、人里を襲う事もあり撲滅優先対象の魔獣の一つだ。


 グワァ! と雄叫びを上げて二本足で立ち上がる。俺はすかさず瘴気熊の前に躍り出て盾を構える。

 距離を開けたら突進される。

 俺は相手の懐深くに入り込み挑発を繰り返す。

 突如、瘴気熊が俺に抱き着こうとする。ベア・ハッグというやつだ。

 俺は後ろに飛び退く。

 こいつを食らったらひとたまりもない。確実に骨が砕ける。

 ハグに失敗した瘴気熊は四足になり、俺を睨み付けながら威嚇の声を上げる。

 後方から弓兵の援護射撃がきたが、瘴気熊の硬い毛皮に弾かれる。

 俺は瘴気熊の前で威嚇をし、敵意が俺に向くようにする。

 俺はふと、ネットゲームでこんなのあったなぁと場違いな事を考える。


 上手な盾職といっしょに戦闘するとめちゃめちゃ楽だったよなぁ……。

 逆に地雷を引くと悲惨だった……。


 しゃぁぁぁっ! と気合の声を上げる。

 地雷扱いされないよう頑張ろう。

 ゲームならその場だけの関係だが、ここで地雷扱いはその後の生活に大きく影響する。

 そう思い敵の攻撃を必死に引き付ける。

 俺に気を取られ隙だらけの瘴気熊に、モリス達奴隷兵が攻撃を加え、時折後方から弓の援護がくる。

 

 瘴気熊の防御力もさる事ながら、生命力も凄い。

 傷だらけになりながらも、未だ倒れる素振りが無い。


 なにこれ、強すぎ……。


 どちらかと言うと雑魚に分類される瘴気熊にさえ、魔法なしでは此処まで手こずるのか……。


 何度目かの爪の攻撃を受け流す。

 

 時間を掛ければ勝てない相手ではないが……。

 

 とその時、突如瘴気熊の頭上から光の槍が降り注いだ。

 俺達があれ程手こずった瘴気熊は、あっけなく槍に貫かれ即死する。


 魔法……、チートすぎ……。


 さっそく、俺たち奴隷兵が瘴気熊の解体作業に入る。

 あれだけ硬かった毛皮が、嘘みたいに柔らかく簡単に切る事ができるのに驚く。

 聞けば、こいつも魔力を持っており、それが防御力や生命力を高めていたらしい。


「それって、瘴気を使えば俺でも魔法が使えるようになるっていう事なのか?」


「使える事は使えるな。瘴気に侵された人間は死霊レイスになるから、それでも良ければの話だが」


 俺の言葉にモリスが答える。

 成程。そのクラスチェンジは無いな……。 


 瘴気熊にはあまり価値のある部位が無い。

 美味い肉の部位だけを切り落とし背負い袋に入れる。美味いとは言え、凍らせて持ち帰る程の価値も無いのでこいつは今日の晩飯にしかならない。

 正直害獣駆除以外のメリットが無い敵だが、どうせ価値ある物を手に入れても俺達奴隷には関係ない話なのだからまあいいか……。


 俺達は背負い袋を担ぐと再び探索に歩き出した。

 

 探索を始めて三日が過ぎた。

 俺たちは今、きれいな湖で小休止を取っている。

 休憩後は城に帰還する予定だ。


 結局この探索で計8回の戦闘があったが、すべて瘴気熊との戦いだった。

 もともと今回は瘴気熊の多いポイントを巡回したのだから仕方がないのだが……。

 ハズレもいいところである。

 苦労の割には大した収入がない。

 これがゲームの敵ならクソゲー認定確定だろう。

 俺は携帯食の干し肉を齧りながら湖のほとりに座っていた。見張りも兼ねているので周囲への警戒も怠らない。

 見晴らしのよい場所なのでそうそう危険があるとも思えないが、そうゆう油断でフラグが立ってひどい目に合うという話を思い出し、気を引き締める。


「お疲れさま、ずいぶん真面目に見張りをしているわね。こんなに見晴らしがいい所なんだから、さぼってゆっくりしたら?」


「高志、フェリス様の言う事は気にしなくて構いません。フェリス様も、甘やかさないで下さい。そのような油断が一番危険なのですから」


「真面目ね、エリーゼは。私、あなたのそういう所は嫌いよ」


「奇遇ですね、私もフェリス様のそういう所は嫌いです」


 笑顔で言い合う二人。

 頼むからそういうのはよそでやってくれ。ネタなのは解っているが、俺はそういうののフォローが苦手なのだ。

 そんな俺の気持ちを察したのか、フェリス様は俺の方を見つめると


「あなたはどう思う?」


 振ってきやがったぁぁぁっ!

 面白い事なにかやって? と言われる芸人の気持ちが最近理解できるようになってきた……。


「えっと……、わ、私はお二人のそんな所が好きですよ……」


 取り敢えず逃げた。


「あらそう、ありがと。嬉しいわ」


 表情を見る限り、ギリギリ及第点のようだ。


「後ろから見ていたけど、なかなかいい動きをしていたわよ。初陣とは思えなかったわ」


 フェリス様からお褒めの言葉を頂く。

 周囲の人間がちょー聞き耳を立てているのがわかる。


「ありがとうございます。それが出来たのも、お貸し頂いたこの盾と皆様の協力があってこそかと」


 無難に答えておく。

 まあ、実際その通りなのだが。

 この盾、軽さ、硬さはもとより、恐らく精神に作用する魔法も掛けられているのだろう。

 信じられないぐらい冷静に対処出来るのだ。

 震えも出ず、怖さも感じない、時には敵の攻撃がスローに感じる事さえあった。


 あ、これって間接的に魔法使ってるよね。


 無難な答えを詰まらなく思ったのか、ジト目を俺に向けるフェリス様……。

 なによ、人気芸人だって二十四時間面白い事いってるわけじゃないんだからね!


「ふーん、まあいいわ。そこでね」


 にやっとした笑みを浮かべる。

 あー、この顔、碌な事考えてねぇ顔だ……。


「無事に初陣を乗り切ったお祝いをあげるわ。何が欲しい?」


 爆弾を投げつけてきた。


 周囲の聞き耳レベルが更に上昇、味方の敵意もうなぎ上り。もういつ味方に刺されても可笑しくない状況だ。


 フェリス様は、そんな周囲の反応を気づかぬ振りをして楽しんでいる。

 俺は助けを求めようとエリーゼ様を見る。


「よかったですね、高志。本来初陣のお祝いは騎士や貴族の慣習であり、奴隷であるあなたが頂けるなど、常識ではあり得ない事ですよ。フェリス様のご好意と自身の幸運に感謝なさい。……で、あなたは何を望むのです?」


 このドS女……、退路を封じてきやがった。


 そこまで言われて要らないとは断れない。断れば姫様のご好意を無下にすることになる。

 かと言って、うかつな事も言えない。

 どうする? 求めるならありきたりなものがいい。

 高価ではなく、かといって価値の無いものでもいけない。


 ふと、この森に入った当初にしていた会話を思い出す。

 少々あざといが、これでいくか……。


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