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第百二十八話:魔銃完成?

「のぉわぁぁぁぁぁ!」


 叫びと共に俺は宙を舞う。


 ドシャッ! 


「ゴフッ……。い、痛てぇぇぇ」


「あの一撃を受け止めようなどとするから空を舞う事になるのです。昔の貴方なら不格好ながらもキッチリと受け流していましたよ」


「む、昔と言われても」


「記憶など関係ありません。私は貴方の魂にキッチリと刻み込んだはずです」


「そんなご無体な……」


「さあ、何時まで休むつもりですか? さっさと立ち上がりなさい。大丈夫です。以前と比べれば幾分かマシな動きになっています。痛めつければ痛めつける程動きが良くなっているようですね」


「その発想は止めて下さい。多分俺の魂に恐怖とかトラウマが上書きされる気がします」


「構わないではありませんか。人が強くなる為に恐怖やトラウマは必要ですよ? その恐怖やトラウマが大きければ大きい程、乗り越える為の強さも大きくなるのです」


「乗り越えられなかったら?」


「…………。さあ、掛かってきなさい!」


「…………」


 こうして俺はこの日何度も宙を舞う事になる。


 不思議だ。何故だかわからないが宙を舞う事が懐かしい気がする……。




 早朝から続いていた稽古は昼を過ぎた辺りで終了となり、何度も空を舞い打ち身と擦り傷だらけになった俺は地面に大の字になって休憩をとっていた。


「大丈夫ですか? 先生」


 そんな俺を気遣うようにロイが声を掛けてくる。


「その言葉はそっくりそのまま返すぞ」


 俺はそう言ってロイに顔を向ける。

 俺の傍に立っているロイも負けず劣らず傷だらけの様相だった。それもそのはず、ロイも槍に翻弄され俺同様何度も空を舞ったり引き摺られたりしていたのだ。


「はははっ。それもそうですね」


 照れくさそうに笑うロイ。


「どうやらもう少し身体強化の魔法レベルを上げないと駄目みたいです。今の様に部分強化では無く全身強化を憶えないとどうしても槍に振り回されて……」


「それなんだがな、ロイ。その槍、もしかして投擲専用なんじゃないか?」


「え?」


「いや。特性を聞く限り投げちまった方が良い様な気がしたんだが」


「…………」


 俺の言葉を聞いて暫く無言のロイだったが、意を決したように顔を上げるとヒョイッと軽く槍を投げた。すると槍は高速で突き進み正面の大木をあっさり貫通、その勢いのまま轟音を上げて大地へと突き刺さった。


「…………」


「…………」


 ガクッ……。


 ロイは大地に両手両膝を着き項垂れる。


「ぼ、僕の今までの苦労は一体……」


「す、すまん。言わない方が良かったか?」


 俺はそう言いながら立ち上がるとロイの肩に軽く手を置き慰める。


「い、いえ。こちらこそすみません。大丈夫です。確かに先生の言う通りこの使い方が正解の様ですね」


「そんな事はありませんよ」


 その言葉に振り向くと、視線の先には何時の間に回収したのか槍を持ったエリーゼさんが立っている。


「どういう事ですか?」


「それは、こういう事です」


 そう言うと同時にエリーゼさんの姿が消え、気が付くと俺のすぐ傍に槍を脇腹付近を掠るぐらいに突き刺した姿勢で現れる。


「なっ!?」


「い、今のは!?」


「高志の言うように、この槍は投げるのが正しい使い方なのでしょう。切り札としてはそれでも良いですが、どうせなら普段はこのように高速の突きを放つ槍として使う方が使い勝手は良いと思いますよ」


 そう言ってエリーゼさんはロイに槍を手渡す。

 確かに、投げて使った場合威力はあるかも知れないが一度の攻撃しか出来ず、武装も失ってしまう。であれば、普段は当初のように突き専用の高速移動槍として使う方が利便性は高いだろう。 


「大丈夫、少し練習すればすぐに使いこなせるようになりますよ」


 エリーゼさんはそう言ってロイの肩を軽くポンポンと叩くと、屋敷に向かって歩いて行く。恐らく汗を流す為に風呂にでも行くのだろう。

 途中、少し離れた場所にいたリベリアの傍で立ち止まり、何やら声を掛けている。

 どうやら一緒に風呂でもどうだと誘っているようだ。


「……ん? なんだリベリア。何か様子が変だな?」


 見るとリベリアは顔を真っ赤にしながらアタフタとしていた。

 そう言えばリベリアは朝からずっとあそこで素振りをしていたが、途中たまに俺とエリーゼさんの訓練を眺めてはボーッとしたり首を激しく振ったりと挙動不審な行動を度々していたな……。


 暫くしてまるで何かを諦めたかのように俯きながらリベリアもエリーゼさんと共に屋敷の方へと向かって歩いて行った。どうやら一緒に風呂に行く事にしたようだ。


「しかし、何だったんだ?」


 戦う決心が着いたと言ってもまだまだ不安な事が一杯あって思い悩んだりしているのかも知れないな。

 一度ゆっくりと話を聞いてやった方が良いかも知れないか……、いや、男の俺よりも同性の方が色々と打ち明けやすいかも知れないな? ならマリー辺りにそれとなく頼んでみるか。


 マリーなら良い相談相手になってくれるだろう。職業柄懺悔とか色々聞いてそうだし……。

 

 そんな事を考えながら、ふとロイを見てみると何やら暗い顔をしている事に気が付く。


「どうした? ロイ」


「……いえ、その、僕があれだけ苦労した事を事も無げにやられてしまうと、実力差は理解していても悔しいなと思ってしまって」


「悔しいと思うなら大丈夫だ。その気持ちが向上心に繋がればお前はもっと強くなれるよ。エリーゼさんも言ってただろ? 少し練習すれば使えるようになるって。お前はまだ若いんだから焦らず力をつけて行けばいいと俺は思うぞ」 


 俺は自分にも言い聞かせるように答える。

 悔しいと思う気持ちを無くしてしまった時、人の成長も止まる。かつての俺が悔しいと思う気持ちを無くしたのは何時の頃だっただろう……。

 再びこの気持ちを思い出せた事が、もしかしたらこの世界に来て一番幸せな事なのかも知れないな……。


「そうですね。焦ってもしょうがないですよね」


「ああ。大体お前はまだ学生なんだぞ。寧ろその若さでそこまで出来たら上出来だよ。武器にビビりまくっていた頃に比べたら驚くべき成長と言ってもいい位さ」


「はははっ。確かに最近はあまり武器を怖いと思わなくなりましたし、そう考えれば僕って凄く成長しましたよね?」


「ああ。お前もロゼッタも凄く成長したよ。もう学校でも問題児なんて言われないさ。寧ろトップレベルの強さを身に着けたんじゃないかな?」


「……アディは?」


「……ま、まあ成長はしたと思うぞ。症状も悪化したように思うが……」


 シェルファニールの血が入った瓶を眺めながら薄ら笑いしている姿を見かける度に将来が心配になる。無暗に人を襲う事はもう無いと思うが、病気の症状が変わっただけで根本的には病人のままなのだ。


「だ、大丈夫ですよ。アディだって、その、そのうち普通になりますって……。そ、それよりやっぱりエリーゼさんは凄い人ですよね」


 気を使ったのか、ロイが明るい口調で話題を変える。


「そうだな。強さの底が見えないと言うか、俺なんかシェルファニールの力があっても勝てる気がしないよ」


「剣鬼エリーゼの噂は色々と聞いていましたけど正直な所、誇張されてるとばかり思っていました。でも本人を見ていると全部本当の事なんだなって思いました。そんな人から教えを受ける事が出来るなんて、僕学校で自慢出来ます」


「……有名なのか?」


「有名も何も、冒険者にとって剣鬼エリーゼは伝説の存在ですよ。それはもう様々な逸話や伝説があるんですから」


「へぇー、どんなのがあるんだ?」


「例えば、ある山を根城にしていた山賊百人をたった一人でボコボコにして壊滅させたとか、ある街で行われる武術大会で何度も優勝した挙句、最後に出場した大会では勝手にバトルロイヤルにルールを変えて一人で十人の選手をボコボコにして優勝したとか、その大会の主催者が実は街の裏の世界の人間で、エリーゼさんのせいで大損させられた事を恨んで闇討ちをしたんですが、逆に主催者をボコボコに返り討ちにして二度と逆らえないようにしたとか、ある国の貴族から求婚されてボコボコにしたとか……」


「様々という割には結末がボコボコ一択なんだな……。というか最後のは酷くないか?」


「ま、まあ一例を上げただけで他にも色々とあるんですが、兎に角冒険者にとっては憧れの存在なんですよ」


「そんな人だったのか」


「そうですよ。エリーゼさんが冒険者を辞めてオーモンドの騎士になった時なんか、オーモンド一族は世界を征服する気か? なんて噂が流れたそうです」


「それは凄いな」


「オーモンド一族自体とんでもない人の集まりですから、そこに剣鬼が加わるとなって大ニュースになったそうです。これは僕の父に聞いた話なんですが、ある酒宴でガルディア王国の大使がオーモンド辺境伯に「オーモンドは遂に世界制覇に乗り出すのか?」なんて冗談を言った事がこの噂の始まりらしいですが」


「あまり性質の良い冗談とは言えねぇな」


「ええ。酔っていたという事もあった見たいですが、オーモンドを危険視する気持ちもあったんだろうと父は言っていました。それで、その時オーモンド辺境伯が言った答えがまた……」


「何て答えたんだ?」


「「はっはっは! 何故その様な事をする必要がある?」」


「ん? 別に問題視するような答えじゃ……」


「「世界はとうに私の物ではないか」」


「……外交の席で覇王宣言か……」


「とても冗談に聞こえない言い方だったらしく、周囲は凍りついたらしいです」


「だろうな。それでどうなったんだ?」


「同席していた奥さんが場を収めたらしいです。この辺りは父も詳しくは知らないらしくて……」


「そうか……。しかし凄いな。オーモンド辺境伯ってフェリスの親父さんの事だよな。何というかとんでもない人みたいだな」


「エリーゼさんもそうですが、オーモンド辺境伯も様々な逸話がある人で……」


「二人とも何を話してるの?」


 声に振り向くと屋敷の方からフェリスがこちらに向かって歩いて来ていた。


「なあ、フェリスは世界を征服したいと思うか?」


「……別に?」


「そ、そうだよな」


「世界なんてとっくに私の物じゃない?」


「…………」


「……ちょっと、冗談に決まってるでしょ? 固まらないでよ」


「すまん。冗談に聞こえなかったんだ。マジ怖かった……」


「もう……。そんな事を聞いてくるって事はお父様がやらかしたあの話でもしてたのね?」


「ああ。最初はエリーゼさんの話だったんだがな」


「あの時、お父様自身は世界=お母様って考えだったらしくて冗談と惚気を言ったつもりらしいんだけど……」


「それ説明が無いと絶対解らないですよね……」


「しかし、親父さんにそこまで言わしめる母親か……。その場を収める力と言い中々凄い人みたいだな。是非一度お会いしてみたいよ」


「……お母様にまで手を出す気?」


「フェリスの中では俺=節操無しになってるのか? 大体お前の母親って事は俺の母親と同じような歳だろ? いくらなんでも……」


「言っとくけど、見た目は凄い若いわよ」


「どれ位若いんだ? 並ぶと姉妹に見えるとか?」


「そうね、知らない人は皆姉妹と思うわね。歳の離れた妹と……」


「……合法ロリか?」


「それ、お母様の前では禁句よ。お母様は子供呼ばわりされると凄く怒るんだから」


「ロリっ子が怒った所で如何という事はないだろ?」


「……お父様がやらかした時にその場を収めたのはお母様なんだけど……」


「そうらしいですね?」


「上半身を無限の軌道で振り続け、身体が戻ってくる反動を利用した左右の連打を延々とお父様に打ち続けてダウンさせた後、とても可愛い笑顔で「あら? この人ったら飲み過ぎた見たいですわ? 酔って変な事を言って寝てしまうなんて、本当に困った人ですわね」と言って強引に収めたのよ。お酒なんか一滴も飲んで無かったのに、誰もそれを指摘する事無くその場の全員がそれで納得したそうよ……、膝をガクガクと震えさせながら……」


「で、デンプシー……」


 思わずゴクリと唾を飲みこむ。


「さ、参考までに聞きたいんだが、どれ位強いんだ?」


「そうね、どういえば解り易いかしら?」


 フェリスは顎に人差し指を当てると暫し黙考する。


「昔、家に来たばかりの頃のエリーゼって凄く尖がってたのよね」


「尖ってた?」


「ええ。傍若無人って言ったらいいのかしら? 我儘で自信家、短気で反抗的。人に従う事が兎に角嫌いで、何かあれば物理で無理やり自分に従わせるような困った子だったの」


「今のエリーゼさんからは想像出来ないな」


「でも剣鬼エリーゼの伝説を考えるとそう言った性格だったと言われても確かに納得出来ますね」


「まあ私が騙して無理やり城に連れて行った事もあったし、何よりそんなエリーゼも好きだったから特にその事に関しては何も言わなかったんだけど、今高志に言ったような注意だけはしていたのよ。でもそれが逆にエリーゼの反抗心に火をつけちゃったのよね……」


「押すな押すな言われると押したくなるみたいな物か」


「子供みたいな人ですね」


「ある日、エリーゼはお母様に対してわざと挑発的な態度で暴言を吐いたの」


「子供みたいじゃなく子供そのものだな」


「それを聞いたお母様は、「可愛い子ね。覇気も才能ある。でもまだ磨かれた事の無い原石ね。こういう子を磨くのは私大好きよ」そう言ってエリーゼを何処かへ連れていったらしいの」


「らしいってフェリスはその場にいなかったのか?」


「ええ、私が居たらそもそもそんな危険な事言わせないわ。偶々私が留守にしている時にやらかしたみたいで、後から教えられたの。その後一ヶ月ぐらい二人の行方がわからなくて、お母様の側近に行方を尋ねても「大丈夫、命に別状はない」としか答えてもらえないし……」


「その回答が大丈夫じゃないな」


「そして、戻ってきたエリーゼは別人のようになっていたわ」


「別人?」


「ええ。真面目で礼儀正しく、口調も穏やかで沈着冷静。今でこそ大分砕けたけど、帰って来たばかりの頃なんか騎士の鏡見たいな姿だったわ」


「なんだかヤバい合宿に行ったような状況だな」


「何があったんでしょう?」


「解らないの。エリーゼに聞いてみても何も言わずに震えるだけだったし……。ただそれ以降、エリーゼはまるで憑りつかれたように鍛錬を繰り返し始めたわ。それこそ天才が努力する天才になったんだから、実力はどんどん上がっていったけど、それでも未だにお母様の前だとビビりまくるわ」


「恐怖やトラウマが大きければ大きい程、乗り越える為の強さも大きくなるって実体験から来ていたんですね」


「未だ乗り越えて無いようだけどな」


「お母様はとてもエリーゼを気に入った見たいで自分の親衛隊に加えさせてくれって言ってきた事があったんだけど、その時エリーゼは涙目でイヤイヤしながら私に縋り付いて来たの。あの時のエリーゼはとても可愛くて今思い出してもキュンとするわ」


 フェリスは良い思い出を思い返すような笑顔でそう言うが、それ視点を変えるといじめの現場だからな。


「しかし何者なんだよお前の母親は?」


「世の中上には上がいるんですね」


 俺とロイは溜息交じりに呟く。

 

「俺達はついさっきまでエリーゼさんを伝説の冒険者とか言っていたんだが、あっさりとその上が出て来るとか……、何だかなぁ……」


 ベジー〇最強とか思ってたらフリー〇が居たとかそんな感じだな。差し詰め俺はヤム〇ャ辺りか?


「出来たぞ! 主様よ!!」


 俺とロイがこれからの道のりの長さに嘆息していると屋敷の方からシェルファニールが手を振りながらこちらに向かって歩いて来た。その後ろにはアデリシアとロゼッタが付いてきている。


「あ、シェルファニール……」


「あ……、とは何じゃその詰まらん反応は。やっと完成したんじゃぞ? もっと喜んでくれても良いのではないか?」


 俺達のつれない反応に少し頬を膨らませながら不満を言うシェルファニール。


「すまん、何と言うか驚きの連続で感情が麻痺していてな……。だけど凄く喜んでいるし驚いてもいるから許してくれ」


 珍しく不満を言うシェルファニールに少し驚きながらも俺は詫びを入れる。考えれば今回の旅の最大のイベントだったんだからシェルファニールは俺達が大喜びすると思っていたんだろう。それが殆ど無反応とあっては怒るのも当然だろうな。


「それが新装備か?」


 身長より少し短い程度の銃を両手で抱えているロゼッタを見ながら問う。


「そうじゃ。お主から聞いた話なども参考にしながら作り上げた自慢の一品じゃぞ」


 俺の問いに得意満面の笑顔をするシェルファニール。

 

「へぇー、どんな能力があるの?」


「くっくっく、気になるか。そうじゃろう、そうじゃろう。良かろう、一つずつ解説してやろう」


 シェルファニールがそう言うとロゼッタが持っていた銃をシェルファニールに渡す。


 しかし、珍しくテンションが高いな。徹夜明けでハイになってるとかか? いや、魔人にそう言うのは無いって前に言っていたし、作った作品を自慢したいのかな?


「まずは素材。一見鉄と木を使った普通の銃に見えるがそれは目立たぬようにしただけで中身は全くの別物じゃ。ミスリル銀に竜王の牙や妖精の粉を掛け合わせた特殊な金属を使っておる。頑丈で劣化もせず、しかも驚くほど軽い」


「前の銃よりも大きくなったけど、重さは半分ぐらいしか感じられないです」


「さらに銃の先端部には音を掻き消す魔石を混ぜ込み発射音の大半を消す事が可能じゃ」


「俺が教えたサイレンサーの代わりか」


「と言うか今あっさり言ったの、もしかして静寂の魔石じゃないの? それ伝説級の魔石よ?」


「そうなのか? 我は主様から聞いた話を元に使えそうな物を倉庫で探しただけじゃからな」


「……一度あの倉庫本気で全部調べた方が良いんじゃない?」


「……いや、正直怖いわ。世の中知らない方が幸せな事もあるし」


 俺とフェリスは顔を近付けあいヒソヒソ話をする。そんな俺達を置いてシェルファニールは相変わらずのテンションで説明を続ける。


「有効射程はおよそ二千メートル。無論竜王の牙で作った特殊弾を使った場合の距離じゃが、通常弾でも千メートルは可能じゃ」


「そんな遠くの的をどうやって狙うんですか?」


「くっくっく、当然そこも考えておる。このスコープを使えば遠くの物も見えるようになるのじゃ」


「何か偉そうに言ってるが、あれも俺のアイデアだぞ」


「と言うか、多分あれ遠見の魔石を使ってるわね。今更だけどあれも伝説級よ。売れば城一つ建つわ」


 俺とフェリスは相変わらずヒソヒソ話を続ける。


「そして、これが竜王の牙を加工して作った弾丸じゃ」


「……? 二種類?」


「うむ。竜王の牙の含有率を変えておる。こちらはほぼ百パーセント竜王の牙で出来た弾丸」


 見るとケースの中に二十個程弾丸が入っているのが見える。


「そして、こちらが通常弾に僅かな竜王の牙を混ぜ込んだ特殊弾じゃ」


 そちらを見るとかなり大量の弾丸がある。


「つまり、百パーセントの方が切り札で、普段は通常弾と特殊弾を使うという戦法か?」


「そうじゃ。遠距離狙撃なら通常弾でもかなり使えるじゃろうし、特殊弾でもちょっとした障壁ぐらい貫通出来る威力はある。威力重視なら百パーセント弾を限界まで作ると言うのもありじゃったが、実用性を考えるとある程度の数を用意できる方が便利じゃろう」


「そうね、確かに普段から障壁を張って身を守っている魔術師は少ないしこの武器だけでもかなりの脅威にはなるわね」


「フェリスもそうなのか?」


「昔はそうだったわ。常日頃から障壁を張るのって魔力も使うし結構面倒なのよね」


「昔はと言う事は、今は違うと?」


「ええ。以前それで死ぬほど後悔した事があって、それ以来寝ている時も常に防御するようにしているわ」


 そう言って俺の顔を見つめて来るフェリスの目が少し悲しげに見えるのは気のせいだろうか?


「それで、百パーセント弾の威力はどの位あるんですの?」


「そうじゃな、正直な所撃ってみんと解らぬ」


「じゃあ試し撃ちした方が良いですよね?」


「そう言うじゃろうと思って試し撃ち用の弾丸を用意しておる」


 そう言ってシェルファニールが弾丸を一つ見せてくる。


「竜王の牙を大体半分位混ぜ込んだ弾丸じゃ。取り敢えずこれを撃ってみればある程度の想像が出来るはずじゃ」


 という事で、俺達はさっそく試し撃ちをする事にする。

 銃と弾丸を渡されたロゼッタはどの位の威力があるか解らないので、かなり踏ん張った態勢をとりながら銃を構える。


「準備はいいか?」


 俺の問いにコクリと頷くロゼッタ。


「標的は如何しますの?」


 アデリシアの問いに皆がどうしようかと周囲を見回すと、遠くの空を飛ぶ魔獣が居るのに気が付く。離れた位置に居ながらそれなりの大きさで見えるのでかなり大型の魔獣のようだ。


「ふむ、ちょうど良い具合にワイバーンが飛んでおるのぉ。アレを狙ってみよ」


 シェルファニールの言葉にロゼッタは真剣な表情で頷くと空を飛ぶワイバーンに狙いを定める。


 ゴクリ……。


 俺達は息を飲みその光景を見守る。


 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!


 轟音と共にロゼッタが後ろに吹っ飛んだ。


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