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第百十九話:男達は倉庫へ

「またここに戻って来る事になるとはな」 


 俺は視線の先にある石造りの小さな城みたいな建物を見ながら呟く。魔の森を抜け、俺達は遂にシェルファニールの館へと辿り着いた。


「さてと。取り敢えず……」


「お風呂よ! お風呂に入らせて!」


 俺の言葉を遮りフェリスが必死な声を出す。だが確かに皆の格好は砂や泥で薄汚れて酷い状況だった。


「……そうだな。取り敢えず風呂の準備をするか……。いいか? シェルファニール」


「好きにするが良い」


 家主の了承を得たので俺達は荷物を置くとさっそく風呂の準備から始める。この屋敷は劣化防止の魔法がかけられており朽ちた所などは無いが、塵や埃はかなりの量が積もっていた。本当なら最低限の生活空間は確保したかったのだが、女性陣の兎に角風呂に入りたいという熱い思いがヒシヒシと伝わって来たため断念した。


「ふう。まあこんな所で良いだろう」


 俺は廊下から見違えるほど綺麗になった脱衣室とその奥の浴室を眺める。

 屋敷の風呂はかなりの大きく十人ぐらいが入っても十分な広さがある。また湯を沸かす魔道具という大変贅沢で貴重な物もあり、掃除さえしてしまえば湯を張るのは簡単だった


「取り敢えず女性陣全員で先に風呂に入ってくれ。その間に俺とロイは倉庫から必要そうな物を集めたり、残りの生活空間の掃除をやっておくから。台所と食堂、あとは寝室ぐらいか」


「では食事の支度は我々が行うという事にしましょう。それで構いませんか?」


 エリーゼさんの言葉に全員が頷く。


「じゃあ行きましょうか。あ。言っとくけど覗いたりしたら怖い事になるからね。具体的に言ってあげたいけど何をするか自分でも解らないから言えないわ」


「大丈夫です。僕にそんな勇気はありませんから」


 男らしく情けない事を言うなよ……ロイ……。


「まあ主様は覗きなぞせんでも見たければ何時でも我が見せてやるから遠慮なく言うのじゃぞ」


「…………」


 フェリスの目付きが……。何か此処の所うちの女性陣は乙女にあるまじき顔になる事が多い気がするんだが……。


「じょ、冗談はいいから早く風呂に行ってこい」


「い、いや冗談では……」


 俺は強引にシェルファニールの背中を押して脱衣所へと放り込む。それに合わせて他の女性陣も扉を潜って脱衣所へと入って行った。

 皆が入っていくのを見送ってから、俺とロイは地下の倉庫へと向かう。


 地下へと続く階段を降りると、見覚えのある倉庫に辿り着く。


「あー、懐かしいなぁ。シェルファニールからここの物は好きに使って良いって言われて色々漁ったなぁ……」


「好きにって、これちょっとした宝物庫みたいに見えるんですが?」


 ロイが棚に無造作に置かれた宝石類を眺めながら驚きの声を出す。


「ここの物は昔この辺りに住んでいた奴らが勝手に置いて行った物らしくてな。シェルファニールは全く興味を持ってないんだ。ロイも欲しい物があったら適当に貰ってけ」


「適当にって……」


「俺も旅立つ前にその辺の宝石とか適当に貰って行ったから金に苦労せずにすんだよ。丁度いい、追加を貰って行くか。大分金使ったしな」


「……何だか働くのがバカらしくなりそうですね……」


「そう言うなよロイ。宝石だってこんな倉庫に埋もれているより、世の中に出回る方が嬉しいに決まってるだろ? 宝石も喜ぶ。俺の懐も喜ぶ。こう言うのを俺の国ではウインウインと言うんだ」


「そう言われればそうかも知れませんが……」


「真面目すぎるぞロイ。大体お前は冒険者を目指しているんだろ? 宝石があったら迷わず掴んでポケットに放り込むのが冒険者ってもんだ。違うか?」


「い、いや。確かにそう言う側面もあるかも知れませんが、何だかそう言う言い方は……」


「同じ事をアデリシアに言ってみろ。きっと「え? いいの? でも全部持って行くのは大変そうね?」とか平然と言ってのけるぞ? きっと」


「……言いそうですね……」


 恐らく言葉は違えど他の面々も似たような事を言う気がする。

 ロイは潔癖な所があるんだよな。それが良い所と言えば良い所なんだが……。


「まあ取り敢えず必要な物を探そう。食料と寝具、あと下着やら服やらがあったら適当に持って行こう」


「はい」


 そう言って俺達は手分けして倉庫を物色していく。


「凄いですね。肉とか野菜とかが腐敗も変色もせずに保管されているなんて……」


「ああ。初めはこんな魔法が当たり前にあると勘違いしたけど、実は凄い事だったんだな」


「凄すぎですよ。魔人は魔法に長けているとは聞いていましたがここまでなんて……。全部シェルファニールさんが作ったんですか?」


「さあ、どうだろう。だけど多分違うだろうな。これは生活環境に無頓着な奴には出てこない発想だ。かつてこの周辺に住んでいた者達が作ったんじゃないかな?」


 そう考えると、そいつら只者じゃないな……まあ考えてもしょうがない。最早何処に行ったかも解らない連中なのだから。


「さあ、さっさと集めて上に上がろう。まだ部屋の掃除も残っているしな。皆が風呂から上がる前に終わらせないと」


 俺はそう言って適当に食材を集めて袋に詰める。


 ブルッ……。


 とその時、突然悪寒が走る。


「な、何だ? 一体……」


「如何しました?」


「い、いや……。何でも無い」


 風邪でも引いたか? うーん……。寒気と言うか震えと言うか……。気の……せいか?。


「あ!?」


 俺が考え事をしているとロイの驚いた声が聞こえた。


「如何した?」


「武器が。凄い、色々な武器があります。それも……、これって魔法武器ですよ。それがこんなにも」


 見ると彼方此方に無造作に武器が置かれている。


「これって凄い武器なのか? 俺にはその辺がよく解らないんだが……」


 初めてこの倉庫に来た時に俺もこの武器の山は見ていたが、価値がよく解らなかったので特に気にしていなかったのだ。


「どんな力があるかまでは解りませんが、全ての武器から魔力が感じられますし出来もかなり良いです」


 ロイが目を輝かせて武器を一つ一つ手にとっては舐めるように眺めている。

 成程、ロイは金や宝石よりもこっちという事か。


「そんなに良い物なら丁度いい、ロイの装備も新調しようか。一番良い物を貰ってけ」


「ほ、本当ですか!? 本当に良いんですか!」


「ああ。シェルファニールには俺から言っておいてやるから気に入ったのを持って行けばいいよ」


「あ、有難うございます! ど、どうしよう。どれにしようかな……」


「落ち着けロイ。取り敢えず食事の用意が先だ」


「す、すみません……」


 余程嬉しかったのかついつい取り乱してしまったロイが恥ずかしげに顔を赤らめながら謝る。


「いや謝らなくてもいいよ。気持ちは解るしな」


 前衛のメンバーで武器が一番貧弱なのがロイだった。

 無論、ロイも金持ちの家柄なので高価な槍を使ってはいたが、所詮は金で買えるレベルの武器だ。

 

「そうだ。どうせならアデリシアとリベリアの武器もここで新調していくか」


 フェリス、エリーゼさん、マリーは国宝級の魔法武器をすでに持っているし、ロゼッタはこれから手に入れる予定だから不要だろうが、残り二人の武器はロイ同様の状況だ。なら丁度いい機会だからここで装備を見直してしまおう。パーティーメンバーの装備差が大きすぎるのも面白くないしな。


「まあ、全部風呂入って飯食ってからの話だ。武器は逃げないし暫くはここに滞在するんだから時間は一杯ある。落ち着いてからゆっくり考えよう」


 俺はそう言って食材を詰めた袋を持って階段へと向かうと、その後を同じように荷物を持ったロイが嬉しそうににやけた顔をしてついてきた。


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