第十一話:初陣
魔の森……。
オーモンド辺境伯領の東に広がる広大な森。
多くの魔物が住む危険な場所である。
軍や冒険者が治安維持と一攫千金を夢見て訪れる。
魔物は危険ではあるが、その肉や毛皮などあらゆる部位が売ればいい金になるのだ。中にはそれ一つで家一軒買える値がつく物もあるという。
俺たちの目的は、人里周辺の魔物討伐だ。もちろん金儲けの目的もあるが……。
日々の食事もここでの狩りの成果が殆どなのだ。
魔の森探索はオーランド辺境伯領にとって欠かせない事業の一環なのである。
「要はてめぇの食い扶持はてめぇで何とかしろって事だ。まあ、頑張った所で俺たち奴隷に報酬があるわけじゃあないからな。死なねぇ程度に頑張ったらいいさ」
モリスが皮肉げに笑う。
「そうだよなぁ、せめてスープの具が増えるぐらい欲しいよなぁ」
カイン……、それだけでいいのか……。
こういう時、自分が奴隷兵士だという事を思い知らされる。
イニシャルコストはかけるが、ランニングコストはかけない。
使い捨てなのだから当然の話だ。
それでもここは他と比べたら天国のような環境らしい。
以前カインから前に居た所の話を聞いてゾッとした事を思い出す。
「しかし……。お前の盾、すげぇな……」
モリスが俺の背負う盾を見て言う。ジンなど、さっきから恐る恐る触っては感動している。
出陣前、フェリス様は俺に使うようにとこの盾を持ってきてくれた。
「結構いい盾が倉庫に転がってたから持ってきてあげたわ。感謝しなさい」
笑顔で軽く言うフェリス様の後ろでは、
「おい、なんだあの盾……。凄い魔力を感じるぞ……」
周囲がその盾を見てざわめいている。明らかに普通ではない事が見ただけで解る代物だ。
この盾、めっちゃ軽い。それになんか、よくわからん凄さを感じるんだが……。
「その盾は、先代当主様が使っておられた物です。材質は魔法銀と竜の鱗を大量に使い、地精霊族のベテラン鍛冶師が長い時間、丹精込めて作り上げた逸品。また妖精族の高位魔術師が付与した軽量・硬化・地水火風の加護など多くの魔法付与が盛り込まれています。ちなみにその価値は……、いえ、それは知らない方がいいでしょうね……」
エリーゼ様……、その説明で価値がとんでもないって解るんですが……。
ワザとだろ、あんたワザと言ってるだろ……。
何が倉庫に転がってただ、宝物庫に保管されてたんだろ、どう考えても。
周囲の視線が痛い。
なんで奴隷風情に……。
心の声が聞こえてくる。
フェリス様を見るとニコニコと満面の笑みだ。俺の困っている顔を見て楽しんでいるのが解る。
エリーゼ様も表情は普通だが、明らかに目が笑っている。
このドS女ども……。
俺は二人を見る。こいつらは同類だ。笑っていたぶるか、無表情にいたぶるかの違いがあるだけだ。
ちなみに、エリーゼ様の方が飴と鞭の使い方が上手い。
時折フェリス様がそれを見て悔しそうにしたり、納得した顔をしたりと学んでいる時がある。
嫌な子弟関係だ……。
とは言え、別段嫌がらせの為だけにこの盾を渡してくれた訳ではないだろう。
俺の生存確率が上がるのは確かだし、それはフェリス様のやさしさだ。
そして同時に厳しさもある。
「その盾に見合うだけの働きをしろ」
と……。
あれ? 昨日は初陣だから無理しなくてもって感じだったような……。
実際、エリーゼ様は少し気の毒そうな顔で俺を見ている。
俺がこの盾を持つ意味を理解している事を理解しているようだ。
まさかとは思うが……、昨日エリーゼ様に慰めるという飴を先にとられたから、代わりに鞭を振るってきたんじゃないだろうな?
何? 俺の調教で競い合ってるの?
まさかとは思うが……。
この調子なら、俺に新しいステータスが付くのも近いだろう……。




