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第十話:仲間

 地獄のような訓練が今日も終わった。

 俺は訓練場に大の字になって寝っころがり呼吸を整えていた。

 他の連中も似たような状態だ。


 あれから、エリーゼ様はすぐさま行動をおこし、盾兵という新兵科を創設した。

 もっとも、盾兵は今の所俺だけなんだが。

 エリーゼ様は、自らがこのテスト部隊の中心となり部隊員の招集から訓練までを取り仕切っている。

 基本戦術は俺がおとりとなり、前に出る。その後ろを奴隷兵3名が続き攻撃と足止め。

 その後方に弓兵2名が奴隷兵の援護、兵士3名が弓兵と魔術師の護衛をするというものだ。

 一小隊、兵士と奴隷兵合わせて9名の構成となる。

 まあ、普通の小隊に盾兵を1名加えただけなんだが。


「とんでもねぇ強さだな、あの方は。俺たちが束になってもかなわねぇ……」


 同じ部隊に配属されたモリスが俺の横でそう呟く。

 今日の訓練は、エリーゼ様が仮想敵となり俺たちが護衛する魔術師を狙うというものだった。


「魔法なしであれだけ強いとか……」


 エリーゼ様は、俺たちを相手にしながら同時に魔法の詠唱を行い戦っていたのだ。

 魔法を発動させないように必死に攻撃したが、手も足も出ず発動後は一方的に打ちのめされた。

 しかも、彼女はそれでもかなり手加減しているのだ。


「あの人に関しちゃ、護衛なんていらねぇよな……」


 彼らを護衛するのが俺たちの仕事なのだが、エリーゼ様レベルになるとむしろ俺たちが守られているようなものだった。

 もっとも、そこまでのレベルの騎士はそうそういないのだが。


「あんな人がごろごろいたら僕たち用済みになっちゃいますよぉ」


 この部隊に配属された奴隷兵のジンが近づいてくる。

 その後ろには同じく奴隷兵のカインの姿が見える。

 

 ジンは小柄で茶髪、そしてあどけなさがまだ残る顔立ちをした十六歳の少年だ。

 生まれた時から奴隷だったらしく、俺達の中で奴隷歴は一番上の男の子だ。奴隷としての知識は豊富なのだが、世間を殆ど知らない事もありよく俺の話を聞きたいと言ってくる。


 カインは短い黒髪に無精髭を生やした三十手前の男だ。元は異国の兵士だったらしいが、捕虜となり奴隷として売り飛ばされたそうだ。生まれは農家で、家を継ぐのが嫌で飛び出し兵士となった初戦で捕虜となった運の無い男だ。

 こんな事なら畑を耕していれば良かったとよく愚痴をこぼしている。


 モリス、ジン、カイン。この三名が俺の奴隷兵仲間だ。部隊創設後は部屋も同室になっている。


「しかし、お前器用に動くよなぁ。正直最初盾だけで戦うなんて聞いた時はバカなんじゃないかと思ったけどな」


 カインの言葉に他の二人もうなずく。


「ああ、高志が矢面に立ってくれるから、こっちはずいぶん楽に動けるよ」


「皆がフォローしてくれるから、俺も安心して戦えるんだ」


 俺は素直にそう答えた。


「しかし……、いつまで経っても慣れねぇな……。この状況には……」


 モリスは周囲を見回しながらぼやく。

 周囲には、好奇心から見物にくる騎士や兵士が数多くいた。

 盾兵に関して多くの人間が否定的だった。

 常識的では無い、机上の空論だなどと……。

 とはいえ、新しい試みは興味を引くのだろう。連日多くの見物人が集まってくる。


「その筆頭がフェリス様なんだがな……」


 フェリス様は今、エリーゼ様と何やら話し込んでいる。

 二人を見ていると、フェリス様が俺の方を向き目が合う。

 すると、二人は俺たちの方に歩いてきた。


「お疲れ様、大分様になってきたじゃない」


 フェリス様がにこやかに声をかけてくる。

 ジンとカインは緊張に体を強張らせる。

 普通の奴隷はこういう対応になるんだろうな……。

 現代人の感覚の俺には、正直そこまでの気持ちが解らない。まして、買われてから今日までずっと世話を受けていたので身近に感じてしまっているのだ。フェリス様自身が気にしていないので余計に。

 モリスも案外平気そうにしている。

 この男も存外奴隷らしくない。もしかしたら元は良い身分の出なのかも知れないな。


 フェリス様に特別扱いされている奴隷という事で、周囲から好奇、羨望、嫉妬など様々な視線が俺に突き刺さる。

 正直胃が痛いが、気にしていたらキリがない。


「まだまだです、高志。もっと敵の行動を先読みして動きなさい。あなたならそれぐらい出来るはずですよ」


 エリーゼ様の俺に対する評価が何故か異常に高い。


 いや……、無理だから……。これで限界だから……。


 最近はエリーゼ様もよく俺に話しかけてくるようになった。

 おかげで周囲から刺さる視線が2倍になったんだが……。まあ、気にしたら負けだ……。


「明日、魔の森の定期巡回に出陣してもらいます」


 フェリス様が真剣な顔で俺たちに伝える。

 ついに実戦か……。表情が硬くなる。

 今日まで毎日散々しごかれたが、所詮は訓練だ。

 はたして、俺は実戦で戦う事が出来るのだろうか……。

 物語なんかじゃ、こういう時は大抵失敗するんだよなぁ……。

 訓練では出来たのに実戦では……、とか言って……。

 これフラグ立ったかな?

 あ、やばい。意識したらだんだん怖くなってきた。


「り、了解しました。精一杯戦います」


 振るえる手を必死に抑えて俺はそう返事をする。

 気の利いた事を言ってやりたかったが、残念ながら心に余裕がない。

 そんな俺の手を突如、優しいぬくもりが包み込む。


「あまり気負いすぎないようにしなさい。あなたがすべき事は、経験を積み生き残る事です。初めからうまくしようなんて考えなくていいのですよ。あなたは初陣なのですから、素直にまわりの人たちを頼りなさい」


 エリーゼ様が俺の手を両手で優しく包んでそう微笑みかけてくれる。

 あ~、手の感触がすげー気持ちいい。

 それになんかいい匂いがする。

 頭がぽわぽわしてきたぁ~

 周囲の視線がかなり痛いが……。

 どうでもいいやぁ……。


「それ、私が言おうと思ってたのに……」


 フェリス様が不満そうにエリーゼ様を睨む。


「エリーゼ様の言うとおり、俺たちがしっかりフォローしてやるから安心しとけ」


 モリスが笑ってそういうと、ジンとカインもまかしとけ! と笑った。


 異世界にきて、奴隷として売られた時はどうなる事かと思ったが、今の俺は周囲の人に恵まれている。

 元の世界ではコミュ障のボッチだった事を考えれば、奴隷とはいえ、俺は幸せなのだと思う。


 俺はこの人たちの為なら命をかけてもいいとそう感じていた。


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