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第百八話:竜を束ねる者

 空を向くと、三体の巨大な竜が飛んでいた。中央に金色、左に黒、右には白の竜が大きな翼を広げた姿で宙を浮いる。

 三体とも小型の船位に大きくとても神々しい姿をしており、一目で只者では無い事が解る。


「我は今楽しんでおる所じゃ。邪魔をするなトカゲ」


 戦いに水を差された事に不満なのか、不機嫌そうな声で吐き捨てるシェルファニール。


「き、貴様ぁ……。王に向かって……」


「やめよ」


 シェルファニールの発言に怒り心頭の黒い竜に対し、中央にいる金の竜が制止を掛ける。


「魔人。お前が楽しむのは自由だし、私も邪魔をしたい訳では無い。だが、楽しむなら余所でやれ。ここでやられては迷惑だ」


 金の竜が今にも溜息をつきそうな声で言う。

 

 まあ、言ってる事は至極真っ当ですよね……。


 シスターさんの障壁に守られていた俺達の周辺以外はクレーターと真っ黒な焼野原と化している。ついさっきまでは緑豊かな丘陵地帯だったんだよねぇ……、ここ……。


「それに……」


 金の竜は視線をフェリスさんに向ける。


「あの者も限界であろう」


 その言葉と同時に、フェリスさんが膝から前のめりに崩れ落ちる。


「お、おい! 大丈夫か!?」


 その姿を見た俺は、無意識に彼女の元に駆けだしていた。

 倒れている彼女を抱き抱えると、俺は持っていた回復薬をゆっくりと飲ませる。


「あ、ありがと……」


 彼女はぼんやりと俺を見ながら、少し照れくさそうに礼を言ってくる。どうやら意識はあるみたいだし、少し休ませたら大丈夫そうだな。


「全く……。トカゲ。貴様が邪魔をするから緊張の糸が切れたのじゃ。それが無ければ、この小娘はまだ戦えたはずじゃ。寧ろ此処からが面白くなる所じゃったのに……」


 シェルファニールが相変わらず不機嫌そうな声を出しながら、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。どうやら、余程あの後の展開を楽しみにしていたようだ。

 

「そうですね。確かに残念ではありますが……。まあ、あまり無理をさせないで下さい。ここまでかなりの強行軍でしたから」


 いつの間にか騎士風の女性も傍にいた。後ろには他の面々もこちらに向かって来ている。


「あらあら、随分と嬉しそうなお顔をしておられますね、フェリス様」


「ええ、本当に。散々暴れてストレスも発散出来たし、高志が真っ先に駆け寄ってくれたしで良いことずくめですね。まあ、そんな事で簡単に機嫌を直してしまう辺りは少しチョロ過ぎな気もしますが……」


「う、うっさいわね……」


「あんた達は一体……」


「さて、そちらの問題はもう解決という事でいいのか? であれば気を使って控え目に言うが、お前ら迷惑なんで帰って貰えるか」


 俺の疑問の言葉は金色の竜に遮られてしまった。

 見ると、俺達の目の前に三体の竜が舞い降りてくる。巨体でありながら、風圧も振動も無い辺りなんらかの魔法を使っているのかも知れないな……。

 しかし、これだけ破壊しても帰れと言われるだけとは……。器が大きいな。


「帰ってやってもよいが、土産に竜玉と牙を寄越せ、トカゲ。我らはそれが目的でこんな辺鄙な島まで来てやったのじゃ」


 対して、未だ不機嫌な我らがシェルファニールさん。お前器小っちゃいぞ……。


「き、貴様ぁ……。先ほどからの無礼な言動……。いい加減に……」


 シェルファニールの失礼極まりない上に図々しい発言に黒竜が怒りの声をあげる。


「落ち着け、グレイグ」


「しかし竜王様……」


「ふむ……。竜玉に牙か……」


 金色の竜、会話から察すると竜王は何やら考え込んでいる。


「……良かろう。グレイグ、お前の竜玉をくれてやれ」


「……え、えぇっ! わ、私の竜玉を!? な、何故私がこいつ等に……」


「仕方あるまい。私もアリエルも竜玉を持っておらぬのだ。どうせ十年もすれば再生するのだし構わぬであろう?」


「確かに再生はしますが……。ですが、しかし……」


 竜王がジッと黒龍を見ている。


「そもそも、何故こいつ等に……」


 ジィィィィィ……。


「いや、その……」


 ジィィィィィィィィィィィ……。


「…………」


 ジィィィィィィィィィィィィィィィィ……。


「……解りました……」


 黒龍は無言の圧力に負けたようだ。がっくりと肩を落とすと、翼を広げて飛び去って行く。


 数分後、黒龍はその手に竜玉とおぼしき何かを持って戻ってくる。

 

 そう……、変わり果てた姿で……。


「もう。竜王様のご命令だから仕方ないわねぇ。さあ、とっとと受け取りに来なさいよ……」


 お、オネエになってやがる……。


「せ、先生。ぼ、僕、何か下半身がキューッてするんですが……」


「俺は罪悪感で胸が痛いよ……」


「もーう。あんた達、何してるのよぉ。早く来ないとあげないわよ」


 黒龍の言葉に俺達全員がリベリアに視線を向ける。


「や、やっぱり私ですか!?」


「済まないなリベリア。同じ男として悲し過ぎて、受け取るのに抵抗があるんだ……。ハッキリ言えば触りたくねぇ」


「ごめんなさいね、リベリアさん。淑女として、結婚前にそう言う物に触るのには抵抗が……」


「わ、私だって淑女なんですけどぉ! なんですけどぉ!」


「なによ、あんた達。失礼しちゃうわね! あんた達が欲しいって言ったんじゃないの!」


「リベリア。黒龍さんが気分を害しているぞ。早く受け取らないと」


 その言葉に、リベリアはがっくりと肩を落とすと、竜玉を受け取るべく黒龍に近づいて行く。


「リベリア! 黒龍さんは大変貴重な、とても貴重な物を譲って下さるんだ! 失礼のないよう受け取るんだぞ!」


 俺はそんなリベリアに細心の注意と礼儀をもって対するよう念を押す。俺達は、自身の目的の為に一人の男をこの世から消してしまったのだ。その事を忘れてはいけないのだ。


「私の竜玉、粗末に扱ったら許さないんだから」


 ベチョ。


 何らかの物体を両手で受け取っているリベリアから何とも言えない擬音が聞こえる。


「や、やったなリベリア。待望の竜玉を手に入れたぞ!」


「うぅぅぅぅ……。生温かい……」


 生々しい感想はやめてくれ……。


 竜玉を手に入れたリベリアは、それを背負い袋に入れると手を前に突き出しながら、涙目で周囲を見渡している。


 手を洗いたいんだろうな……。


「さて、後は牙であったな」


 俺達のやり取りを見ていた竜王はそう言うと、自らの牙を一本へし折り、俺の前に投げ渡してくる。

 その牙は黄金色に輝いており、シェルファニールが実体化中で魔力が見えない俺でさえ、その牙が途轍もない力を秘めた品だと一目で解る逸品だ。

 

 俺はその牙を拾い上げながら、不思議に感じていた。

 

 何故こんなにも気前が良いんだ?


「気前がよいのぉ、トカゲ。まさか本当に土産を貰えるとは思っておらんかったぞ」


「構わぬ。代価は払ってもらうがな」


「代価? 一体いくら……」


 こんなに貴重な品、どれだけの金が必要なのか……。


「金など要らぬ。その代りその分だけ、こちらの要求を聞いてくれればよい。労働で返せと言うことだ」


「な、何をさせる気だ?」


「うむ。まあ、今の所は思いつかぬな。何れ何かあった時に要求しよう。それまでは貸しという事にしておく」


「い、嫌だと言ったら?」


「ほう。お前達は我が国を散々荒らした挙句、グレイグの人生を狂わせ、我から牙を受け取りながら何もしたくは無いと?」


 竜王は俺をジッと見つめてくる。


「いや、グレイグさんの人生を狂わせたのってあんたじゃ……」


 ジィィィィィ……。


「い、いや、その。確かに申し訳ないとは思っているんだが……」


 ジィィィィィィィィィィィ……。


「そ、それに俺達はこんなに良い物を求めていた訳でも無い訳で……」


 ジィィィィィィィィィィィィィィィィ……。


「……俺達に出来る事であれば……」


 俺も無言の圧力に負けた……。


「うむ。宜しく頼むぞ。私の名はメリュジーヌ。竜を束ねる者だ」


「俺は高志。冒険者をしている」


「では高志。竜王メリュジーヌの名において問う。此度の代価として、我ら竜族の頼みを一つ聞く事を誓うか?」


「それが俺に出来る事であり、俺の中の正義や人道、社会的理念に反しない限りは誓おう」


「宜しい。ここに我らの誓いは成立した。高志、またはその子、孫、子々孫々に至るまでこの誓いは受け継がれる」


 メリュジーヌがそう言うと、俺の手の甲が輝きだし、何か赤い文様が浮かび上がってくる。

 て言うか、ちょっとまて。子々孫々って何? この借金って返さない限り子孫にまで続くの?


「その文様は誓いの証。何かあればその文様を通じてお主に伝わる。その文様がある限り、お主が何処に居ても我には解るから、好きに冒険を続けるが良い」


 意訳すれば逃げても解ると言っているんですね。


「まあ、安心せよ。此度の損害や、渡した品の分ぐらいの願いをするだけだ。難しい事を頼む事は無い」


 安心出来ません。損害も品の価値も目ん玉飛び出るぐらいなんですが……。


「と言うか、ちょっとまて! よく考えたら竜玉はリベリアが必要とした物だし、牙はロゼッタだよな? 暴れたのはシェルファニールとフェリスさんなのに、なんで俺が契約してるんだ?」


「高志よ。お前が責任者では無いのか?」


「主様よ。我の不始末は主様の不始末じゃよ」


「先生。生徒の不始末は先生の不始末」


「ご主人様の為に働くのは奴隷の基本でしょ?」


「えっと……、この際ついでなので私の分もお願いします」


 何? あんた等全員して俺に借金を押し付けるの? 当たり前のように言って来るの?


「ではお前達の用事はこれで済んだのだな。なら即刻立ち去れ。アリエルよ。こやつらを島外に送ってやれ」


 メリュジーヌは白竜にそう命じると、アリエルと呼ばれた白竜が自身の背に乗るように体を低くして伏せる。


「なんと!? 竜の背に乗れるのですか? このような貴重な体験が出来るとは……」


 皆がこれから待つ貴重な体験に心躍らせながらアリエルの背に登って行く。


「ちょっ、ちょっとまてぇ! 借金だな? また借金を増やす気だな?」


「今更一つや二つ増えた所で如何という事も無かろう、主様よ」


「いーやーだー。船、船で帰ろう。なんかこいつ等気前が良すぎて怖い。何押し付けられるか解らないからいーやーだー! そ、そうだ。フェリスさんとの事も有耶無耶のままじゃねぇか。ここはゆっくり話し合う為にも船で帰ろうよー」


「ああ、その事ならあちらに着いてからでも良いですよ。こちらは急ぎませんから」


「うふふふっ。貴重な体験を有難うございます、高志様」


「先生。やっぱり先生は凄い。生徒になれて良かった」


「竜の背に乗って空を飛ぶなんて……。夢のようですわ。これも先生のお蔭ですわね」


「私、国に帰ったら自慢します。高志さん、有難うございます」


「き、貴様ら! 何自然と俺のお蔭とか言ってんの? 背負わせる気だな、全部俺に背負わせる気だな!」


「ほれ、主様よ。皆が待っておるぞ」


 シェルファニールが俺の体を小脇に抱えると、アリエルの背を登って行く。


「いーやーだー。はーなーせー。俺は船で帰る。船で帰るーーーーーー!」


 こちらに手を振るメリュジーヌを背に向け、アリエルは大空へと羽ばたいた。


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