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第百七話:メインイベント

「あの女性は一体どなたですか?」


「あの人は、先生と契約している魔人の方で……」


 背後では唯一シェルファニールを知るロイが他の者達に説明をしているようだ。そして俺の前では……。


「あんた、ベルファルトで見た女ね……」


「ふむ。成程、何処かでとは思ったがあの時の小娘か……」


 龍と虎のオーラが何故か見える女性二人のにらみ合いが始まっていた。

 だが、そんな睨み合いもつかの間で、シェルファニールはすぐに俺の方へと振り向いてくる。


「主様よ。お主はもう少しこの小娘の気持ちを考えてやらぬか」


 シェルファニールの言葉に俺だけでは無く、フェリスさん自身も驚きを隠せないようだ。それもそうだろう。このタイミングなら、敵として現れたと考える方が自然だし、俺自身もまさかシェルファニールが彼女の味方をするとは思っていなかったのだ。


「この娘はお主を奴隷として買ったのじゃぞ。ならこの娘にとってお主は所有物みたいな物じゃ。それが、もう自分は一人で生きて行ける、奴隷なんて御免だ、などと言われてはいそうですかとはいかんじゃろう」


 そ、それは確かにそうかも知れないけど……。


 シェルファニールはそう言うと、今度はまた振り返りフェリスさんの方を向く。


「小娘。お主の立場も解る。じゃがな、主様とて好きで奴隷になった訳ではあるまい。まして主様は奴隷制度など無い異国の人間じゃ。そんな主様がいくらかつてお主に買われたからと言って、また奴隷になれと言われても受け入れる事が出来る訳もあるまい」


「そ、そんな事……。だってそいつは……」


「まあ、落ち着け。確かに、お主にも面子と言う物があるじゃろう。じゃから我に良い考えがある」


 ドヤ顔をしてそう言ってのけるシェルファニールだが、俺の心には不安しか無い。


「良い考えって何よ……」


「うむ。……いくらじゃ?」


「……は?」


「いくらで買ったかと聞いておるんじゃ。そう高い価格でもあるまい。じゃが今日までの世話代や手間賃も考えて買値の十倍ぐらいは出してやる。それで納得せい」


「……あんた、何寝言ほざいてるの……」


 シェルファニールの買い取り発言に今日一番のキレ顔をされているフェリスさん。貴方の良い考えのせいで俺の下半身は決壊寸前ですよ、シェルファニールさん。


「小娘、あまり欲張るものでは無いぞ。その辺りで納得しておけ。こちらもお主の面子を考えて、穏便な解決方法を提示してやっておるんじゃ」


「お金の問題じゃないって言ってんのよ! そもそも、あんた何? 高志の何なのよ!」


「ん? 我か。我は高志の相棒じゃよ。魂の絆で結ばれたな」


 その言葉を聞いたフェリスさんはもう何と言うか、とても言葉に表せない程の表情をなされました。そして俺の下半身からも救難信号がしきりに発せられています。もう諦めてもいいですか……。


「……相棒……? 何言ってるのお前。私はそんなの認めてないんだけど……」


「小娘よ。お前に認めてもらう必要は無かろう。かつてはどうか知らぬが、今この男は我の主人じゃ。貴様は素直に代金を受け取って失せよ。言っておくが、金を払ってやるのは我の温情じゃ。本来なら貴様のような追手なぞ蠅を払うよりも簡単に打ち払えるのじゃからな」


「随分好き放題言ってくれるじゃない……」


「事実を言っているまでじゃ」


「金目当ての俗物扱いした挙句に蠅呼ばわり……。さすがに我慢の限界なんだけど……」


「ふむ。それは済まぬ事をしたのぉ。じゃが我とお主との力量差を例えるのにちょうど良い言葉じゃったんじゃ。特に悪意は無いから許せ」


「へぇ~。そうなんだ。あんたそんなに強いんだ……。私、今とても手加減出来る気分じゃないんだけど、それなら安心よね? うふふふふふっ……」


「ほう。我にかかって来るか? 良かろう、相手をしてやる。じゃが安心せよ。我はちゃんと手加減してやるからのぉ」


「…………」


「…………」


 無言で睨み合う二人。

 その後、徐々に周囲を強風が吹き荒れ始める。シェルファニールが実体化した事で魔力が見えなくなったが、恐らくこの強風は双方の魔力が渦巻いているものでは無いだろうか……。


 と言うか、シェルファニールの防護が無くなったので、かすっただけで死ぬかも知れないんですが……。気づいてます? シェルファニールさん……。


 そんな不安を抱えていた俺はヒョイっと背後から荷物のように持ち上げられる。


「何を呆けているのですか……。死にたいのですか? まったく……」


 騎士風の女性が俺を小脇に抱えると、皆がいる場所まで持って行ってくれた。


「先生! 大丈夫ですか?」


 ロイが心配そうに俺を見ながら声を掛けてくる。


「先生。今の状況は何?」


「済まないロゼッタ。その質問には答えられない。寧ろ俺が聞きたいぐらいなんだ。何故こうなった?」


「フェリス様が思った以上にチキンだった事と、貴方が思った以上に女に手を出すのが早かったのが原因と言った所でしょうか」


 俺達の疑問に騎士風の女性が答えてくる。


「それは、どういう意味……」


 ドゴォォォォォン!!


 俺の疑問は轟音に遮られてしまった。音の方を見ると、シェルファニールの正面に巨大なクレーターが出来ており、その中央にフェリスさんが淡く光った状態で立っている。


「一体何が?」


「あれはフェリス様が最近編み出した必殺技の一つです。自身を障壁で覆い、風の魔法で自らを相手に向かって砲弾のように飛ばす魔法です」

 

 騎士風の女性が俺の疑問に答えてくれる。


「欠点としては、威力自体は大した事が無い事ですね。見た目は派手なんですが、障壁を持つ魔法使いにはあまり効果が無い魔法ですね」


「いや、それ必殺技としては致命的欠陥じゃねぇか……」


「ですが、自身を飛ばす感覚が快感らしく、本人はいたく気に入っている魔法でもあります」


「うふふふっ。そう言うのって大事ですわよね」


「いや、攻撃力を大事にしたげてよ……」


 案の定、シェルファニールの前に巨大なクレーターが出来た以外はなんの効果も無いみたいだ。


「まあ、まずは様子見と威嚇と言った所ですかねぇ」


「ですわね。でもあの魔人さんには全く意味が無さそうですわねぇ」


 騎士風の女性とシスター風の女性がのんびりと見物をしている。


「あのぉ……。止めなくても良いのですか?」


 リベリアがおずおずと意見するが、二人から何故? といった不思議そうな表情を向けられそれ以上何も言えなくなっていた。


「実際、あそこまで拗れると止めようがありませんね。フェリス様も引く訳には行かない理由がありますし」


「そうですわね。ここはいっそ徹底的にやってしまう方が良いでしょうね」


「先生はシェルファニールさんを止めなくても良いんですか?」


「と言ってもなぁ。自分の意思で挑戦を受けてるし、まあ、彼奴はこっちでは自分の身を守る事しか出来ないから悲惨な事にはならないと思うし……」


「自分の身を守る事しか出来ないのでしたら、それこそ危険なのでは?」


「いや。彼奴は力量差は歴然としてるって言ってたから大丈夫だろ?」


「でも、魔力の大きさは同じぐらいに感じるのですが?」


「如何なんだろうな? 今の俺は全く魔力を感じないから解らないんだけど……」


 そんな話をしている間にも、シェルファニールとフェリスさんのバトルは続いている。

 光の矢や炎の矢など様々な魔法を放つフェリスさんとそれらを全て簡単に避けているシェルファニール。

 成程、確かに実力差は圧倒的みたいだ。

 それは戦っている当事者であるフェリスさんも気が付いているのだろう。表情に余裕が無い。


「えぇぇい。ちょこまかちょこまかとぉ! こうなったらぁぁぁ!」


 そう叫ぶと、フェリスさんは自身の両腕を前方に構える。

 すると、その周囲に丸い光の球が無数に浮かび上がってきた。


「ほう、あの必殺技を使う気ですか……」


 騎士風の女性がそう言う。今度は一体どんな?


「いっけぇぇぇぇい!」


 フェリスさんの叫びと同時に無数の光の球が暫く周囲のあちらこちらに飛び回ると、それらが無差別に周囲のあちこちに降り注いだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁ! 何発かがこっちにぃぃぃ!」


 俺の叫びと、魔力弾が障壁に弾かれるのが同時だった。どうやらシスター風の女性が障壁を張ってくれているらしく、俺達の周囲はひとまず安全が確保されているようだ。


「あれもフェリス様が最近編み出された必殺魔法の一つ。欠点としては術者本人も何処に飛ぶか解らない所ですね」


「それも必殺技として致命的欠陥じゃねぇか!」


「ですが、周囲にド派手に降り注ぐ様がとても気持ちが良いらしく、本人はとても気に入っています」


「うふふふっ。そう言うのって大事ですわよね」


「コントロールも大事にしたげて! 味方の為にも!」

 

 様々な攻撃をするフェリスさんと、その全てを避けるか掻き消してしまうシェルファニール。流れ弾で吹き飛ぶ木々や大地とかろうじてシスターさんの障壁で守られている俺達の周囲。

 そんな状況がかれこれ三時間ほど続いていた。


「あ、あのぉ……。ずっと障壁を張っておられますが、大丈夫ですの?」


 アデリシアがシスターさんを気遣って声を掛ける。そういえばこの人はずっと障壁を張り続けているのだった。にこやかな笑顔が崩れないから忘れていたが……。


「うふふふ。流石に大変ですわ。このままでは私も後半日持つかどうか……」


 笑顔で答えてくるシスターさんだが……。


「おい、アデリシア。お前ならこの障壁をどれ位張れる?」


「十分で昏倒する自身がありますわ」


 俺達は信じられない物を見る目をシスターさんに向ける。

 何なのこの化け物連中は……。


「ですが、そろそろフェリス様の方は限界の様ですわね」


 シスターさんの言葉に俺達は戦いの方に目を向けると、シェルファニールは相変わらず傷一つない姿で余裕の表情だが、フェリスさんは息も荒くフラフラの状態だった。


「小娘よ、いい加減諦めよ」


「う、うっさいわね。こ、こうなったら」


 フェリスさんはそう言うと、またしても両手を前に出して構える。

 すると、暫くしてその両手の平の間に徐々に強い光が輝きだす。


「あらあら。あれは流石に不味いですねぇ。皆さん、万が一流れ弾が来ては危ないので伏せて下さい。あれは私の障壁では防げませんわ……」


 シスターさんの言葉に俺達はすぐに大地に伏せる。


「ほう。成程のぉ。魔力を極限まで圧縮させておるのか……。じゃがそんなに時間が掛かるのでは実戦的な魔法ではないのぉ……」


 シェルファニールは相変わらずの余裕を崩さない。


「うるさいわね。どうせあんたは手を出してこないんでしょ。だったらどれだけ時間をかけても問題無いじゃない……」


「くっくっく。成程確かにそうじゃな」


「ぜ、絶対に吠え面かかせてやるわ!」


「ふむ。避けるのは簡単じゃが、それでは興ざめじゃな。良かろう、我は避けぬから存分にその魔法を撃って来るが良いわ」


「ば、バカにしてぇ! 後悔させてやるんだからぁぁぁ!」


 気合の声と同時に彼女の手から細いレーザービームのような光線がシェルファニールに向かって伸びてゆく。


「はぁっ!」


 どごぉぉぉぉぉんんんん!!


 だがその光線をシェルファニールは腕一本を振るうだけで弾き飛ばした。弾き飛ばされた魔法はそのまま山にぶつかり特大の轟音を響かせている。


「なっ……」


 流石にこれはショックだったのか、唖然とした表情でがっくりと膝をつくフェリスさんと、少し痛そうに弾いた手を振っているシェルファニール。


「ふむふむ。思ったよりも威力があったのぉ。手がいまだに痛いわ」


「な、何で……」


「小娘、お主魔力制御が苦手であろう?」


「うぅっ……」


「一目見て解ったわ。如何に大きな魔力を持っておっても使いこなせておらなんだら宝の持ち腐れじゃ。大方才能だけで魔法を使っておったのであろうが、その様な者は格下相手なら問題無かろうが、我のような者には通じぬ」


「うぅぅぅっ……」


「力の差が解ったであろう。お主ではどれだけ頑張っても我には届かぬ」


「……だ、だからって……」


「うん?」


「だからって、はい解りましたって諦める訳には行かないんだから!」


 そう叫ぶとフェリスさんはフラフラとしながらも立ち上がり強い視線でシェルファニールを見据える。


「小娘……。このままではお主、唯では済まぬぞ? 魔力の使い過ぎは下手をすれば命に係わる。解っておるのか?」


「だから何? 私は絶対に引き下がらないわよ。引き下がるものか。私はあいつの……、彼奴だけのご主人様なんだから! 半端な思いでここまできた訳じゃないんだから! 舐めるなぁぁぁぁ!」


 フェリスさんは荒い息をついてフラフラとしながらも、その目は未だ力を失っておらず、真っ直ぐにシェルファニールを睨み付けている。


「……成程のぉ、そう言う事か……。く、くっくっく……、あっはははははっ! 何じゃ、小娘、そう言う事か! 成程、成程のぉ、良いぞ、良い目じゃ。良かろう、試してやる。お主の思いを存分にぶつけて来るが良いわ!」


 ジッとフェリスさんを見つめていたシェルファニールは突然楽しそうに笑いだすとフェリスさんに向かって初めて構えて見せた。


「良かろうでは無い! いい加減にせぬか、このバカ共がぁ!」


 と、突然空から大声が響き渡る。



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