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第百三話:ベルゼムにて(フェリスサイド)

「ごめんね。無理言って」


 フェリス様がベルゼムの入り口で御者に代金を支払いながら謝っている。あれから急遽ベルゼム方面へと進路を変えた私達は南周りの道をかなり無茶な行程で進んだのだった。フェリス様は渋る御者に対し笑顔で脅し……、いやお願いして最低限の休憩と何頭もの変え馬を行う事で、かなりの時間を短縮したのだ。


「本当に酷いお客様だったぜ。次からはもう少しのんびりとした旅をしてくれや」


 疲労でフラフラの御者が代金を受け取りながら憎まれ口を言っている。だがそれなりに代金に色を付けた事と、無茶をやり切ったという達成感でその声音は明るく表情も笑顔だ。

 御者はその後軽く私達に手を振ると馬車の手綱を操り、街の中へと入って行った。

 

「さて。ベルゼムに到着しましたがこれからどうしますか?」


「当然高志の情報を集めるわよ。ついでにお父様の情報もね」


 やはりそう来たか。出来れば一日ぐらい宿に泊まって疲れを取りたかったのですが……。

 横にいるマリーをみると仕方ないといった表情で淡い笑みを浮かべていた。


「……ふう。仕方ありませんね。では早速……」


 私が軽く溜息を一つついて街に入ろうとした時、前方から一人の老人が近づいて来た。


「お待ちしておりました、フェリス様」


 白髪の老人が丁寧に頭を下げて来る。よく見るとそれは執事のセバスさんだった。


「あら? セバス、何故此処に? 私を待ってたってよく此処に来る事が解ったわね?」


 フェリス様が疑問の声を上げる。それもそのはず、私たちは特に城に連絡など入れていなかったし、そもそもベルゼムへ来たのだって途中で予定を変更しての事だ。セバスさんはどうやって私達の動向を掴んでいたのだろう……。


「はい。この街にフェリス様の魔力の気配が近づいて来る事に気が付きましたので」


 さも当たり前のように言ってのけるセバスさんだが、いくらフェリス様の魔力が大きいとは言えそんな簡単に解るものなのか?


「そう。で? なんでここに居るの?」


 その返答に特に疑問を持たなかったのか、フェリス様が自然と次の質問に移っている。


 ま、まあ偶然察知出来たとか……。そう言う事もあるか……。


「はい。実は私、奥様より旦那様の監視を命じられておりました。奥様曰く『あれは絶対やらかすから監視しておいて』との事でしたので」


 ……信用度低いですね……。


「ふーん。そうなんだ……。で? やらかした?」


「はい。この街の警備隊相手にやらかされました。今は自発的に牢に入られております」


「……はぁ……。全くお父様ったら……。お母様には報告したの?」


「はい。奥様と国王陛下に事の次第をご報告致しまして、先ほどこの街に戻ってきた次第で御座います。そこでフェリス様のご気配に気が付きましてお待ち致しておりました」


 セバスさんと普通に会話しているフェリス様だが……。いや、おかしいでしょ。騒ぎを起こしたのが何日前かは知りませんが、それを奥様と国王陛下に報告して戻ってくるとか……。

 

「そう。で? セバスはこれからどうするの?」


「はい。これから牢へと向かい、奥様からのご伝言をお伝えしようかと思っております。フェリス様もご一緒に如何ですか?」


「いや、いやいやいや。ちょっ、ちょっと待って下さいセバスさん」


 私は慌てて二人の会話に割って入る。おかしいでしょ? なんでフェリス様は普通に会話を続けているんですか? 


「はい? 何で御座いましょうエリーゼ様」


 自然体を全く崩さずセバスさんが問うてくる。その姿を見ていると、慌てている私の方がおかしい様な気もしてくるが……。


「えっと……、そのぉ。セドリック様が騒ぎを起こしたのは何時の事ですか?」


「はい。一週間程前の出来事で御座います」


「えっと……、その後セバスさんはその報告を奥様と国王陛下にしたと言う事でしたが……」


「はい。まずは奥様に事の次第をご報告致しまして、奥様より念の為に国王陛下にも伝えておく様ご指示をされましたので、非公式にではありますが国王陛下にも情報をお伝え致しました。大事にはなっていないとは言え、やはり我が国の貴族が隣国でやらかした出来事で御座いますから、お耳に入れておく必要があるだろうとの奥様のご判断で御座いました」


「そうね。お母様の判断は正しいと思うわ」


 いや、そう言う問題では無い。此処からオーモンドの城に行くだけでも何日掛かるか……。

 私はそう疑問を口にしようとしたが、何故か心の奥底からこれ以上踏み込むなとの警告が湧き上がる。

 私は腰の低い姿勢で優雅に立っているセバスさんを見ながら、疑問を口にしようかどうかを悩む。


 そう言えば……。セバスさんはオーモンドの先先代当主、フェリス様の曾お爺様が青年の頃に迎え入れられた方と聞いた事があったが……。


 今何歳なんだ?


 にこやかにほほ笑んでいる好々爺然とした風貌のセバスさんが堪らなく怖い物に感じる。

 人ではない。妖精族とも思えない。では?

 

「エリーゼ様」


「ひゃ、ひゃい!」


 セバスさんの呼びかけに思わずうわずった声を上げてしまう。 


「私はオーモンド一族に代々仕える執事。それで宜しゅう御座いませんか?」


 相変わらずの笑顔でそう言って来るセバスさんだが、私は……。


「フェリス様はそれでご納得されているのですか?」


 私の葛藤を察したマリーがそうフェリス様に問いかける。


「曾お爺様の遺言なの。セバスが飽きるまで執事をやらせてやれ。何をしてもセバスだしで納得しろ。セバスは信用出来るから安心しろってね」


 フェリス様の言葉にセバスさんも笑顔で頷いている。

 

 大雑把過ぎだろオーモンド一族……。


「……はぁ。解りました。何だか真面目に考えた私がバカみたいですねぇ……」


「ご理解頂けたようで幸いで御座います。それで皆様はどう致しますか?」


「そうね……、取り敢えず私達も牢に行きましょうか。お父様達が何か情報を持っているかも知れないしね」


「畏まりました。それでは皆様をご案内させて頂きます」


 セバスさんは優雅に一礼すると背を向けて街へと向かって歩き出す。私達三人はその後を追って歩き出した。

 

「エリーゼが疑問に思う気持ちは解るけど、セバスの事に関してはあまり考えない方がいいわよ。私も昔に一度疑問に思った事があったけど、結局は深く考えない方向で諦めたから」


 フェリス様が小さい声でそう言ってくる。


「ですが、それで本当に宜しいのですか? 悪しき者という可能性も……」


「私もね、そう思ったからお母様に問うてみたの。そしたらね、『別にいいじゃない。セバス便利だし』って……」


「まあ。フェリス様のお母様はサッパリとした方ですのね」


 いや。あの方は絶対面倒臭かっただけだと思う……。


「実際曾お爺様の遺言もあったし、今日までオーモンドの執事として立派に働いてくれているし、なにより家であのお父様とお母様相手に執事が出来るのってもう普通の人間じゃあ不可能な気がするし……」


 成程。確かに言われてみればそうかもしれませんね。ちなみに貴方もその片鱗を立派に見せていますよ。最近の私の心労はうなぎ登りに多くなっていますから……。


「まあ、そう言う事だから」


 大雑把な結論だが、何故かとても説得力がある。

 考えてみれば、セバスさんはとても頼りがいがあり、居なければ困るという点に間違いはない。今日までのセバスさんの事を思い返しても、悪しき者という可能性は全く考えられない。


「はあ……。私もこれからは゛セバスさんだし゛で納得する事にします……」


 私は小さく諦めの溜息をつく。思い返せば私がフェリス様に雇われてからと言う物、オーモンド一族の非常識さには驚かされ続けたのだ。今更セバスさんが只者では無いと言った所で、また一つオーモンドの非常識が増えたに過ぎない。


「思い出しました。ここでは深く考えるだけ無駄だという事を……」


「うふふふ。やっぱりオーモンドといった所ですね」


「……あんたら何気に失礼な事言ってるわね……」


 フェリス様が不満げな声を出すが、自身も思う所があるのだろう、それ以上は何も言ってこなかった。


 暫く歩き続けると、前方に警備隊の詰め所が見えてくる。赤い煉瓦作りの大きな建物で、建物の中庭らしき場所には多くの訓練中の警備兵の姿が見える。

 

「いいかお前達! 俺達は負けた。だが聞けば相手はあのオーモンドのあの伯爵だ! この世界でも屈指の狂人を相手に我々は善戦したと言ってもいい! それも日々の辛い訓練を耐えた結果だ! 私はそんなお前達を部下に持てた事を誇りに思う!」


「そうだ! 俺達はあの伯爵に対し真っ向から戦ったんだ!」


「一人として逃げ出さず、アレと戦ったんだ!」


「そしてアレから生き残ったんだ!」


 うぉぉぉぉぉぉ!!


 いつの間にかあの伯爵からアレ呼ばわりになっているが、ここの兵士たちの士気を上げる役に立っているのならそれでいいか……。


 そんな建物の正面にある小さな小屋にいる歩哨に、セバスさんが話しかけて面会の許可を得る。


 案内の兵士について建物の地下に続く階段を降りて行くと、地下から話声が聞こえて来る。どうやらセドリック様達が何やらバカ騒ぎをしているようだ。


「い、いかんぞフェリスちゃん! 犬とは言え殺してはならん! 動物愛護の精神を忘れてはならん!!」


「お、落ち着いて下さいセドリック様。そもそも高志は犬じゃないです!」


「そ、そうですよ。それにフェリス様だっていきなり首輪を出して来る事は……、多分大丈夫ですよ……」


 何を言っているんだ、あの人達は……。

 ふとフェリス様の顔を見るとコメカミがピクピクとしている。私はセドリック様の所に行こうとするフェリス様の前を手で塞ぎ行動を止める。


「フェリス様。ここはもう少し様子を見ましょう」


 私の言葉にジト目を向けてくるフェリス様だったが、本人もこの後の展開に興味があったのだろう。進むのを止めてバカ騒ぎの見物を始める。


「い、いかんぞフェリスちゃん! 貧乳を気にする必要はないんだ。それは遺伝だから仕方ないんだ!」


 あ、今度はフェリス様の口の端がひくついている。どうやらここまでのようですね。フェリス様が凄く良い笑顔で牢まで歩いて行く。


「お、落ち着いて下さいセドリック様。何故か論点がズレてます」


「そ、そうですよ。確かにフェリス様は可哀想な胸をしていますが……」


「ふーん。そうなんだ。可哀想な胸なんだ」


 こちらを向いていたセドリック様はいち早くフェリス様に気が付いたようで、信じられない物を見る目で硬直している。だが背を向けていたバカ三人は未だに気づいていないようだ。


「奴隷達の間でも言われてたよな。魔力はデカいのに胸は小さいって」


「ふーん。そんな事言ってたんだ」


 ああ。成長されましたね、フェリス様。昔の貴方ならもう魔力をぶち込んで黙らせていたでしょうに。どうやら最後の最後まで吐き出させる御積りなのですね。


「そうそう。それで偶に胸に詰め物して誤魔化してたりしてるのがまた可哀想でな」


「ははははっ。あれ急に胸がデカくなるからバレバレなんだよな。でも俺達は気が付かない振りとかして気を使ってな」


 だからあまり詰めるなと言ったのに聞かないから……。バレるに決まっているじゃないですか。


「確かカインだろ? 今日は何割増しかで賭けとかしてたの」


 ほう、彼らも賭けをしていたのですか。ちなみに騎士達の間でもやっていましたね……。胴元は私でしたが、中々いい小遣い稼ぎになりましたね。


「へぇー。賭けまでしてたんだ……」


 三人が無言になる。どうやらやっと気が付いたようだ。

 さあ、どうするお前達。ここは真価が問われる所ですよ。終始笑顔のフェリス様だが、発している殺気は歴戦の戦士すらちびりそうな程凄まじい。三人もそれに気づいているので振り向く事すら出来ないようだ。


「で、でもよ。巨乳なんて所詮ただの飾りだよな」


「そ、そうだね。あんなのただの脂肪の塊だしね。ぼ、僕は小さい方が好きだな」


「た、高志も昔そんな事言ってたような言ってなかったような……」


 ほう、巨乳をディスリながら同時に高志を題材にしてフェリス様の機嫌を取る作戦ですか。中々策士ですね。フェリス様も高志という言葉にピクリと反応している。


「そ、そうだ。確か、俺は巨乳より貧乳が好きだって言ってたような言ってなかったような」


 多分言ってないんでしょうね、それ……。


「俺も聞いたぜ。フェリス様が貧乳なんじゃない。貧乳だからフェリス様なんだって」


 それは言ってそうですが、どういう意味なんですか? それ……。


「ああ。彼奴はフェリス様がいなかったら、きっと貧乳好きを拗らせて幼女趣味に走ってただろうな。きっと。多分。恐らく……」


「高志が真っ当にお天道様の下を歩けるのも、きっとフェリス様のお蔭なんだろうね」


「高志も言ってたよな。俺がこうしていられるのもフェリス様のお蔭だって」


 それ絶対違うシュチュエーションで言ったセリフでしょうね……。


「へー。そうなんだ。彼奴そんな事言ってたんだ」


 えっ? 今ので機嫌が良くなるってチョロ過ぎじゃないですか? フェリス様。と言うか、ここまでの発言の何処に気を良くする物があったのですか?


 フェリス様の殺気が収まった事に気が付いた三人が同時にこちらを振り向く。


「あっ! お、驚きました。まさかフェリス様がおられるとは……」


 モリスがワザとらしく驚いて見せる。カインやジンも引き攣った笑顔をしながらも相槌を打っている。


「うむ。何時の間に来たのだ? フェリスちゃん。そもそも良くここが解ったな?」


 硬直から解放されたセドリック様も同じようにワザとらしい演技をしだす。


「私がお連れ致しました、旦那様」


 セバスさんが優雅に一礼する。


「な、何故セバスがここに……。き、貴様、またわしを監視しておったな」


 またって……。


「はい。奥様のご命令でしたので。旦那様は私の尾行を想定して色々されておられたようですが、私も奥様のご命令を失敗する訳には参りませんので……」


「あ、そう言えば道中突然走り出したり、馬車に乗った振りをして隠れたりしたけど……。あれそう言う意図があったのか」


「頻繁に魔力サーチとかしてたのも、尾行を確認してたのか……」


「くっ……。あれ程警戒したにも関わらず……」


 セドリック様が悔しげに吐き捨てる。と言うか、セドリック様の本気の警戒すら意に介さないとか……。いや、深く考えるな。セバスさんだし……。


「それで……、チクったのか?」


「奥様より、何か問題を起こしたら必ず報告するようご命令を受けておりましたので」


「ぬぅぉぉぉぉぉぉぉ!」


 セドリック様が頭を抱えてゴロゴロと床を転がっている。それにしてもチクったとか子供ですか、貴方は……。


「奥様より、そちらに行くまで牢に入って反省していろとのご伝言で御座います。ちなみに一度でも牢を出たら離婚だとも承っております」


「ぬぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 転がる速度が三割程増した。


「あと追伸としましては、ノンビリ観光とか遊びとかしながら行くから時間掛かるとは思うけど大人しく待っていろとの事で御座います」


 あ、更に増した。というか、それって無期懲役じゃないだろうか……。


「はいはい。セバスの用事はもう終わりよね。だったら今度は私の用件よ。高志の件はどうなっているの?」


 パンパンと手を叩きながら話を切り替えるフェリス様。ふと見るとセドリック様は転がりつかれたのか、今は隅っこで体育座りをして壁を眺めている。


「高志の件は、少し問題が発生していまして……」


 モリスが代表して報告してくる。


「……盗賊ねぇ……」


「素直に記憶を失っていれば良い物を、中途半端に拗らせてますね……」


「盗賊に身を持ち崩した高志様ですか……。それはそれで有りですわね」


「「えっ?」」


 マリーの言葉に全員が思わず驚きの声を上げてしまう。何というか……、もうこの子も色々拗らせているなぁ……。


「……ま、まあマリーの趣味は置いておくとして、そうなるとあんた達は居ない方が接触しやすいかしらね」


「そうですね。兎に角まずは話をしないといけませんからね。誤解を解く前に逃げられたり、攻撃されたりされるのは困りますし……」


 フェリス様が口元に指を当てて考え、その様子をモリス達は無言で眺めている。


「……そうね。私達だけで行きましょうか。モリス達はお父様の面倒を見てあげて」


「だぁっ。やっぱりそうなりましたか……」


 フェリス様の答えを聞いてがっくりと肩を落とすモリス達。

 諦めなさい。貧乳発言に対する罰も含まれていますからね……。


「後の事は私たちに任せてここでゆっくりして行きなさい。まあ牢の出入りを禁じられているのはお父様だけだから、貴方達は適度に気分転換をしたらいいわ」


 フェリス様の言葉に、それもそうかとリラックスムードの三人と、それを恨めし気に睨んでいる体育座りのセドリック様。シュールな光景ですね……。


「セバス」


「はい。フェリス様」


「ジンとカインの解放の手続きを進めて。彼らの戦績と今回の功績で手続きは問題無いでしょ?」


「はい。畏まりました。フェリス様」


 その言葉を聞いてジンとカインが涙を浮かべながら喜び、モリスも良かったなと笑顔で祝福をしている。


「牢に居る間にゆっくりと今後の事でも考えておきなさい。家で働いてもいいし、他の仕事がしたいなら紹介もしてあげるわ。お父様はお母様が来るまで涙で絵でも書いてなさい」


 そう言ってフェリス様は四人が入っている牢から背を向けて階段へ向かって歩き出す。私とマリー、それにセバスさんも一礼するとその後について行く。


「さっさと高志の足取りを追うわよ」


「その事ですが、あのぉ……、セバスさんだったら高志様の居所とかも把握されているのでは?」


 マリーがセバスさんを見ながら言う。私も同じ事を思っていた。


「はい。確かに存じ上げておりますが、お教えする積りは御座いません」


「何故です? ここまで来たら教えてくれても……」


「いいえ。ここまで来たからこそ、ご自身の力だけでやり切るべきかと。短い間にフェリス様は大変ご成長なされました。あのふざけた管理者もたまには良い事をする……」


「ふざけた管理者?」


「……いいえ、何でも御座いません。こちらの事で……。此度の一件は、フェリス様にとってとてもよいご経験になったかと。少し見ない間に奥様に大変良く似て来られました。であれば奥様のように、ご自身の運命はご自身の力で掴み取られるのが宜しいかと……」


「言われるまでもないわ。彼奴は私の力で取り戻す。セバスは今まで通りお父様の面倒を見ていて」


「はい、畏まりました。奥様からもそのようにご命令を受けておりますので」


「あちこち寄り道しながらだと、結構時間が掛かるでしょうねぇ……」

 

 それまで牢に入っていなければならない方も大変だが、見張っていなければならないセバスさんも大変だと思う。


「いいえ、ご心配には及びません。奥様はあんな風に言いながらも、寄り道せず真っ直ぐにこちらに来られるかと思いますので。何だかんだと仰られておりますが、結局はご自身が寂しかっただけかと……」


「ほほう。それはそれは、奥様はそう言った方でしたか」


「うふふふっ。それは確かにフェリス様は奥様似ですわね」


「うっさいわね。全然似てないわよ、失礼な事言わないでよあんた達……」


 ニヤニヤ笑いながらフェリス様を見つめる私とマリーに、フェリス様は不満そうな顔で睨みつけてくる。


「それでは、私はここで。お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 詰め所の入り口でセバスさんは足を止めると、頭を深く下げて見送ってくる。私達はそんなセバスさんに別れを告げると、街の大通りに向かって歩き始める。向かう先はボルネア行の船着き場だ。一週間も経っていれば、彼らはすでにボルネアに向かっている可能性が高い。ならばそこで情報を集めるのが一番の手だと三人の考えは一致していた。


 頭を深く下げたまま見送ってくれるセバスさんの姿が徐々に小さくなっていく。今回の件で高志問題以上の謎が降りかかったせいで、どうにも高志の事が大した事が無い問題に思えてしまうのが新たな問題だなぁと思ってしまう私だった……。


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