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第百一話:ベルゼムにて(高志サイド)

 またいつもの夢だ。

 ……いや、いつもと少し違う。今回の夢には白い霧のようなモヤが無い。


 女性は泣いていた。

 長く美しい黒髪をした十歳後半から二十歳前半ぐらいの美女。小柄な体形で凹凸はあまりないが、スレンダーなモデルのような清楚なスタイルに勝気そうな青い瞳。思わず唾を飲みこんでしまいそうな魅力的な女性。

 場所は何処だ? 神殿? 地下? 何かの祭儀場? どこか遺跡を思わせる広く薄暗い場所で彼女は俺に対して泣いている。

 女性は何かを言っている。何と言っているんだ? 


「そんな……! あんたは……、……なんだから。……絶対に許さない!」


 断片的に彼女の言葉が聞こえてくる。

 最後の ゛絶対許さない!゛ という言葉が俺の心を大きく揺さぶる。泣きながら許さないと言われるなど、俺は彼女に何をしたんだ……。

 

 解らない。思い出せない。


 一番思い出さないといけない所が解らない。だが……。




 ガバッ!


 俺は勢いよく飛び起きる。

 周囲は日の出前でまだ薄暗い。それ程暑くない気候なのだが、驚くほどの汗をかいている事に気づき手で拭う。


『大丈夫か? 少し魘されておったようじゃが?』


 シェルファニールが心配そうに声を掛けてくれる。こういう時に優しい声を掛けて貰えるのは本当に嬉しい。お蔭で少し落ち着く事が出来た。


「済まない、シェルファニール。いつもの夢で少し魘されたんだ……」


『そうか。じゃがいつもと少し様子が違うようじゃが?』


「……今回はかなりはっきりと見えたんだよ。しかも今でも鮮明に覚えている……」


『そうか……。じゃがその様子じゃとあまりいい物では無かったようじゃな?』


「……ああ。鮮明にと言っても断片的な物だったんだけどな」


 俺はそう言って夢の内容をシェルファニールに伝える。


『美しい女に泣きながら許さない! と言われていた……か……。あまり歓迎出来る内容では無いのぉ……』


 シェルファニールの言葉に思わず苦笑いをする。盗賊、美しい女性、泣きながら、許さない。それらのワードから出て来る答えは……。


『何度も言うがあまり考えるな、主様よ。焦らずとも何れ答えは出るじゃろう。それまでは今の生活に集中せよ』


「……ああ、そうだな。だけどどうして急にハッキリと見えるようになったんだろうな?」


『恐らく昔の仲間に会った事が影響しておるのじゃろう。もしかすれば、お主に封印を掛けた者がそうなるように仕込んでおったのかもしれん』


 過去に関係する事柄に遭遇する事で封印が緩む様仕組まれているか……。考えられる話ではあるが、だとすれば此奴は一体何が目的でこんな仕込みをしていたのか……。いや、そもそも俺の記憶を封じた事自体にどういう意味があったのだろうか? 贖罪の一環? こうして少しずつ過去を思い出させる事で俺に反省させようとしているのか?


『そこまでにしておけ。やっと昔の仲間に会ったショックから立ち直ったのじゃ。またここで逆戻りすれば小娘達が心配するぞ』


 シェルファニールが少し強めの口調で言って来る。恐らくシェルファニール自身も心配してくれているのだろう。本当に良い相棒だ。


「そうだなシェルファニール。済まない、考えるのはここまでにしておくよ」


 俺は素直に謝り窓の外に目を向けると、外が薄らと明るくなってきていた。

 この街に来て七回目の日の出だ。


「今日で一週間か。リベリアの熱もそろそろ落ち着く頃かな?」


 俺はポツりと呟く。あのトラブルから逃れた直後、リベリアが倒れたのだ。

 この国特有の風土病。本来なら二、三日熱が出て治る病気なのだが、心労と過労が重なった事で少し重症となってしまった。俺達はすぐさま宿を取り、今日まで島へ渡る準備をしながら彼女の看病を続けていたのだった。


「どうだ? シェルファニール。今日も?」


『ああ。不審な気配は全く感じん』


「……どういう事だ? 見張りすら居ないとは……。」


 俺はベッドに座り腕を組みながら考える。

 当初はこの街に入る時は出来るだけ人目を避けて入る予定だった。リベリアの姿を変え目立たないように街に入る。場合によっては二手に別れて入る事も考えていたのだ。

 そうする事でこの街で待ち伏せているであろう連中の目を少しでも避けるつもりだった。


 だが、俺のトラブルで街の入り口は大騒ぎになり俺達もかなり目立ってしまった。ここまで目立ってしまえば最早バレていると考える方が自然だろう。その上、リベリアが病気になってしまい宿に一週間も足止め状態なのだ。ここまで悪条件が重なっているにも関わらず、未だ襲撃はおろか見張りすら居ないとは……。


『お主はどう思う?』


「……可能性を考えると……、先ず一つは待ち伏せていた連中に気が付かれていないという事」


『それはあり得んじゃろうな。あの騒ぎで気が付かぬとか間抜けすぎるじゃろう。敵の間抜けを期待するのは愚か者のする事じゃよ』


「だな。なら二つ目は、敵の潜伏がこちらの想像以上に上手いという事は?」


『ふむ。確かに我は気配感知は得意では無いが、それでも全く違和感を感じぬという事は考えられん。仮に相手がそれ程の使い手であれば、寧ろ既に襲撃されているはずでは無いかのぉ? この様な好機に一週間も何もせんとは考えにくい』


「ああ、確かにその通りだろうな。こちらにプレッシャーを掛けて精神的疲労を狙うとしても、それなら少しは気配を感じさせるだろうし……。となると……」


『元々待ち伏せていた者など居なかったという事じゃな……』


 シェルファニールの言葉に俺も頷く。 


「だとすると、今度は何故待ち伏せが無かったかという事になるんだが……」


『敵の間抜けを期待せぬのなら……』


「ああ。゛待ち伏せる必要が無かった゛という事だな……。待ち伏せなんかしなくても殺せる手段があるか、もしくは殺す必要が無くなったか……」


『うむ……。どちらに転んでも厄介じゃな。』


「そうだな。前者なら、そんな手があるならとっくに使っているだろうからまずあり得ないとは思うけど如何する事も出来ないし、後者であっても……」


 俺は腕を組みながら考え込む。

 暗殺者に狙われる状況というのがこんなに面倒だとは……。何も無くても常に警戒が必要になる。シェルファニールがいなければ精神的疲労が凄い事になっていただろうな……。


『まあこちらに関してもあまり考えすぎるな。可能性は低いが、ボルネアやその他の場所に網を張っているのかもしれぬ。こちらの警戒を解かせる為にワザと泳がせている可能性もあるのじゃ。警戒は我がしておくから、お主はボルネアでの行動に集中するがよかろう。』


「済まないなシェルファニール。」


 俺は笑顔で礼をする。


『それより、この事をあの娘には伝えるのか?』


「いや。取り敢えず今まで通り警戒はこちらでするから安心しておけと言うだけにしておくよ。特に殺す必要が無くなったという場合は……。その可能性を今は考えない方がいいだろうから……」


『そうじゃな。ここでは遠すぎて娘の国の情報など入らぬし、ならば余計な心配はさせず竜玉探しに集中させてやる方が良いじゃろうな』


 そんな話をシェルファニールとしていると横のベッドで眠っていたロイが寝ぼけ眼で起き上がる。窓の外を見るといつの間にか日が昇って朝になっていた。


「うーん……、先生おはようございます……」


 ロイの挨拶におはようと返すと俺はベッドから立ち上がり部屋の外へと向かう。

 

 さて、顔でも洗って朝飯にしようか。


 俺はそう考えると、横に泊まっている女子連の部屋の扉をノックして起こすと階段を降りて一階の食堂に向かうのだった。


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