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WORLD END はすぐそこに  作者: 一一
ギブ・アンド・テイク
9/25

ギブ・アンド・テイク 4

○ ○ ○


「そろそろ私のほうからも話していいかしら?」


さきほどの白熱?した会話から約十分。穣と特にリベカはようやくしっかりと落ち着きを取り戻し、今はサービスで出された一口サイズのケーキ数種類を食べてる最中だ。

彼女の問いに、どうぞ、と軽くうなずく少年。彼女はハンカチで口元を拭き


「話しとはいっても内容は一つなんだけれど」


一呼吸おき


「昨日の約束の話」


彼女は言葉を投げかける。少年に反応を求めるかたちで。だが受けた本人はキョトンとした顔で


「え?なんの話ですか?」


………………しばしの沈黙。


「え?」彼女は少年に問う。


「え?」少年はその問いの意味を問う。


………………またも沈黙。


何秒経っただろうか。窓から差し込む陽の光は暖かく、店内に流れる静かなジャズ調の曲は心を落ち着かせ、向かい合って座る二人の間には異様な空気が漂っている。

少年は脳をフル回転させ記憶を掘り返す。そしてこの沈黙を破るように


「昨日した約束って今日こうやってリベカさんと会うことだけですよね?」


「はぁ〜……本当に覚えてないの?」


静かな、だがあきれた声で少年に尋ねる。問われた少年はもう一度自分の脳内を探るが


「全然覚えてないです。というかホントに約束なんてしましたっけ?」


「本当に覚えてない……というよりも知らないっていうほうが適切かしらね。

まあ昨日は一生のトラウマになるくらいの出来事に遭遇しているし、無理もないと思うけれど。

念には念を入れておいてよかったわ」


おもむろにボイスレコーダーを取り出す。そして再生状態にし、テーブルの上、自分と少年の間にそっと置く。


「あなたが知らなくても、事実として証拠は残っているから」


彼女の言葉を最後に二人は再生される”証拠”に耳を傾ける。


○ ○ ○


『ねえ、君』――――『ねえ、ちょっと君』


決してよくない音質だが、いま聞こえているものはリベカの声だとすぐに認識する。


『危ないわね、ここで叫んだりしたら奴に見つかっちゃうでしょうが』


彼女の声が、もう一人いる誰かに対して発せられている。穣は一期一句のがさないように注意深く聞き入っているが


……リベカさんのこのセリフどっかで聞いたことが――


「あっ!これって昨日の」


「そう、私とあなたが会った時のものよ。悪いけれど録音させてもらってたわ」


彼女はリラックスした様子で言い、テーブルの上の一口ケーキをまた口元へと運ぶ。その間、ボイスレコーダーからはノイズと荒い息らしきものが聞こえていたが


『た、助けてください』


不意にリベカ以外の声が流れる。

それは紛れも無く穣のものなのだが、その事実を認めたくないとでもいうように声の主は渋い顔をする。

理由は明白、その声が可哀相なほどに震え恐怖に満ち満ちているからだ。

目の前の仮面の彼女は、特に反応することなくケーキを食しているが、少年は心の中でつぶやく。


……あの時のことははっきりとは覚えてないけど、死ぬほど怖かったこと、少しでも早くあの場から離れたかったのは覚えてる。だけど――――ここまで残念とは。

ちょっと、せめてもうちょっとぐらいまともな声出せなもんかなぁ。


恥ずかしさと情けなさで顔を落とす少年。それを眺める対面の彼女は、その反応ゆえに微笑を浮かべている。もちろん仮面のせいでその表情は表に出ないのだが。


穣が俯き、肩をがっくり落としている間にも、ボイスレコーダーは時間を進ませ


『死ぬのを覚悟した――みたいな顔で瞑想しないで。ほら、目を開けて現実をよく見なさい』


リベカの声が流れる、自分の声を聞いた本人は俯く少年に向け


「今から私とあなたの約束。交換条件が流れるから、よく聞いていて」


言葉を受け少年は顔を上げ、流れる声に注意を払う。


『助けてあげてもいいわよ。――――ただし条件つきで。私はあなたを助け続ける。だからあなたは私の頼みごとを聞いてほしいの。どうかしら?』


過去の彼女が語り終えたところで、ボイスレコーダーを止める声の本人。彼女はそのまま手に取ったレコーダーを胸ポケットに戻しつつ


「あなた、口で返事返さなかったから、音声だけじゃ証拠不十分だけれど」


両肘をテーブルにつき、祈るように手を組む”命の恩人”。彼女は少年を窺い見るように


「でもあなたが今ここで生きているという事実こそが、私とあなたの約束が成立した何よりの証拠」


突きつける、というよりもいたずらっぽく事実を告げる仮面の彼女。少年はその事実を受け、自分の見ていた事実とのズレに少しのショックをうける。


……リベカさんが僕を助けてくれたという事実は変わらないけれど――ただの親切心で助けてくれたわけじゃない。もし僕がその約束に同意していなかったら…………


そこまで思考するが、少年はその先を考えようとはしない。もし考えれば彼女のことを信じられなくなりそうだからだ。

命の恩人のことは信頼していたい。そもそも命を助けられた事実は変わらないし、もし助けられてなかったら確実に死んでいた。

それに無条件で命を救われたとしてもお礼をするのが常識、つまり頼み事を聞くという約束=お礼であり何もおかしなところは無い、今まで通りにリベカのことを信じよう、と無理やり結論付ける少年。


自分がリベカを信用しすぎていることはまだ自覚してはいない。

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