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適性検査3

言葉を言い終わると同時、右手の片手剣を天へと突き上げる。

振り下ろそうとする、が男は動きを止める。見れば口元の笑みも消えている。固まった状態で見開いた目のみが動き、五感を巡らし辺りを隈無く探っている。


かすかに風の音がする。


瞬間、体を後方へ捻りつつ剣を振り下ろす。

その時、男の視界に人影が入る。


一つ音が生まれる。

風を裂く音ではなく、金属の衝突音でもない。鈍く、気分を害する下劣な音。

そして何かが飛ぶ、太めの棒のようなシルエットと黄緑色に輝く片手剣だ。だが宙を舞う剣は主人である男の手を離れたことでその役目を終える。亀裂が走り、砕け、輝きを失いながら消滅する。

その間に男が跳躍を見せる。その場から退避するものだ。

しかし十メートルほど離れた場所に着地しようという時、突如男が後ろから後頭部を掴まれ、そのまま道路へ叩きつけられる。

アスファルトの破砕音が鳴り、地面がひび割れる。

動きが止まり、やがて音も止む、が一つ何かものが落ちる音がする。片手剣と同時に飛んでいた太めの棒のようなものだ。静かになりつつあったため音は大きめに響いた。


静まった交差点の中央には二つの影がある。

始めからいた男は、顔を地面へ押し付けられ身動きがとれない。

そしてもう一つの影は、男の後頭部を右の手で掴み抑えつけている。

小さなうめき声を発した後、男が無理やり顔を横へずらし、口を動かせる状態にする。


「てめぇ誰だぁ…………O.T.Oの雑魚傭兵じゃねぇだろ」


「あら、片腕取ってもそんなに元気なの? 余裕かましてて可愛くないわね」


上から目線の物言いは女の声だ。その女は視線を男の右腕辺りに向ける。だがそこには腕は無い、あるのは綺麗とは言えない荒い肉の断面と、そこから滴る鮮血だ。横に目をやれば先程落下した物体が転がっている、よく見れば人の腕だ。男の右腕だろう、そこからも少なからず血が流れている。

ふっ、と女が鼻で笑いを見せる。


「確かに私はO.T.Oのメンバーじゃないわよ、でもこれには聞き覚えあるんじゃないかしら?」


言われた男は女の顔の方を横目で見る。最初疑問の気色を浮かべるが、すぐに理解する。男は睨みをきかせながら


「……もしかしてエサウを襲った仮面の野郎か?」


「正解~」


「お前何処のメンバーだ?俺等の邪魔して何がァ目的だ?」


問うた男が急に苦悶の表情を浮かべる。仮面の女が傷口を足で踏んでいるのだ。


「前から思ってたけれど年上にそういう態度は感心しないわね、死ぬ前に直したほうがいいんじゃないかしら」


「ぐっ…………前に会った覚えなんてねえぞ」


「会ってはないけれど会話ならしたわよ?」


そう言い女はそっとポケットにあるスマートフォンを取り出し、唯一ある番号へ電話を掛ける。

女が目を離したのを見、男は即座に自由の利く左手に力を込めようとする。しかし何も起きず、変わりに肉の潰れる音とうめき声が聞こえる。

大人しくしてなさい、と女が釘を刺す。

数秒後、バイブ音がする。仮面の女は男のポケットから着信しているスマートフォンを取り、通話状態にする。そして男の顔のすぐ側に置く。

仮面の女は自分のスマートフォンのマイクに顔を近づけ


「この声なら聞いたことがあるだろ?」


低く抑えられた声が聞こえる。男は何故!?と言わんばかりの驚きの表情で仮面の女を見る。そして目の前に置かれたスマートフォンの画面を必死に覗き込む。

通話の画面には「本部」という文字が映っている。それを見、男が初めて恐怖の顔色を見せる。恐ろしい事実を知ってしまった男へ、仮面の女は面白そうに


「まさか組織を一つ潰すための計画をあなた達二人だけに任せると思う?」


今までの声のトーンに戻す。そして言葉を続ける。


「あなた達を騙すのはとても簡単だったわ、声真似して指示を出せばいいだけだもの」


言葉により再度事実を突きつける。

男は恐怖というより騙されていた自分の不甲斐なさから震え


「……つまり初めからこんな計画は無かったっていう事か、俺等は踊らされてたと?」


「そうよ。ありがとう、上手に踊ってくれて。

でもあなたはもう終わり、ここで終了。エサウもすぐ後を追うからあの世で仲良くなさい」


「最後に聞きてぇ、お前は何のために俺等を騙した?

O.T.Oのトップの娘を誘拐するなんて計画をやらせておいて、自分でその計画を潰す。

まったく目的が見えてこねぇ。俺達を殺すならもっと簡単な方法を取るだろ」


「話してあげたいけれど、私、急ぎの用事があるから」


一息。満天の星空を仰ぎ見、呆れたような素振りで下へ視線を戻す。


「ーーーーまあ一言で言えば世界を救う一工程よ。じゃあ、さ・よ・う・な・ら」


言葉を言い終わると同時、骨の砕ける音と共に肉が握り潰される音が響く。何かを言い掛けていた男が沈黙する。


仮面の女が一人、交差点の中央で立ち上がる。ため息をつき、血塗られた右手を見下ろす。


「あ~あ。こんなに汚れちゃった」


言いながら手の平を顔の高さまで持ってくる。すると右の手がうっすらと白く光る。そして付着していた血が青白く発光しながら蒸発していく。

それを見ているのは仮面の女だけではない。交差点を囲むように六人の人がいる。非常に警戒しているようで、各々の手には剣が握られ、いつでも戦闘に入れる態勢になっている。女は右手を回転させ綺麗になったのを確認するとよしっ、と一言。そして


「ごめんなさい、後始末はよろしく頼むわね」


言い残し、次の瞬間には遥か数十メートル先へ跳躍していた。

そこに取り残された六人は仮面の女を見失う。数秒後にその姿を見つけるがもう遅い、追いつけない距離に行ってしまった。

月明かりを受けながら道路を飛ぶように突き進む。途中、車に何度か出会うが暗い視界とあまりの速さに気付かれさえしない。


「穣くん、死んでないかしら?」


独り呟き、穣のいる方角へと向かう。

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