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WORLD END はすぐそこに  作者: 一一
ギブ・アンド・テイク
15/25

ギブ・アンド・テイク 10

翌日、四月三日。


昨日と変わらず暖かな陽射しがこの町に降り注ぐ。

穣の住むアパートも例外ではない。窓から光が射し込みベットでいびきをかく少年の顔に当たる。

服は昨日のまま。帰宅してそのまま寝てしまったようだ。

部屋の中は相変わらずダンボールが山積みになっている。少年の今寝ている部屋、そしてもう一つある部屋やダイニングキッチンも同様の状態だ。


少し開いている窓から、朝らしいやわらかなそよ風が吹きこむ。カーテンがゆっくりなびき、日光が直に少年の顔に浴びせられる。思わず閉じた目蓋をさらに強く閉じる。

そんな長閑な朝に突然


――――ッ!!!


爆発のような轟音が鳴る。

一瞬で飛び起きる穣。部屋の扉の陰に隠れ、辺りを窺う。寝起きでなかなか思考が回らないが、最初に思いつくのは


……もしかして昨日の敵が町で暴れてる?


浅く速い呼吸を繰り返しゆっくりと窓の方へ近寄って行く。

最悪の事態を想定しながらカーテンを除けて、窓の外を見ると


「おい、大丈夫か!?誰か!救急車を!」


少年のアパートのすぐ前にある細い道路で車が塀に激突していた。

車の前方部分は大きくへしゃげ、煙が立ち上っている。早くも人が集まっており、周りは騒然とした雰囲気に包まれている。


程なくして救急、消防、警察が駆けつけ事態の収拾にあたっていった。


単独事故らしく運転手も軽症だ、と警察官が少年へ言った。


少年はほっと一息。部屋へ戻り、ソファーへ深く腰掛ける。眠気はすっかり飛んでしまい、今も幾らか鼓動が速い。気を紛らわそうと床にそのまま置かれたテレビをつける。

現在、時刻は九時過ぎ。

どのチャンネルを回してもニュース程度しかやっていない。仕方なくテレビをつけたまま、ソファーに身を預ける。

すると身体中から痛みが沸き起こってくる。怪我といった外からのものではない。中からのもの。腕や腹のあたりもそうだが何より足は尋常ではないほど痛む。少し身体を動かしただけでもすぐに痛みが来る。


「筋肉痛か……春休みでなまった体に昨日のはキツイな」


余りの痛みに顔を歪めつつ、

おもむろにポケットに手を入れると、何かに手があたる。

それを掴み、出して見るとメモ用紙だ。一瞬何か分からなかったが、すぐに思い出す穣。


「……リベカさんが渡してきた紙か」


昨日から比べればだいぶリベカへの怒りは収まっている。それに今、何かで気を紛らわしていないと先程の事故の事を思い出して不快な緊張感にまた襲われてしまう、と考える少年。

二つ折にされたメモ用紙をゆっくりと開く。

中には文字が行を埋めるように箇条書きされていた。

一番左には数字が、そして隣には何かしらの物事が書かれている。

一つ一つ見ていくが、よく理解できない。

だが箇条書きの最後、一番下の行の言葉に少年は目を疑う。


『3日―8:32 穣くんのアパートの前にて自動車事故』


少年は驚き、困惑を感じながら時計を見る。時刻は現在九時手前。ざっと考えて事故が起きた時間とメモに書かれた時刻は重なる。

そして他の言葉も確認する。よく見ればすべて何かしらの事件、事故の事が書かれているようだ。

すぐに適当につけてあったテレビを食い入るように見る。


「では、ニュースをお伝えします。昨日午後五時過ぎ…………」


幾つか目立った事件、事故が報道される。そしてそれらはメモ用紙に記された事と完全に一致している。

時刻、場所、出来事どれも正確に書かれている。穣は思考を整理しようと


「いやいや、ちょっと待て。一旦落ち着こう。これは確かに昨日リベカさんから渡された紙だ。時間は大体夕方四時頃。

ここに書かれている事件、事故は昨日の夕方五時以降に起こったもの。つまりリベカさんは予想、いや予言した?」


「正解よ」


「うわっ!!!」


「何よ、その幽霊を見たような反応は。失礼しちゃうわ」


「何勝手に入ってるんですか!」


「ちゃんとお邪魔します、って言ったわよ?」


「いや、どうぞも言ってないのに勝手に入らないで下さいよ!ていうかなんでうちを知ってんですか!?」


「まったく。朝からまた質問攻め?そんなに年上をいじめたいの?」


「いやいや、リベカさんの言動に理解し切れない事が多いからこうやって質問してるんですよ」


「じゃあ、全部私の所為だっていうの?」


「そこまでは言ってないですけど……」


「冗談よ。今日は穣くんに色々言いに来たのだけれど」


一息。少年の前で少し俯いた後、申し訳なさそうに彼女は


「…………ごめんなさい、昨日は。穣くんの気持ちも考えないで、色々勝手に言って」


「え、あ、いやこっちこそ……ごめんなさい。なんか失礼な態度取っちゃって」


慌てながら返答する少年。謝るリベカを見、驚きを隠し切れない。

……リベカさんって上から目線で、絶対自分の非とか認めない人かと思ってたけど違うんだ

リベカへの見方を改める穣。彼女はそんな少年を見ながら、


「それでこっちの方が本題なのだけれど、穣くんに色々説明しに来たのよ」


「? 説明ですか?」


「そう、昨日喫茶店で幾つか質問してくれたじゃない。

その時はまだ答えられないって言ったけれど、昨日一昨日でだいぶ色々な事を経験したでしょ。だから説明し易いと思って」


笑みの声を漏らし、それに、と前置きするリベカ。


「今なら大体の事は信じてくれるでしょ?」

楽しげな口調で言った。



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