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WORLD END はすぐそこに  作者: 一一
ギブ・アンド・テイク
13/25

ギブ・アンド・テイク 8

最初にこの戦闘を見たときと比べ、放たれる光や炸裂する轟音の数が増している。それだけではない。

広場を囲うように立ち並んでいる建物の多くは見るも無残に崩れている。


また一つ、剣を交える甲高い音が響く。そして一人で複数人を相手にしていた男がバックステップで後方へ下がり、敵の男らと距離をとる。

ただそのバックステップは一歩で五、六メートルは進んでおり結果として三歩で二十メートル弱の距離になる。

そして三歩目の踏み切りで今までの三歩とはちがう、高さのある弧を描くような後方への跳躍をする。

男の身体が着地する先は建物の壁だ。ふんわり壁へと足を着け膝を曲げしゃがむ。

一瞬その体勢で静止するが、間髪入れず弾丸のような跳躍で前方の敵たちへ突進する。

それにより足場とされた壁は吹き飛び、コンクリートの破砕音が轟く。

その残骸は地面へ落下し、にぶい音と共に粉塵が巻き上がる。

少年の隣でこの光景を“観戦”しているリベカ。彼女はそっと左腕の時計へ視線を落とし


……残り五分、説得の時間も考慮してそろそろかしら?


そっと心の中で呟く。

そして顔を上げ、前方のターゲットの少女に目を向け


「私が合図したら、走って彼女をあの建物の陰まで連れて行って」


一息。仮面の顔で少年を正面にとらえ


「絶対止まっちゃだめよ。何があっても前だけ見て走って」


命令にも似た強い口調で言う。

受けた少年は目を丸くしながら横目で戦場である広場を見る。変わらず激しい轟音、閃光が発せられている。やがて広場からリベカへと視線を戻し


「……あれの中に行くんですか?」


「そうよ」


「無理に決まってるじゃないですか!あの中入ったら死にますよ!」


首を横に振りながら少年が訴える。そんな少年へ彼女は諭すような静かな口調で


「あなたが今助けに行かなかったらあの娘は死ぬわよ」


その言葉に少年は憤りの混じった意見を持つ。


……僕が助けなかったらあの娘は死ぬ?僕みたいな一般人よりリベカさんが助けに行ったほうが遙かに迅速かつ的確にやれるでしょ


少なからず気持ちが表情に出る。そしてその意見を言おうと口を開くが、それより先に仮面の彼女が先程と同じ口調で


「少し例えで考えてみましょ。

あなたの前に水深が深く流れの激しい川があるとするわね。

その川の真ん中で枯れ木に必死に掴まって助けを求めている男の子がいるの。でも今にも手を離してしまいそうな限界状態。

その場にはあなた一人、周りには助けるために使えそうな物は何もない。


さあ、どうするかしら?


川に入ったら自分も流されて死ぬ可能性があるから、とりあえず助けを呼びに行こうって思う?」


「…………まあ、時間がない状態なら命の危険を冒してでも川に入って助けに行きますよ」


「じゃあ、その状況で自分の命が大事だから何もせずに立っている。近くに人が来たらその人に助けてもらおうっていう人がいたらどう思う?」


「そんな奴は人としてダメですよ。自分の命が大事なのはわかるけど助けられる可能性があるのに何もしないっていうのは殺人となんら変わりないです」


「今のあなたはそれと一緒よ」


静かに、だか強く、少年を突き刺すような一言を言い放つ。

その台詞に何も言い返せない少年。というよりまだ十分理解できていないようだ。

彼女は少しの間を空け、言葉を再開する。


「私はある理由であの娘を助ける事ができない。だから命を助ける代わりに頼み事を聞いて欲しいと言って、あなたにあの娘の救出をお願いしたの。


でもあなたは危険と分かると自分の命を最優先として、助けられる可能性があるにも関わらず行こうとしない。

あなたが人としてダメ、殺人と変わらないと言ったその行動をあなた自身がしているのよ」


分かりやすく噛み砕いて伝え、さらに少年へと言葉を突き刺す。

少年は自分の身勝手さを痛感させれられる。

とはいったものの女の子を助けるのに危険が伴うという事を言わなかったリベカにも幾らか非がある。だが少年はただただ自分を責め、自己嫌悪し、俯く。

その具合を見、彼女は優しい口調で


「あの娘を助けてくれないかしら?あなたしかできないの」


少年は俯いたまま、黙り込む。

命の危険への恐怖、今すぐここから逃げたいという気持ちと自分で思う正しい行動との間で葛藤が起こる。

自分の命か、それとも少女の命、そしてリベカとの約束か。両方を天秤にかけ苦悩する。

だが、顔を上げ


「……わかりました。やります」


決意の一言を述べる。



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