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WORLD END はすぐそこに  作者: 一一
ギブ・アンド・テイク
12/25

ギブ・アンド・テイク 7

無音の広場。

そこには複数の人影が見える。片方には三つないし四つの影が、そしてそれらに対峙する形で一つの影がある。

どの影も手には剣が握られている。多少の大きさ、装飾の違いがあるがどれも基本造形は同じもののように見える。

影は微動だにせず、生まれる音はそよ風のものだけだが、ただならぬ緊張感が五感全てから伝わる。


突如、地面がえぐれる轟音を引き金として、静寂は壊れ、一瞬にしてその場から影が無くなる。

静けさをとり戻すひまを与えず、影と影が衝突し、交錯する。

それに伴い光が放たれ、金属の交わる甲高い音、空気が裂ける鋭い音が生じている。

それらは休まることなく続く。


複数の内、一つの影が後方へ逃れたかと思えば他の影が入れ代わり、手に持つ剣を振るう。金属音がし、鍔迫り合いによって火の粉が舞う。

さらには他の影が前線へ参加し複数同時の攻撃も行われている。

だが一つ一つの動作は倍速再生しているように速く、それによって生じる音や光、えぐれた地面を見れば生身の人間ができるものでは無いとすぐに判断できる。


それらの攻撃は剣を主とした近距離攻撃だけでなく、後方に逃れた者が放つ遠距離攻撃も見受けられる。光の矢、光線といった表現が一番近い。

こちらから見て右、建物の陰で見えない方から一直線に左へ、近接戦闘をしている所へその攻撃は放たれる。色は様々だが黄と赤がよく目に入る。

この数多の攻撃を受けるのはただ一つの影、一人の男だ。だがその男は後ろに退くことはない。

一人と鍔迫り合いをし相対しながらも後方から来る遠距離攻撃または加勢に対して、持っている剣で弾き、サイドステップで回避している。



その光景をまるでスクリーンの中の出来事のように、現実感薄く見つめる少年。

だがしかし少年は徐々に理解する。これが夢ではなく現実であることを。目の前で起きているこの戦闘が本物であることを。

それらを認識すると少年は自分の鼓動が急速に速まるのを感じる。リベカの頼みごとの内容を聞いたときのような、いやそれ以上に速いものだ。

身体全体で鼓動を感じることができる。心拍音がうるさいぐらいに身体に響き、聞こえる。


ふと視線を下に向ければ、手は小刻みに震えており、全身に鳥肌が立っていた。

それらが示すのはなんだろうか、なぜそうなっているのだろうか。理由は明白、感激しているのだ。

自分の欲しがっていた“世界”が現実に存在する確証を得たからだ。


昨日から穣は様々なものを見てきたが、それらを完全には信じられずにいた。

戦闘を初めて目にした時は精神的に安定した状態だったとはいえず、記憶もおぼろげに覚えている程度の曖昧なものだった。

そして何より穣自身がそういったものを願っていると同時に否定していたのだ。


小さな頃はただただ異能の力が存在する世界に憧れ願うだけだったが、やがて何も起こらない現実を見ざるをえないようになってきていた。そんなことを本気で願っているのは何も知らない子どもだけだ、と常識という名の世間一般に広がる偏見を身に着け、つまらない現実へと目を向けようと思っていた。


そんな時に昨日の出来事は起きた。そういった“世界”を願っているというのは事実だが、大人ぶった心が全て信じるのをためらっていた。

しかし今、現実に“少年の夢”、願ってきた世界が広がっている。

信じる信じないではなくこれが現実なのだ。

穣は言葉では言い表せないほどの嬉しさをかみ締め、しかしそれを胸の中へと押し込め命の恩人の後ろ姿を見る。


ありがとうございます、と心の中で再度礼を言う少年。

この感謝に関しては自分の願望が叶えてくれたこと、つまりは少年個人の事情だ。礼を口に出してもリベカは、これ以上何を感謝されるのか?と思うことだろう。

だから言葉には出さなかったのだ。


少年が心の内に感謝していることは知りもせず、リベカは先へ、大きめの道を通り戦闘の行われている広場へと向かう。

身を低くしながら通路の端を壁伝いに歩いていく。


やがて二人は広場の入り口へとたどり着く。そこで見た光景に少年は思わず、え?と疑問の声を発してしまう。

目の前ではあいかわらず人間離れした、現実離れした戦闘が行われている。そのことに関しては今なお驚きと興奮を覚えるが、先程と一つ違うことがある。


それは広場の端の方、先ほどは建物の陰になっていて気づかなかったが、一人の少女が立っているのだ。

ウェーブの少しかかったロングの茶髪に、上はモコモコ系の上着、下はショートパンツにレギンス――簡単に言えば今時の女性が着るようなオシャレ服を着ており、ファッション雑誌からそのまま出てきたような出で立ちだ。


遠くからでは顔はよく見えないが、上品で美人そうな雰囲気を感じさせる。だがどう見ても一般人にしか見えない。

場違いに思えるその少女は腰に手をあて、見飽きてつまらなさそうな態度で先の戦闘を眺めている。

この場の状況に驚きを見せていないその態度が少女への違和感をさらに強める。


が、短時間に様々な事が起こりすぎて、少年は思考をフリーズさせてしまっている。

広場に少女が立っている、ということ自体は認識できたがそれ以外、少女は何者なのか?なぜここにいるのか? そうした思考はできていない。

少年がそんな状態になっていることの気付き、横にいる仮面の彼女は


「あそこにいる女の子、あれが頼み事のターゲットよ」


広場で起きる戦闘の音に消されぬよう、大きめのしかし優しさを感じさせる声で、指差しながら告げる。

彼女の言葉によってフリーズしていた少年の思考がだんだんと再開される。


「…………つまりあの娘ひとを助けるってことですか?」


少年の問いに、仮面の顔をこちらに向けうなずきを見せる。そしてまた広場へと視線を戻す。同意の返事をもらった少年は


……“女の子”って言ってたから小学生くらいの子かと思ってた。あの人、僕より年上だな


と自分の予想のはずれ具合に内心、苦笑する。

少年はリベカの言う“少女”について、詳しい情報を聞いていない。

だから「女の子」「助ける」「危険な場所」というキーワード、そしてこのフェンスや壁で囲われた建物等を見た時、あの建物の中に小学生くらいの女の子が手足を縛られて捕まっているのかな、という的外れな憶測をしていた。

そんな勝手なイメージがあった所為で、さきほど戦闘の只中にいる少女を見たとき思考が停止してしまったのだ。


頭が復旧した少年は激しさを増す広場での戦いに注意を戻し、食い入るように見る。


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