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ひみこい。  作者: 青峰輝楽
1・異世界からの声
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1-3・あたしのママのトリップ事情

 病院前の駅でばらけて一人電車に乗った時、メールが入った。ママだ。

『ごめん、急患オペ。晩はテキトーに食べて。埋め合わせは週末に致す!』

 はうっ。今日は早く帰れそうだから特製シチューを作ってくれるというハズだったのに~。でも仕方ない、よくある事だ。ママは総合病院の外科部長。滅茶苦茶忙しいのだ。中学生の頃はあたしだって、色んな意味で普通と違う家庭に生まれた事でもやもやし、フツーに反抗した時期もあった。あたしよりも仕事が大事なんでしょって……でも今は、ママはあたしの為にたくさんの苦労を重ねてきたんだって解る。だから、あたしとママはとても仲良しなのだ。

『了解~コンビニで何か買う。週末は焼肉!!』

 と返信。あたしが料理当番の日はちゃんとした物を作るんだけど、今日は当番じゃないんだから手抜きする。ママはオペが終わったら医局で出前を食べるだろう。


 ママは、大学2年の頃にパパのいる異世界へトリップした。この話をある程度詳しく教えてもらったのは10歳の頃だった。それまでのあたしは、ただ、パパは遠い所にいるのだとしか思ってなかったのだ。ママの宝物、それは『月光鏡』。パパから渡されたそのアンティーク風の手鏡は、ママが言うには「ものすごく色んな条件を満たした時に限って」異世界と通信できるアイテムだ。その条件を満たすのは、一年に一度あるかないか。だけどそのおかげであたしはパパの声と、ぼんやりした顔を知っている。小5の時、友達にその話をしたら、「ヒミちゃんのパパって海外にいるの? スカイプで話するの?」って言われた。うん、多分、とあたしは答え、家に帰ってママに、月光鏡を指さして、あれってスカイプっていうの? って聞いた訳だ。それでママは、そろそろ本当の事を話す頃かも知れない、って思ったらしい。

 だけどさ、そろそろ反抗期に入る年頃の女の子が、「あなたのパパは本当は異世界の帝なの」なんて言われて、はいそうですか、って受け入れられると思う? この点、ママの判断はおかしいよ、って今も思う。ま、ママも色々大変だったんだから、しょうがないけどね。今では勿論、月光鏡とスカイプの区別くらいつくし、月光鏡がこの世の技術で作られたものではない事、パパとの通信が異世界との通信だって事も解る。だけどその頃のあたしは滅茶苦茶混乱して、以降しばらく、本格的な反抗期に入った訳だ。


 トリップ先の世界と現世では、時間の流れ方が違うらしい。ママは3年程向こうの世界にいて、その間にパパと猛烈な恋におちてあたしを産んだのだ。だけどママが戻ってきたら、こっちでは1年足らずの時間しか経っていなかった。それで産まれたばかりのあたしを連れてたものだから、それまでずっと、名家のお嬢様でエリートコースを歩んでいたママは、「行きずりの男と家出して子どもを産んだ挙げ句に、男に捨てられて戻ってきた」と散々に言われたらしい。この辺りは、高校生になってから聞いたんだけど、ヒドイよね。おじいちゃんとおばあちゃんは、あたしを施設に入れるか養子に出すかしてなかった事にし、土下座して謝れば家に入る事を許す、と言ったそうだ。だけど、ママは断固拒否して、あたしを育てながら一年の勉強の遅れを取り戻して、奨学金で医学部を卒業した、という訳だ。どう、あたしのママはすごいでしょ?


 一方、パパは、月光鏡を通したぼんやりした顔しか知らないんだけど、かなりのイケメンだ。ママもそう言うんだから間違いない。

『陽観、大きくなったのだな。息災にしているか』

 いつもパパはそんな風に言う。優しくて穏やかな温かい声だ。あたしはパパが大好きだ。いつか会えたらいいのにな。でもママは、もう二度とあの世界には行けないんだ、って言う。何故なのかは、あたしが成人したら教えるって。まあ、あたしはそれで納得している。あたしはこの世界でやりたい事もたくさんあるし、異世界に行って戻れなくなったら困るしね。


 あたしは反抗期の頃、ママの宝物だって知っていたのに、月光鏡を持ち出してアスカたちに見せ、「絶対誰にも言ったらだめ」と言われた話を打ち明けた。だけど、その時は月光鏡はただの鈍く光る銅のようなものでできた鏡でしかなかったから、誰もあたしの話を真面目には受け止めてくれなかった。あたしは傷ついて泣いた。そしたらミナトが、

「ヒミがそう思うんなら、それでいいんじゃね……」

 ってみんなに言ってくれたんだよね。それでみんなも、その場では、そしてそれから暫くの間は、あたしの話を認める流れになった訳。まあ、所詮小学生だしね。だけどまぁ、それであたしはちょっと……いやまぁ、かなり救われた訳。だけど、あたしが元気になるにつれて、ヤツらの方は『ヒミのいつもの厨二妄想』という本音を現し始めて……ムカつくけれども、月光鏡でパパと通信するところを見せるのはママに絶対駄目と言われているし、そもそも、いつ始まるか判らない『その時』に、ヤツらを集めておく事も無理な訳で、証拠を見せる事が出来ない以上、ヤツらがそう思うのも仕方ない、所詮はバカだからあたしの話を理解出来ないんだよね、ってスタンスで来てる。……ま、ホントは、それを誰にも言わずに仲間内にとどめてくれて、それもあたしの個性と思ってくれてるだけでも、希有な親友と下僕どもだって、認めてはいるんだよ、うん。


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