1-2・あたしと親友とイケメンの下僕たち
文芸部というと地味でオタクなイメージがあると思うけど、うちの学校では違う。通称『天部』。セレブでイケメンと美少女の集団、それがあたし達の持たれている印象なのだ。言っとくけど、別に威張ったり、誰かを見下したりした覚えはない。そもそも、ウチは、ママは元お嬢様だけども、実家から絶縁されてセレブでもないしね? だけどいつの間にやら、容姿端麗、お金持ち、成績優秀な集団として周囲から認可されちゃってるワケよ。まぁね、あたしみたいな非の打ち所のない美少女が仕切ってる集団だから、そうゆう評価を受けるのも自然な事よね? あたしのファンクラブだってあるんだし。どうよ、こんなにリア充なんだから、異世界トリップに憧れてる暇なんてぜんっぜんない訳!
「だからヒミ、声に出てるって」
「ど、どこから?」
「『あたしみたいな非の打ち所のない美少女が仕切ってる集団』ってとこ」
「ああ、ぜんっぜん問題ないじゃん?」
「ん~、まーね」
アスカは面倒くさそうに返事する。あたしの親友にしてあたしに次ぐ美少女の水原飛鳥は、クールで物事に拘らない。対して男共は……
「どこが非の打ち所がないんだよ」
「誰が仕切ってるって? 勝手に威張り散らしてるだけだろ」
「い、いや、とりあえず美少女ってところは合ってるよ?」
「まーな、こーゆーの、外見詐欺って言うんじゃね?」
などと陰湿に呟く、実に器の小さいヤツらなのだ。しかし、そんなヤツらも、あたしの外見の良さだけは認めない訳にはいかない。くりくりした二重の大きな目に、小学生の頃、マッチ棒を乗せるのを得意技とした程長い睫毛、自分でも撫でるのが気持ちいい程すっと伸びた鼻筋と丁度いいバランスの口元。そしてきめ細かいお肌とモデル体型。まあ、あたしとしては、それは、美人のママと異世界の帝(勿論美形)の間に生まれてたまたま恵まれたものであって、あたしの数ある長所のうちのひとつにしか過ぎないけどね? 数ある長所というと、例えば、あたしはこんなような非の打ち所のない美少女なんだから、もっと思い上がってもいい筈なんだけど、意外と公平な判断が出来る。こんな素直じゃない男共だけど、イケメンである事だけは認定してあげてやってるんだ。
ミナト……夏木湊は秀才肌のメガネイケメンだ。すらっとした長身でどんな恰好もよく似合う。成績はいつもあたしと学年一、二位を争っている。但し、裏表があり、普段は愛想はないし口が悪いが、目上の相手にはうまく取り入り、同級生の受けもよく、下級生、特に女子には絶大な人気がある。生徒会副会長でもある。加えて、ヤツは理事長の息子でもあり、その権力を笠に着て、男子の長髪は校則違反であるのに髪を伸ばしている。いったいぜんたい、リアの男子で長髪の似合う日本人なんて存在するのか、あたしは生まれてこの方お目にかかった事はない。長髪美形男子は二次元限定だとこれまで思っていたが、コイツがまた何故か、長髪がやけに似合うのだ。一年女子が「夏木王子」と秘かに呼んでいるのを耳にした事があるが、確かに黙って立っていればそんな呼び名が似合うのも、まあ認めてやらなくもない。ミナトの長髪をあたしが認めてやっているのには、もう一つ理由がある。双子の妹のミズキの回復の為の願掛けなのだ。勿論、あたしに直接そんな事を言う筈もなく、アスカから聞いたのだ……っつか、みんな知ってるのに、なんであたしにだけ言わない訳?!
リョータ……源良太は体育会系の熱血男児であり、スポーツと食い気にしか興味のない、小学生がそのままガタイだけ大きくなった見本のようなヤツである。しかし何故かヤツもモテる。早弁してるだけでキャー可愛いとか言われたりしてる。本人全く気にしてないけど、このガサツ男の何が可愛いんだか。しかし、水泳部の副部長であり他スポーツ全般に万能であり、クラスマッチや運動会でも常に一番の注目株だ。そんな時だけはまぁ、味方でいると妙に頼もしく、マッチョイケメンの面目を認めてやってもいい気になる。元オリンピック選手の息子というだけの事はある。
マコト……中馬真は可愛い系男子、とゆうかぶっちゃけ男の娘だとあたしは思う。しかし、普段はほわわんとして気が優しいのに、それを言うとその時ばかりは怒る。女装する訳でもないのに美少女にしか見えないなんて、二重にお得だと思うけどな。元から茶色みを帯びた天パのふわふわ髪に小さくて色白の顔は、本当に男にしておくには勿体ない。男から告られた経験も勿論幾度もある。読書家で、国語の成績だけはあたしもミナトも敵わない。本人は、男らしくなりたいという希望から、柔道部に入りたがっている。だが、「可愛い顔に傷でもついたらどうするの!」と元モデルで有名ブロガーのお母さんと現役モデルのお姉ちゃんが許可してくれないらしい。
このように、あたしたちはまず、外見の良さばかりは素直に認め合い、それによって受ける恩恵というものを基調とした絆によって成り立っている集団であると言える。あたしと親友とイケメンの下僕たち。それが『天部』なのである。
さて、こんなあたしたちが何故、文芸部なんて看板を掲げているかというと、皆が小説を書きたいとか思っている訳ではなく、くつろげる場所が欲しかったからだ。入学当初、いかにもオタクな三年生男子三人で、廃部寸前だった文芸部に目をつけたミナトが、丁度いい茶飲み場だと考え、あたしたちが入部して部を引き継ぐ代わりに、早めの引退をお願いした、という訳だ。勿論、丁重に。ミナトの取り巻きの女の子を幾人か紹介するという条件で、先輩達は喜んで場所を譲ってくれた。ま、紹介しただけで、その後女の子達が彼らをどうしたかは、別にミナトの責任ではないしね。小学生の頃から、ミズキを含めたあたしたち六人は、こうやってつるんで来た。常に一緒にいる訳じゃない。あたしは現在弓道と掛け持ちしてるし、アスカはテニスをしている。今はシーズンオフなので、こうしてだらだらしている事が多いというだけの話で、お互い忙しい時は、ここの部室は、単なる荷物置き場になってたりもする。一応、顧問の手前があるので、文芸の活動をやってない訳ではないけど、それは殆どマコトとミズキにお任せ状態になっている。ミズキが入院している今は、マコト一人に押しつけ中。
ミズキは……夏木水貴は、アスカと共に、あたしの大の親友。優しくて笑顔の絶えない癒し系。小説を書くのも好きだけど、絵を描くのも好きで、美術部と兼部している。だけど、三ヶ月前、ミズキはあたしたちの目の前で、トラックにはねられた。あの時の光景を考えると、胸が苦しくなる……。ミズキは今も、ママの勤める総合病院に入院している。
「さてっと、そろそろ帰らない?」
「ああ、そーだな、って、もうこんな時間かよ」
ミナトが本を閉じて言った。ミズキが入院して以来、あたしたちは揃って帰るのが習慣になった。面会が制限されている、ミズキのいる病院の前を、ただ通って帰るのだ。誰かが言い出した訳でもないし、何かをする訳でもないんだけど、なんとなく、そうする事でミズキが早く目を開けてくれる日が来るんじゃないかって思いを、全員が持っている事は間違いない。付き合いが長いだけあって、お互い、大抵の気持ちは読める。