ギ・ガー
広場の周りに海斗と私以外の生き物はいない。住民はゴブリンがやってきたから避難をしていて、それはもう完了していた。襲ってきたゴブリン達は、掃討が、否、討伐がもうすぐ完了する。ほぼすべて、海斗のやったことである。
姫川の視線の先の海斗は、最後のゴブリンを斬ったあと、左右に剣を振り血を落としてからチンと鞘に収めた。
「終わったんですか…?」
姫川は死体の散らばる広場にただ一人立つ海斗にそう尋ねた。
「終わったね」
そして、こっちを振り向いた海斗は、全身に緑色の血がついていた。
「…!あ、血が…。ち、治療します!」
と言って駆け寄ろうとしたところ、海斗は
「いやいや、これ全部返り血だから大丈夫だよ」
と言った。
「あの…」
姫川が何かを言おうとしたときに遠くのあるものが目に入った。
巨大な緑…いったい何だろうか?
「ほう!やはりやりおったな!」
巨大な緑の隣にいたゴブリンがそう大声を出した。
「ボス!あの男です!あいつはかなり強い、ボスの求めていた男です!」
としきりに隣の巨大な緑へ言った。いや、おそらく、アレは…
「そうか。あいつかぁ…」
ギロっと巨大な緑、否ゴブリンがこちらを睨んできた。正確には姫川の隣の海斗を、だった。
「貴様、儂を満足させてくれるんだろうなぁ…?」
とそう言った巨大ゴブリンに海斗は同じく睨みつけ言った。
「化け物を満足させれるほどできた人間じゃなくてね。満足もしないまま俺の剣の錆になれ」
周りの温度が一気に冷え込んだ気がする。おそらく、二人の猛者の放つ殺気によるものだろう。
「姫川さん」
海斗が姫川を呼んだ。
「はい、なんでしょうか?」
「俺の後ろにいてくれ、正直俺の後ろ以外だと戦いに巻き込む可能性もあるから」
つまり、余裕のないくらい強い敵なのだろう。少し焦りが見えるような海斗に姫川は言った。
「なめないでください。私だってAランクの…」
姫川のその言葉が終わらないうちにガキンッと金属がぶつかり合う音と、ボギンッと何かが折れる音が聞こえた。
一瞬、姫川は自分の目を疑った。
それほどまでに攻撃が早く、また防御も早かったのだから。
姫川の前には巨大ゴブリンと海斗がいた。巨大ゴブリンは剣を振り下ろしたような格好だったが、その手の剣は腹から先がなかった。一方の海斗は右上に剣を振り上げた格好だった。
恐らく巨大ゴブリンがその身からは予想できない速度で海斗に斬り込んだが、海斗は横から斜めに、巨大ゴブリンの剣の腹に自分の剣を当て防御しようとしたところ、巨大ゴブリンの方の剣が折れたということか。
先ほどまで数メートル離れていた巨大ゴブリンが目に見えないくらい、見た目に似合わず素早いことは度肝を抜かれるが、驚くべきは海斗の反射神経、動体視力、そして判断力もまたなかなかのものだった。
「ぬ?ぬぬぬっ?」
巨大ゴブリンが驚きに目を見開いているのを見て、海斗は隙を逃さなかった。そのまま、一旦刀を振り上げたままの形から、返す刀で海斗の頭ほどの高さの胸を斬りつけようとした時に、巨大ゴブリンはギリギリ後ろに一飛びで2,3メートル下がった。
「ふぅぅぅむ、やはり雑兵に配布される剣は脆くて敵わんな!だが、今ので分かったぞ。貴様強いなあ!」
そう言って今度はニタリとしてこちらを見た。
「ボス!ボス!あいつを見つけたのはあっしの手柄ですよねぇ!なんか褒美とかある…」
近くにそう言って近付いて来たゴブリンに、先ほど中程まで折れた剣で喉を突き刺した。
ごふ…とゴブリンの口から血が流れ出していた。一目でわかった。致命傷だと。途端に醜い顔を更に不機嫌な顔で歪ませて巨大ゴブリンは吐き捨てた。
「うるせーなぁ。儂の戦いに水を刺しおってよぉ…」
そしてこちらを再び見て
「おい、そこの人間、貴様の名はなんだ?」
と、尋ねた。
「俺は、勇者、如月海斗だ!お前は?」
「儂は、ギ・ガーだ。カイト、どうやら貴様は先の一撃もあって手を痛めたようだな。」
私はチラッと彼の腕を見ると、その腕が少し震えていることに気付いた。
巨大ゴブリンは続けた。
「まぁ、この数の、雑兵とは言えゴブリンを斬ったから仕方ないだろうがな。儂の満足のため貴様に時間をやろう。
明後日、朝の10時から一時間の間だけ待ってやる。貴様がここに来い。もし、貴様が他の奴を送ってきたり、また来なかった場合は、この広場が今度は人間の死体で一杯になるだけの話だ。貴様が来れば、たとえ負けたとしてもこの街での殺戮は行わず他でやるとしよう。うむ、我ながら寛大だな!ハッハッハ、では、明後日に待っておく」
そう言って、今度は全力なのか、かなりのスピードで何処かへ走り去っていった。
一月四日更新!




