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<ガイア>列伝  作者: 樹実源峰
勇者大会編
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古龍の最期

「まずは、腕一本」


 そう言って海斗が骸切丸からきりまるをふるうと何かが宙を舞った。そして、古龍は右腕に走る痛みによって理解した、腕を切り落とされたことを。たったの一瞬で海斗は、鱗を貫くことは不可能と言われた古龍の腕を切り落としたのだった。


「な・・・・」


 その事実を目の当たりにして古龍が自信の目を疑ったのも仕方が無いだろう。彼らからの常識からしても、普通は鱗を剥がすことによってその下の無防備な肉体を突き刺すことこそが古龍の倒し方なのだ。古龍とて同族の鱗を貫くのは不可能なのだ。


 だが、その逡巡こそが命取りだった。


「次は足でも行っとくか?」


 そう言って海斗はもう一度骸切丸からきりまるを振り、足に衝撃が走る。・・・だが、数十トンという体重を内包する古龍を支えている足は切り離されることは無かった。・・・あくまで、神経を切られただけだった。


「ぐ・・・!?オォォォォォォ!!!!!」


 普段は全く出番のない野生の本能の警告に従い翼を羽ばたこうとするが、空は飛べない。ここは、聖域サンチュクアリの範囲内だった。


「な、ならば・・・・ジ・エンド・オブ・ワールド!!」


 突如、古龍の前にどこからか黒い何かが集まって来て、球体を形作る。それはまだまだ成長するのかぶくぶくと大きくなっていく。

 が、次の瞬間レーザーのようなものが黒い球体に飛んで来て、消し去る。


「な・・・?!闇属性の究極魔法なのだぞ!?」


 持ち主の体力と命を削る闇属性の究極魔法、世界の終焉ジ・エンド・オブ・ワールド。普通ならこの魔法に巻き込まれて全てが死滅するか、宿主が巻き込まれるか、その宿主の命がつきるか、もしくは|恐ろしく質量の高いものを飲み込むか《・・・・・・・・・・・・・・・・・》までは消えないはずなのに一瞬で消された。


「そうか、こっちは光属性の上位魔法だ。簡単に消せてよかったぜ」


 ただ、通常はそうであるが、闇魔法と光魔法は互いに互いを相殺し合う力が働く。今回は相殺されてしまったと言うだけの話だ。無論、究極魔法が上位魔法に負ける道理は普通、聖域サンチュクアリ内でも無いのだが。


「な、なにものだ・・・汝」


 そこまで来て古龍は今までになじみの無い感覚に出会った。己のが心に巣食う未来を諦めるような感情、つまり絶望を、恐怖を。


 古龍とて戦いあうときはある。ただ、鱗は貫けないので、ひたすらに魔法を撃ち、相手の防御に限界が来てその鱗が剥がれるとその下を貫くと言う戦いが。そのため、大概は魔法で叶わないと思った相手には逆らわない。

 しかし、この古龍は生まれながら魔法を扱う力に長けていた為、恐れるものはなにも無かった。最強となったこの古龍は一時期は王の座をも得た。

 ただ、強いものと戦いたいという衝動があっただけの彼が王座に就いたのは古龍の時間にしてみればほんの少しのことだった。

 正面から撃ち合っては負ける、背後からの攻撃が上手いもの、防御に魔法を使わず、俊敏さにもの言わせて避けるものもいた。だが、それらをすべて倒してこの古龍が得たのは孤独だったのだ。

 そう、上手く戦えばこの古龍に勝てるものがいたはずなのに、その連中より上手く戦い勝ち過ぎたのだ。


 攻撃が通じないのは自分が本気をだしてないから。相手の攻撃が届かないのは相手の魔法が自分の少しの力で防げるから。そして、恐怖を覚えることは無かった。

 そんなことを考えはじめたこの古龍は本気の出しかたを忘れてしまった。本気がどの程度なのかも分からなかった。ただ、それを今は怨んだ。


 生存本能が悲鳴を上げる。目の前にはあの人間がやって来た。


「なにものって人だよ、お前がさんざん馬鹿にした、な」


 その刀がきらめき左の翼が断ち切られる。同時に右の翼も。だが、恐怖に囚われた古龍はそれに気付かず、必死に翼を羽撃かせようとして傷口から血を出していた。

 それと平行して生きようとする生存本能が魔法を行使すべく頭を限界まで回転させる。それと同時に世界の動きは遅くなっていった。やがて、世界が止まるようにまで遅く見れた時に名案を思い付きそれを実行する。


 瞬間、海斗の上下左右前後360°に幾多の魔法が現れる。炎の玉や氷の槍に渦巻く風や押しつぶそうとしているのか巨大な岩。全てを消すかのような白い光に、全てを塗りつぶすかのような黒い闇。それが、すべて海斗につっこむ。


「・・・はっ、しゃらくせぇ」


 そう、呟いた海斗を炎が焼く、槍が刺さる、風に切り裂かれる、岩が押しつぶし、光が両断して、闇が飲み込む。


 そして、ボロぞうきんのように落ちていくその影はしかし、地面に衝突する前に消えた。


「・・・おいおい、残像に向かって何をしてるんだ、お前?」


 鼻の上に何かが乗っている感覚。だが、姿なきそれから声が聞こえた。そして、少ししてようやく追いついた光が海斗を色付ける。


「ひ・・・ぃっ・・・・!!!」


 その、光が海斗の姿を描き出す光景を見て生存本能が諦めた。そして、


「まあ、サイコロくらいに刻めば良いか」


 それを最後に古龍の意識は永遠に途絶えた。


####


「・・・あれは、なんなのよ」


 そして、その一部始終を見届けた天音はそう呟いた。


「・・・Aランク?ふざけるんじゃないわよ。あんなの人間って言えるの?」


 古龍の単独討伐。誰も成し遂げていない偉業である。


「あんなの見たら、それこそ番人討伐なんて文字通りままごとみたいなものじゃない」


 ただし、海斗は一度も焦ること無く討伐し切ったという事実はつまることろ彼の予期しないことを呼び起こしていた。

 世界の脅威の認定される彼の望みとは正反対の事態に。


「誰が、古龍を細切れにする奴を勇者だなんて思うのよ・・・」


 物語の勇者たちは知恵を絞り、命を削りドラゴンという強大な敵に立ち向かった。魔王に立ち向かった。時には仲間を失い、痛みに耐え、泣きたい気持ちを押さえつけ、逃げたい気持ちに背を向けて。だからこそ、人は讃えるのだ、その偉業を。


 その人間味が故に。


「あ・・・」


 と、その時、古龍を細切りにし終えた海斗が倒れた。恐る恐る天音が近寄ると、すーすーと寝息が聞こえた。は?と思って回り込んでみると、彼は穏やかな寝顔を浮かべて寝ていた。それは、先程古龍を完封したと思えぬほど穏やかな顔だった。


 それを見て、彼女は思い出した。この古龍を最初に見たときの海斗の反応を。


 若干声を震わせて古龍に応答していた彼を。


 演技をしているような表情でも雰囲気でもなかった。ただただ必死にどうやって生き残るかを考える、人間の顔だったのだ。


 聖域アンチュクアリで倒せると踏んでいたならおびえる必要が無かったし、骸切丸からきりまるで切断できるならそうしただろう。なのに、しなかった。それは何故か?


 しなかったのではなくできなかったのか?


「・・・貴方、一体何者なのよ」


 天音の問いかける声は風に吹かれて消えていった。

おくれてすみませんでした!!

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