修行の成果
海斗は必殺の一撃たる古龍の爪の一撃を防いだ。それも、武器や魔法ではなく己の足によって。
「…なに?」
古龍はその光景に、どこか遠くのことのように眺めていた目を驚愕に見開いた。
しかし、それは仕方のないことだ。なにせ、かなりの巨体を誇る古龍の、渾身とか、本気とかではないとはいえ、それなりに力の乗った一撃を、百キロもないような人間が弾いたのだから。
「汝、本当に人であるか?」
「あぁ、人だぜ?このデカトカゲ。…聖光!」
古龍の質問を切り捨て、そして魔法の詠唱を始める海斗。発動した魔法は、かなり輝いている光線。
「…む、アビスゲート」
だが、古龍は焦らずに対抗呪文を発動させる。瞬時に闇でできた門が古龍の前に出現し、そして光線を吸収する。そして、光線がおさまるとともに、その門もまた霞のように消えて行った。
「オラオラ行くぜ、セイクレッド・フレア!!」
だが、その程度で攻撃を辞めるわけもなく、海斗は次の魔法を発動する。次に飛び出したのは白い焔だった。
「…ふむ、直撃はいただけないな。暗流砂」
海斗が続けざまに攻撃してくるのは織り込み済みだったのだろう、すぐさま古龍も対抗する。
そして、黒い砂嵐と白い焔がぶつかった時に、相反する属性をもつ互いの魔法は、互いの存在を削り合う。この場合、魔法を扱う想像力の優っている方の魔法が後に残るのだが、この時は二つとも消え去った。
「なんと…人の身でありながら我が魔法と相殺するか。それに、汝、先ほどと気配が違う。…多重人格…あるいは憑依か?」
「知るかよ、ボケトカゲ!さっさとくたばりやがれ!焉衝!!」
「…話す気はない、か?初の光」
海斗の放つ黒い魔法に、白い魔法で応える古龍。二つの魔法がぶつかったとき、再び相殺され、そして爆発を起こす。あたりが煙で包まれた。
だが、それは台風の如き旋風によって散らされる。古龍の翼の一振りだ。
「…カッ、流石バケモノだぜ。翼の一振りからしてドラゴンとかとちげぇじゃねえか。だが、俺は飛ばされねえぜ、覇ッ!」
そして海斗に迫るその旋風は、海斗の一喝によって消え去る。
「…。ますます、汝は我が知ってる人間からかけ離れて来たぞ。いくら我が全盛期から程遠い実力しかないとは言えど、人間にこういうことができるとは思えぬ」
「ハッ!そんなの、お前が知ってる人間どもと違って俺様が人間代表の戦士っていっても過言じゃねえからじゃねぇか?」
「ハン、舐めるなよ人間。我が知っておる人間は、いずれも人間の中では最強と名高い者だと聞いておった。実力も、まぁ、ドラゴンくらいなら一人で殺せるくらいには強かったぞ?」
「それこそ舐めんなトカゲ!テメーがその強かったとかいう奴らと何年前に戦ったは知らねぇがな、人間って奴は進化し続けんだよ!テメーらにとっちゃ刹那に等しい時間でも、俺らにとっちゃ長かったりすんだよ!」
「…ふむ、では我が戦った強者たちは今の基準では弱者というわけか?」
「サラッと人間の実力測ってんじゃねえぜ、トカゲ。…ま、テメーがお喋りが好きなお陰で準備はできたわけだが?」
「なに?」
海斗の言葉に疑問を抱く古龍。確かに彼は、人間の戦力について測ろうとしていたが、決して無防備だったわけではない。それなりに緊張感を持ち、いつ海斗が魔法を発動させても即座に反応できるよう魔法の準備もしていたのだ。
…少なくとも海斗が何かをしている様子はなかった。その海斗が後ろにかばっている取るに足らない人間も何かをしてる様子はなかった。
だから、このときの古龍は若干恐怖を覚えた。数百年ぶりに。しかも、自分より小さいものに対しては初めての。
「発動しろ!聖域!」
海斗がそう叫ぶと同時に、海斗と古龍の中間あたりに魔法陣が出現する。地面から染み出すように。
そして、その魔法陣が地上に出た後、すぐさま大きさを広げ、直径2,3kmくらいまでになったあと、光出す。
これは危険だと本能が訴え飛び去ろうとした瞬間、体に重圧が加わる。
「ぐ…ぬぅ…お、ぉぉぉぉぉぉ!!!」
それは、飛べなくなるほどの重圧だったが、押し潰されるほどではなかった。
「汝、何をした」
「さぁ、単にテメーが弱くなり俺が強くなる結界を張っただけさ。俺の行動の全てに、魔法による補助が加わり、テメーの行動の全てに、魔法による妨害が入るだけだ」
そのときに、海斗は腰の剣を抜いて言う。
「第二ラウンドの始まりだぜ」




