動くものたち
勇者大会一回戦の一日目と二日目の間の出来事です。
中々執筆が思うようにいかない…どうすればいいんだろう。
「それで、勇者大会の二日目は終わったけども、貴方の眼鏡に適った者はいたのかい?」
「む?あぁ、何だ貴様か、『運命選者』。そうだな、『真紅の殺戮者』という男…中々の逸材だったな」
「へぇ?意外だね、彼は新人だろう?」
「確かに勇者としては新人だろうが、戦闘に対してはかなり慣れているだろう。それに、だ」
「まだ何かあるのかい?」
「『瞬光の隼』との戦闘、手を抜いていたわけではないが、全力でも無かったろうな」
「は?手を抜かずに全力を出さない?矛盾してないかい?」
「いや、語弊があったな。奥の手を隠して、今できる状態で全力を尽くした、というべきか」
「奥の手を隠してる…ねぇ。ま、良い話を聞けたよ」
「あぁ…そうか」
「まぁ、決勝戦で戦うのは君とだろうけど、情報は武器だからね。これに対するお礼は、決勝戦での素晴らしい試合ってことでどうだい、『獅子王』?」
「それ、ともう一つ情報はあるが…どうするか?」
「ん?いやいや、それは今後の試合で確認するさ、謎解きってのも中々楽しいからね」
「そうか、ならまた会おう」
勇者大会の三日目、今日はいよいよリュウの試合だった。
大会の会場に近い宿を割り当てられていた俺たち三人は、朝飯も三人で食べていた。
ちなみに、宿を割り当てられていたというのは、この宿が主催者側、つまり『教会』によって手配されていたからである。招待枠の勇者にはこのように『教会』が宿を手配しているし、さらに宿代食費諸々受け持ってくれるのだった。感謝感謝。
そして、優香は昨日何かあったのか眠そうだった。…寝ぼけ眼をこすりこすり歩き、欠伸をする優香…可愛い。朝から目の保養になる。
これも『教会』に感謝感謝。
さて、もちろん『教会』持ちとはいえ、『教会』にとってもいい金集めになる大会を盛り上がらせるために、勇者たちのモチベーションを保たせる目的で美味しい飯でかつ健康的というのも魅力的だ。
まさに至れり尽くせりである。
そんな今日の朝飯も大変美味なるものだった。
メニューは、白ご飯に鮭の塩焼きと味噌汁である。記憶の片隅あたりに引っかかるようなこの懐かしさがたまらない。
まぁ…俺の母親は既に他界してるわけだけど…っと、おっとと、暗い方向へ行きそうになってしまった。
「んで、どうする?少なくともお前が会場待機しなきゃいけない時間までは街でもぶらぶらするか?」
俺は自分の思考を逸らすようにそう言ってみた。まぁ、飽くまで思考を逸らすためであって街をブラブラするのが目的ではない。
恐らく、リュウのことだから対戦相手となろう相手のことを調べるために会場で観察するだろうということは分かっている。
「ん?いや、それより女性大会の方へ行かないかい?」
…あれ?
「え?リュウ、どうした?熱でもあんのか?」
「えっ?なにが?」
「急にお前、遊ぶとか言い出して?!おいおい、お前の性格なら『いや、僕は自分の対戦相手となりそうな人たちを観察してくるよ』とか言いそうなのに!?」
それを聞いてここまであまり喋ってなかった優香が俺に同調しているのかこくこくと頷く。…目は覚めたようでパッチリとしているが。まぁ、これはこれで可愛いから良いんだけどね。
「あー、そうだけどね。でも、ほら確か今日の女性大会の方は結構注目株が出てるからね」
「注目株?」
優香が、何故スカウトするわけでもないのに注目株という言葉がリュウから出てくるのかよく分からないのか、きょとんとしている。可愛い。
さて、その注目株だが、恐らく十二師族の彼女たちだろうなあ、と俺は思った。
「ふむ、ほんじゃ、ま別行動と…」
「えっ?」
俺が別行動を言い出すとリュウはなんで?って顔で俺をみてきた。いや、それはな…
「ほら、勇者大会ってある意味お祭りみたいじゃん?だから優香が祭りに行きたいって言うから一緒に行くことになったんだよ」
「な…にぃ…」
「あ、そうだ。お前の試合には間に合うようにするぞ。それと、『霜の女王』の試合についてあとで詳しく教えてくれよ」
そう続けるとリュウはなにやら裏切られた、という顔をして俺をみてきた。…いや、待て待て。何もしてねえよ。
「今の時間は、八時か…。集合は二時間後で良い、優香?」
「え、は、はい」
ん?なんだ?少し顔が赤いぞ?風邪でも引いてるのか?無茶は駄目だぜ?
と内心そう思い、そのまま口に出すと、「だ、大丈夫ですっ」と返ってきてリュウからは睨まれた。
なんだ、俺がなんかしたか?
俺は逃げるようにそこを後にした。
「なるほど…やつの嫌疑はもはや疑いようもないな」
場所は変わって師走家の本家、の会議室。そこには、何十人という人間が一堂に会することのできるほど長々しい長机があり、二人の人間が所謂お誕生日席と呼ばれるような場所に対面で座りあっていた。
一人は師走春仁、筋骨隆々な肉体を持ち、ドラゴンすら素手で殴り殺すという噂さえある男。
此度は、勇者としてではなく、師走家当主代理…いや、師走家次期当主として世界を憂いて、この二人の会談に臨んでいた。
そしてその彼に向かい合っているのは、弥生姫華。その卓越した魔法技術は、たとえ本人が『苦手』という魔法ですら普通の一流どころか超一流並の技量で行使できる。
ただ、彼女も今回、勇者としてでなく、弥生家当主代理…どころか弥生家当主としてこの場にいる。
今回の議題は、先日の「『教会』本部襲撃事件」についてである。
無論、『教会』側としてはそれはもう『終わった』事案であり、掘り返す必要性もないのだが、この二人はこの事件を人為的なものだと思っている。
つまり、『教会』内部に、ゴブリン…『闇の領域』側に通じている者がいる。
世界の安全を確保するために設立された『教会』こと、WPKの内部に、である。
緊急性はかなり高い。
そして、今日…というより、勇者大会の一試合目の後から今に至るまでずっと夜通し話し合っていた。
そして、辿り着いた結論。
勇者大会で何か起こるかもしれない。
ということだった。




