一年前の出会い
海斗達が魔法についての解析をしている一方で、優香も同じことをしていた。
「…なるほど、恐らくは本命の水魔法による三半規管へのダメージですね。…でも、確か人の体内に影響する魔法は魔法抵抗により大抵打ち消されるはず…」
通常の場合、人体の中に直接魔法を介入させることはできない。介入させたい場合は相手の体に切り込みを入れるとかそういうことが必要なのだ。(外気に晒すという言い方もできる)
だが、あくまで戦争とかでなく殺し合い厳禁の試合だから相手に外傷を与える方法はない。
ちなみに、人の体に切り込みを入れて魔法を介入させるのは手術の時くらいである。
だが、唯一といってもいい例外が存在する。つまり、人体には魔法に対する抵抗力がある。ならば、それを越えればいいだけの話である。
と、まぁ言うのは簡単だが、件の人の抵抗力というものはかなり高い。と、いうか、普通に越えるのは無理だ。
だが、一部の人間にはそれができる。それができるからこそ、抵抗力にも限度があることがわかったのだが。
しかし、これは対人戦ならぬ殺人戦では大きなアドバンテージとなるのだが、その力を利用した殺人鬼は存在しない。
正確に言うと、それを利用しようとした殺人鬼もどきは居たが、結果的にできなかった。
なぜなら、人殺しを実行しようとした瞬間、介入ができなくなったからだ。動揺して前にはできた魔法での介入もまたできなくなっていた。
そして、問題はここからだ。殺人を試みた人間は全て抵抗力を越える力を失った。その、抵抗力を失う条件の魔法は、全ての相手を害する魔法。相手を爆破するものはもちろん、相手を少しの頭痛にすることすら条件に入った。
でも、そこで優香は気付いた。仮に、仮面が相手を害する魔法を使えたとして、どうして目くらましをする必要があるのだろうか?と。
人体に直接作用する類の魔法は視認できない。なら、倒れたという結果だけを見せればいい。
あるいは、まるで空気全体を振動させる魔法を使ったように見せかける攻撃より、遥かにド派手にやってその中に隠れていた魔法により倒すのが一番いい。
だから、そうはせずに魔法陣が全体に広がるという派手なものがただの囮、または使った魔法を隠すための迷彩だったとは、考えられない。
ならば、つまりあの一見迷彩に見えた大規模な魔法こそが本命なのだろう。
「だとすると、使われた魔法は…」
結論に辿りつこうとした優香の耳に軽やかなノックの音が響く。…だれだろう?
「はい、どちら様ですか?」
あまり悩むこともせずにすぐドアを開けた。それは年頃の女の子としてはあまり褒められた行為ではなかったが、彼女がいるのは勇者大会控え室。その外には警備員が何人も見回りを行い、選手たちの安全を守っているいわば盤石な城だった。
まぁ、この場合、特に問題なかったのだが。
「やっほ〜、優香ちゃん。久しぶり」
扉の前にいたのは、『霜の女王』こと霜月天音だった。
「お久しぶり、天音ちゃん」
それに対して優香は満面の笑みで応じる。実は、巷で二大美少女と呼ばれるこの二人は大の、という形容詞がつくくらい仲良しなのだ。その仲良し振りはといえば、優香の口調が変化するほどである。
「うんうん、今日も元気そうね優香ちゃん」
人懐っこい笑みを浮かべて天音は頷く。そこで優香は天音に尋ねた。最初に会ったときもこんな風に明るかったな、と思いながら。
「天音ちゃんも今回もエントリーしてたよね?」
たしか、記憶が正しければ選手番号20番で、8番の優香とは当たるとすれば決勝戦だったはず。いや、はずじゃない。確実にそうだった。
「今回は20番だよ。当たるとしたら決勝戦だね」
思わず自分が内心思い描いていたことを言われたと思って、優香は思わず笑みをこぼした。
「そうそう、そうこなくっちゃね」
その顔を見て、また天音は笑う。そして
「今年も決勝戦に会おうね」
そう言って手を振り、天音は出て行く。そして優香は過去のことを思い出していた。
天音とは、昨年の勇者大会で決勝戦に初めて会った相手だった。
二人ともその頃はそこそこ実力があり顔もいいのでそれなりの話題性を持っていたから勇者大会に、Cランクで出場した。
当時は勇者学校に通っていた優香だったが、厳島校長がCランク並みの力はあるとして許可してもらったのだった。
そして、校長の見立て以上に優香は善戦し、遂には初登場での決勝戦進出を果たした。
その相手は自分と同い年の、少女だった。
そう、霜月天音である。
二人ともその年デビューしたはずの二人の試合はCランク勇者など足元に及ばず、Aランクにも届きそうなほどの試合だったようだ。
凍結させる魔法が得意との天音に向かって火の玉を投げた優香に、得意の凍結魔法(分類は水魔法である)によって凍らせたタオルで防御する天音。
天音の氷によって作った雹を地面から大量に生やした『岩の槍』で防ぐ優香。
優香は最後に敢えて凍らせるように飛沫を浴びせた結果、全てを凍らせるあまりに氷の粒によりダメージを受けて隙を見せた天音に、優香がお株奪いとばかりに放った『氷の槍』が決め手となり、優香が勝利した。
その後から、この二人は仲のいい友人として、食事をしたり、一緒にクエストへ行ったり、試合をしたりしていた。
先月に、一度手を合わせたがお互い一年前とは見違えるように強くなったなと、審判を務めた厳島校長は言っていた。
しかし、優香はこの一ヶ月の追い込みにより、先月とは比べようもないくらいに成長した。が、実は安心はしていない。
相手とて、飛躍的な成長を遂げているかもしれないのだ。というより、優香はそうなってることを信じている。ほんの一ヶ月前に手合わせしたばかりの相手が既に未知数。この事実は優香だけでなく天音にも充実感と張り合いをもたらしている。
「お待たせしました!一回戦目、四試合目の開幕です!まずは、『美少女勇者』さんの入場です!」
ワァアァァァァッと、大盛況を迎えている会場を見る。会場の大きさも人の数も昨年とは全く違う。だが、優香は恐れなかった。
天音と会った今となっては、彼女以外に負ける予想なんてつかなかったのだった。
自信たっぷりに会場へ踏み込んだ優香を、万雷の拍手が迎えた。




