女性勇者大会
「さてっと…」
俺はドサリと腰を落として席に座った。優香は先ほど選手控え室へ送って行った。
ちなみに、大会は女性勇者大会と男性勇者大会が同時並行に行われているため同時に見ることはできない。だから、この会場は野郎が多いのだ。そう、麗しき少女あるいは女性を見るために。
だが、俺とリュウがいるのはVIP専用のルームだ。付け加えるとVIPルームは勇者大会に出場する選手しか入れないし、しかもここは男性用。
さらに、男の勇者のほとんどは男性用大会でライバルとなる男を観察しているかヤケ酒でもしてるかのどっちかだ。
つまりここにいるのは俺とリュウだけ。これでようやく男でしか話し合えないことを話し合える。
「んで…だ。今回の注目株とかいるか?知ってたら教えてくれ」
「僕のサーチを舐めてもらっちゃ困るね。まずはやはり十二師族の三人だろうね」
つまり、ポニーテールが特徴的な『疾走する馬』、卯月美波。
次に『美少女勇者』とならんで語られる『霜の女王』、霜月天音。
最後に謎の仮面が印象的な『仮面の貴公子』、葉月聖奈。
既に俺はあっているので顔は想像できる。…『仮面の貴公子』は素顔わからんけどね。
「ほほう、その三人の見所は?」
三人の顔を思い浮かべたところで俺は自信たっぷりな顔を浮かべているリュウにそう尋ねた。
「卯月さんは、やはり健康的な美しさがあるんだよ。程よく焼けた肌、すらりと伸びた手足、そして自己主張の慎まやかな胸!馬なんて言葉が合わないほど美しい…」
ま、まさかこいつここまで調べてるとは…。俺は舐めていたようだ。
「次に『美少女勇者』とならんで語られる『霜の女王』!人懐っこい性格、珍しい金髪、さらに皆に元気をくれるあの笑顔!噂では、『美少女勇者』のファンと、『霜の女王』のファンが水面下で鎬を削ってるらしい」
マジかよ…ファン怖え…。
「そして最後に『仮面の貴公子』!女性のはずなのに貴公子と名のつく彼女は、貴公子と呼ばれる所以である礼儀正しさを備えているけど試合の時はとことん冷静で取るべきとこは取る、メリハリの取れている人だ!そして試合の時は…おっと、カイト始まるみたいだぞ」
「ん?もうそんな時間だっけ?」
リュウの話を聞いている間に優香の番が回っていたかと思って会場へ目を移す。すると、
「では、今から『仮面の貴公子』と『湖の要請』の試合を始めます!では…3…2…1…開始!」
ちょうど、司会者の朝霧口葉さん(どうやら、朝霧話洲さんは夫のようだ)の号令によって試合が始まった。
『仮面の貴公子』の武器は………ダニィ。
「ダガーだね。手数の多さこそ圧倒的だけど間合いも短い。どうやって戦うんだろうか?」
「いや、違う違う。俺が聞きたいのはそっちじゃない。」
「ん?…あぁ、ファッションのことかな?」
そう、ファッションのことだ。今回の服…というかファッションは、馬のマスク。……サラブレッドとか書いてある名札が頭から下がっている。さらに、服は何故かビキニ。寒くないのだろうか?
つか、胸でかっ!?優香よりあるんじゃ…。
「試合の時は大胆な服か奇抜な服か…まぁそこが彼女の魅力なのだ」
横からリュウが説明をくれる。
そして対する相手は…
「おいおい、相性悪すぎじゃねぇか?」
ヒラヒラした服を着て長槍を振り回していた。しかもその扱いが上手くて仮面は近づけずにいた。
右払いに対し、ダガーで受ける仮面。…ってよくよく考えたら
「槍を普通に受けてるぞ?」
「そうだね、どうやってるのかな?」
俺たちは芸術鑑賞…ゲフンゲフン美少女鑑賞…ゴホンゴホン…技を見ることにした。
「おっ、またいった」
妖精が左に払う槍をまたしてもダガーで受ける。その時、まるで衝撃を感じていないかのように後ろに下がりもしなかった。どころか、槍が寧ろ壁に当たったかのように跳ね返った。
だが、それだけで十分だった。
「なるほど、硬化魔法。すごくうまい使い手だね」
俺より一足早く結論にたどり着いたリュウがそう言った。
「まさか、自分にかけるなんてな…余程自信があるんだろうな」
硬化魔法。文字通り対象を硬くする魔法だ。だが、普通は武器に使ったり盾に使ったりするのだ。魔法はイメージ勝負である。盾や剣なら石になっても問題がないが、人体は別だ。仮に誤って自分が石になるようすを想像して使ってしまうと、石像になってしまう可能性があるのだ。過去にそれで石像になってしまった人間の話は枚挙に暇がない。
だが、一部だが見事に制御し切る人物がいるのも確かでその人物は物理的に強靭な肉体を持つのだ。
つまり、石になったような気分で攻撃を受け流せるのだ。石は何も感じない。感じないから、腕の痺れなどもない。仰け反ることもない。すぐさま反撃に転じれるのだ。
だが、相手も相手で腕が立つようだ。僅かな隙を狙って飛び込んでくる魔法を放って距離を取る。
互いに互いを出し抜こうとして失敗する。それを見るたびに観客は惜しい!とか、もう一歩!とかと声を漏らす。
だが、しばらくそれが続いた後に初めて仮面が槍を避けて後ろに飛ぶ。
その瞬間、会場の地面を埋め尽くすほどに膨大な数の魔法陣が展開された。
「「なっ!?」」
思わず俺とリュウは声を揃えてしまった。
普通にあんな数の魔法陣を、小さいとは言え、一瞬で展開するなんて話は聞いたことがない。と思って、視覚強化の魔法を—水魔法で雫を作り重ねることで遠くのものも見えるようにする魔法だ—使って見ると石が落ちているのが見えた。
「…あんな膨大な数の石に術式を書き込んでいたっていうのか…」
リュウが呻きながらいう。
通常、術式を書き込むのにはあまり時間がかからないが、石に書くのは難しい。石に爆発の術式を書き込んでおいて、投げてあたれば爆発する爆発石なんてのが流行ったことがあったが、単価的にはやはり高かった。
ただ時間がかからないとはいえ、会場を埋め尽くすほどの魔法陣からしてその量はかなりある。どれだけの時間をどれだけの神経を使ったのか…想像させられた。
「彼女の魅力の一つとして、魔法を美しく見せるというのがあるんだけど、ここまで大規模なのは初めてだよ」
そして、魔法が発動する。
グラァと目の前が揺れたような気がした。
だが、船酔いとかそう言った感覚はない…俺たちには。だが会場では一人食らったものがいた。もちろん、妖精だ。フラフラとしてドサリと倒れた。
そこへ仮面が近づき首にダガーを当てる。
「し、試合終了です!勝者、『仮面の貴公子』!」
だが、その言葉は俺の頭には入らなかった。すぐさまリュウと考察を開始する。
「船酔い…みたいな感覚だろう、感じたのはたぶん」
「そうだね…だけど使った魔法の種類が想像できないよ。水だと三半規管を狂わせるという手もあったけれど、狂わせるだけなら視覚的効果はない。風でもなさそうだ。土は硬化だから外していい。光や闇は論が…いやまてよ」
魔法の各属性について確認しながら魔法の正体を探っているとリュウが考え込んだ。そして
「そうか、分かったぞ!いや、|分からないけど分かったぞ《・・・・・・・・・・・・》!」
「どうした、リュウ。バカみたいなこと言って?」
「これは多分光魔法で空間が揺れたという幻覚を見せて、その実水魔法で三半規管を狂わせていたんだ」
「…なるほど、じゃああの石はほとんどすべて陽動で」
「本命は水魔法だよ!たぶんだけれど」
俺の言葉を継ぎリュウがそう結論付ける。だが、たぶんと付くのは仕方が無い。もしかしたら、俺たちの予想は違い、なんらかの魔法を組み合わせて実際に揺らしたのかもしれないし、あるいは三半規管を狙ったものでなく、また別の攻撃によるものかもしれない。
だが、それはそれとしてリュウが新しい魔法を習得してしまったようだった。
ったく、何でもかんでも理解したからって使えるって才能はどうにかならんのかね…。
俺はこんなやつと戦い続けて、負け続けて来た。
だが、今回こそ勝つってときに物凄く搦め手っぽい魔法が出て来て、さらにこいつのことだからそこに若干のアレンジを加えてくるだろう。
苦笑いしながら俺もこの魔法を使いこなす練習をする決心を固めた。




